到着と失神――衝撃
第三班が死の淵から生還し、最初に対峙したのは秘密組織のリオ、キョウ、そしてハルであった。彼らを退けた後、一行はなおも重い足取りでシーグランの塔へと進み続けた。
シーグランは辛うじて歩ける状態で、足取りは重く、思考は混乱していた。
――誰がこんなにも残酷に人々を殺し、我々を生かしたのだ? いったい何者が、あの強者たちを打ち倒したのか?
その頃、主催者たちと各帝国からの代表団は、続々と到着するチームを迎え入れていた。
学院長と教師たちもまた緊張を隠せず、一つ一つの動きを食い入るように見守っていた。
最初に到着したのは南カグラ帝国のチームだった。
彼らは力を秘めた存在として知られており、その構成は――エヴリン、ストロム、ルーカス、ヴァイル、クララ、そしてトフィルド。
「カグラ帝国は禁じられた術を用いる」という噂が流れており、その姿は神秘と畏怖を伴っていた。 その後に到着したのはアルマズ帝国のチームだった。
隊長カグチを先頭に、カズミ、ユキナラ・ワエルが続く。
カグチは誇らしげに声を張り上げた。
「ハッハッハ……我々こそ最強だ!」
その直後、扉が開かれ、目の前にカグラ帝国のメンバーが立っていた。
カグチは思わず叫んだ。
「ちっ……!」
教師アルダ・ツシマは微笑みながら言った。
「よくやったな……怒るな。今回はカグラの連中に運が味方しただけだ。お前たちを誇りに思うぞ。」
続いて到着したのはリクーザ帝国のチーム――アミール、アナス、そしてウェンディ。
アミールは悔しげに叫ぶ。
「くそっ……三番目か!」
一方、カグチ教師は胸を張って言った。
「よくやった、お前たち。立派な成果だ。」
その時、教師アルダとアダンは、隅に立つラーカンに視線を投げた。
ラーカンはただ静かに微笑むだけで、一言も口を発さなかった。
やがて、ヘリオス、ゼノラ、ヴァルドリン、ロリス、そしてティラフィン帝国のチームが次々と到着した。
会場に緊張が走る中、学院の担当者が声を張り上げる。
「残り時間はあと三十分。これを過ぎれば、遅れたチームは失格となる!」
ラーカンの胸中は不安でいっぱいだった。
――どこにいる、お前たち……私の子供たちよ?
そして五百秒後、遠くの道に三人の姿が現れた。
疲れ切っていながらも、確かな足取りで進んでくる。
右にマヤ。
左にヤズン。
中央にはシーグラン。彼は体を震わせ、まともに歩けない。
マヤとヤズンは両脇から彼を支え合い、大きな一枚の影のように前へと進む。
その姿を見たラーカンは、胸の奥で熱いものを抑えきれなかった。
ラーカンは大きく微笑み、心の中で叫んだ。
――この光景を、二度と見逃しはしない!
ヤズンは師のその眼差しを感じ取り、弱々しくも微笑みを返した。だが足元はふらつき、視界が揺れる。
ラーカンは静かに彼に頷いた。
その様子を見ていたカグチは、ラーカンの肩に手を置き、呟いた。
「……羨ましい光景だな。」 突然――。
予想もしなかった事態が起きた。
ヤズンがその場で崩れ落ち、意識を失ったのだ。
場内は騒然となり、誰もが凍りつく。
「ヤズン!」
ラーカンは疾風のごとく駆け寄り、声を張り上げた。
マヤとシーグランは衝撃で立ち尽くすしかなかった。
医師が急ぎ駆け寄り、ヤズンを診察する。
額に触れ、険しい表情で言った。
「高熱だ……原因は不明だが、体内の力の流れが激しく損なわれている。このままでは騎士としての未来すら危うい。」
マヤはその場に崩れ落ち、シーグランも動けずにいた。
ラーカンは愕然とし、信じられないという表情で弟子を見下ろしていた。
その頃、ヤズンの意識は暗黒の夢に沈んでいた。
血に塗れた空間――。
自分の手で倒したはずの秘密組織の者たちが目の前に現れる。
しかし、どうやって自分が彼らを葬ったのか――記憶が曖昧だった。
響き渡る叫び声、果てしない血の匂い。
「……ッ!」
ヤズンは飛び起きた。気づけば、学院の医療棟のベッドに横たわっている。
体を動かそうとするが、鉛のように重い。
その耳に落ち着いた声が届いた。
「無理をするな……まだ休め。」
振り向くと、そこには師ラーカンの姿があった。
「……先生……ここは……? 何が……」
必死に問いかけるヤズンに、ラーカンは穏やかに答える。
「落ち着け。今は説明よりも休養が大事だ。だが、いずれすべてを話そう。」
時は少し遡る。
第三班が到着した直後、ヤズンは意識を失った。
医師は診断し、こう告げた。
「今は静養しかない。彼の身を守るためにもな。」
その後、学院長と各帝国の代表者たちは、新しい序列を発表した。
新しい階級制度
Bランク – 初級兵 (Beggar) : 最も低い階級。駆け出しの兵士。
Cランク – 兵士 (Corporal) : 基本的な経験を持つ一般兵。
Dランク – 下士官 (Deputy) : 小隊を率いる下級指揮官。
Eランク – 少尉 (Ensign) : 初の士官階級。小規模部隊を指揮。
Fランク – 大尉 (Field Captain) : 中隊規模の部隊を統率。
Gランク – 少佐 (General Major) : 大隊を束ねる中級指揮官。
Hランク – 大佐 (High Colonel) : 連隊や旅団を指揮。
Iランク – 将軍補 (Imperial Brigadier) : 複数の部隊を統率。
Jランク – 大将 (Justicar / General) : 軍全体を統べる最高位。
「ヤズン、お前の階級は――B、初級兵だ。」
ラーカンが告げると、ヤズンは驚いた表情を浮かべた。
「でも先生……なぜ他の帝国の者たちも同じ試験を受け、同じ階級を得るのですか? まるで私たちの帝国のものではないように……」
ラーカンは静かに微笑み、深い声で答えた。
「その疑問は、表面的なものではない。――この試験は一つの帝国の所有物ではないのだ。数百年前の大戦の後、七つの帝国は協定を結んだ。再び血で世界を引き裂かぬためにな。
試験はすべての若者を共通の基準で鍛え、同じ旗の下で戦わせる。そうすれば、未来に敵として剣を交える可能性が減る。
だからこそ、この試験は単なる力比べではない。平和への誓いを背負う儀式なのだ。」
ヤズンは微笑み、幼子のように無邪気に言った。
「僕……いつか将軍になりたい!」
ラーカンは胸の奥で痛みを覚えつつも、穏やかに答えた。
「……そうだな。なれぬはずがない。」
その時、コンコン、と病室の扉が叩かれた。
マヤが花束を抱えて入ってくる。
「こんにちは……」
照れくさそうに花を差し出すマヤ。
ヤズンは顔を赤らめながら受け取り、かすかに笑った。
「ありがとう、マヤ……本当に嬉しいよ。」
「……大丈夫? もう平気?」
震える声で問うマヤに、ヤズンは無理に笑顔を作って答えた。
「うん、大丈夫。先生が許してくれたら、すぐにでも出られるさ。」
しかし、マヤの瞳には涙が溢れそうになっていた。
彼女は言葉を飲み込み、視線を落とした。
ラーカンは静かに首を振り、彼女に「黙れ」と目で示す。
マヤは唇を噛み、沈黙した。
そこへ医師が入ってきて、ラーカンと目を合わせる。
ラーカンは低く頼んだ。
「……頼む。せめて希望を持たせてやってくれ。」
しかし医師は首を振り、厳しい声で答えた。
「師よ……お気持ちはわかる。しかし虚偽の希望は、より残酷だ。現実を受け止めさせるべきです。」
やがて彼はヤズンに向き直り、はっきりと告げた。
「……残念だが、騎士としての道はもう絶たれた。君は、今後いかなる力も扱うことはできないだろう。」
――その瞬間、時間が止まったかのようだった。
ヤズンは息を呑み、瞳を見開き、ただ呆然とするしかなかった。
扉が勢いよく開く。
シーグランが足を引きずりながら入ってきた。
彼は今しがた聞かされた言葉に衝撃を受け、立ち尽くす。
「……ヤズン……!」
沈黙の中、三人の運命は大きく揺れ動いていた。