第8話 激過疎チャンネルを卒業して初の雑談配信3
「今は皆さんのおかげで収益化の申請しているけど、それまでは核石を持ち帰って換金して貯金してたんだよね。私、運がそんなに良くないみたいであまり大きな奴拾ったことないんだよね」
”さらなる爆弾が!?”
”あれ、美琴ちゃん女子高生って言ってなかった?”
”未成年は基本換金禁止されているはずじゃ……”
「未成年は基本禁止だね。でも核石だけなら換金できるようになる方法があるのは知ってる? 名前忘れたけど、私ギルド主催のその試験受けて受かってるから、核石だけなら換金できるの」
未成年がモンスターの素材や核石の換金を禁止されている理由は、ダンジョンが出始めたばかりのころに無茶なことをして命を落とす若者が後を絶たず、政府が緊急で未成年の原則換金を禁止する法律を作った。
しかしそれだと不平等だということで、鬼のように難しい試験を探索者ギルド主催で用意してそれを突破した上に身辺調査をされて、それも通過しなければ合格できない試験を用意したのだ。
美琴は探索者に憧れて始めた部分が大きいが、両親に恩返しがしたいという気持ちもあるため、ただダンジョンに潜ってモンスターを倒すだけじゃ意味がないため試験を受け、無事に突破している。
なお、試験を受けてから合否が判明するまで一月かかった。
”えぇえええええええええええええええええ!?”
”あのクソムズイ試験に受かったの!?”
”あれ確か身辺調査までされるよな? 家庭環境ホワイトなんだ”
”両親に恩返しするために探索者と配信者になったって言ってたし、家族仲が普段からいいんだろうな”
”だとしてもあの試験に受かるとか普通に頭無茶苦茶よくて、素直にすごいって思う”
”インテリ系の武闘派か何か?”
『流石のお嬢様でもみっちり勉強なさっていましたよね』
「そりゃ受からなかったらお金にならないわけだし。あの時は助かったよ、アイリ」
『早く寝てほしいと言っても、中々寝てくださいませんでしたね。あの時はこの珠の肌が荒れてしまうのかとはらはらしました』
「お母さんにも怒られたなあ。まさか持ってきたお水に睡眠薬混ぜて無理やり寝かされるとは思ってなかった」
『あれ提案したの私です』
「だと思った。おかげでぐっすり眠れて次の日頭すっごい冴えてたからいいけどさ」
一度受けて落ちたら次に受けられるのが一年後だったので、意地でも一発合格してやると猛勉強していたのに、母親に一服盛られるとは予想だにしていなかった。
次の日に起きた時、ぐっすり寝たから疲れもなく集中力が続いたのは棚ぼただったが。
次々と流れてくる質問コメントを拾ってはそれに答えて、時にはアイリが入り込んできて容赦なく古傷を深々とえぐって撃沈すること一時間ほど。
同接は開始してから止まらず増えていき、十万手前まで行っていた。
このままいけば間違いなくもっと視聴者数は増えていただろうが、アイリが概要欄に一時間だけと記載していて配信開始前にも言われたので、次の質問で終わることにする。
「少し早いけど、次の質問でおしまいにするね」
そう言うと、コメント欄は特に荒れることなく各々の質問を投げてくる。
”普段使ってる化粧品教えてください”
”あーじくんのことどう思ってる?”
”パンツ何色?”
”クランや事務所に所属する予定とかはあるの?”
”次の配信いつになりますか?”
”すごい冷めた目と冷ややかな声で罵倒してください”
一部変態コメントが見受けられたがそれは見なかったことにして、最後にふさわしいコメントを見つけてそれを拾い上げる。
「普段やってるダンジョン攻略は明日から再開します。多分まだ私の実力を疑っている人もいるみたいだし、言葉だけじゃ証明もできないからね」
『それはよい判断です。では今のうちに明日の配信の予約をしておきますね』
「ん、ありがとうアイリ」
”キタアアアアアアアアアアア!”
”早速ダンジョン攻略配信感謝!”
”こんなの残業してる場合じゃねえ!”
”課題やってる場合じゃねえ!”
”昨日は途中でカメラ切れて音声だけだったからなあ。生配信でどこまでやるのか楽しみ”
”SNSの通知とチャンネル登録して通知オンにしておかねばっ”
最後の最後にコメント欄も大盛り上がりを見せる。
やはり雑談よりも視聴者は攻略風景を見たいようだ。
「それじゃあ今日の配信はここまで。明日の配信でお会いしましょう。見逃さないようにチャンネル登録して通知をオンにして待っててね。それじゃあ今日は最後まで見に来てくれてありがとう! おつかれさまー!」
”お疲れー”
”おつー”
”乙ー”
”また明日ー!”
”楽しみにしてるよー!”
マイクを切って配信画面に自作のエンディングページを表示させて、終わってもなお流れるコメントを少し眺めてから配信を切る。
「ふぃー……。ただ話してただけなのに疲れたー」
『お疲れ様ですお嬢様。学校で質問攻めにされたのが活かされましたね』
「あれ本当に予行練習になったのか、終わった後も疑問なんですけど」
配信が終わり、途中で慣れてきてほぐれていたと思っていた緊張の糸が切れて、どっと疲れが押し寄せてくる。先に夕飯を作っておいて正解だった。
「明日はついに普段通りの攻略配信。今日来てくれた人が一割……いや三割でもいいから定着してほしいなあ」
『三割どころか全員定着すると思いますよ』
「だって昨日……」
『あれはお嬢様の配信をろくに見もせず、偶然何もしていない時にやってきた狼藉者の吐いた戯言です。あまり気にしないことが吉ですよ』
アイリはそう言ってくれるが、やはり不安だ。
半年間人が増えずに続いた配信だ。そこに大勢が来てくれて今まで通りやっても、本当にそのまま定着してくれるかどうか分からない。
しかし昌もいつも通りやればいいと言っていたし、アイリもこのまま続ければいいと言っていたので、リアルと電子のマネージャーの言葉を信じることにする。
とりあえず雑談配信も終わったことだし、お腹も空いたので早く夕飯にありつこうと、膝の上で丸くなっているあーじを抱っこしてベッドの上にそっと下ろし、部屋着に着替える。
着替え終えてあーじのほうに向きなおると、すでにベッドから降りてドアの前で待ち構えていたので、そのまま一緒に部屋を出て一階のリビングに向かう。
夕食を取りながら明日についてをアイリと話し合い、お風呂に入ってさっぱりした後は昌に電話をかけて、上手くいったことの報告と明日からのスケジュールを話し合った。
『今回の雑談で多分結構な数定着したんじゃない? 何気にトンデモ情報だしてたし』
「別に変なこと言ってないと思うんだけど」
『いやいや、未成年なのに換金できるように試験受けて受かってるって情報だけでも十分すごいから。ツウィーターのトレンド見てみ? インテリ武闘派美琴ちゃんって言葉がトレンド入りしてるから』
「別に武闘派を名乗ってるわけじゃないんだけどなあ」
『ゴリゴリの武闘派が何を言うか。ま、明日の配信で自分がいかにすごいことしているのか視聴者の反応で分かるだろうから、楽しみにしてなさい。明日もあたしは美琴の配信観ておくからさ』
「うん、ありがとう。じゃあね、昌。おやすみ」
『はい、おやすみー』
昌との通話を切り、アイリに頼んで家の電気を全部消してもぞもぞと掛布団をかぶる。
暖かくふかふかなそれは眠気を爆速で連れてきて、瞼がどんどん重くなる。
「明日から本格的になるなあ。昌も、アイリも、応援してくれてるし、頑張らないと……」
うとうとと舟をこぎながら寝言のように呟き、瞼が完全に閉じるとあっという間に意識が沈んでいく。
明日から本格的に、多くの視聴者の前で活動をしていくことになる。そしてこれが、雷電美琴の伝説の幕開けとなる。
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