マヤの叫び(まやのさけび)
その日、第三班にとっては地獄のように厳しい一日だった。
特にリーダーのラーカンに降りかかった痛みは、尋常ではなかった。
それは肉体的な痛みというより――まるで“死そのもの”を体験するような苦痛だった。
場面は変わり、隠れ家の中。
アズロンが椅子に腰かけ、その前には壁に寄りかかって気を失っているシグランの姿がある。
「……スカイがあの致命的な技を使ったな。俺の出番はないようだ。」
アズロンはそう呟き、静かに目を閉じた。
一方その頃、アルダのチームは白い怪物と激しく交戦していた。
アルダの攻撃は凄まじいが、敵もまた異様な強靭さを誇っていた。
「くそっ、まるで巨大な肉の塊を殴っているようだ!」
アルダは舌打ちし、岩に腰を下ろした。
「おい、みんな。見せてみろ。お前たちがどこまでやれるか!」
「はい、師匠!」とライドが叫び、
アスマとワーイルも構えを取った。
「この気味の悪い化け物を倒すなんて、本気ですか?」
ワーイルが不満を漏らす。
ライドが叫び、拳に炎をまとわせる。
まるで溶岩の塊のような一撃を繰り出すが、
怪物は片手で受け止め、その腕が溶けても、すぐに再生した。
「なんだと!?」ライドが目を見開く。
続けてアスマが風の嵐を放ち、怪物をわずかに吹き飛ばす。
だがその傷もすぐに癒える。
ワーイルが皮の剣を放つが、
剣は弾かれ、まるでゴムのように跳ね返る。
「無理だ……こんなの倒せるわけがない!」
アルダは腕を組み、冷静に見守っていた。
「弱音を吐くな。自分たちで攻略法を見つけろ。」
「方法があるなら教えてくださいよ!」ライドが叫ぶ。
「ラーカンたちの報告によると、あの怪物は“無属性の打撃”でしかダメージを受けない。
だが……お前たちにはあの少年、イェザンのような膂力はない。」
「まさか、あの落ちこぼれの方が俺より強いって言うのか?」
ライドが苛立つ。
「そうは言っていない。」アルダは目を細める。
「言葉の裏を読め。力だけが全てではない。」
その言葉を聞き、アスマの脳裏に過去の訓練の光景がよみがえる。
―――フラッシュバック―――
学院時代、アルダの指導で、三人は一匹の魔獣を相手にしていた。
だが、それぞれが勝手に動き、連携はバラバラ。
結果、アスマとワーイルが負傷し、ライドは死にかけた。
土壇場でアルダが飛び込み、三人を救う。
「お前たちの利己心は仲間を殺す。
読め、行間を。力に頼るな。知恵を使え。」
―――現在―――
アスマは目を見開いた。
「……そうか。」
怪物が地面を叩き、衝撃で大地が裂けた。
「危ない!」ワーイルが叫び、間一髪でかわす。
怪物の腕が地面に張り付き、引き抜こうともがく。
「見つけた……!」アスマが閃いたように叫ぶ。
「足を固定して、同じ場所を集中攻撃するのよ!」
「なるほど!」ライドが頷く。
「ワーイル、氷で足を固めて!」
「了解!」
ワーイルが大量の氷を生成し、怪物の足を凍らせる。
「ライド、今よ!」
ライドが再び炎を拳にまとわせ、
渾身の力で怪物の顔面を叩きつけた。
だが、怪物はなお動こうとする。
そこにアスマが風の嵐を叩きつけ、足を切断した。
巨体が崩れ落ちる。
「面白いじゃないか……」アルダが微笑む。
「ライド、腰だ! そこが弱点だ!」
「任せてください!」
ライドが叫び、渾身の連撃を腰部に叩き込む。
怪物の再生が止まり、沈黙した。
「やったぞ!」ライドが歓声を上げる。
「終わった……!」アスマとワーイルも笑顔になる。
アルダは小さく呟いた。
「アスマ・カザミ……本当に天才だ。誇りに思う。」
だが、その直後――
残骸の中から黒い肉塊がうごめき、再び飛びかかった。
アルダが即座に前に出て拳を叩き込み、粉砕した。
「よし、ラーカンたちを追うぞ。」
――同じ頃――
ラーカンは地に倒れ、激痛に喘いでいた。
「ぐっ……があああ!」
その姿を冷たく見下ろすのは、カインとオウス。
イェザンは必死に見つめ、拳を握る。
「師匠……! 俺は何をすればいいんだ!」
マヤが歯を食いしばる。
「……何もできない……また、みんなの足を引っ張るだけ……」
オウスの冷たい声が頭に響く。
「弱虫め。」
その瞬間、マヤは叫び、全身から膨大なエネルギーを放った。
大地が震え、空気が震動する。
スカイが顔を上げた。
「……なんだ、このエネルギーは……!」
オウスが驚愕の目で振り返る。
「まさか……泣き虫が覚醒したのか!?」
イェザンが呟く。
「マヤ……こんな姿、初めて見る……。」




