10 リート、友達と再会する
後に残されたのは3人、リートとスニ、ノールである。
ノールがそっとスニの側に来て、肩を抱いた。スニは動かなかった。今にも泣きだしそうなのをじっとこらえているようだった。
地下は先程とは打って変わって、静かだった。絶えずどこかで鳴り響いていた爆発音も、すっかり収まっていた。
「場所を移動しましょう」
ノールが囁いた。
「ここにいたら、危ないんじゃない?」
スニが無言でうなずく。リートは立ち上がろうとする彼女に手を貸した。弾みで、彼女が抱くニーの頭に指が触れた。ぞっとするほど冷たい。
リートの腕にすがってようやく立ち上がったスニだったが、負傷した脚の痛みに顔を歪めている。
見守っていたノールが、悔しそうに言った。
「わたしに、怪我を治す魔法が使えたら良かったのに」
「ぼくも……」
その時やっとスニが口を開いた。
「人が使う魔法には得手不得手があるよ」
「そうなの?」
「あ、ぼくも前に同じこと言われました。皆ができることが、ぼくにはできなくても別にいいんだって。師匠が言ってた」
スニはかすかに笑みを浮かべた。
「オグマはよく分かっているね」
「へへ」
ノールが、眉をひそめて虚空を睨む。
「オグマさん、今何をしているのかしら」
「あいつらを、ちぎっては投げしてるんじゃないですかね」
ノールの眉間の皺がますます深くなった。
「大丈夫ですよ、ノール姉さん! あいつらが何人いても、師匠にかなうはずがないんですから」
「あ……あのね、リート君、驚かないでね」
「はい?」
ノールはもごもごと口を動かしていたが、やがて少し赤らんだ顔でリートとスニに言った。
「わたし、ノールじゃないの」
「へ?」
リートはぽかんとした。スニも、少女をまじまじと見つめている。
「わたしの本当の名前はね……どうやら、レイラらしいの」
「?」
驚くどころか、言葉の意味もまだよく飲み込めていないリートとは対照的に、スニは苦々しい顔でうなずいた。
「ベガ家の次女だね」
「そうらしいの」
「ど、どういうことですか?」
「話せば長くなりそうなんだけど、とにかく、わたしのことはこれからレイラって読んでほしい」
「はい……」
「あと、ノールももう一人いるから」
「??」
リートはすっかり混乱してしまった。
「つまり、あなたはノール姉さんじゃないってことですか?」
「ううん。わたしはノール姉さんなの。でもって、本当はレイラなの」
「はあ」
「それに、本当のノールは今オルバにいるの」
「つまり、ノール姉さんがレイラ姉さんで、レイラ姉さんがノール姉さんで……?」
「あー、ノールはノールのままなんだけど」
「やめてくれ! 頭がおかしくなりそうだ」
スニが強引に話を断ち切った。
「つまり、あんたはレイラ! それでいいね?」
「え、ええ」
「リートも、分かった!?」
「はいっ」
3人はゆっくりと、元来た道を戻り始めた。さっきの男が落としていった宝石のかけらが、道の隅にきらめいていた。
「皆は?」
レイラが尋ねた。
「隠れてる。誰も太刀打ちできないんだ」
「どうして? あなたたちにはすごい魔法があるのに」
スニは自嘲の笑みをレイラに向ける。
「あたしらは、魔法の刃先を人間に向けることは決して許されないんだよ。何があっても」
「そんなの、不公平だわ」
レイラは可愛い声で、ずけずけと文句を言う。
「スニ!」
そっと呼びかける声がした。顔を上げると、壁に開いた扉の隙間から、ハルアのやつれた顔がのぞいていた。
スニが息を呑む。
「ハルア……!」




