五十日目の日
ひとみは、電話に出なかった。店長が電話をしたときには、もう首をくくっていたから出られない。
忘年会から帰ってきた父親を首吊り死体となった姿で出迎えた。
家の扉のカギがかかっていなくて、店長は「あれ?」と思ったそうな。開ける前に一度閉めてしまった。なんで開けていたのかを本人に聞いたら「誰かが助けに来てくれるかもしれないだろ」と憮然とした表情で答えられる。
そううまくはいかなくて、死んでしまった。
知っていたら、助けに行けたかもしれない。
*
ひとみがコンビニに現れたのは、忘年会の日からきっかり五十日後。四十九日を終えた翌日。ウチは『見える』から、すぐに気付く。何もないところに話しかけているやばいヤツと思われないよう、他の人たちに気付かれないように話しかけた。
「ひとみさん」
「!?」
あのときと同じぐらい驚かれた。そらそうよ。幽霊、自分の姿が生きている人間からは見えなくなっていると知っているから、ウチみたいなのが話しかけるとびっくりされてしまう。
「あとで話をしよう」
生前の姿と同じく、二つ結びにオレンジ色の瞳。左目に眼帯を付けているのは「ひとみが家で料理しようとして、油がはねてケガをした」と店長が話していたから、そうなのだろう。小学校の卒業式の時もつけていたので、そそっかしいんやろな。
白いワンピースは、店長が「気に入っているんだか、土日によく着ている。その服しか持っていないみたいに思われるからやめてほしい」とぼやいていた。
ウチの知っている生前の姿と違うのは、首に縄の痕があること。これは、死ぬときについたものだ。飛び降りなら頭部が砕けていたり、溺れ死んだらぶよぶよになっていたりする。ただし、本人のメンタルともリンクしていて、未練がなくなればなくなるほど、まだキズのないキレイな姿に戻っていく。――最近の、ウチの隣で映画を観ているひとみは、意識して首筋を見なければ痕がわからないぐらい。
「はい」
ウチとやりとりできて、ひとみは安堵の表情を浮かべている。
年相応にかわいらしいなと思った。……ロリコンやないで。相手は中一の女子やろ。ウチのストライクゾーンには入らんよ。
ウチには幽霊が見えて、話が出来るぐらいの能力しかないから、父親や『神切隊』の人たちと比べるとしょぼいが、こうして、さみしい幽霊と仲良くなれるのはいいことだと思う。
*
「どうして死のうと思ったんかは、教えてもらえへんの?」
「そのうちね」