過去の声、真実の涙
翌朝、ヤザンは荒い息を吐きながら汗だくで目を覚ました。
夢の中で、幼い頃に村人たちが石を投げつけ、叫んでいた場面を見たのだ。
「呪われた子め! 村に不幸をもたらすな!」
ヤザンは胸の痛みに耐えながら小屋を出て、母の墓へと向かった。
墓の前に座り、声を出さずに泣いた。
少し離れた場所でマヤがその姿を見つめていた。
彼女は昨夜、村長から真実を聞き、胸が張り裂けそうになっていたのだ。
朝日が村を静かに照らしていた。
草の先には朝露が光り、鳥の鳴き声が静けさの中に響いていた。
ヤザンは無言のまま、母の墓の前に立ち尽くした。
彼は冷たい石に手を触れ、小さな声で呟いた。
「母さん……」
昨日の夜に見た夢の痛みが胸に深く刺さっている。
涙が頬を伝い、もう止めようとはしなかった。
ゆっくりと歩き、近くにあるもう一つの墓――祖父マルワンの墓の前にひざまずいた。
土に手を置き、悲しげな笑みを浮かべながら小さく呟く。
「じいちゃん……覚えてる?」
頭の中に思い出がよみがえる。
二人で一緒に働いた畑、
薪割りを教えてくれた時間、
市場で少しだけ収穫物を売った日々。
「自分の手で働くことこそ誇りなんだぞ」と祖父はいつも笑いながら言ってくれた。
それはささやかだったけれど、ヤザンにとって一番大切な記憶だった。
祖父は彼を拒絶しなかった。
彼にとって父であり、友であり、先生だった。
「もしここにいてくれたなら……こんなに孤独を感じずに済んだのに。」
目を閉じると、朝の風が祖父の声を運んできたように聞こえた。
「立て、ヤザン……道はまだ終わっていない。」
少しして、人々は帝国の中心地に戻る準備を始めた。
荷物をまとめていると、年老いた村人がヤザンのもとに歩み寄った。
「坊や……お前を見ると息子を思い出す。もう会えないかもしれんが、何かあればいつでも来い。死ぬまではここにいる。」
ヤザンは涙をこらえながら微笑み、老爺を強く抱きしめた。
マヤは涙を浮かべ、シグラは黙って見守り、ラカンは穏やかに微笑んでいた。
その時、背後から声が響いた。
「ヤザン……待って!」
振り返ると、アマニが立っていた。
「何だ?」
「初めてあなたを見た時から、ずっと感じてた……やっぱりあなたなのね。」
ラカンがマヤとシグラに向かって静かに言った。
「二人きりにしてやろう。」
アマニは少し近づき、震える声で言った。
「秘密を教えるね……私、あの日のことを覚えてる。あなたが私に人形をくれた日。そして、あなたの母さんがひどい扱いを受けていた日。あれからずっと、思い出すたびに泣いてたの。本当にごめんなさい。」
ヤザンは優しく首を振った。
「いいんだ、アマニ。君のせいじゃない。」
アマニはそっと彼の手を握ったが、すぐに恥ずかしそうに離した。
マヤはその光景を黙って見つめていた。
アマニは背を向け、震える声で言った。
「また……会いに来て。忘れないで。」
ヤザンは小さく笑いながら答えた。
「多分ね。」
二人は別れ、アマニは泣きながらその背中を見送った。
「どうして……言えなかったんだろう。どうして……『好き』って言えなかったんだろう。」
ヤザンは静かに歩きながら微笑んだ。
「そうか……みんなが俺を嫌っていたわけじゃなかったんだ。」
マヤはその姿を見つめ、心の中で呟いた。
「あの子……本当に彼のことが好きなんだ。」
村の中央広場に戻ったアマニは、大声で叫んだ。
「みんな、聞いて!!」
母親と村長、村人全員が驚いて出てきた。
彼女は涙を流しながら叫ぶ。
「誰が村を救ったと思ってるの!? 本当の英雄が誰か知ってる!?」
母親を睨みつけて叫ぶ。
「知ってるの!?」
そして村長に。
「あなたも!?」
そして村人全員に向かって。
「あの子よ……昔、あなたたちが石を投げ、追い出したあの子!
母親を呪いの女と呼んで傷つけた……その子が! あなたたちを守ったのよ!」
嗚咽まじりに続ける。
「恥を知りなさい……みんな、なんて残酷なの。」
母親は泣き崩れ、村長は顔を伏せ、村人たちは沈黙し、後悔の色を浮かべた。




