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始まり


「シグランとの出会いを経て、ヤズンはシャーメルに導かれ初めての苛酷な修行に挑む。だが失敗の連続の中で、誰も予期しなかった“力の兆し”が姿を現し始める──。」

薄明の旅立ち


かすかな朝日が差し込む中、シャーメルは革のバッグをしっかりと締めていた。

一方、ヤズンは大きな袋にできる限りの物を詰め込もうとしていた。


彼は興奮気味に立ち上がり、言った。

「準備できたよ!」


シャーメルは静かに笑い、重さにふらつく少年を見て言った。

「坊や……市場に行くんじゃないんだぞ。道中は長く歩き、移動も多い。そんなに荷物を持ったら二日ともたない。」


ヤズンは恥ずかしそうにうつむき、荷物の半分を地面に置いた。

二人は村を出て山道を進み、冷たい風が顔を撫でた。


しばしの沈黙の後、ヤズンは我慢できずに尋ねた。

「シャーメルおじさん……どうして僕たちの村に来たの? それに、なぜ禁じられた森に入ったの?」


シャーメルは歩みを止めずに答えた。

「珍しい薬草を探していたんだ。その草はあの森にしか生えない。そして、そこで君を助けようとする祖父の叫び声を聞いた。」


ヤズンはしばらく考え込み、やがて顔を上げて言った。

「でも……どうして僕がリースとラヒールの子だってわかったの?」


シャーメルは突然立ち止まり、少年の瞳をまっすぐに見つめた。そこには懐かしさが宿っていた。

「マルワンが教えてくれたんだ……それに、君の瞳を見れば一目でわかる。父親と同じ目だからな。」


ヤズンの胸が震え、今まで知らなかった温もりが心を満たした。

初めて自分の根源と結ばれたような感覚だった。


耐久の修練


数日後、二人は高い木々に囲まれた小川に着いた。

シャーメルは岩に腰を下ろし、ヤズンを呼んだ。

「来い、坊や。本当の力を望むなら、まずは“気”ではなく、肉体からだ。」


驚いたヤズンは言った。

「でも……僕は器の試験に失敗した。力を示せなかった。」


「だからこそだ。まずは体を岩のように鍛えるんだ。」


訓練が始まった。


ヤズンは丸太を抱えて森の中を走り続けた。

滝の下に座らされ、凍える体でシャーメルの声を聞いた。

「呼吸を制御しろ! 水に押し潰されるな!」


鋭い石の上に裸足で立ち、何時間もバランスを取り続け、足から血が流れた。


何度も倒れ、痛みに叫びながらも、少年はそのたびに立ち上がった。


日が暮れる頃、火のそばで震えながら息を整えるヤズンを見て、シャーメルは微笑んだ。

「お前には一つだけ特別な資質がある……それは“耐える力”だ。それがお前を他と違う存在にする。」


疲れ切ったヤズンは、それでも目に小さな希望の光を宿した。


力への誓い


その夜、眠りについたヤズンの横で、シャーメルは月を見上げ、独り言のように呟いた。

「リース……お前の息子は思った以上にお前に似ている。だが……同じ運命に耐えられるだろうか。」


新たな試み


翌朝、厳しい鍛錬の後、シャーメルは水の入った器をヤズンの前に置いた。

「もう一度試せ。」


少年は恐る恐る指を伸ばし、水に触れた。……何も起こらない。


「もう一度だ。」


再挑戦したが、水は静かなままだった。


ヤズンは肩を落とし、うなだれた。

「やっぱり無理だ……僕にはできない。」


シャーメルは優しく肩を叩き、言った。

「諦めるな、坊や。嫌っていたものが、実はお前を導く力になることもある。」


荷物をまとめて出発しようとしたとき、突然背後で破裂音がした。

振り向くと、器が粉々に砕け、水は跡形もなく消えていた。


ヤズンは呆然と立ち尽くした。

「器が……どうして……そのまま置いておいただけなのに!」


シャーメルはしばらく沈黙した後、静かに微笑んだ。

「……なるほど。力はすでに自ら動き始めているのか。」


だが少年には何も告げず、ただ言った。

「行くぞ、坊や。まだ長い道のりが待っている。」

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