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90話 下層での邂逅

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「えい」

「ガッ───」


 下層まで潜った美琴は、相変わらず生息域がめちゃくちゃになったままのミノタウロスと上域で遭遇した。

 距離もあったために助走をつけた突進で突っ込んでこられたが、軽く跳躍してミノタウロスを飛び越えて、体を空中で捻って縦に斬る。

 縦に斬られた頭が左右に分かれて、慣性の法則に従って通り過ぎていき、壁に激突して止まってから体が消滅していく。


「なんというか、ミノタウロスと戦いすぎてつまんなくなってきちゃった」

『お嬢様くらいでしょうね、ミノタウロス相手がつまらないと言い切れるのは』


”下層最強格のモンスターと戦うのがつまらないとかwwww”

”ま、まあ、深層ソロで行けるような子だし(震え声)”

”中層ボスも戦うのに飽きたと退ってたし、どこまでもぶっ壊れてんな”

”流石美琴ちゃん! 俺達にできないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!”

”一瞬だけでいいからさ、深層に行ってくれたら助かる”

”ソロで行けるって言ってても、ちょっと信じられないです。いや、美琴ちゃんのことだからマジなのは分かるけど、現実味が欲しい”

”このぽんこつ女神様は魔神と戦える。それだけじゃ不満か?”

”お、そうだな”


「いい加減、ぽんこつって言うのやめてほしいなあ……」


 これも何度言ってもやめてくれる気配がないので、半ば諦めかけている。

 いうほどそんなぽんこつなところを見せているわけではないと思っているのだが、もしかしたら自覚していないだけで結構ぽんこつなのだろうかと、不安になってくる。


 肩を少し落としてとぼとぼと歩いていると、がしゃがしゃという金属のぶつかりこすれる音が聞こえてきた。

 足を止めて待っていると、妖鎧武者が姿を見せる。


 全身の鎧はぼろぼろで、離れていても分かるほど血の臭いがする。

 持っている武器は刃毀れをしていないので、恐らくどこかで探索者を殺して奪ったものだろう。


『妖鎧武者ですか。あの見た目から、かなり長いこと存在しているようですね』

「正直、匂いがきついから近寄りたくないんだけど」

『そんなことを言っても、向こうは向かってくる気満々ですよ』

「ですよねー」


 かなり好戦的な個体のようで、美琴のことを見つけるなり全力ダッシュで近付いてきた。

 そのダッシュの勢いを乗せて突きを放ってくるが、その動作だけでどれだけの命を奪ってきたのかが分かった。


 戦い続けることで成長を続ける、モンスターの中でも特殊な生態のモンスター、妖鎧武者。

 その特性なだけあって、放つ技全ては生かすことを度外視した殺しの技だ。


 放たれた突きを下から弾き上げながら姿勢を低くして回避し、すぐに持ち替えて石突を思い切り腹部に叩きこむ。

 ガァンッ! という音が響き、妖鎧武者がたたらを踏むがすぐに持ち直し、薙刀の利点である間合いの有利を潰すように鋭く踏み込んでくる。

 至近距離で素早く連撃を放ってくるが、落ち着いてひらりひらりと回避して、敢えて雷薙を手放して刀の柄を握っている手を掴んで上に持ち上げ、空いている右手を胸に当てて寸勁で殴りつける。


 鉄を殴る感触と鈍い音が響き、胸の鎧が砕ける。

 地面を滑るように後ろに下がり再生する時間を稼ごうとするが、逃さずに超至近距離まで低い姿勢で接近し、左手の平に雷を集中させてそれを刃状に形成し、体の捻りを加えながら打ち出す。

 その攻撃を防御しようと、妖鎧武者は両腕をさらけ出されている核の前で交差させるが、その防御ごと核を貫いた。


 心臓部を破壊された妖鎧武者は最後のあがきとして、どこかに隠し持っていたのであろう脇差を振り下ろしてくるが、体から雷を刃状にして放出して、腕を斬り落とす。

 左手に収束させていた雷を消して後ろに下がると、一歩だけ追いかけようと足を踏み出したら、足から崩壊が始まって核石だけを残して消滅する。


「うん、新しい技も上手く行ったわね」

『いつの間にそんな器用な芸当ができるようになったのですね』

「元々稲魂とか雷槌とか、雷を形にすることはできていたからね。それの延長線上よ」

『それよりも、核を破壊したあの技は流石にどうかと。いくら何でも、あの漫画のものに似すぎです』

「あ、やっぱバレた?」


”似てるとは思ったけど、マジかよwww”

”リアルであれを再現する人が現れるとは……”

”???「逆だったかもしれねェ…」”

”そこに印も完璧に再現すれば、マジであの忍者漫画のあれじゃねえか”

”Wooooooooooooooooow!!! Japanese NINJA!!!”

”She is not a SAMURAI girl. She is NINJA girl !!!”

”外国ニキネキが大歓喜しとるwww”

”あの漫画海外人気すごいもんな。色が違うだけでまんまあの忍術だし”

”丑・卯・申!”

”あかんあかんあかんwww”


 別に必殺技を考えていたわけではないのだが、ぼーっとアワーチューブを見ている時に見つけて、同じ雷だったので真似してみただけだ。

 思いのほか上手く行った上に、超至近距離の技とはいえど貫通力が高いので、案外使えるかもしれない。

 ただ、武器を毎回手放さないといけなくなるのは勘弁なので、同じようなことを雷薙の穂にもできないか後で試してみることにする。


『それで、雷を刃状に放出するのはどうやったのですか?』

「直感」

『説明になっていません』

「本当に直感なんだって。なんとなく、これ行けそうだって思ったからやっただけなの」

『……つまり、漫画技再現のあれだけ、事前に考えていたものなのですか』

「そうだよ」


”感覚派雷神様”

”直感で説明しちゃあかんwww”

”その場の思い付きで殺意高い技を作るんじゃないよwwwww”

”もう本当に、下層程度のモンスターじゃ相手にもならないのね”

”曲がりなりにも、探索者にとっての地獄なんですけどそこ……”

”都市伝説で言われている、深層よりも更に下の奈落とかじゃないと相手になるモンスターいないんじゃねーか?”


「奈落かー。都市伝説とかで言われているのは知っているけど、本当にあるのかしらね」

『仮にあったとしたら、少なくともお嬢様レベルでないと行けるような場所ではなさそうですね』

「深層でも大分危険だったからね。まあ、そこまであるのだとしても、そんな場所まで行くつもりはないけど」


 核石を拾い上げてブレスレットにしまい、歩き出す。

 もし本当に奈落があるのだとしたら、一度は行ってみようかなとは思うが、積極的に攻略しに行こうとは思わない。


 配信者として活動して、今は調子が非常によく軌道に乗りに乗りまくっているし、収入は安定しているどころか日に日に増えて行っている。

 現在は面倒な書類手続きを進めている最中で、それが終われば晴れて美琴のクランの設立だ。名前はまだ決まっていない。

 配信者をしているのも探索者をしているのも、ここまで育ててくれた両親に恩返しをするためであって、ダンジョンの謎を解明するためではない。

 もう十分すぎるほど資金もあるので、仕事が落ち着くところを見計らって旅行をプレゼントしたほうがいいかもしれない。


 旅行に行かせるのだったら、前々から琴音が行きたいと言っているハワイやイギリスとかにしようと考えていると、進んでいる方向から唸るような風の音が聞こえてきた。

 その音に乗って、工事をするような音も聞こえてくる。


「そういえば、下層直通エレベーター作ってるんだっけ」

『RE社と探索者ギルドの合同事業ですね。ダンジョンに人工物を作るのは、世界初の試みです』

「あれから結構経ったけど、穴が塞がるどころか再生する兆しすら見えないなんて、不思議なものね」

『その不思議な穴をぶち空けたのはお嬢様ですよ』

「私一人の痕跡じゃないわよ」


 アモンとの死闘が始まった下層中域まで続く、特大の大穴。

 ダンジョンは一週間もあればどんな損傷も元通りに再生するはずなのに、未だに大穴は健在だ。


 魔神の権能によって破壊されたものは元通りにならないのではないかと思ったが、下層最深域のボス部屋はイノケンティウスとの戦闘で七割が消し飛んだが、どうなったか確認しに行った時には元通りになっていた。

 権能が原因ではないとするならば、もしかしたら魔神同士の権能がぶつかり合った時に何かが発生して、それが原因で破壊された箇所の再生能力が喪失したのかもしれないと思ったが、実証することもできないので予想の範疇を抜けない。

 バラムと検証できたらとも思ったが、彼女の権能は物理的な攻撃力はゼロなので確かめようがない。


 どうしてなのかは非常に気になるが、もうできるなら魔神とは戦いたくはないので、もやもやするが放置することにする。

 きっと時間が経てば綺麗に忘れてくれるだろうと信じ、当てもなくふらふら彷徨っていると、今度は戦闘音が聞こえた。


 探索者がモンスターと戦っていて、劣勢とかであれば加勢しても大丈夫だが、優勢な時に無理に加勢すると横取り行為ととられかねない。

 明確に横取りが禁止されているわけではないし、むしろダンジョン内では手を取って助け合おうとギルドは言っているが、探索者間の暗黙の了解として、見るからに不利じゃない時は加勢してはいけないことになっている。


 一応、誰が何と戦っているのかを確認しに行こうとそちらに向かい、丁字路のようになっているところまで来ると、ミノタウロスが吹っ飛んできて壁に激突した。

 あのミノタウロスを圧倒しているようなので、これは手助けの必要はなさそうだと、こちらに注意が向く前に離れようとする。


「本っ当に硬いわねあんた!? どんだけこっちが魔術ぶち込んでると思ってんのよ!」


 踵を返そうとした瞬間、見るからに自分よりも若い、自分の背丈よりも長い杖を持った少女が出てこなければ。

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