13 リート、魔法をかけられる
魔物たちはきびきびと動き出した。オグマはハルアに向き直り、顔の火傷をそっとなぞった。傷はふさがり、痕は薄くなった。
「どうだ?」
「ずっと楽になったよ」
「火傷なら、こうして和らげてやれるんだが……」
ばっさりと斬られた傷やたんこぶを押さえて、呻く魔物がいる。ショックで震えが止まらない子どもがいる。宝石の一つ一つを点検して、欠けた石の欠片を見つけて深い溜息をつく魔物がいる。
「奴らの中で一人くらいは、捕虜として残しておいた方がよかったな」
そうオグマが呟いた時、小さな子どもの魔物が、マルマに伴われてやってきた。
「あたし、ちょっとだけ奴らの悪巧みをきいた」
彼女は、作業場の壷の中に隠れていたのだそうだ。
「皆を殺して、魔法の宝石を全部手に入れて、『若様』にあげるんだって」
「若様?」
「『鳥の王国』のリーダーかな」
レイラがあっと声を上げる。
「アミール・イラスじゃない?」
「彼は『若様』って柄ではないな」
「たしかに」
スニが怒った。
「私たちが人間の為に作っている宝石を独り占めしようだなんて、冗談じゃない!」
「その通りだ。その上、大地の子らに危害を加えるなど、卑怯千万」
オグマもうなる。
リートは、しばらく魔物たちとの会話を大人しく聞いていた。正直、「鳥の王国」とやらが何なのかも、アミール・イラスが誰なのかも分かっていない。だけど、やかましく質問したら困らせてしまうことだけは分かっていた。後で師匠に教えてもらえばいい。
不意に、オグマがリートの方を向いた。
「今から、地上への出入り口に見張りを立てにいこう」
「見張り、ですか?」
「ああ。ランプ持ってないか?」
魔物が、空のランプを5つほど貸してくれた。オグマはその全てに小さな明かりを入れた。
「これを置いてくるだけでいい。誰か、案内してくれないか?」
小さな女の子のミーミーが、案内役を買って出た。リートとレイラも、それぞれランプを持ち、オグマについていった。
レイラが、そっとオグマに尋ねた。
「これも、ガイールの企みなのかしら?」
「分からん。俺たちがあの家に行った頃に、ここが襲撃されたらしいが」
「ガイールって誰ですか?」
リートがそう聞くと、オグマは浮かない顔で肩をすくめた。
「お前を捕まえた魔法使いだよ。口ひげをはやしたのがいただろう?」
リートを脅した奴だ!
「あの人……」
リートがためらいながら口を開いた時、オグマは爆発で崩れた壁を真剣に調べていた。
レイラが優しく聞いた。
「あの人が、どうしたの? リート君」
「あの人、師匠を殺す気ですよ!」
オグマは振り向かなかった。壁を触りながら、ただ「勘違いだろう」とだけ言った。
「勘違いなんかじゃないです! あいつは、師匠を憎んでる。ぼくに、そう言ったんです!」
「リート君」
レイラが、リートの顔をじっとのぞきこんだ。
「大丈夫よ。ガイールはもう、オグマさんを殺したりはしない」
リートはかっとなってわめいた。
「どうして、そんなの分かるんです? ぼく、嘘なんかついてない!」
「落ち着いて。大丈夫。もう大丈夫だから……」
レイラの琥珀色の目を見つめていると、頭の中がぽかぽかと暖かくなる。リートは二、三度まばたきして、うなずいた。確かに、姉さんの言うとおりだ。ガイールという魔法使いが何者であれ、そう恐れることはないのかもしれない。
オグマがこっちを向いていた。厳しい顔つきで、レイラを見下ろしている。しかし、リートに見られているのに気がつくと、その表情を和らげた。
「こっちだよ!」
ミーミーが3人を呼んだ。




