男爵家の宝物庫のパスワードは妻と息子の誕生日
俺は泥棒をしている.
親に捨てられ貧民街で育った俺に他の道はなかった。あの街の人間はみんな同じようなことをやっている。でも俺が狙うのはお金持ちの貴族や平民だけだ。
今回狙うのはある一代男爵家だ。その男は元平民だったが小さな店を持っていた。数年前まではそこら辺にある店の一つにすぎなかったが、他国からの布の輸入で大当たりした。気まぐれな第三王女の目に留まったからだ。それから取引先を増やし有名な店の一つになった。
彼の祖父が店を開き父が守ってきた小さな店を彼が大きくしたのだ。ちゃんと税金を納めそれに加えてたんまり寄付もしたので、その功績で一代男爵となった。金で爵位を買ったようなもんだ。
狙いを定めて下調べを始めると屋敷には宝物庫があり、そこに彼を金持ちにしたお宝が保管されているらしい。屋敷の裏にある蔵にもお宝が眠っているようだ。ただ宝物庫はパスワードがないと開かなくなっていると聞いた。
私は下働きとして屋敷に入り情報を集めた。
宝物庫は空き部屋の一つで、パスワードは妻と五歳の息子を愛する彼らしく二人の誕生日だった。私は呆れたが仕事はしやすい。
家族で知り合いのパーティへ出かけた隙に宝物庫に入る。
入ってすぐ目についたのは婚礼衣装だった。新郎用は一着だが新婦のドレスは三着あった。
壁には落書きが立派な額に入り何枚も飾ってある。額の下にある札を見ると息子が書いた絵のようだ。
棚に置いてあるものを確認すると、十年ほど前から最近にかけての舞台のパンフレットや美術展のカタログが置いてある。他にも小さい服や靴など多数ある。
宝物庫の中身は家族の思い出の品のようだ。こんなもん置くために一部屋潰してんのか。どう見ても 金目のものはない。
腹立たしく思いながら蔵へ行く。蔵は普通の鍵で宝物庫の中の机の引き出しに入っていた。
蔵の中も同じようなものだった。流行りを考えると彼の両親のものと思われる。そしてその奥にある 古臭いものはその両親のものだろう。
こんなもんのために蔵一つ使うのか。
蔵の鍵を宝物庫の机に返し使用人部屋へ戻る。
今回の仕事は金にならなかったので、これからのことを考える。
俺は使用人をやめ俺を知る人のいない離れた国に来た。そこで雇ってくれた小さい店で働き始める。まず店の掃除からだ。
俺は蔵の中身を手に入れることは絶対にできない。でも宝物庫の宝を手にすることは可能かもしれない。俺の生き方次第で俺の宝物庫の中身は変わる。