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眠れぬ獅子  作者: 秋乃晃
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バイトの休みの日

 月に一度の通院を終えて、処方箋を薬局に出す。診察は一時間待ちだった。先生と話している時間は五分もない。ウチはいつもの睡眠薬をもらいたいだけやし、他人に話してどうにかなるような問題を抱えているわけでもあらへんし。変わったところはないか、はい、では一ヶ月後、でおしまい。イマドキのゲームのほうがもっとマシなやりとりするんとちゃいます?

 まあええわ。

 薬局は他の病院の患者も処方箋を出しにくるぶん、さらに混雑しているから、ウチは「明日取りに来ます」と受付に伝えた。ごほんごほんとせきをしているような連中と同じ空間にいたら、風邪をもらいそうで嫌やわ。風邪を引いていられるほど暇やないもん。明日、バイトが終わってから取りに来ればいい。バイト先とは真逆やけども。

理緒(りお)ちー、おかえりー」

 家に帰れば、女の子が出迎えてくれる。はじめましての時にはウチを『宮下さん』と呼び、この姿になってからは『理緒』と呼んでいたが、ウチが()()()()から『理緒ち』と呼ばれているのを見てから『理緒ち』と呼ぶようになった。チャームポイントはオレンジ色の瞳だけども、左目には眼帯をつけている。肩までの長さの黒髪を二つ結びにし、白いワンピースをお召しの、中学一年生。

「ただいま」

 この家の他の住民の靴がないのを確認してから、ウチは返事をする。でないと、ウチは『何もないところに話しかける変なおにいさん』になってしまう。

「病院、混んでた?」

「いいや?」

「結構かかるな。ひとりだと話し相手がいなくてつまらないし、こんなに待たされるのならついていけばよかった」

「他の人がおるところじゃ、ウチはしゃべらへんよ」

「精神科なんて、見えない人に話しかけているようなやばいヤツしかいないじゃん。理緒ちが私と話していても()()()()だろ」

「そういう偏見はよくないで」

 この子は、ウチのバイト先の店長の娘さん。名前は参宮(さんぐう)妃十三(ひとみ)。ウチがいわゆる『見える』人で、しかもこうやっておしゃべりできるからってんで、ここ、宮下家に居座っている幽霊。

 ウチが幽霊たちから聞いた話によれば、死んだ日から起算して四十九日までにあちら側に行くのを決意した死人は、死後の国に行くらしい。決めきれずにぐずぐずしていると、こちら側に幽霊として残される。なんだかんだで、九割ぐらいはあちら側に行く。残りの一割には、未練がある。

 とはいえ、幽霊になってしまってはウチみたいな『見える』人にしか干渉できない。基本的には。たまに悪さをする幽霊がいるけれど、そういうヤツらは『神切隊(かみきりたい)』という霊能者を集めた団体が除霊しにくる。ひとみに、今のところその、悪くなる兆候は見られない。

「で、今日は何観るの?」

 幽霊であるひとみには現世にやり残したことがあるはずなんやけども、そのことに関してはまだ話してくれへん。バイト先の店長の娘と、その部下でただのバイトくんなウチという関係性では言いにくいことなんやろ。

 ウチとしては、店長を呪い殺されたら困る。ただのバイトくんやけども、ウチにも事情があって、他のバイトを探すのも大変なんよ。ここは実家やのに例のいもうとから生活費を徴収されるから、バイトはせんとあかん。睡眠薬がないとすやすやと眠れないから、薬代も稼がないといかん。いまのバイトがいちばん融通がきく。ちゃんと週二日、休ませてもらえてるしな。次のシフトのやつが遅刻してきても、一時間ぐらいの残業で帰らせてもらえる。

「サメでも観よか」

 家の外に出て、ひとみと話しているところを知り合いに見られたら気まずい。幽霊であるひとみの姿は『見える』人にしか見えない。家の中の、ウチの部屋は安全地帯だ。ウチの部屋にいもうとは入ってこない。

「サメ……?」

 ひとみを家に連れ帰ってきて、気まぐれに映画を観ていたら、ことあるごとに映画鑑賞を催促されるようになった。生前あまり映画を観るほうではなかったらしい。いうてウチも、趣味は映画鑑賞と胸張って言えるほど観とらんが。

「なんや、知らんのか?」

「サメはわかるよ」

「サメが出てくる映画、結構たくさんあるんやで」

「聞いたことあるの『ジョーズ』ぐらい」

「なら、この『シャークネード』っていうのを観てみようか」

「うん」


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