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92話 月の魔術師と組む臨時パーティー

 五体投地での謝罪を敢行しようとしたルナをどうにか説得でき、やいのやいのと騒いだため寄ってきたモンスターを雷で焼き滅ぼして場所を移動した二人。

 ルナは一緒に行動しているだけでも幸せを感じているのか、ずっととろけたような顔をしている。

 自分の何にここまでハマっているのか、客観的に自分がやってきたことを振り返ってみるが、思い当たる節がない。


「あぁ……。大好きな推しと同じ空間にいられるだけで、天国に行けそうな気分……」

「ねえ、アイリ。あの子、何かやばい術とかにかかってないわよね?」

『見たところ、呪いにも魔術にもかかっていないですね。シンプルに、推しに会えて限界化しているようです』

「だとしても、なんか女の子がしちゃいけなさそうな顔をしている気がするんだけど」


 本当に何にハマっているのか。それを本人の口から聞き出したくはあるが、恥ずかしがって話してくれないか、会話するだけで今以上に溶けるかの二択だろう。


”さっきからルナちゃんが色々と限界オタクになりすぎて、いい加減ルナちゃんファンになりそうなんだけどwwwww”

”灯里ちゃんも美琴ちゃんファンだって言ってるけど、ここまで重症じゃないから新鮮だな”

”いわゆるギャルに当たるんだろうけど、オタクなギャルってだけで好印象”

”オタクなギャルって言うより、もはや美琴ちゃん信者なんだけどw”

”実は意外と女の子の視聴者が多いのかね”

”あやちゃんも観てるって言ってたし、灯里ちゃんも眷属だし、ルナちゃんは狂信者レベルだし、幼馴染退魔師の華奈樹ちゃんと美桜ちゃんも観てるし、女の子視聴者多いんだな”

”基本的には美琴ちゃんの周りに群がる変態が多いけどな”

”はぁ、はぁ、美琴ちゃんの脱ぎたてニーハイ足袋で目隠しと猿轡されたい……”

”ほらな”


「中学生の女の子が見ているんだから、変態コメントは自重する! これ以上酷くするなら、コメント欄閉鎖するわよ」


”はい!”

”ごめんなさい!”

”言うこと聞くから! お願いだから締め出さないで!”

”いい子にするから痛いことしないで!”

”が、頑張ってお金稼いで来るから見捨てないでください!”


「ちょっとぉ!? もうちょっとマシな言い方っていうのがあるんじゃないかなあ!?」


 割と本気でシャレにならないコメントが飛んできて、視聴者達が勝手に送ったコメントとはいえ、これがきっかけで炎上とかしないだろうかと不安になる。

 幸いにも、少ししたら悪ノリがすぎたと視聴者の方から謝罪のコメントが増えてきたので、ほっと安堵のため息を吐く。


「あ、あの、美琴様。その着物って確か、呪術礼装だって言っていましたよね?」


 なんだか無駄な体力を使った気がするなと少し肩を落としていると、ルナが興味津々といった様子で聞いてくる。

 確かに今着ている着物は、強力な防御呪術や高い呪術耐性などが込められているもので、呪いが込められた呪具ではなく礼装の類になる。

 この話は、初めての自宅での雑談配信の時に言ったきりのものなので、そのことを知っているということは、しっかりと過去配信を見返しているのだろう。


「そうね。強力な防御術式が編み込まれているから、ミノタウロスの突進くらいなら、強い衝撃は感じるけど傷は付かないわね」

「性能だけで言えば、古代魔術遺産レベル! すごいなあ……! さ、触っちゃダメ、ですよね?」

「帯が解けないくらいならいいわよ」

「本当ですか!? ありがとうございます! では早速……」


 すすすと近付いてきて、壊れやすいものでも触るかのように慎重な手付きで、美琴の着物に触れる。

 生地自体もかなり上質なもので、礼装としての価値を外しても着物単体で、かなりの値段が付く。


 自分なりに色々と調べて、これを作ってくれた呪術礼装を専門としている呉服屋のネット販売店で、安いもので五十万、高いもので三百万を超えるようなものが売られていた。

 礼装自体、作るのが結構難しいもので、普通の着物を作る時以上に手間と時間がかかるため、安くても五十万するのは納得がいく。

 ただ、高いもので市販のもので三百となると、完全に美琴専用に誂えたこの着物だと、下手すれば一千万を超えるのではないかと最初は着るのが怖かったくらいだ。


「わぁ……! 生地がすごく柔らかい。かなり上質な絹を使っているんだ。丈が短いけど、それを含めても洗練された完璧な着物だ。そこに完璧に編み込まれた複雑な防御術式も加わると、もはや芸術そのものみたい……」


 あまりこうしてじっくりと人に見せることをしなかったので、ちょっと恥ずかしい。

 ルナも変なところまでは見るつもりはないようで、裾をまくるなんてことはしてこなかった。そもそも初対面なんだし、そんなことしたら即関わりを断つが。


”ほう……! ほうほうほう……!”

”これは……いいですねえ!”

”美少女が美少女の服を至近距離でまじまじと見つめる。控えめに言って最高です!”

”思えば、超細かいところまでじっくり見ることしてこなかったな。これはちょうどいい機会だ。ちょっといいアングルでスクショしよう”

”美琴ちゃんもちょっと恥ずかしそうにしているのが高得点”

”あら^~”

”いいですわゾ^~”

”あら^~”

”いきなりてぇてぇ!”


 コメント欄もやけに盛り上がりを見せており、灯里と一緒にいる時にやけに書き込まれるので意味を調べて知っているため、どう思っているのかも分かっている。

 断じてそういう趣味ではないと言いたいが、あまりムキになって反応すると、余計にあらぬ妄想をされてしまうので堪える。


「ありがとうございます! すごく貴重な体験ができました!」

「どういたしまして。随分熱心に見ていたわね」

「着物としてだけでもかなり価値のあるものですけど、そこに術式も加わることで礼装としても最上級品だと分かって、もう最高でした! この礼装を作った人と直接会ってお話をしてみたいです!」

「話すだけなら、京都に行けばできるんだけどね……」


 ただ、自分の趣味を大分優先するような変人なので、本当に細かく細部まできっちり指定しないと、その作り手の趣味が思い切り入り込んできてしまう。

 美琴の着物と華奈樹の着物の丈がやけに短くニーハイ足袋なのは、細部まで指定しなかったが故の産物だ。

 ミニ丈着物なんて恥ずかしいと言いたかったのだが、その時着ている服だけで好みを把握されてしまうので、一部納得いかない作りになっていてもデザインが非常に好みなものに仕上がっているので、結局そのまま受け取ることになった。


 こんな男性が喜びそうなものを仕立て上げるのだから、作っているのも男性ではないかと思われるが、実際は琴音と同じくらいの年齢の女性だ。

 何がどうしてそんな趣味に走ったのか、未だに理解できないでいる。


「それはそうと、ルナちゃんはまだこれから配信するの?」


 いつからここに潜っているのかは分からないが、学生であることは確定しているので、美琴が潜るよりも少し前にここに来たのだろう。

 そのことを考えると、配信を始めてせいぜい数十分から一時間程度であり、もうここで配信を終わりにするとは思えない。


「はい! あと一時間か二時間は潜って配信をしようかなって思っています」

「そっか。じゃあさ、ここで会ったのも何かの縁だし、戻るまでの臨時パーティーを組まない?」

「いいんですか!? ぜひ! ぜひともお願いします!」


 ずいっと顔を近付けて喜びを爆発させるルナ。美琴と一緒に行動できるのがよほど嬉しいようだ。

 てっきり少しは考えるか、日を改めてという反応が返ってくるかと思っていたのだが、考える素振りすら見せずに一緒に行動することを即決した。


”灯里ちゃんの時もそうだったけど、美琴ちゃんって結構唐突にことを決めるよね”

”即断即決にしても速攻すぎるwww”

”移動や状況判断だけに限らず行動が早えよwwww”

”(顔と名前は知っているけど初対面な)美少女同士のてぇてぇ絡みを見ていたら、いきなり臨時パーティー組むとか言い出してお茶吹いた”

”突発コラボやんけこんなん”


 視聴者達も、お互いに全くの初対面であるにもかかわらずいきなり臨時パーティーを組むことになったことに、困惑したようなコメントを送ってくる。

 今更やっぱりなしとは言えないし、今そんなことを言ったらルナが絶望の淵に叩き落されそうなくらい喜びを体全体で表現しているので、訂正もできない。もとよりするつもりもないのだが。


 何より、装備だけ一丁前に最上呪具を持っているだけのハリボテパーティーのアタックチャンネルを、どうやって下層まで連れて行けることができたのかを知りたかった。

 あの満月は見た感じ、モンスターに対して強制的に恐怖を叩き込んで動けなくするように見えるが、それだけであの弱さのパーティーを下層まで連れて行けないだろう。

 せっかく答えを知るチャンスが目の前にあるのだから、それを逃す手はない。


「それじゃあ、短い時間だけどよろしくね」

「よろしくお願いします! ……頑張って美琴様にいいところを見せないと」

「ほどほどにね」


 めらめらとやる気を燃え上がらせているルナに、くすりと小さく笑って言う。

 じわじわと堅実にチャンネル登録者数を伸ばしている、実力派魔術師のルナと、最近何かと話題の尽きない雷神美琴。

 現在アワーチューブ上で注目を浴びている二人は、並んで獲物を求めてダンジョンを進んでいく。

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