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第9話 普段通りのダンジョン攻略配信

 翌日。いつも通り学校に登校し、雑談配信でいろんな事実が判明したこともあって学校中の注目の的となり、教室に着くまでに生徒に囲まれてへとへとになるという出来事があった。

 その他にも、一躍時の人となったからか学校側が広告塔にさせてほしいと言ってきたのだが、そんなものになる度胸はないときっぱり断っておいた。

 肩を落とすのを見ながら職員室から出て行ったが、その時背後からまだ諦めないと言う言葉が聞こえた時はどうしてやろうかと思った。


 そんなこんなで賑やか(?)な学校生活を終えた後、帰宅していつもの着物に着替えてダンジョンに潜り、上層のある程度の深さまで行ってから配信しようとしていた。

 していたのだがここで思わぬアクシデントが発生した。


『まさか人だけでなくモンスターにすら人気者になるとは』

「そんなこと言ってる場合じゃなくない?」


 上層に入って十分ほど歩くと、等級はそこまで高くはないがとにかく数が多いことで有名なモンスター、リトル・マリオネットと遭遇してしまう。

 軍勢のように見えるが実は一体の魔物が、呪力の糸を使って土くれから作った大量の人形を操っているので、本体は一体だけなのに多数と戦う羽目になる初心者には厄介な魔物だ。

 似たものに、地上でたまに発生する傀儡(くぐつ)の怪異というのもいるが、あれはリトル・マリオネットとは比べ物にならない規模の人形を一斉に操って襲わせてくるので、一等怪異に認定されている。


 怪異とモンスターの違いは、ダンジョンで発生しているか地上で発生しているかだ。

 ダンジョンで生まれるモンスターは、人々が『モンスターという怪物はダンジョンで生まれるもの』という共通認識と共通の恐怖が向けられることで発生し、地上で生まれる怪異や魔物は何かに恐怖すること、何かを信じることで発生する。

 例えば災害で有名な台風に対して恐怖すれば、台風の力を持った怪異が発生する。


 地上で発生した怪異は祓魔局(ふつまきょく)という、ダンジョンと探索者を管理する探索者ギルドとはまた別の政府機関が対応する。

 そこには呪術師が大勢所属しており、中には一度の呪術行使で大都市を消し飛ばすだけのことができる人間をやめた化け物がいる。というかその呪術師が祓魔局のトップだ。


『ですがここは上層。モンスター自体の強さは児戯にも等しいものです。そこまで苦戦するものでもないでしょう』

「そうだけどさ」

『ちなみに配信時間まであと一分もありませんので、片付けるなら今のうちに』

「昨日の雑談配信もそうだけどどうしてそんなギリギリのタイミング!?」


 こうしちゃいられないと雷薙を取り出して構える。この程度の雑魚なら諸願七雷を一鳴(ひとつなり)すら開放する必要もないが、早く片付けないと戦いながら配信開始となってしまう。

 なので仕方なく一鳴だけ開放して、即時殲滅に取り掛かる。


 背後の頭上に一つ巴紋が現れて、雷の力を少しだけ開放する。

 三鳴は雷を自身から離れた場所へ飛ばすことができるが、一鳴は自分の体にまとわせることができる程度だ。

 それで何ができるのかというと、この時点で雷とほぼ変わらない速度で移動することができるようになる。代わりに、落雷のような音が移動の際に鳴るようになるが。


 リトル・マリオネットは上層では驚異的な存在で、探索初心者がいきなりこのモンスターと鉢合わせて殺されてしまう、あるいは逃げ帰れてもトラウマになってしまいそのままやめてしまうことがある。

 それほどまでに驚異的だが、それはあくまで初心者の場合。美琴は初心者なんかではないし、そもそも今の時点で雷と変わらない速度で移動できるため、仮に武器を持っていなくても直接体当たりしに行けば、人形なんてビスケットのように砕け散る。


「これから配信なの。邪魔しないで」


 低く感情のこもっていない冷たい声で言い、紫電をまとわせて雷速で踏み込み薙刀を振るう。

 体中の発条を上手く使って鋭く雷薙を振るい、一体一体では時間がかかるから複数体まとめて切り伏せていく。


 水平に薙いでは五体がまとめて両断され、取り囲んで襲おうとしている人形はその場から姿が消えるほどの速さで移動しながら細切れにして、時には遠心力をたっぷりと乗せた左の拳で胴体を殴って大部分を粉砕する。

 幸い強くはないモンスターなので、一分とかからずに人形をすべて粉砕したうえで、本体を両断した。


「ふぅ……。なんとか時間内に倒せたわね。じゃあアイリ、そろそろ配信開始の準備……を……」


 浮遊カメラに内蔵されている空間投射ホログラムで映し出された配信画面には、すでに配信中の三文字が。

 そしてコメント欄は、美琴が一分足らずでリトル・マリオネットを撃滅したことに対して、すさまじい量のコメントを送っている。


”俺のトラウマがこうもあっさりと……”

”早えw”

”動画と違ってよく分からん紋様が一個しかないけど、違いが分からないくらい強くて大草原”

”邪魔しないでって言う時の冷たい目が最高すぎました。もう一度あの目を向けてください”

”あれ? これってもしかして初心者のトラウマぶち壊し配信かな?”

”そっかー、リトル・マリオネットってそうやって倒せばいいんだー(棒読み)”

”理想的な倒し方だな。速度的に不可能な点を除けば”

”雷の力は普段は使わないって言ってなかったっけ?”

”もうこの際、その力を使ってどこまでも行ってほしいまである”


 なぜ配信が既に始まっているのか。それを考えていると、浮遊カメラから電子音の拍手が聞こえてくる。


『流石はお嬢様です。上層のモンスターなど相手にもなりませんね』


 普段から配信開始のオンオフはアイリに任せている。なのでいつの間にか配信が始まっているのは、間違いなく彼女が勝手に配信開始ボタンを押したのだろう。

 だが問題は、配信開始してから経過している時間が十分になっていることだ。

 確かに美琴は、時間に遅れないようにと何度も時間を確認した。ただし、スマホで。

 そしてアイリはAIで、瞬時に人のスマホをハックしてスピーカーを使って会話したり、それこそ改ざんすることだって可能だ。

 つまり、導き出せる結論とは、


「アイリいいいいいいいいいいいいいい! 騙したわねえええええええええええええ!?」


 モンスターと遭遇したのは間違いなく偶然だろう。というかそこは偶然であってほしい。

 だが配信時間がとっくに十分経過しているということはつまり、彼女が美琴のスマホをハッキングして表示時間を遅らせていたのだろう。

 そして予想外にもモンスターと鉢合わせ、そのまま配信を始めていることを打ち明けずに戦わせたようだ。どうりで戦っている時に浮遊カメラが正面に回り込むように動いていたわけだ。

 遅刻しないようにととにかく時間に気を付けていたのに、まさかの相棒に裏切られるとは思いもしなかった。


 こうして、美琴の大バズり後初のダンジョン攻略配信は、相棒の裏切りによって十分の遅刻と何とも締まらない形で開幕するのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。




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