12 リート、ほっとする
魔物たちが、はっとして扉を睨む。一番扉の側にいたリートが、代表して薄く薄く開いた。
地下通路にたった一人で立っていたのは、オグマだった。リートはわっと叫んで、飛び降りた。そのままオグマに飛びつこうとしたけれど、2、3歩距離をとられてしまう。
「待て」
両手を広げ、オグマはリートを制止する。彼の肌からうっすらと煙が立ち昇っていることにリートは気がついた。
魔物やレイラも降りてきた。オグマはにっこり笑い、不安げな彼らに応えてみせた。
「安心しろ、もう出てきても大丈夫だ」
「あいつらは?」
オグマが意気揚々と答える。
「皆まとめて、地上に追い出した。脅かしてやったから、二度とここに降りてこようなどと思わないだろう」
オグマは、宝石の入った袋を魔物にわたした。
「盗まれた宝石だ。だが、全ては取り返せなかった。申し訳ない」
「十分だよ」
魔物が袋を開けると、緑や青、紫の宝石のまばゆい光があふれ出した。
「魔法は、また作り出すことができる。生きてさえいればね……」
「それより、あいつらの仲間はまだまだ地上で牙を研いでいるはずだ。そいつらも何とかしないと安心できないな」
オグマは、額にかかった短い白髪をかきあげた。髪の隙間から、灰や火の粉がぱらぱらと舞い降りた。
「……手を貸してくれる?」
「勿論」
オグマは宙を睨み、指の先に火を灯した。
「一人残らず、燃やし尽くしてやる」
頼りになる、とリートは安堵した。周りの魔物たちも、ほうと息を吐いた。だけどレイラだけは、不安そうにオグマを見つめていた。
「あいつらがいつ攻めてきてもいいように、備えておこう」
オグマの言葉に、ハルアとスニが同時にうなずいた。スニが指笛を吹くと、あちこちに隠れていた魔物たちが集まった。
「怪我をしていない者は、残った宝石や作業の道具を例の部屋へ運ぶんだ」
「ニーやノノたちの弔いは?」
誰かが尋ねた。スニはまだ、ニーの頭をしっかりと抱えたまま、答えた。
「それも、すぐにやろう。だけど、手当てや避難が優先だよ」
「また、人間が爆弾を持って襲ってきたらどうしよう?」
小さな女の子が、甲高い声で尋ねた。まだ、ほんの2、3歳にみえる。恐怖で目が大きくなっている。
スニの代わりにオグマが返事をした。優しい声だった。
「もう二度と、奴らの好きにはさせない。あなたたちの代わりに俺が戦う」
わたしも。レイラが、リートにだけ聞こえる声で呟いた。ぼくも、とリートは心の中だけで答えた。




