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黒い男

 「で、タカハシ君は、どうして警察官になりたいと思ったんですか?」

 朝10時からこれである。アダチは5年で巡査部長になった。今日は人がいないからと言う理由で警察署管内の警察学校に来ている。俗に言う採用試験の面接官だ。実はいろんなところで暇そうなまあまあな階級の人を集めて一斉に行っている・・・などとは笑ってでも言えない。警察の威信もある。

「はい、私は大学を出てから何か人の役に立つと言う事が前提の仕事に就きたいと思っており・・・」

 はぁ、ありきたりな理由・・・まあ俺の時もそうだったけどな。などとアダチは考えながらタカハシにちょっとツッこんでみた。

「人の役に立てる仕事は他にもありますよね?自衛官や消防官、役所や、民間なら配達員や介護などもあると思うのですが、なぜ警察官なのでしょうか?」

「それは・・・」

 アダチは"ヤッた!"と思った。ここまで詰めると大抵はどちらかのパターンである。何も言えなくなって謝るか、巻き返してくるかのどちらか。巻き返したら上等。まぁ何も言えなくなったからといって採用しないとう訳では無い。体力なども測定するのでそちらの成績も重要なのだ。

 しかしだ。答えは予想と違った。

「では、警察官以外がどのように社会を作っているか、ご存知ですか?」

 アダチは驚いてしまって「はぁ」と間抜けな声を出してしまった。やばいと思ったので、少し話をしてみようと思った。

「社会って・・・そりゃさ、いろんな仕事があって、いろんな人達がいる訳だろう?モノを作って、運んで、売って、これをサービスに置き換える事も出来るよね?そう言う人達の一人一人の動きが、社会の誰かのためになっているんじゃないのかな?逆にどうしてそう言う質問を私にしたんですか?」

 アダチは自分で冷静にとは思っていたが少しイラっとしたが、次のタカハシの言葉で寒くなってしまった。

「その作って運んで売ってのスキマにしか居られない人が世の中の大多数だからです。私はそんな事も思えない人間にはなりたくないので警察官になろうと決心したんです。本気で国民の為になりたいからです」

「・・・あ、ああ、そうですか」

 アダチは返事が出来なかったので次の質問をすることにした。





 後日、アダチはタカハシの評価をどうしようか迷っていた。すごく何を考えているかわからないやつ。経歴は大卒新卒の普通。でも何考えてるかわからないやつ・・・・と繰り返していたら携帯が鳴った。

 「タシロです。久しぶり」

 「タシロさん!久しぶりすね、どうかしたんですか?」

 「いや実は近くに来たんだけどさ、飲みに行かない?って思って。ごめんね当日でさ」

 「あーいや、全然大丈夫ですよ!この後行きます!」


 アダチは電車で30分ほどの場所へ向かった。前の上司のタシロは異動して警部になった。今じゃ署の課長で忙しい担当を超えてしまった。つまり決裁権のある人間になったのだ。

 「おーちょっと太ったんじゃないの?鍛えてる??笑」

 「筋肉すよ笑、タシロ班長・・・いやもう課長すね。ご無沙汰してました」

 2人は激安居酒屋でハイボールだのレモンサワーを二、三杯のみあれからの話をした後に、切り出してきた。

 「なあ、アダチ、昔組んでた時によ、脱税と古物商と、まぁまぁ他にも色々あった奴覚えてるか?奥さん死んじまった男よ」


「あ」

 アダチは記憶が一瞬で当時の状況でいっぱいになった。全て思い出せる。

 その男は古物営業法、侮辱罪、脱税で逮捕となった挙げ句、奥さんがそれに悲しんで自殺してしまい、送検後は結局懲役2年執行猶予5年とまぁ、初犯の人あるあるの様な刑罰となった。上告しなかったのでその後のことは知らない。しかしなぜ今その話なんだ?不思議なことに小さい罪が複数あっての逮捕だったので記憶にある。

「そいつ、ササイな。死んだよ。先週」

「え、どうして?」

「執行猶予ついた後家やら車やら無線やらを売り払ってこっちに来ていたようだ。ほら、電車も多いし病院もスーパーも揃っているだろ?その後3年くらい一人暮らしだったようなんだが、先週変死体で見つかった。」

 タシロがこそこそ続いて話す。

「いや結局よ、あの時あいつは商売みたいなよくわからないことをしていただろ?あの後の事この前調べていたんだがトラブルも結構あったようなんだ。押収したパソコンからガヌーオークションのID見つけて調べてみたんだが、悪い評価も多い。多いのはまだ良い。ササイ自身もつけまくっていた。」

「え?それってもしかして・・・」

「俺は殺しも可能性あると思っているよ。でも証拠が無いんだ。餓死といえば餓死、窒息といえば窒息、みたいな状態で外に捨てられて見つかった。自然死なのか殺しだったのか微妙なわからない線だが、全体的に自然死で処理しそうなかんじだな。ササイはあの後もアマチュア無線の簡単な修理を行っていた。つまり、名刺はばら撒く、悪い評価がつく、でもばら撒いてるから自分の事曝け出してる、いつでも会いに行けるてな具合だ。アイドルだったらよかったのにな」

「ぷっ笑」

 アダチが笑った。

「なあ、アダチ、あんなのでも必死こいて生きるのに何とかして生きて、若干70歳で野垂れ死んでしまってよ、なんだか悲しい世の中じゃねえか?インターネットとかスマートフォンとかで簡単に色んな人と繋がれるようになったが、そのせいでササイは死んだんじゃないか、もう少し言わせてもらえれば、ササイはインターネットの扱い方舐めててこうなったんじゃ無いかって思っているんだ。こう言うものって平等にみんなが便利に使えるようになるために生まれてきたと思っていたんだがそうじゃ無いんだなあ」

「確かにそうですね・・・」アダチが感心した。

「リアルな人と話をして、相手を知って、それで人間って生きていくんだよな」


 アダチはその1時間後にタシロと再会を誓って帰りの電車に乗った。日中のもやもやは消えていた。

「タカハシ君は合格だな。あう言うやつが未来を考えていけるものかもしれない」



後日。別場所。


「撮れたか?」

「イケましたよ。いまLiDARのデータ送ります。送りました」

「でかしたわ。音声も混み?」

「はい。音も入ってます」

「さすがよ。少し増額して地下コイン送っておくから。それじゃ」

「あ、あの」

「何」

「Bさんって、これで一体何やっているんですか?」

「タカハシ君が絶対考えつかないこと。じゃまたよろしく」



 タカハシは電話を切った。もし警察官になったらこいつを調べ尽くしたいと思った。







 


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