第八話 遊びは楽しく、安全に
遠足の翌日。
ヤストキは午前の授業を終え、庭に出た。
今日も快晴である。薪割りをしようか、昨日釣った鱒の切り身を燻製にするのが先か、それとも弓の練習でもするか……と迷っていた。
子供達は先に外に出て、遊んでいる。
「ヤストキ先生あのね、見て見て、すごいこと思いついたの」ブランコに乗るミルティアがいった。
「はい」
ミルティアはブランコを思い切り漕いで、座った姿勢から飛んで着地した。
「ね?すごいでしょ?」
「おお、すごい」どこの世界も、子供は新しい遊び方を発見をするのだな……とヤストキは思った。
「私だってできますわよ」次にブランコに乗ったヴィオレータがいう。同じように飛ぶが、よろけて着地した。
「あたしも」その次にブランコに乗ったカーシアも飛んだ。さっきミルティアが飛んだ同じ場所にふわりと着地した。
結局は飛距離を競う事になった。
「もっと飛べるんだから」ミルティアはブランコを更に思い切り漕いで、飛ぶ。
遠く飛んだものの、前のめりで手をついて着地した。
「大丈夫?」ヤストキはミルティアに駆け寄った。
「大丈夫だよ、どこもぶつけてないし」
ヤストキははっとした。ヤストキ自身も子供の頃、ブランコから飛んでケガをしたのを思い出した。
「うーん、やっぱりブランコで飛ぶのは危ないからやめよう」
「えー」三人の女児は声をそろえていう。
「僕も昔、ブランコから飛んで着地に失敗した」
「それでどうなったの?」
「顔と肘をぶつけてケガして、痛くて泣いた思い出がある」
「そうなんだ……」
「じゃあ、立ってこぐのは?」カーシアがブランコの席に立っていう。
「それもダメ」
「というわけで、正しい遊び方しないと大ケガするので、きまりを守ってあそんでね」
「はーい」女児たちはまた遊びに戻った。
——こっちの世界にまで来て、あんまり口うるさく言いたくないけど。
と、ヤストキは思った。そうかと言って、現代日本でたまに見かける遊具の無い公園のように、危険だからと鉄棒やブランコなどを撤去してしまったら、遊び場が無くなって気の毒なのだが。ちょっとずつのリスクを経験して、より大きな危険に対処できるようになるのが人間の成長につながる……なんて大げさか。と、教育学のレポートのようなことを考えつつ、
ヤストキは物置に向かった。
「何か遊びに使えるものは……」と物置を見渡す。
縄の束が引っかかってるのを見つけたので、庭に戻った。
「ちょっとこれを持って」ヤストキはブランコの順番待ちをしてるヴィオレータに、縄の端を持たせた。
ヤストキは数メートル離れてもう片方の端を持つ。
「僕と同じように手を動かしてみて」
「はいですの」
そして、縄を左右に振ったり、回したりした。
「ミルティア、縄を踏まないように飛び跳ねてごらん」
「うん」ミルティアは揺れる縄に足を入れた。そして、縄をかわすようにジャンプする。
「あっ、これ面白いかも」ミルティアは何度も飛び跳ねた。
縄が回り始めると、足に引っかかった。
「縄を踏んだり足や頭に引っかかったらおしまい。次はヴィオレータが飛んでみて」
ミルティアが縄の端を持ち、左右に振り始める。
ヴィオレータは緊張気味に立っていた。縄が足をかすめる瞬間に目をつぶってしまったのと、思い切りジャンプしたため、すぐ縄に引っかかってしまった。
「ヴィオレータ、軽く飛べばいいんだよ。仕方ないからもう一度」
「次は引っかからないですわ」縄が左右にスイングすると、ヴィオレータも軽やかに飛んで笑顔になった。
「あたしもやりたい~、まぜて」カーシアがブランコを止めてやってきた。
「ではカーシア、どうぞ」
縄が左右にスイングすると、カーシアは軽やかに飛び、回転が加わっても動じずに飛び続けた。
「いいぞ、飲み込みが早い」
「ヤストキ先生、これは何て言う遊びなの?」カーシアが飛び跳ねながらたずねた。
「"なわとび"というのさ」
その日の午前中、一同は"なわとび"を楽しんだのだった。
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