「太陽と子鹿」
初めて目を開けた時、その視界には赤い点があった。
私は立つことすらままならない。でも、赤い点は私を見守った。
時間は掛かったが立つことができた。私は気づいた。周りも、私も水浸しだと。私はその中から何かを口に入れた。そして、夢中でそれを飲み込んだ。そうしなければならない気がしたから。
ふとした時、赤い点は見えなくなった。私は途端に心細くなり、たどたどしい歩みで辺りを駆けた。
しかし、その赤い点を見つけることは出来なかった。
不安の中でうなだれていた時、別の赤い点が遠くから顔を出した。それは明るく、暖かかった。辺りを見回すとそこには赤色の足跡があった。
私は悟った。母はもう居ないと。
そして、私は慄いた。あの時あった"2つ"の赤い点を。