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イザン:血の継承  作者: Salhi smail


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28/75

疑念の始まり

闇のような囁きが、会議堂の柱の間を漂っていた。

ダロスの言葉が、いまだに耳の奥で反響している。


「黒いふじょうのあかつきの動きが東の国境で活発化している……ラザンの息子を誘拐する意図がある。そしてその危険は前例がない。」


沈黙を破ったのは、レイデンだった。彼は片眉を上げ、ミゾラを挑発するように見つめる。

「お前の管轄地の近くに彼らの拠点があるというのか? その説明を抜きにして済む話ではない。」


ミゾラは冷静に答える。

「シャーメル将軍の退任後、多くの空白が生まれた。その隙を狙った者たちがいたというだけだ。」


しかし場の空気は収まらない。各将軍の表情には警戒と不信が交錯していた。


そのとき、ラドスが静かに口を開く。

「報告にはさらに重要な点がある。黒い暁の構成員の一人が“時空の術”を持っている。つまり、防衛区域すら突破可能ということだ。」


ざわめきが走る。

「どうしてそんな者が他領域に侵入できる?」

「まさか、内部に協力者が……?」


冷ややかな声がその疑念を切り裂いた。カガハルが言う。

「馬鹿げている。時空術者は、一度訪れた場所にしか移動できない。それが法則だ。」


オウサムが微笑しながら応じる。

「ほう、よく勉強しているな。優秀な生徒のようだ。しかし戦場では常識など通用しない。法則を破る者もいれば、創る者もいる。」


カガハルの顔に怒りが走る。空気が凍りつき、若き後継者たちは言葉を失った。


そのとき、扉を叩く音が響いた。伝令が駆け込み、青ざめた顔で封筒を差し出す。

ハーマンがそれを受け取り、静かに開く。


「……報告書によると、ハスミ家の支配下にある港で不審な通信が確認された。暗号化された信号と、国外への資金の流れがある。」


場の空気が凍りつく。

ミゾラの顔色が変わる。

「そんなはずはない……私の管轄で?」


レイデンが鋭く迫る。

「名誉に隠れて逃げるつもりか? それとも真実を示すか?」


ミゾラは声を震わせながら答える。

「我が領を守る責任は果たしている。だが、証拠もなく疑うのは無礼だ。」


カガハルが再び口を開く。

「暗号の解析によれば、“影商人”の古い署名が含まれている。これはコラミとの過去の取引者のものだ。つまり……この問題は帝国の外にも繋がっている。」


重苦しい沈黙。いくつもの視線が交錯する。


オウサムがゆっくりと立ち上がった。

「裏切り者がいるならば、法のもとに裁かれるべきだ。その前に、全港を封鎖し、資産を凍結しろ。調査は中立機関に委ねるべきだ。」


ハーマンの声が響く。

「静粛に。無責任な言葉は争いを招くだけだ。調査委員会を設立し、ダロスに現地調査の権限を与える。証拠が出れば、即刻処罰する。」


静まり返る会議室。

ラドスが小声でハーマンに囁いた。

「もし黒い暁が本当に時空術を持つなら、この会議室さえ安全ではない。」


ハーマンはわずかに笑みを浮かべた。

「ならば調査が全てを明らかにするさ。三日後、真実が出る。」


——会議は終わり、将軍たちは次々と退出していった。


ミゾラ・ハスミは重い足取りで外へ出た。

“裏切り”という言葉が頭の中で何度も響く。


(……まさか、我が一族の中に裏切り者が?)


外では、若い男が待っていた。茶色の髪に鋭い目を持つ青年。

「将軍、何かお悩みですか?」

「いや……すぐに本部へ戻る。」


そのとき、明るい声が響いた。

「お父さま!」


ミゾラが振り向く。

「マヤか……ここにいたのか。」

彼の娘マヤが駆け寄り、笑顔で抱きつく。


オウスが眉をひそめる。

「マヤ、外では“父”と呼ぶな。“ハスミ将軍”と呼べ。」

ミゾラは軽く笑った。

「構わん。娘は娘だ。」


ミゾラ:「任務はどうだった?」

マヤ:「まあまあ……」

オウス:「最初の任務は失敗でした。時間の無駄かと。」

ミゾラ(冷たい声で):「言葉に気をつけろ、オウス。」

オウス:「失礼しました。」


ミゾラ:「マヤ、休暇中か?」

マヤ:「はい、一週間ほど。」

ミゾラ:「では一緒に帰ろう。母も会いたがっている。」


馬車が都市を離れる。

その途中、マヤが窓の外を見つめて言った。

「お父さま、止めて! あの人……!」


馬車が止まる。彼女は駆け出した。

その視線の先に立っていたのは——イェズンだった。


マヤ:「イェズン、もう歩けるの?」

イェズン:「医者に外の空気を吸えと言われてね。」

マヤ:「そう。じゃあ紹介するね、私の父——」


その瞬間、ミゾラが馬車から降りた。

イェズンを見た瞬間、彼の目がわずかに揺れた。

まるで、記憶の底から何かが呼び起こされたように。


イェズンの心臓が跳ねる。

(この人……八将の一人だ……シャーメル先生と同格の!)


ミゾラはゆっくりと歩み寄り、目の前に立つ。

そして静かに、手を伸ばしてイェズンの頬に触れようとしながら言った。


「お前は……」


——そこで章が終わる。

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