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秘密の戦争  作者: 六福亭
10/15

10 リート、友達と再会する

 後に残されたのは3人、リートとスニ、ノールである。

 ノールがそっとスニの側に来て、肩を抱いた。スニは動かなかった。今にも泣きだしそうなのをじっとこらえているようだった。

 地下は先程とは打って変わって、静かだった。絶えずどこかで鳴り響いていた爆発音も、すっかり収まっていた。

「場所を移動しましょう」

 ノールが囁いた。

「ここにいたら、危ないんじゃない?」

 スニが無言でうなずく。リートは立ち上がろうとする彼女に手を貸した。弾みで、彼女が抱くニーの頭に指が触れた。ぞっとするほど冷たい。

 リートの腕にすがってようやく立ち上がったスニだったが、負傷した脚の痛みに顔を歪めている。

 見守っていたノールが、悔しそうに言った。

「わたしに、怪我を治す魔法が使えたら良かったのに」

「ぼくも……」

 その時やっとスニが口を開いた。

「人が使う魔法には得手不得手があるよ」

「そうなの?」

「あ、ぼくも前に同じこと言われました。皆ができることが、ぼくにはできなくても別にいいんだって。師匠が言ってた」

 スニはかすかに笑みを浮かべた。

「オグマはよく分かっているね」

「へへ」

 ノールが、眉をひそめて虚空を睨む。

「オグマさん、今何をしているのかしら」

「あいつらを、ちぎっては投げしてるんじゃないですかね」

 ノールの眉間の皺がますます深くなった。

「大丈夫ですよ、ノール姉さん! あいつらが何人いても、師匠にかなうはずがないんですから」

「あ……あのね、リート君、驚かないでね」

「はい?」

 ノールはもごもごと口を動かしていたが、やがて少し赤らんだ顔でリートとスニに言った。

「わたし、ノールじゃないの」

「へ?」

リートはぽかんとした。スニも、少女をまじまじと見つめている。

「わたしの本当の名前はね……どうやら、レイラらしいの」

「?」

 驚くどころか、言葉の意味もまだよく飲み込めていないリートとは対照的に、スニは苦々しい顔でうなずいた。

「ベガ家の次女だね」

「そうらしいの」

「ど、どういうことですか?」

「話せば長くなりそうなんだけど、とにかく、わたしのことはこれからレイラって読んでほしい」

「はい……」

「あと、ノールももう一人いるから」

「??」

 リートはすっかり混乱してしまった。

「つまり、あなたはノール姉さんじゃないってことですか?」

「ううん。わたしはノール姉さんなの。でもって、本当はレイラなの」

「はあ」

「それに、本当のノールは今オルバにいるの」

「つまり、ノール姉さんがレイラ姉さんで、レイラ姉さんがノール姉さんで……?」

「あー、ノールはノールのままなんだけど」

「やめてくれ! 頭がおかしくなりそうだ」

 スニが強引に話を断ち切った。

「つまり、あんたはレイラ! それでいいね?」

「え、ええ」

「リートも、分かった!?」

「はいっ」

 3人はゆっくりと、元来た道を戻り始めた。さっきの男が落としていった宝石のかけらが、道の隅にきらめいていた。

「皆は?」

 レイラが尋ねた。

「隠れてる。誰も太刀打ちできないんだ」

「どうして? あなたたちにはすごい魔法があるのに」

 スニは自嘲の笑みをレイラに向ける。

「あたしらは、魔法の刃先を人間に向けることは決して許されないんだよ。何があっても」

「そんなの、不公平だわ」

 レイラは可愛い声で、ずけずけと文句を言う。

「スニ!」

そっと呼びかける声がした。顔を上げると、壁に開いた扉の隙間から、ハルアのやつれた顔がのぞいていた。

 スニが息を呑む。

「ハルア……!」



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