Quest1「英雄、転生」
お久しぶりです。新作です!
僕は朦朧とする意識の中、微かな記憶を辿っていた__。大切な人との懐かしい会話。どこか懐かしいような気持ちになる心が温まるような記憶に思いを馳せていると、意識が鮮明に戻り、目が覚める__。目覚めた先は見慣れない街と奇抜な服装をした人々。座り込み、唖然としていた僕は誰かに話しかけられる。
「あの…大丈夫ですか?」
不思議そうに僕を見つめる少女から差し伸べられた手を握り、僕は立ち上がる。
「ありがとうございます…えっと…あなたは?」
手を差し伸べてくれた少女は僕に優しく微笑み、少し恥ずかしそうに髪を触った。
「あ、私はエリカと申します。職業は魔法使いをしています。ここは…ちょっと変わった場所ですよね。どうしてここに?」
彼女は周りを見回しながら、少し不安げな表情を浮かべた。
「それが、分からなくて。気づいたらここにいて…」
エリカさんはは少し首を傾げ、澄んだ青い瞳で僕をを見つめた。
「あら、そうだったんですね。」エリカは髪を触りながら言葉を探す。「もしかして、【マルチバース】の影響でしょうか?」
僕を見つめる青い瞳に輝きが宿る。
「マルチバース?」
「はい……数年に一度、別の世界とこの世界を繋ぐ時空の歪みが生まれるんです。」
エリカさんは楽しそうに語り出す。
「そう…なんですね…」
僕の苦い反応を見てエリカさんは一瞬黙り込み、何かを考えているようだった。数秒ではあるが、気まずい沈黙が流れ、エリカさんはゆっくりと口を開いた。
「私の家に来ませんか?そこでなら落ち着いてお話できますし…」
「ぜひ、お邪魔したいです…!」何もかもが分からないことだらけの現状だが、まずはこの街のことを知るため、僕は勢いに身を任せることにした。
共に並んで歩く間、エリカさんはこの街について話してくれた。この街は魔法使いや冒険者が集まる場所で、さまざまな種族が共存している世界……。つまりここはよく小説やアニメである「異世界」らしい。
細い石畳の道を歩き始め、数分が経った頃、人通りの多い、中心部を抜けるとその先の通りには色とりどりの花が咲き乱れ、どこか幻想的な雰囲気が漂っていた。
「異世界も案外悪くないかもな……」
そう呟き、エリカさんの後を追うように歩く。
そして、エリカさんに導かれるがままに進み、エリカさんの家へと到着した。
「お邪魔します…」「どうぞ」
僕の緊張しきった表情を見たエリカさんは柔らかい笑顔を浮かべ、優しく言葉を返してくれた。
「うわぁー、なんだこれ…すご…」エリカさんの部屋は思わず言葉が溢れるほど、モンスターのような生き物の模型と、宇宙?に関する資料で溢れていた。
エリカさんは僕の反応を見て、少し照れくさそうに笑った。
「びっくりさせちゃいましたね、これらは私の研究の一部でマルチバースと呼ばれる別の並行世界のことを調べているんです。」
エリカさんは手に取った一つの模型を優しく撫でながら続けた。
「でも、正直、これだけじゃ全然足りないんです。もっとたくさんの情報が欲しいところなんですけど…」
エリカさんの表情が一瞬曇ったように思えたが、すぐに明るさを取り戻した。
「あ、そういえば名前を聞いていませんでしたね。あなたのお名前は?どこから来たのですか?この世界ではなさそうですが…」彼女は興味深げにあなたを見つめた。
「越野 瑛人です(えつの えいと)…別の世界から来た…としか今は言えません」表情を曇らせ俯く僕にエリカさんは目を輝かせて顔を近づける。
「ということはあなたはマルチバースに存在する並行世界から来たという事ですよね?!」
「え、あぁ、まぁ、たぶん…?」さっきもそうだったが、エリカさんはマルチバース?という事の話題になるといきなりテンションが上がる。興味津々に目を輝かせ、勢いよく僕質問攻めしてくるエリカさんに困惑していると、エリカさんは我に帰ったように僕と距離を取る…。「失礼しました。つい取り乱してしまいました…まずはステータスを確認しましょうか。」そう言ってエリカさんは手をさしだす。
「ステータス?」
「はい、この世界の住民の職業や基本的なスペックの事です。」
「はぁえー、それでなんで手を差し出してるんですか?」
「こうするためです…♡」
エリカさんはイタズラな笑みを浮かべ、僕の手を握る。
「なっ…///」
突然の行為に僕が戸惑っているとエリカさんは目の前に表示された僕のステータスを見て驚愕する。
「瑛人さんの職業は……「英雄」ですか…」
「あの手…///もう離してもいいですか」
僕が顔を真っ赤にして問うとエリカさんは急いで手を離す。
「あっ、ごめんなさい」
「僕のステータス、そんなに変でしたか?」
「いや、基本的なスペックはこちらの世界の人々と大した変わりはないのですが…英雄という職業は聞いたことがありません… 」
エリカさんは手を離した後、少し考え込んだ表情で部屋の時計に目を向ける。
「とりあえずギルドに行きましょう!簡単なクエストをクリアしていけば瑛人さんの職業についてもなにかわかるはずです!」
「わかりました…」
よく分からないが、クエストには少し興味があるし…僕の職業が特別なのは悪い気はしない。そして僕は自分の職業を知るため、エリカさんと共にギルドへと向かった__。
エリカは少し考え込んだ後、あなたに笑顔を見せた。「さあ、急ぎましょう。ギルドには色んな情報が集まっていますから」。彼女は窓辺に置かれた小さな瓶から香りの良い花を取り出し、手首に軽く当ててから、部屋を出る準備を整えた。
外に出ると、石畳の道は賑やかな市場へと続いていた。露店では色とりどりの果物や珍しい道具が並び、様々な種族の人々が行き交っている。エリカはあなたの隣を歩きながら、時折興味深げに周囲を見回していた。
「ここは本当に不思議な場所ですね」とあなたが言うと、エリカは頷きながら、「そうですね。でも、この世界にはまだたくさんの未知が残っています。だからこそ、もっと知りたいんです」と目を輝かせた。
ギルドに着くと、受け付けの隣にある大きな掲示板にいくつものクエストが張り出されていた。エリカさんはその中の一つを指差し、「これなら簡単です。近くの森で薬草を集めるだけですから」と提案した。
「じゃあ、行ってみましょう」とあなたが言うと、エリカは嬉しそうに微笑んだ。
エリカさんの選択したクエストをクリアするため、僕とエリカさんは指定エリアの少し不気味な雰囲気を漂わせる森へとやってきた。
森の中は薄暗く、木々の間から差し込む光が幻想的な雰囲気を醸し出していた。僕はなんとも言えない不思議な雰囲気の森を前にし、息を呑む。だが、緊張で立ち尽くす僕を気にすることなくエリカさんは
「この奥に薬草があるはずです!」と恐れることなく、ズカズカと足を踏み入れ、暗闇で見えない森の奥まで迷いなく進んで行く。足場の悪さで何度もつまずきながらも僕はエリカさんの後を追う。
「あの!エリカさん、怖くないんですかー!この先、随分と不気味ですけどー!」
少し距離の空いたエリカさんに向けて、声を張り上げ、問いかける。
「もう慣れっ子ですー!ここら辺はモンスターの研究で何度も訪れましたからー!」
するとエリカさんも声を張り上げ、僕の問いに答える。
異世界の女の子は頼もしいなー。僕がエリカさんに関心を覚え、必死に歩いて居ると、近くの草むらの中からガサガサと何かが動く音がした。
僕は物音に驚き、草むらの近くに立ち止まる。
「なんだ……?」
違和感をおぼえ、草むらに近づこうとするが、瞬時、ここに来るまでのエリカさんとの会話を思い出す。
「この森は駆け出しの冒険者やそのパーティがよく訪れる場所で、危険も少ないですが、薬草のある森の奥へと続く道の途中にある草むらから稀に危険なモンスターが出てくる事があるので気をつけて進ましょう。」
もしかして、これが稀に出てくる危険なモンスター?!危機感を覚え、後ずさるが、物音が次第に大きくなり、何かが近づいて来ているのがわかる。困惑と恐怖で立ち尽くしていると、草むらの中から緑の生き物が飛び出してきて、僕へ体当たりをする。
「うわっ!」
勢いのある体当たりを食らった僕は地面へ尻もちを着く。
「アイタタ……ってなんだスライムか…」
危険なモンスターではなかった事に安堵する僕だったが、何も装備していない事に気づく。
僕があたふたとしている事に気づいたエリカさんは杖をこちらへ向ける。
「リメイド・ウォーター!」
エリカさんが呪文のような言葉を唱えると杖の先から水が勢いよく噴出される。
エリカが呪文を唱えた瞬間、杖の先から勢いよく水が噴き出し、スライムに直撃した。スライムはびしょ濡れになり、一瞬で小さくなって消えてしまった。
「大丈夫ですか?」とエリカは心配そうに駆け寄り、手を差し伸べた。「ごめんなさい、つい夢中になって進んでしまって……」
「全然大丈夫です……」
何とか危機を乗り越えた僕はエリカの手を借り、起き上がる。エリカさんは申し訳なさそうな表情を浮かべ、ズボンに着いた砂埃を払ってくれた。
「エリカさん、あれって」
エリカさんが砂埃を払ってくれた後、スライムが撃破されたところに何かが落ちている事に気がつく。
「あぁ、先程のスライムのドロップアイテムですね。今後、なにかの役に立つかもしれないので、調達しておきましょう。」
「なら、僕、取ってきます!」
そう言って、小走りでドロップアイテムの元へと向かい、アイテムを手に取る。
「エリカさん、このアイテムは……」
エリカさんにドロップアイテムの詳細を聞こうとすると、手に取ったアイテムがいきなり光へと包まれる。あまりの眩しさに僕は目を瞑る。少しして、光が収まり、目を開けると僕の手にあったドロップアイテムはスライムのクレストのような模様が描かれた緑の水晶玉のようなものへと変化していた…。
「え?あれ?!」
エリカさんは驚いた表情で目を見開き、手に持つ緑の水晶玉をじっと見つめた。「もしかして、これが瑛人さんの職業【英雄】のスキルなのでしょうか……?」
「スキル…?」
「あぁ、この世界では職業ごとにスキルが設定されています。スキルは職業や人によって違いますが、例えばさっきの私の魔法もスキルのひとつです。」
「これが僕のスキル……」
エリカさんからの説明を受け、僕は手元の水晶玉をじっと見つめた__。
「まずはひとつ、瑛人さんのスキルについて知れたと言う事で!先に進みましょうか!」
「そうですね、日も暮れて来ましたし……」
「ちゃっちゃと終わらせちゃいましょう!」
「はい!」
互いに意気込み、先へと進もうとした時、エリカさんがなにかを思い出したかのように言葉を零す。
「あっ、そうでした!」
「エリカさん…?」
突如、エリカさんの口から零れた呟きに戸惑っているといきなりエリカさんに手を握られる。
「エリカさん?!…///」
「さっきみたいに瑛人さんに危険が及んではいけないので…はぐれないようにしとかないとですね…♡」
エリカさんの小悪魔的な笑みにドキドキしながらも手を繋いだまま、僕とエリカさんは奥へと進んだ__。
エリカさんは少し照れくさそうに笑みを浮かべながら、僕の手をしっかりと握りしめた。森の奥へ進むにつれ、僕もエリカさんも徐々にある違和感を感じ始める。そう、異様に気温が下がってきている。さっきまでは暖かった森が奥へ進むに連れて、真冬のような気温へと変化している。
「なんだか、寒いですね……」
異様な寒さに震えながらエリカさんへ話しかける。
「変ですね。この森は特に日当たりがよくて、年中冷えることは滅多にないのですが……」
繋いだエリカさんの手からも震えを感じる。もしかしてこの異様な寒さの原因は……
「きゃっ!」
「エリカさん!」
僕が考え込んでいると、エリカさんは足を滑らせ、体のバランスを崩す。手を繋いでいたため転びそうなったエリカさんをすぐに支えられた。
「大丈夫ですか?」
即座にエリカさんの腰に手を回し、受け止める。
「は、はい…///」
僕の咄嗟の行動にエリカさんは頬を赤く染め、目を逸らす。かわいい……じゃなくて!
「やっぱり変ですよね。」
「ですね……やはり引き返した方が……」
そう言って、立ち去ろうとした瞬間、狼の遠吠えのような鳴き声が森中に響き渡る。
「ワォォォォォン!!!」
「うるさっ!」
咄嗟の大きな鳴き声に思わず耳を塞ぐ。エリカさんの方に視線を送ると、エリカさんはこれまでないほど、動揺している様だった……
「エリカさん…?」
「逃げましょう!」
「え?」
エリカさんは僕の手を掴み、走り出す。
「エリカさんっ!」
声をかけるもエリカさんは聞く耳を持たずに、無我夢中で走り続ける。
エリカさんは必死の形相で森の中を駆け抜けたが、いきなり立ち止まる。
「はぁ…はぁ…エリカさん…急にどうしたんですか……」
僕が息切れ座り込むと、エリカさんは僕に背を向け、杖を構える。
「ごめんなさい瑛人さん。巻き込んでしまって……ですが、必ずお守りします。」
「えっ?」
エリカさんが僕にそう宣言した後、森の中に激しい揺れが起こる……。
「なに?!地震?!」
「いいえ、これは稀に現れる危険なモンスター」
そう話すエリカさんの声はいつにもなく真剣だった。
防戦一方の僕たちの前に、氷を纏った狼男のようなモンスターが姿を現す。
「あれがモンスター……?」
「フロストウルフ……氷河期エリアに存在する氷を纏った特色な生態をした狼。ですが、何らかの影響で暴走している様です。」
「暴走…?」
「ワォォォォォン!」
フロストウルフは先程と同じ、とても大きく荒々しい遠吠えを上げた。エリカさんも対抗しようと、呪文を唱えようとしたが、足と腕をフロストウルフの遠吠えから発せられた冷気で凍らされてしまう。
「エリカさんっ!」
不安と恐怖が混じり、震えた声でエリカさんを呼ぶと、フロストウルフは僕に視線を向け、僕に襲いかかってくる。立ち尽くしていた僕はフロストウルフに殴られ、その強烈な勢いで吹っ飛ばされる。
「ぐはッ!」
感じた事のない痛みを感じながら地面へと転がる。
「瑛人さんっ!」
朦朧とする意識の中、震えた声でエリカさんが僕の名前を呼ぶ声が聞こえた…。
エリカさんは必死に氷を溶かそうと呪文を唱えたが、冷気で凍った足と腕が思うように動かない。エリカさんの顔には焦りの色が浮かんでいた。
エリカさんの抵抗も虚しく、フロストウルフが僕に再び襲いかかろうとしたその時、この世界へ来る時に辿っていた微かな記憶が思い返される__。
「ねぇ!お父さん、俺もあんなヒーローになれるかな!」
「瑛人ならなれるさ!いいか、瑛人。大切な人を守れる男になれ。そうすればお前も必ず誰かのヒーローになれる。」
「うん!俺、大切な人を守れるヒーローになる!」
「お父さん……」
思い出した__。誕生日に一緒に行ったヒーローショーでの会話。
「そうだな……。まだ死ねない。大切な人を も守れてないしな!」
ボロボロな体を起き上がらせ、そう叫ぶ。すると激しい光が僕を包む。
フロストウルフは突如放たれた光に圧倒され、吹き飛ばされる。光が集約した僕の右腕には腕時計のようなブレスレットが装着されていた。
「なんだ……これ」
ブレスレットに導かれるように先程手にした緑の水晶玉が光り輝く。
「これをはめろって事か…?」
思うがままブレスレットに水晶玉をセットする
【モンスターエッセンス!】
水晶玉をセットすると、いきなりブレスレットが喋り出す……
「おぉ、!なんかテンション上がるなぁ!」
感じたことのある興奮に胸を踊らせていたら、吹き飛ばさたフロストウルフが怒りを露わにし、今度は雄叫びを上げる。力強い雄叫びと共に発せられた強風がブレスレットにはめられた水晶玉を回転させる。するとブレスレットから音声が流れ初め、水晶玉から発せられたスライムのような液体と青い光が僕の体を包み込み僕の姿が徐々に変化していく。数秒もしない内に、光が消え、不思議な光に包まれた僕の姿が現れになる。
【スライム!】
身体の変化と共にブレスレットが水晶玉に込められたモンスターの名前を読み上げる。
「え、瑛人さん…!?」
エリカさんは酷く驚いた様子だった。僕も自分の強烈な身体の変化に驚きを覚えながらもエリカさんへと駆け寄った。
「エリカさん!大丈夫ですか?今助けます!」
そう言って、僕はもう一度水晶玉を回転させる。
【スライムエナジー!】
ブレスレットが声を上げ、僕の右足ににスライムのようなエネルギーが集約する。
「はぁっ!」
右足を上げ、勢いよく回し蹴りをすると、エネルギーから発せられた衝撃波により、エリカさんの腕と足を凍らせていた氷は一気に砕け散る。
「瑛人さん……一体…」
「僕もよく分からないんですけど……とにかく隠れてて」
「はい…」
エリカさんに避難を促した僕はフロストウルフの方へと向かう。怒り狂ったフロストウルフは勢いよく飛び跳ね、僕に殴りかかってくる。フロストウルフの強靭な拳を左手で受け止め、右手にスライムのエネルギーを纏い、今度は僕がフロストウルフに殴りを入れる。強大な力のこもったパンチを受けたフロストウルフは衝撃波と共に後ずさる。
「すごい力だ……」
身体から発せられるパワーは強烈で、まるで別の存在になったかのようだった。
後ずさったフロストウルフは怯むことなく、荒れ狂うように僕の方へと向かってくる。僕は軽快に飛び跳ね、フロストウルフの強烈な一撃を交わしつつ、水晶玉を一気に二回回転させる。
【スライムリキッド!】
ブレスレットが声を張り上げると、僕の身体は緑の液体状へと変化する。ドロドロとフロストウルフの周りを動き回り、身体に纏わりつき拘束するその様子はまさにスライムそのものだった…。
フロストウルフは突然の変化に戸惑いを見せ、必死に僕を振りほどこうとするが、スライム状の僕はその動きに柔軟に対応し、ますます固く絡みついていく。そして僕はフロストウルフのエネルギーを吸い取り、元の人型の姿へともどった。エネルギーを奪われたフロストウルフはバランスを崩し、倒れ込んだ。
「瑛人さん、今です!私の魔法を付与するのでその力を使って彼を解放してあげてください!」
「そんなことできるんですか?!」
「私も立派な魔法使いですから…!」
エリカさんはそう誇らしげに語り、杖を掲げて呪文を唱える。
「バースト・フレイム!」
杖から放たれた炎が僕のアーマーに纏わりつくスライムに吸収され、熱風が巻き起こり、水晶玉が一気に勢いよく回転する。
【エレメントチャーーーーージ!】
ブレスレットがかなりのハイテンションで叫び、僕の全身は炎に包まれる。僕がフロストウルフ目掛けて構えると、フロストウルフの苦しむような鳴き声が聞こえる。
「そうだよな。お前も本当はこんなことしたくないんだよな……待ってろ。今助ける。」
フロストウルフにそう語り掛け、高らかに飛び上がり、月夜の満月をバックに僕は炎の竜巻に身を包み、フロストウルフを貫く__。
炎の竜巻がフロストウルフを包み込んだ瞬間、フロストウルフは悲痛な叫びをあげた。その叫びを聞いた瞬間、僕の心は締め付けられるような不安に駆られた。しかし、すぐにその不安は消え去った。フロストウルフの体から氷が溶け出し、元の可愛らしい姿へと変化した。
僕は安堵し、一息つく。
「ふぃー……」
ブレスレットから水晶玉を取り出すと、光がブレスレットへと吸収され、僕の姿も元に戻った。
僕の戦いを見届けたエリカさんは目を輝かせ、嬉しそうに僕へと駆け寄る。
「やりましたね!」
「はい……あっ、」
僕はエリカさんと少しの会話を交わした後、すぐにフロストウルフへと駆け寄る。
「ごめんな。氷、溶かしちゃったな。」
フロストウルフを撫でながら謝罪の言葉を呟く。
「心配ありません。フロストウルフは夏になると一度全身の氷を溶かし、冬に向けてまた新たな氷を生成するので。」
「そうなんですね……」
僕が安心して、座り込むとフロストウルフが僕に擦り寄ってくる。
「ふふ、どうした?」
甘えるように擦り寄ってくるフロストウルフを撫でていると、それを見たエリカさんがニヤケながら
「あの…♡私の事もなでなでしてくれませんか…♡」と頭を差し出す。
「な、なんですか急に」
「い、いいですから…♡」
「僕は構いませんけど……」
困惑を覚えながらもエリカさんの頭を撫でる。
「うへへ〜…///」
エリカさんは変わった笑い方をし、満足そうに笑った。
「わん!わん!」
フロストウルフは何かを僕に伝えるように吠えた。
「んー?どうした?」
フロストウルフの方を向くと、ドロップアイテムを口に咥えていた。
「これって…」
フロストウルフが咥えたドロップアイテムを手に取ると、アイテムが光を放ち、狼のクレストが描かれた水色の水晶玉へと変化した。
「また変わった…」
新たに生成された水晶玉を眺めている僕にエリカさんは話しかける。
「そろそろこの子を見送りましょうか」
「見送るって…送ってあげなくていいんですか?」
「この世界の生き物は皆、賢いので自分で自分の故郷へと帰れます。」
「そうなんですね……」
「元気でな」
僕はフロストウルフを撫で、エリカさんと共に見送った__。
「そういえば、もう一度瑛人さんのステータスを確認してもいいですか?」
「大丈夫ですよ……ってやっぱり手、繋がなきゃいけないんですか……?」
「使用ですので…♡」
エリカさんは嬉しそうに僕の手を握り、映し出されたステータスに目を通す。
「やっぱり、英雄のスキルはドロップアイテムを変化させる能力ではなく【変身】でしたね。」
「変身…?」
「先程のようにモンスターの力を纏い、不思議な戦士へと姿を変える能力の事でしょう」
「あれが変身……」
「戦士の名前も定められているようですよ」
「めっちゃ詳しく載ってますね。ステータス」
「まぁ、自身のスペックを現すものですから…」
エリカさんは苦笑いし、スペックに記載されている戦士の名前を読み上げる。
「【アビスブレイカー】。モンスターの力を使役し、全ての生命を守護する戦士。だそうです。」
「全ての生命を守護する……」
凶暴化したフロストウルフとの戦いでわかった。僕は襲いかかってきた、フロストウルフを倒そうとしていた。きっとあの悲痛な叫びを聞かなければ命を奪ってしまっていたかもしれない。倒すんじゃない。守るんだ……。そうすればきっとあの時、憧れたヒーローになれる……。そんな気がした__。
アビスブレイカー、楽しんで頂けましたでしょうか?感想お待ちしております