第1章:呪われた誕生
七つの大帝国に分かれ、強大な一族が支配と権力を争う世界。
その中で、伝説のラザン一族の血を引きながらも、人間の血を併せ持つ少年イザンが生まれた。
彼は村で「呪われた子」として忌み嫌われ、孤独に育つ。
しかし彼の中には、帝国すら恐れるほどの力が眠っていた…。
禁じられた森、秘密の組織、そして一族同士の因縁。
数々の敵に追われながら、イザンは次第に自らの宿命と向き合うことになる。
これは、生き残るための戦いであり、やがて世界の運命を左右する物語。
呪いに囚われた少年は、果たして災厄となるのか、それとも希望の光となるのか――。
七つの大陸に分かれた世界。
そこには偉大な帝国が存在し、時に争い、時に平和を保ちながらも、覇権を巡る冷たい戦いは決して終わらなかった。
それぞれの帝国は、エネルギー元素と呼ばれる超常の力を受け継ぐ氏族によって支配されていた。
そして世界の果てには、自然の限界を超えた者だけが足を踏み入れることを許される禁断の地――闇の大地が存在する。
この世界の中で、一人の少年 ヤザン がアルマズ帝国に属する小さな村、オタラに生まれた。
村は高くそびえる山の麓にあり、その山を取り囲むように暗く濃い森が広がっていた。
誰一人として生還したことのないその森は、やがて 禁じられた森 と呼ばれるようになった。
ヤザンは村の片隅で、友もなく孤独に生きていた。
人々は彼を避け、「呪われている」と囁きあった。
その理由は彼の血筋にあった。
父 レイス は無類の力を誇る伝説の ラザン一族 の戦士。
しかし、帝国の掟を破り、ただの人間である女性 ラヒール と結ばれたことで処刑された。
母ラヒールは、ヤザンを産む際に命を落とした。
その命と引き換えに、彼をこの世に残したのだ。
祖父 マルワン に託されたヤザンは、母の最期の願いを聞かされる。
「彼に戦いを教えてはならない……帝国から遠ざけ、この血の宿命を葬り、静かに生きさせてほしい。」
だが、静寂の運命は彼には訪れなかった。
ラヒールの呪い
ヤザンが生まれる数年前、帝国の暗殺者たちが妊娠中のラヒールを追っていた。
彼らは DRC と呼ばれ、帝国の裏の任務を遂行する影の存在だった。
レイスの命を受けたマルワンは、ラヒールを守りながら村へと逃げた。
ある夜、粗末な小屋で休んでいたところを暗殺者に襲われた。
マルワンは勇敢に戦い、一人を倒すことに成功したが、もう一人に深手を負わされ、そのまま逃げられてしまう。
負傷した暗殺者は逃走の途中で村人を襲い、子供を含む多くを毒の刃で殺した。
事情を知らぬ村人たちは、ラヒールが災厄をもたらしたのだと信じ込んだ。
数日後、ラヒールが川辺に立っていた時、小さな地震が起き、水の流れが堰き止められた。
その瞬間、彼らは「呪われている」と決めつけた。
さらにその後、皆既日食が訪れる。村人にとって初めての異変であり、それも彼女のせいにされた。
そして出産の日、再び地が揺れ、塞がれていた川の流れが戻った。
ラヒールは命を落とし、ヤザンだけが残された。
村人たちは叫んだ。
「呪いは彼女の死と共に消えた!」
だがその烙印は残った――。
「呪われた女の子」と呼ばれた名は、そのまま息子ヤザンに受け継がれたのだ。
悲劇の始まり
ある日、ヤザンは幼い少女が落とした藁人形を拾い、無邪気な笑みと共に手渡した。
しかし、母親はそれを乱暴に取り上げ、冷たく言い放った。
「彼に近づいてはならない……あれは呪われた者の子だ。」
その言葉は、刃のようにヤザンの心を突き刺した。
その瞬間、呪いは自分だけでなく、母にも背負わされていたのだと理解した。
少女の泣き声が背後に響く中、ヤザンは立ち尽くした。
小さな人形の姿が、残酷な孤独の象徴として彼の心に刻まれた。
祖父の小屋へ戻りながら、空っぽの手を見つめる。
まるでまだ人形を握っているかのように。
涙が静かに頬を伝い、心の奥で何かが崩れ落ちた。
その絶望は、彼をかつてないほど――
禁じられた森の入口 へと近づけていった。