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番外編 86話 雷神のいない魔術師の話 5

「───当に、随分と───くれたな!」

「───……!?」


 沈んでいた意識が、鼓膜を震わせる音によって浮上してくる。

 フィルターがかかっているように、どこか遠くに聞こえていた音が明瞭になっていき、怒鳴り付けるような声と肉を殴る鈍い音、そして苦悶の声が聞こえてきた。


(だれ……の、声……?)


 瞼を開けて、霞む視界でどこから声が聞こえているのか探り、徐々にクリアになって音の出どころが判明し、同時に残っていた眠気と回転の鈍かった頭が一瞬で覚醒する。


「なあ、別にそいつまで連れてくる必要はなかったじゃないか? 今深層に潜ってるあの化け物と比べると、体も薄いしよ」

「こいつのせいで、余計な出費を食らったようなものなんだ。少しくらい、この怒りをぶつけさせてもらわないと気が済まないんだよ!」

「あぐっ……!」


 廃倉庫のような場所で反響する怒鳴るような声は、意識を失う前に灯里達を追っていた謎のクランの男性のもので、苦悶の声は殴られている昌からのものだった。


「あ、昌さん!」


 駆け寄ろうとするが、起き上がれない。というか、腕も足も動かせない。

 どうしてだと視線を足の方に下ろすと、強力な強化魔術がかかっている縄できつく縛られていた。

 腕も後ろ手に縛られていて、こちらにもかなり強力な強化魔術がかかっている。


 強化された縄くらいならば、魔力励起状態にして膂力を強化すれば千切れると、心臓にある魔力刻印から体中に巡っている魔術回路に魔力を流そうとするが、魔力が刻印から少し流れ出た瞬間に、その流れが抑え込まれて刻印の中に戻されてしまう。

 どうしてだと目を白黒させるが、拉致しようとしていた時点で魔術法則界にアクセスできなくするような道具を持っていたのだ。ならばそれよりも強力な、魔力の操作そのものを阻害するようなものを持っていてもおかしくはないだろう。


「やっと起きたか。強めにかけたとはいえ、随分と寝坊助だな」


 こつこつと足音を鳴らして、昌までさらう必要はなかっただろうと言っていた男性が近付いてくる。

 正面まで来た男性はしゃがみこみ、乱雑に髪の毛を掴んで引っ張り上げる。


「あぅ……! は、放して……!」


 髪が引っ張られ、その痛みで顔を歪ませる。


「こんなチビで乳臭いガキの何がいいんだか。依頼者はロリコンか何かか」

「んなわけあるかよ。攫うように依頼した奴がそのガキを欲しがるのは、そいつが異常なまでに魔術師としてのスペックが高いからだ。最近のあの雷神の配信を観ていないのか」

「おれは配信者に興味ないし、いくら見た目が大人びているからって、実年齢は十七の小娘だろ? あの見た目で二十代前半とかだったらおれのストライクゾーンなんだけどな」


 適当に放されて床に顔を打ち付けて、その痛みで涙を浮かべながら、男を見上げる。


「そいつは魔法使い、燈条雅火の実妹だ。燈条家ってだけで魔術師としては確実に大成するが、特にそのガキは燈条家の次女で、あの魔法使いから直々に魔術の指導を受けていた。さらには、魔法使いが魔術師時代に使っていた古代魔術遺産の杖もあって、等級自体は四級だが実際の実力は一等以上だ。最近あの男の組織は落ち目だからな。まだ恐怖に耐性のないガキを支配下に置いて、恐怖で言いなりにさせて功績を上げたいんだろ」

「そんな実力者には見えないけどな。まあ、魔術師ってのは、見た目が弱そうに見えて実はヤバい奴ってのが多いからな。おれからすりゃ、術なしで仲間を何人も一撃で瀕死にしたそこの小娘の方がヤバいように見えるけど」


 男が灯里から離れて行き、同じように両手両足を縛られて身動きが取れなくなっている昌の方に行き、灯里にやったように髪を掴んで顔を無理やり上げさせる。

 結構殴られているのか、頬は赤く腫れているし一部紫色になっている。

 唇も切っているのか、口の端から血が流れているし、呼吸も大分荒い。


「随分、酷いことをしてくれるじゃない……。顔も髪も、女の子の命なんですけど……」

「はっ。何が女の子だよ。術なし、理解不能な何かを使っておれらの仲間を軒並みワンパンで瀕死にしてくれやがって、この化け物が」

「ちょっと小突いただけで意識を失うなんて、ただの雑魚なだけじゃないかしら」


 こんな状況だと言うのに、昌は相手を煽るように発言する。

 だが、あの時の同じで若干棒読み感がある。

 相手は気付いていないようだが、灯里にはどうしても、少し下手な演技をしているように見えてしまう。


「この状況でよく減らず口を叩けるな、お前」

「どうせ、あんた達も、あんた達に依頼した奴も、落ちぶれるのは確定しているからね。少しは痛い思いはするけど、怖くはないわ」

「へー。それじゃあ、大勢の男に襲われるのも怖くないってか?」

「……それは少し話が違うと思う」

「違わねえだろ。おれの好みじゃねえけど、顔は整ってるし肉付きもいい。おまけに現役の女子高生ときた。大体の野郎は、顔の整った女子高生は大好物なんだよ。今はダウンしている奴らの意識が戻ったら、待っているのは地獄かもな」


 そう言って男は掴んでいる昌の髪を放し、身動きの取れない昌の腹部に強く蹴りを入れてからどこかへ去っていく。


「げほっ、げほっ……! 本当、女の子にも容赦しないとか、最低ね……」

「何終わったような雰囲気を出してんだよ。こっちはまだ、お前のせいで余計に食った出費の清算が終わってねえんだよ!」


 もう一人の男が怒り冷めやらぬ様子で、再び昌に暴行を加える。


「もうやめてください!」


 やめるように叫ぶが、男は殴る蹴るの暴行を止める気配がない。

 明らかな犯罪行為に手を染めて悪いのはこの男達だと言うのに、まるで昌一人が悪いような言動に、灯里は激しい怒りを覚える。

 繰り返し行われる酷い暴行を止めようと、手足を縛っている縄を解こうともがくが、緩む気配が全くないので芋虫のように床を這って少しずつ近付く。


 しかし進む速度があまりにも遅く、彼女の下に着くのにどれだけ時間がかかるか分からない。

 それでも灯里は、服と髪、顔が汚れることをいとわずに少しずつ這って移動する。


 やがて、やっと気が済んだのか息を荒くした男が最後に一発、強く踏みつけてからその場から離れて行く。

 倒れる昌はぴくりとも動かないが、胸が上下しているので息はあるみたいだ。


「昌さん……!」


 数分かけてようやく昌の下に辿り着く。

 度重なる暴力で殴られた箇所は腫れ、痣ができて、一部から出血もしている。

 素人目に見ても、昌の今の状態は重傷だ。すぐにでも病院に連れて行って処置しなければいけないが、ここがどこなのかも分からないし、通報しようにもスマホの入った鞄はどこかに持っていかれているし、そもそも腕が使えない。


 意識を失っているように見える昌に寄り添い、涙を流しながら名前を何度も呼び、自分の体を使って昌を揺する。

 何度かバランスを崩して床に倒れながら必死に起こそうと揺すると、小さくうめき声をあげて身動ぎをしてから、瞼を震わせて目を開ける。


「昌さん!」

「灯里、ちゃん……? 部屋の反対側にいたのに、ここまで自力で、来たんだ……」

「怪我が酷いので、あ、あまり喋らないほうがいいです。それより、どうしてこんな酷いことを……!」


 彼らからすれば、昌は彼らの計画を邪魔した存在だ。その観点で考えれば百万歩譲って、怒りたくなるのも理解できないこともないが、だとしても酷すぎる。


「あまり気にしなくても、いいわよ。こうなること自体、分かっていたからさ」

「分かっていたって、それでも……!」

「あー、そういう、予想できていた、とかじゃないのよ。なんて言えばいいのかしらね。あまりはっきり明言しちゃうと結果が大きく変わっちゃうから、言いづらいのよね」

「結果が大きく、変わる……?」


 それは一体どういう意味だろうか。

 世の中には魔眼と呼ばれる希少能力があり、その中には視界に収めている情報を基に、魔眼とセットになっている脳が所有者に一切の負担をかけずに超高度な予測演算を行う、あるいはシンプルに視界に映っているものの未来を見ることができる未来視の魔眼があるが、まさかそれを持っているのだろうか。

 しかし未来視の魔眼はどれも、魔眼で見た未来という結果を行動一つで変える余裕がある、いわゆる予測に基づく未来視であるため、結果が変わるのであればその方が遥かにいい。


「ただ未来を知っているだけじゃない。すでに確定している未来があって、確実にそこに到達できるように、決まった道を進まないといけないの。今回は灯里ちゃんの言動や行動も含まれるから、詳しく教えすぎると道から外れて予期せぬ未来に行っちゃうかもしれないの。だから、これ以上は教えられない」

「でも……でも! だからって、確実に解決できる結果に行くためだからって、私とほとんど関わりのなかった昌さんが、こんな……」


 自分のせいで、知り合いが酷く傷付くことがあまりにも苦しく、強く胸が締め付けられて大粒の涙を零す。

 そもそも、狙われている自覚自体はあった。外に出れば危険にさらされることも分かっていた。

 なのに、友達から声をかけられたからと、そちらを優先して危機管理が疎かになり、結果的にこのようなことになってしまった。


 全ては自分の軽率な行動のせいだ。

 遊びたいという欲求を二日間我慢すれば、それだけでこれ以上ない安全を確保した上で自由にであることだってできた。


「私……私って、本当にバカだ……! 護衛の人達がいるからって、軽い気持ちで凛ちゃんと遊びに行ったせいで、本当なら私と関係のない昌さんが巻き込まれて……! どうして、おうちで大人しくしていられなかったんだろう……」


 ぽろぽろと涙を流しながら、自分の行動を悔いる。

 そんな灯里を見た昌は、ふわりと笑みを浮かべてから痛みをこらえるように顔を歪ませながら、ゆっくりと上体を起こす。


「……こんなことは言わないほうがいいんだろうけどさ、あなたがその軽い気持ちで遊びに出てきたおかげで、今日は楽しく過ごすことができたの。いつも遊びに行くのは美琴とか、リタとか、後は他に三人くらいしかいないから。だから、そうやって自分をあまり責めないでね」


 なだめるように優しい声で言う昌に、申し訳なさでいっぱいになって彼女の胸に顔をうずめて、嗚咽を漏らしながら泣く。

 困ったように昌が息を吐くと、先ほど出て行った男達が扉を乱暴に開けて戻ってきた。


 びくりと体を震わせて顔を向けると、目を覚ました時にいた二人の男以外にも、数多くの男達も一緒にいた。

 よく顔を見ると、昌が一撃で瀕死にした男達だった。


「よお、化け物。お前に気絶させられた連中は、うちの医療班の懸命な処置のおかげで元気になったぜ」

「あらそう、よかったわね。で、わざわざその報告をしに何人かを連れて来たってわけ?」

「言ったろ。お前はおれの好みじゃないが、他の連中もそういうわけじゃない。むしろ、顔の整った女子高生が大好物な奴らだって。何人かはお前にボコられてトラウマ抱えたから来ねえけど、こいつらはお前にボコられた《《お礼》》がしたいんだとさ」


 いまいち男の言う言葉は理解できていないが、昌が大分焦ったような表情を浮かべるのを見て、これからまた酷いことをされるのだと理解する。

 ぼろぼろの昌を庇うように彼女の前に移動するが、大股でやってきた筋骨隆々な男に軽く押しのけられてしまう。

 倒れた灯里はすぐに起き上がろうとするが、魔力の流れを感じた直後に体が強く押さえつけられるような感覚を感じ、身動きが取れなくなる。


「ちょ、マジでやってる? どのみちあんた達は捕まることは決定しているんですけど?」


 昌は近付いてきた男に押し倒されて、上に着ているパーカーを破り取られる。


「本当にそうなのだとしても、捕まるまでにいい思いの一つくらいはしておきたいんだよ。化け物みてーに強いし胸も理想より小さいが、顔はオレ好みの可愛い顔立ちしてっからな。こっちは超痛い思いをしたんだ、後から気持ちよくなるんだから一瞬の痛みくらい、どうってことないだろ」

「それとこれとは話が別。隣に女子中学生がいる中でやるかな、普通」

「知るか。どうせこいつも、ロリコン依頼者に手を出されるに決まってる」


 そう言いながら乱暴に衣服が破り取られて行き、下着姿にされてしまう昌。


「スポブラにインナーショーツかよ、色気がねえな」

「っ……」


 異性に下着姿を見られ、睨み付けながら頬を赤くする昌。

 そのまま残りの布も剥ぎ取ろうと、男の手がショーツの方に伸びる。


「随分と、みっともないお姿になりましたね、昌」


 気が付けば、いつの間にかリタが昌のすぐそばに立っていた。

 音も、気配も、何もなかった。ただとにかく、いきなりそこに、何の前触れもなしに現れた。


「あんたねえ、流石にちょっとギリギリを攻めすぎじゃない?」


 リタが現れると、先ほどまで頬を赤くして恥じらっていたのが嘘かのように、平然とした表情をする昌。


「予定を変更するなら、事前に教えてください。こちらだって、暇じゃないんですから」

「はいはい、分かりました。私が悪うございました」

「なんだお前。どっから紛れ込んできやがった」


 昌に覆いかぶさっていた男が起き上がり、リタに近寄る。

 昌も決して小さいわけではないのだが、彼女のものよりも激しく存在を主張している女性最大の武器があるためか、そちらの方に標的を変更したらしい。


「初めまして、掃き溜め以下のゴミの皆様。わたしはリタ・レイフォード。由緒正しきロスヴァイセ家の令嬢、フレイヤ様に仕えるメイドです」


 礼儀正しく非常に優雅に、スカートを指先で摘まんでするカーテシーで礼をするリタ。

 一つ一つの所作に無駄がなく、このような状況だと言うのに目が離せなかった。


「へえ、いいとこのお嬢様のメイドか。仕事ばかりで疲れてるだろ。ここはちょいと、オレ達と遊んで行かないか?」


 男達がリタを囲むように移動し、逃げ道をなくす。


「あいにくですが、この後もお仕事が残っておりますので、遊んでいる余裕はありません。ですので、手早くお掃除をさせていただきます」

「あ? 掃除? なんだ、オレ達の掃除でもしてくれるのか」


 下卑た笑みを浮かべて、リタの体の中で最も目を引く豊かに実った胸に腕を伸ばすが、触れる直前にその腕がいきなり地面に落ちる。


「…………は?」


 腕を失った男は、しばし理解できないように血が噴き出る傷口を見て呆けていたが、遅れて激痛がやってきたのか大量の脂汗を浮かべて地面に膝をつく。


「が、ああああああああああああああああああああああ!? う、腕が、腕がああああああああああああああああ!?」

「ゴミ以下の分際で、わたしに気安く触ろうとしないでください。汚らわしい」


 絶対零度の眼差しを向けながら言い、どこから取り出したのか、両手に白い手袋を着けてから左手で首を掴み上げて軽々と持ち上げて、ぐっと後ろに引いた右手を撃ち出して、およそ人の体から出るようなものではない音を鳴らし、殴り飛ばす。

 ドグシャ! という鳴ってはいけないような音を鳴らして壁に激突し、力なく地面に倒れる。


「……この手袋も廃棄ですね」


 汚物で汚れたものに触れるように、嫌そうな顔をしながら手袋を外し、ポイと投げ捨てる。


「流石は、うちらの中ではあれに次いでの戦闘狂で武闘派のリタね」

「お褒めに与り、光栄です。ところで、いつまで縛られたふりを続けるのですか? もう結果は完全に決定したのですから、あとは自由に行動しても構わないのでしょう?」

「そうね。それじゃあお言葉に甘えて」


 そう言うと、昌の体から炎が吹き荒れる。

 魔術が完全に封じられている状態なのにどうしてと目を白黒させるが、違和感を感じた。

 彼女の体から出る炎から、一切の魔力を感じない。もちろん、根っこが同じだから感知だけはできる呪力も。


 更に理解不能の現象が続く。

 破り捨てられた服が燃やされて灰になったと思うと、それが昌に向かって行き、体にまとわりついてから、元着ていた服に戻った。

 しかも炎が触れた傷が瞬く間に癒えて行き、炎なのに傷を癒すとかどう言う原理なんだと、ますます頭が混乱する。


「いきなり権能を使うのですね」

「使わないと拘束解けないし。というか、しょっぱなから権能使ったあんたに言われたくないわよ」

「それもそうですね。それで、どうなさいますか?」

「そうねえ。……散々殴ったり蹴ったり、髪の毛を引っ張ったりしてくれたし、そのお礼もかねて私が相手してあげることにするわ」

「左様で。では、わたしは灯里様の保護を」


 言い切る頃には灯里の後ろに移動しており、いつの間にか手足の自由を奪っていた縄が斬られていた。


「命の針が止まる時、私は自ら薪から燃える炎に身を投げ灰となろう。誰かが傷つく時、私は涙を流してそれを癒そう。立ち上がり、立ち向かう勇気がない時、私は歌を紡ぎその背中を押し、悪を退ける手助けをしよう」


 一瞬で聞き惚れて、呼吸音すら余計な雑音だと感じるほど美しい声で、歌を紡ぎ出す昌。

 その歌が進むにつれて、体から出る炎は勢いを増していき、彼女の体に向かって収束していく。


「真紅の羽で身を覆い、金色の尾羽を空で揺らす。私の翼は闇夜で輝き、私の尾羽は安らぎとぬくもりを与える。心正しき者達よ、私が忠義を示すに値することを証明しておくれ」


 誰もが身動きが取れない中、昌が短い歌を歌いきる。


永劫輪廻を廻る真紅インフィニックス・クリムゾン


 最後の宣言と共に、収束していた炎が弾けて、その中から昌が姿を見せる。

 ただし、その姿は人間とは言えなかった。


 神々しい真紅の翼。金色に輝き、優しい温もりを与える尾羽。

 緩く縛っておさげにしていた髪は、ヘアゴムが焼け落ちてほどけ、翼と同じ真紅に染まって腰まで伸びていた。

 一目で生き物としての次元が遥かに違うと実感するほど、暴力的で圧倒的な存在感がありながら、どこまでも美しく神々しくて見惚れてしまう。


「お、お、おま、え……!」

「そう、私は人間じゃないわ。私は、バアルゼブルとアモンと同じ、魔神。ソロモン七十二柱、序列第三十七位、詩と不死身の魔神、フェニックスよ」


 昌自ら自分の正体を明かし、男達が絶望を顔に張り付ける。

 無理もないだろう。何しろ、少し前に会った美琴とアモンの魔神同士の戦いの規模は、到底人間が介在できる余地のないものだった。

 それと全くの同格どころか、殺しても死なない不死の魔神ともなれば、恐怖しないわけがない。


「本当はこんな神性を開放をしなくたっていいんだけど、散々いたぶってくれたし、灯里ちゃんのことを怖がらせてくれたし、何よりバラムの権能が示した結果に従わなきゃいけなくなったから、ここであんたら全員、ぶちのめす」

「ひ、ひいぃ……!」


 今になって逃げようとするが、遅かった。

 大きく広げられた真紅の翼が強く羽ばたくと、前方にあるもの全てを飲み込むほど巨大な炎の塊を発生させて、一瞬で消し飛ばす。


 廃倉庫のようなものは一瞬で崩壊し、茜色に染まっている空が広がる。


「……些か、やりすぎかと」

「私もそう思う。でもちょースカッとした」

「全く。わたしの権能で死んだという結果を偽ることで蘇生できるとはいえ、やりすぎです」

「えへっ」

「反省してください、フェニックス」

「ごめんなさーい。でもさ、ベリアルも一人確実に殺したよね。あれもやりすぎの部類じゃない?」

「……」

「ちょっと、目を逸らさないでよ」


 何も、理解できなかった。

 立ち上がりはしたが、一瞬で大きな廃倉庫が消滅し、更には二人の会話からとんでもない情報が出てきたりで頭がパンクしそうになり、力も抜けたのもあってぺたりと座り込んでしまう。


「これ、本当に誰にも言えないやつ……」


 言ったところで誰も信じてくれる人などいないだろうが、信じてくれないだろうからこそ誰にも言えないとんでもないものを見てしまったと、一瞬のうちに元通りになった廃倉庫を見ながら思った。

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