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74話 異様な気配の城

 翌朝。深層攻略二日目。

 朝起きてまず最初に目に映ったのは、配信時間が二十四時間を超えている自分の配信画面と、山のように送られてくるコメントを処理して、次々と返信して雑談を行っているアイリだった。


「……なにしてるの?」


 まだ眠い目をこすって起き、少し掠れた声で聞く。


『おはようございます、お嬢様。見ての通り、雑談配信をしております。あ、枠は変えておりません』

「……なんでそんなことしてるの?」

『皆様が眠っている間、ただ寝姿を配信するわけにはいきませんから。だったら今まで集めたデータを基に、眠る必要のない私がお嬢様に不埒なことをするような輩が出ないよう監視しながら、雑談配信をしようと考えたのです。結果は大成功でしたね。一晩でチャンネル登録者が十三万人増えました』


”ほんまにAIなんかアイリちゃん”

”この一晩で、AIっぽくしゃべっているだけの人間疑惑が出てきたのくっそ笑える”

”でも仕事の速度が人間のそれじゃないから、結局AI認定喰らったのも笑えるわw”

”本当にAIなら答えられないような、かなり捻った質問やひっかけ問題も普通に返してたし、マジでこれ人間だろ”

”ツウィーターのトレンド一位に、『AIの雑談配信』が一晩中君臨してるの草”

”何だったら今もまだ一位だしな”

”これ美琴ちゃんパパ狂喜乱舞してるだろwwwww”

”製品化に向けて作った試作型AIがこんな高性能だって知ったら、心底喜びそう”

”こんだけ人間ぽく話せてスゲーって思う反面、あの映画が頭をちらつく……”

”リアルターミ〇ーターになっちゃうwww”

”そんなことより、寝起き美琴ちゃんがかなりエロいのやばい”

”ミニ丈肩出し着物だから、眠そうな顔と相まって色気がフィーバーしとる”

”スクショスクショスクショスクショスクショスクショスクショスクショスクショオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオおオオオオオオオオ!!!!!!!!!”

”エロスと可愛いが渋滞してる”

”あかん、こんなの思春期のアワーチューブくんが配信BANしちまう!”


 何を話したのかはさておいて、本当に何をしたんだと気になるが、墓穴を掘りそうなのでやめておく。

 それはさておき、コメント欄が寝起きの美琴に関するコメントで一気に埋まっていき、自分の今の姿が大分よろしくないことに気付いて顔を赤くして、両腕を胸の前で交差させる。


”あかん、何してもエロいわ”

”今いる場所が地獄だってのに、寝起きから最高のサービスショットサンクス!”

”あ゜(昇天)”

”スゥー(浄化)”

”エッッッッッッ!!!!”

”これで女子高生は無理がある(いい意味で)”

”変態しかおらんのかここはwww スクショ&お気に入り登録しました”


 もう、何も言うまい。

 ここで消す様に言ったところで、視聴者達と一緒にアイリが煽ってきて、無様を晒すことはもう何度も経験している。

 流石に何度も同じようなことを味わえば学ぶ。だから、恥ずかしさで悶えそうなのをこらえながら、寝袋にまた潜り込んで頭まで被ることにした。



 一騒動とはいかないが朝から変なものを見て、若干疲れた気がしなくもない中、もそもそと朝食を食べて、先に目を覚まして少し離れた場所で手合わせをしていた華奈樹と美桜と合流し、三人で朝稽古をして体を覚醒させる。

 それから全員が起床してから、ほとんど誰も聞いていない仁一の朝礼を経て、二日目の探索を始める。

 今日中には深層上域のボス部屋を見つけておきたいところだ。


「で、どうしてマラブさんがこっちに?」

「こっちの方が生存確率高いから」

『昨日の夕飯で餌付けでもされましたか』

「私は犬か何かだと思われてる?」


 一時間くらいしてから、深層モンスターのケツァルスという、白亜紀の恐竜の翼竜種であるケツァルコアトルスのようなモンスターと遭遇し、空をずっと飛んでて鬱陶しかったので落雷で叩き落として、班総出でタコ殴りにして倒してから、マラブがいることに気付く。

 いつの間にか自分の班にいることも驚きだが、この一時間存在を感じさせないでいることも驚きだ。

 比較的ぐっすり眠れたようで、昨日よりは顔色がよくなっているが、深い隈は消えていない。


「黒原さんから許可貰ったんですか?」

「貰ってるわけないでしょ。あいつがあなたの場所に行くのを許すと思う? 私は何としてでも地上に戻りたいの。だから全体で見て生存率がどこよりも高くて、昨日の時点で唯一被害者が出ていないこの班にいたほうが、安全だって判断して勝手に抜けさせてもらったわ」

「帰ったらそれを出しにクビにされそうですね」

「どのみち、あそこに留まるメリットはもうないし、愛着があるとはいえ言うこと聞かない連中ばっかで辟易していたから、丁度いいわ。労基違反に給料未払い、セクハラとかで訴えて、慰謝料を絞るだけ搾り取ってやるわ」

『ではその際は、私も呼んでくださいませ。個人的にブラッククロスの女性成員と連絡を取って、複数の証人を確保してありますので』

「いつの間にそんなことを……」

『お嬢様を貶めようとした罰でございます。旦那様も乗り気ですよ』


 龍博があのクランに対して法的手段に出ることは分かっているが、どうにもやりすぎそうで怖い。

 父親に限らず、母の琴音も美琴のことを心底溺愛しており、だからこそその愛情で雷電本家から離れたわけなのだが。

 この二人と合理的思考で徹底的に理詰めするAIが組んだら、それはもう何も残らないくらいぼっこぼこに叩きのめしそうだ。


「ま、少なくとも地上に戻ってすぐは無理でしょうけどね。仁一のバカ息子が、何かよっぽど酷い違反行為、それこそ撒き餌を使ってモンスター呼び寄せて、それを怪物譲渡でもしない限り、どうにかしてのらりくらり避けるでしょうね」

「随分先のことを考えているんですね」

「……まあね。それが私の仕事だし」


 一瞬だけ言い淀んだのを聞き逃さず、怪訝な目を向ける。

 それに、想定する違反行為があまりにも具体的過ぎるのも妙だ。

 過去に似たようなことを行っているから、そのようなことをするかもしれないと考えるのは自然な方かもしれないが、何が原因でモンスターを呼び寄せるのかも具体的だと、流石に不自然だ。


 撒き餌は、ダンジョンの中で使用が明確に禁止するようにと、国が探索者ギルドを通して発行しているルールブックに記載されている、モンスターを呼び寄せて更に狂暴化させる超危険物質だ。

 モンスターを倒せば核石や素材が手に入り、それを売ればお金になる。それを効率的に行うために、探索者の間でダンジョン登場初期のころに流行った丸薬だが、ただでさえ危険なモンスターが狂暴化するため命を落とす事件が多発し、今では使ったら一発でライセンスが剥奪され、二度と再取得ができなくなるほど、使用した罪が重い。

 そんなものを使ったら、探索者としての人生が一瞬で終わってしまうので使う人はいないが、どうしてそれを使うかもしれないなどと言ったのか。

 それが気になって、じーっと視線を向ける。


「ところで、どこにボス部屋があるのか当たりは付けているわけ? 無策に歩き回ったところで、体力消耗するだけだと思うけど」


 美琴のその視線から逃れるように、マラブが班長に向かって言う。

 彼女の言う通り、何の当てもなく歩き続けるのは得策ではない。

 体力を無駄に消耗しているところに、昨日のドラゴンのようなモンスターに襲撃でもされたら、ひとたまりもない。


「一応、あからさまだとは思うけど、ずっと進んだ先にある城っぽい場所を目指してる。あれがボス部屋とは限らないけど、ここに来た時からずっと存在感を放っているから」


 深層は今までと違って、洞窟のような場所ではなくどこか海外のような風景だ。それもただの風景ではなく、時代が大きく逆行しているような、そんな場所だ。

 一つ一つの建物が存在感があるが、その中でも一際目立っているのが、入った瞬間からずっと奥の方に見えている、巨大な城だ。

 どれだけ離れているのか分からないが、それでも一目で巨大だと分かるくらいには存在感があり、安直すぎる気がするがあれがボスのいる場所ではないかと考えている。


「そう。まあ、いいんじゃないかしら? ……ああいう場所って、大体コウモリとかいそうだけど。吸血コウモリとかだったら嫌だな」

「大体の創作物では、ああいう城の周りにコウモリいますものね。そういうの読んだりするんですか?」

「それなりにはね。漫画アニメは、いい息抜きだから。特に頭空っぽにして読めるものは最高ね」

「一々そういう辛そうなのが垣間見えること言わないでください」


 アピールしているわけではないだろうけど、聞いているこっちがなんだか辛くなってくる。

 せっかくこんなに美人でスタイルもいいのだから、あんな場所なんかに行かずともモデルとか女優になっていれば、安定した収入を得られただろうにともったいなく感じる。


 ブラッククロスを抜けるつもりでいるようなので、家に帰ったら琴音にマラブのことを紹介してみようかと考える。

 あのクランの元関係者だからと、最初はあまりいい目を向けられないだろうけど、自分の会社にとって有益になるのであればそういうところは飲み込む大人だ。多分、採用するだろう。モデルはモデルでも、もしかしたらグラビアとかになりそうなのはさておいて。


 とにかく進む。

 景色は中世の海外なのに、このダンジョンがあるのが日本だからか日本特有の妖怪が元のモンスターが出てきて、周りと嚙み合っていないことに若干の困惑を覚えながら、連携して倒して進む。


 今日は昨日と違って、班を三十人前後で一組に分けることでそれぞれに役割を持たせた。

 美琴達前衛、弓矢を使う中衛、術師達後衛と、班長マラブの指揮。こう分けることでごちゃごちゃすることを防ぎ、なおかつ誰が前に出るかなどを事前に話し合うことで、誰かが活躍できなくなるというのを防いだ。

 そしてそのおかげで負担が偏ることはなくなり、昨日よりは体力の温存ができていた。


 途中で宝箱らしきものを見つけたマラブが、モンスターだと言っても考えなしにそれに触れて、ひとりでに開いたそれに上半身をぱくりと噛まれて、暗いよ、痛いよ、助けてと連呼するのを見た時は、しばらくそのまま放置しようかと思った。

 ちなみにその宝箱っぽいものはミミックといい、宝箱に擬態して油断した獲物を食らうモンスターだ。実は全ての階層に存在するが本物の宝箱が一つもないので、ダンジョンにある宝箱=ミミックという認識がされている。

 大した強さじゃないのと、華奈樹が呆れながらもすぐに助け出したおかげで、着ているスーツのジャケットが犠牲になるだけで済んだ。


「うぅ……私のジャケット……」

「散々ミミックだって言ったのに、無視して近付くからですよ。ダンジョンの中に宝箱がないのは常識でしょう」

「深層は非常識ばかりだから、もしかしたら今までの常識は通用しないのかと思って、つい……」

「そんなわけないでしょう」


 ジャケットを失い、白の長袖ワイシャツにタイトスカートとなったマラブが、美琴の隣でしょげながら歩く。

 すごくくたびれたOLみたいではあるが、ワイシャツにタイトスカートだけでも綺麗だと感じる辺り、本当に容姿は整っている。

 ただ胸の膨らみが美琴よりも大きく、ボタンを少し外しているためあまりよろしくない。特に異性にとって。

 コメント欄もそんなマラブを映せと要求するコメントが見受けられるが、アイリはそれを無視してくれている。


 そんなアクシデントがありつつ進むこと数時間。

 途中でモンスターハウスに何も知らずに足を踏み入れてしまい、深層モンスターのオンパレードとなってしまったが、被害を出すわけにはいかないと雷を使って大部分を消し炭にし、残りは班長とマラブの未来予知レベルで的確な指示の下、迅速に排除して事なきを得た。

 そして現在、ボス部屋前特有の周りにモンスターの気配を感じない入り口前にいる。

 特大の木製の扉が行く手を阻んでおり、索敵系の術が使える術師と連携して美琴が城の周りを飛び回って確認するが、転送陣は見られなかった。


「もしかして、ここがボス部屋じゃない?」

「ですがこの先から異様な気配を感じます。多分ボス……だと思います」


 転送陣が見つからないので違う可能性もあるが、意識を集中させると城の中から巨大な気配を感じることができる。

 それは間違いなく深層上域のボス部屋であることを示しており、この城がこの層の主がいる場所である。


「もしかしてだけどさ、転送陣じゃなくて、その扉そのものが入り口ってことじゃない?」


 歩き疲れたらしいマラブが、近くの岩にもたれかかりながら言う。

 部屋に入るための転送陣がないのに、中にボスがいることが確定している以上、彼女の言う通りあの扉が入り口である可能性がある。

 しかし間違っている可能性もあるので、本当にそうなのかどうかを確認する必要がある。


 班の中に式神の使役に優れた呪術師がいるため、術師の姿そっくりの式神を作らせて向かわせる。

 扉に手をかけてぐっと押すと、その巨大さとは裏腹にするりと内側に向かって開く。

 その間を式神を進ませて中に入れてしばらく進ませると、扉が勝手にしまってしまう。

 呪術師が式神を操作して扉の方に戻させて内側から開けさせようとするが、びくともしない。


「っ……。破壊されました。ここがボス部屋ですね」


 式神を操っていた呪術師が、苦い表情をしながら呟く。

 本当にこんなあからさまな場所がボス部屋なのかと、なんとも言えない表情を浮かべてしまう。

 すぐさま班長が通信機を使ってボス部屋の場所を通達し、美琴達は合流するまでそこで待機することになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイリは理屈づけてずっと美琴を戦いに誘ってるからな… 中身が魔神時代の眷属でもおかしくはない
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