表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イザン:血の継承  作者: Salhi smail


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/76

すべてが始まった村への帰還

それから二年の歳月が流れた。

訓練と任務の日々。

そして、少年たちはもう「子供」ではなくなっていた。


ヤザンは十三歳から十五歳になり、身長は162cmから170cmへと伸びた。

彼の瞳には、もはや迷いはなかった。

セイグランは165cmから172cmになり、静かな自信を漂わせている。

マイヤも153cmから164cmへと成長し、少女の面影は薄れ、騎士としての風格が宿っていた。


その朝、第三小隊は訓練場に集められた。

師であるラカン・ヒカリが、薄く笑みを浮かべて彼らの前に立つ。


「さて──今日はいい知らせがある。」


「今日から君たちは正式に……Cランクだ。」


「やったーっ!!」

マイヤが声を上げ、飛び跳ねた。

ヤザンは小さく笑い、セイグランは静かに肩をすくめた。


「……やっと、次の段階か。」


しかし、ラカンの声色が一転する。

低く、緊張を孕んだ声だった。


「そして……もうひとつ大事な任務がある。ギルドからの依頼だ。

──モンスターによる襲撃から村を救う、救出任務だ。」


「救出任務?」マイヤが首をかしげる。


「場所は……“オタラ村”だ。」


その名を聞いた瞬間、ヤザンの体が固まった。

耳に刺さるその言葉。

心臓が激しく打ち始める。


「……オタラ?」

震える声。


「何があった!?」


ラカンは手を上げ、落ち着かせるように言う。


「落ち着け。お前……その村を知っているのか?」


「……俺の、故郷だ。」


重い沈黙が場を支配した。


ラカンの目が鋭くなる。

「その村は高い山のふもと、禁忌の森のそばにある。

森には……獰猛な魔獣が巣食っている。」


ヤザンはうつむき、拳を握りしめた。

胸の奥から、あの日の記憶がこみ上げる。


ラカンはその変化に気づいた。

「ヤザン、話してくれ。……過去に何があった?」


「七歳のとき……俺は一人で森に入ったんだ。

小さな魔獣の子を見つけて……食べ物を与えた。

友達になれると……信じてた。」


声が震える。

「でも、それは……大きな間違いだった。」


ヤザンは服を少しめくり、背中を見せた。

深く刻まれた爪と牙の傷跡──。


「……七歳で、こんな傷を……?」

マイヤが息を呑み、セイグランが目を見開く。


「……俺をかばって、じいちゃんは……五体の魔獣に襲われて……頭を──」


ヤザンの拳が地面を叩く。

「俺のせいで……!」


ラカンは静かに彼を見つめ、心の中で呟く。

(この少年は……どれほどの痛みを背負ってきたんだ。)


「……あの日、俺は“ある人”に助けられた。名前は言えない。」


「……そういうことか。」

ラカンは目を閉じ、静かに頷いた。


数日後──。

第三小隊はオタラ村へ向かった。

それはヤザンにとって、ただの任務ではなかった。

生まれ、そして奪われた地へ……帰る旅だった。


長い道のりを経て、村にたどり着くと──

村人たちが迎えてくれた。

子供たちは帝国騎士の制服に目を輝かせ、歓声をあげる。


ヤザンはその光景を見つめ、苦く笑った。

“あの頃”の記憶が、胸を締めつける。


ラカンと村長はすぐに話し合いの場を持った。


「先週までは静かだったんです……。でもある夜から、魔獣が森から出てきて、家や畑を襲い始めたんです。」


「奴らはいつ動く?」

「……日没です。」


「やはりな。」

ラカンは低くつぶやく。


「百年前、人間と魔獣の戦争の末、村の賢者たちは“影の門”を禁呪で封印した。

その封印が、長い年月の中で……少しずつ、弱まっている。

日が沈むたび、結界の力は削られ──魔獣が溢れ出してくる。」


「じゃあ……今夜が山場ね。」

マイヤの声が震える。


「俺は封印石の再起動に向かう。間に合わなければ、日没を越えるかもしれない。

──お前たちは、森の入り口を守れ。」


ラカンは森へと消えていった。


ヤザン、マイヤ、セイグランは村の中を歩いた。

人々の歓声。温かな笑顔。

けれどヤザンの胸は静かに、重く沈んでいた。


「ヤザン、家はどこだったの?」

「……森のそばだ。」


「……行ってみよう。」


森の出口近く、古びた小屋の前に着くと──

一人の少女が手を振ってきた。


「ようこそ、騎士さま!」


その母親が家から顔を出す。

「アマニ、どこに……あら、騎士様?」


ヤザンの視線が彼女と交わった瞬間──

過去の記憶が弾ける。


《回想》

小さな少女の落とした藁人形を拾い、笑顔で返す少年。

しかし母親がそれを払いのけ、冷たい声で言った。

「近づかないで。呪われた女の息子……!」

《回想 終》


母親はつぶやく。

「山の小屋には近づかないで。呪いがある。」


「お母さん、そんなこと言わないで!」

アマニが叫んだ。


ヤザンたちは沈黙のまま歩き去る。

アマニは小さく呟く。

「……あの人、どこかで……見たことがある。」


小屋の前。

ヤザンは、かつて目を覚ました場所を見つめていた。

そこが──すべての始まり。


「こんな小さな小屋で……生きてたのね。」

マイヤの声が静かに響く。

セイグランは黙っていた。


その頃、森の奥。

ラカンは封印陣を展開し、焦りの声を漏らす。


「日が沈む……急がねば……!」


夜の気配が迫る。

そのとき──アマニの愛猫が禁忌の森へ走り出した。


「ミー! 待って!」


少女は追いかける。

そして……森の入口で巨大な影と出会った。

ワニのような胴体。血のように赤い目。

──魔獣だった。


「いやぁぁぁぁっ!!」


悲鳴が夜空に響く。


ヤザンの耳が反応する。

「……今の声は!」


3人は一斉に走り出した。

魔獣の爪が振り下ろされ──


「間に合えっ!」


ヤザンが風のように飛び込み、アマニを抱き上げた。

次の瞬間、セイグランの剣閃が走る。

魔獣の巨体が地面を転がった。


ヤザンの腕の中で、アマニは震えていた。

──だがそれは、恐怖ではなかった。


彼女は見上げた。

その瞳は、まるで英雄を見つめるように輝いていた。


この瞬間──

新たな物語が、静かに幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ