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イザン:血の継承  作者: Salhi smail


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黒き家の子(くろき いえ の こ)

セイグランは巨大な屋敷に戻ってきた。

その黒い石壁と閉ざされた門は、まるで過去の記憶を飲み込むように重く沈んでいた。


扉が静かに開く。

警備兵が深く頭を下げる。


「お帰りなさいませ、セイグラン様。」


セイグランは何も答えず、無言で歩みを進めた。

長い廊下の先、柔らかな声が彼を呼び止めた。


青い髪に澄んだ水色の瞳を持つ少女――侍女のエミリアだった。


「お帰りなさいませ、セイグラン様。お荷物をお持ちします。」


彼は冷たく拒み、エミリアは小さく頭を下げる。

執事長が姿を現し、恭しく言った。


「お帰りなさいませ、セイグラン様。」


だがセイグランの視線は、隣の部屋――姉リンの部屋に向けられていた。

手を伸ばした瞬間、記憶が鮮やかに蘇る。


回想 ― 七歳のセイグラン


訓練場には父ハーマンの怒声が響いていた。

砂埃が舞い上がり、少年の腕から血が流れる。


ハーマン(冷酷な声で)


「よく覚えておけ、セイグラン。

戦場に“心”など不要だ。

感情で戦う者は、感情に葬られる。」


背を向け、冷たい足音だけが残る。

セイグランは膝をつき、歯を食いしばり、涙を堪えた。


その時、影の中から現れたのは――リン。

二十歳前後、漆黒の髪が肩に流れ、大きな瞳はまるで夜空の星のように輝いていた。

その美しさは華やかではなく、静かな優しさに満ちていた。


彼女は膝をつき、優しく傷口を拭いた。


リン(穏やかな声で)


「お父様は力しか知らないの。

弱さを見せるのが怖いだけ…折れる姿を見るのが怖いのよ。」


セイグランは黙ったまま、涙が流れ、傷を洗う水と混ざる。


リン:


「心を捨てちゃだめ。

皆が石になっても、あなたは波でいなさい――命を運ぶ波に。」


そう言って彼を抱きしめた。

外では雨が静かに降り始め、まるで二人の痛みを慰めるようだった。


その日からリンは、姉であり、失われた母のような存在になった。


父の残酷さ


ハーマンは二人の絆を見るたび、怒りを募らせていった。


「リン! 甘やかすなと言ったはずだ! お前は私の教えを台無しにしている!」

「でも…まだ子供です。」

「私に逆らうのか?」

「いえ…お父様…。」

「チッ……まったく、母親そっくりだ。反吐が出る。」


リンの胸に、深い傷が刻まれた。


母の記憶


幼いリンの耳に、悲鳴が響いた。

部屋を飛び出すと、父が母ノールの首を掴んでいた。


「お前を見ていると吐き気がする! 娘も弱虫だ! 私は跡継ぎが欲しかった、女などいらん!」


ノールは壁に叩きつけられ、床に倒れた。

リンは泣きながら駆け寄る。


ノール(かすれた声で)


「泣かないで、リン…。こんな姿を見せてごめんね…。」


年月が過ぎ、ノールは再び身籠もった。

やがて生まれたのが、セイグラン。


リンは弟を見つめながら、母と一緒に笑った。

だが幸せは長く続かない。


ある日、セイグランが重い熱病に倒れた。

医師の言葉にハーマンは激怒した。


「命が危ない? 貴様の管理が悪いせいだ!」


彼はノールを激しく殴りつけ、壁に叩きつけた。

血が流れる。リンの目に焼きついたのは――母の最期。


ノール(微笑みながら)


「リン…許して…。お前が良い姉になってくれるって信じてる…。

あの人は、力と支配しか見えない人…。弟を…守って…。」


そのまま静かに息を引き取った。

リンは叫んだ。


「お母さん――!!」


現在 ― 姉の部屋


セイグランはリンの部屋の扉を開けた。

空気は冷たく、埃が光の筋を照らしていた。


机の上には、藁で作られた小さな騎士の人形――

幼い頃、リンが誕生日に贈ってくれたものが置かれていた。


父ハーマンが怒りに燃えて、それを引き裂いた日の記憶が蘇る。


「こんなもの、戦士の子が持つ玩具ではない!」


だがリンはそれを修理し、密かに自室に残していた。

今もそのまま、彼女の想いと共に。


ベッドの前に立つセイグラン。

また記憶がよみがえる――

眠れぬ夜、彼はリンの部屋をノックした。


「セイグラン? 眠れないのね…。」


彼女は微笑み、彼を腕に抱いた。

その温もりは、母のように優しかった。


だが、扉が勢いよく開く。

ハーマンが立っていた。


「またか! 甘やかすなと言ったはずだ!」

「彼はまだ小さいのよ!」

「貴様はあの女と同じだ! 見ているだけで腹が立つ!」


リンは震える声で叫んだ。


「そうよ! 私はお母さんに似てる! 誇りに思ってる!

あなたが殺した、あの優しい人に!」


怒り狂ったハーマンは彼女の首を掴み、持ち上げた。

セイグランが必死に叫ぶ。


「やめて! 父上!」


ハーマンは彼女を放り投げ、冷たく言い放つ。


「この家にお前の居場所はない。出て行け。」


その夜、リンは雨の中を去った。

セイグランの泣き声が背後で響く。


「姉さん! リン姉ぇぇぇ!」


そして残ったのは――

冷たい静寂と、心の奥底に燃える“憎しみ”だけだった。

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