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第九話 裏方の仕事

 今朝も快晴である。

山荘の居間では、ヤストキの授業が始まっていた。

「14-9はいくつかな?」ヤストキは黒板に”14-9=”と書いた。

「4から9は引けないからどうしよう」カーシアがいった。

今日は算術の授業である。

ミルティアとヴィオレータはテーブルにウズラ豆を14個並べて計算した。 

「5!」三人の女児は声をそろえていった。

「はい、そのとおり。——実は、ウズラ豆を使わなくてもできるやり方がある」

「4から9は引けないから、14を4と10に分けて、10から9を引く。1と4で……頭に思い浮かべてみて」ヤストキは繰り下がりのある減加法を説明した。

「あ、5になる」ミルティアとヴィオレータがいった。カーシアは指折りで計算していたがやがて納得した。

 その時、玄関の呼びかねが鳴った。


「授業中、失礼いたす」

 客人は執事のエールリッヒだった。いつものローブ姿である。

「どうぞおかまいなく」

「実は近々、フラットヒル領内で弓技きゅうぎ大会がありまして」

球技きゅうぎ大会……」球技はあまり得意ではないんだけどな、とヤストキは思った。

「領内の兵士を集めて、弓の技を競う行事にございます」

「そっちでしたか。僕としては、弓は習いたてなので——」

ミルティアがお茶をいれて持ってきた。ティーカップを二つ置く。

「おお、気が利くのう」

「フラットヒル家は文官が足りぬゆえ、ヤストキ殿には弓技きゅうぎ大会の裏方を手伝って頂きたいのです」 

ヴィオレータとカーシアは階段に腰掛けて様子を眺めている。

「なるほど、うけたまわりました」ヤストキは快諾した。選手として出てくれ、と言われても他人に見せるほどの腕前でもないし、行事の手配ならできそうだ。

「というわけで、今からお屋敷に行ってくるから」

「わたしもお手伝いするー」ミルティアがいう。 

「あたしも私もー」カーシアとヴィオレータが続けていった。

「おお、子供らにも忠義の心が芽生えたのかの」エールリッヒは笑みを浮かべ、ハーブティーを飲んだ。


 馬車で領主の屋敷に着いた。

ヤストキは執務室でエールリッヒから式次第の記録を見せてもらい、行事の段取りについて大まかな説明は受けた。

そして大会予算の計算や、近隣の領主や貴族など来賓への礼状の代筆を手伝ったのであった。

弓技きゅうぎ大会は村人たちが観客としてやって来て、その子供達にお菓子を配るので、屋敷の蔵から小麦を供出するという。

「昨年は何人くらい子供が来たんですか?」 

「近くの村からあわせて150人程度かと」エールリッヒはいう。

「では、蔵の役人に伝えてきます」ヤストキは石盤にメモし、外の蔵に向かった。

蔵は石作りで高床式になっていて、ネズミ返しも付いている。それが数棟あった。

付近には何匹か猫もいた。ネズミ除けのために床下が猫のすみかになっているようだ。蔵の穀物を守る合理的な仕組みになっている。

 女児三人は虎縞の猫をなでていた。

「元気だった?」とミルティア。

「ネズミ取りがんばってますの?」

慣れた様子を見ると、どうやら知り合いの猫らしい。


「お役目ご苦労です、弓技きゅうぎ大会で150人分くらいの焼き菓子を作るので、小麦をいてもらえますか」ヤストキは蔵係の役人を見つけ声をかけた。

「これはヤストキ殿、心得ました」中年の役人が答えた。

蔵の近くには小川が流れていて、水車小屋もある。

水車小屋の中にはもみ受けのホッパーがあり、小麦をく石臼が動いていた。

「へえ、便利なものですね」

「何か祭りごとがあると、大忙しです。ビスケットもたくさん作りますし」

熱帯地域でも無いのにどうやって菓子用の砂糖を作ってるんだろう?という疑問がわいた。

「ビスケットみたいなお菓子には砂糖がつきものですが、この地方では砂糖は何から作ってるんですか」

砂糖大根ビートです。花は終わりかけですが」役人は畑を指さした。

畑には菜の花が咲いていて、莢には種が出来かかっていた。それならサトウキビと違って高原地帯でも育てられる。 

「なるほど、砂糖大根ビートか。これから種まきをするんですね」 


 次は物置に向かう。

兵士数名が 、わらで等身大の人形を作っていた。

バモス隊長が監督している。

「この藁人形が的でして。矢を10本打って、その点数を競う。頭と心臓のあたりが高得点ってなわけでさぁ」

「僕も作ってみよう」ヤストキも藁人形作りを手伝うことにした。

藁を束ね、紐でくくる。

見よう見まねでやってみたがそれなりに人型になった。

「ヤストキ殿は文官なのに器用ですなぁ」バモス隊長が感心していう。

「もの作りが趣味なので」

 

 藁人形を数体作った後、ヤストキは会場となる広場に向かった。

サッカー場ほど広さで、芝生のある土手で囲ってある感じである。

「なんだか今日は、運動会の準備みたいだな……」 

 ふと、ヤストキは小学校の運動会を思い出していた。

ミルティアとヴィオレータとカーシアが追いかけっこを始めたので、その姿が体操着姿で徒競走している幻覚に見えて驚いたのだった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


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