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70話 深層のドラゴン(一般湧きモンスター)

 こうした未知の大型モンスターと戦う場合は、むやみに突っ込まずに離れた場所から攻撃パターンを読みつつ、じわじわ削っていくのが定石。

 前衛に防御に特化した盾役がいないので、美琴達がどうにかして注意を引き付けなければいけないが、そこは美琴が派手に立ち回れば問題ない。


『胸部の膨張を確認。超轟音咆哮までおよそ三秒』

「どこから息吸ってんのよ!?」


 雷鳴を響かせながら派手にモンスターの周囲を移動しているおかげで、意識は美琴に完全に向いているが、大分生物としてはおかしい体の構造をしているため、時々よく分からない動きをして攻撃を仕掛けてくる。

 今アイリが警告したように、確かに胸部が大きく膨らんでおり、周りを破壊する咆哮が放たれるのだろう。

 しかし、その一瞬前まで美琴に対して連続噛み付き攻撃を仕掛けており、息を大きく吸うような動作など見せていなかった。


 流石にあんなものを食らったら肉片になって飛び散ってしまうので、雷の足場を作って後方に跳んで退避する。

 その直後に地面と建物が吹き飛ぶ大轟音の咆哮が放たれ、体中にびりびりと強烈な音の振動が伝わってくる。


「一体何なのよ、あのモンスター!? なんで叫ぶだけであんな破壊力があるわけ!?」

『恐らく、異常なまでに頑丈で、なおかつ拡声器のような喉を有し、一定以上の音量の咆哮をした際に物理的破壊力を持つまで強化されて、放たれるのではないでしょうか』

「だとしても異常でしょう。声に破壊力があるなんて」


 もうもうと舞い上がる砂埃を、再び放った咆哮で吹き飛ばしたドラゴンが、空中で雷の足場に立っている美琴を視界に収め、その間にある建物を無視して破壊しながら突進してくる。

 前腕が翼となっているが飛行能力はないのかと思ったが、跳び上がって建物の上に降り、それを足場にして破壊しながら美琴に向かって飛びかかり、それを避けて攻撃を仕掛けようとした時、普通に翼を羽ばたかせて急旋回してきたので考えを改める。


 冷静に考えて、ダンジョンの中に満ち溢れている霊気、大魔によって異常なまでに頑丈になっているダンジョン内物質を、こうもたやすく破壊しているこのドラゴンはかなり異質だ。

 下層でフィジカルと膂力がトップクラスなミノタウロスなら、壁に傷を付けたり、場合によっては破壊できるので、体の頑強さで破壊するならまだ理解できる。

 しかしこれは、咆哮一つで粉微塵にしている。これが一番理解できない。


 深層に来てすぐに大百足の襲撃を受け、非常に硬い甲殻にそれを利用したすさまじい破壊力、そして強い酸性を持つ毒液。

 これらから、過去の大惨事は大百足によって引き起こされたと思っていたが、このモンスターを見るとこれなのではと思ってしまう。


「征雷!」


 すさまじい風を発生させながら羽ばたいているドラゴンが、大きなアギトを開けて食らいつこうとしてきたので、足場を蹴って上に跳び、数秒駆けてから雷鳴を轟かせて、すれ違いざまに大木のように太い首を斬り付ける。

 確かな手ごたえこそあったが、鋼鉄なんかよりもずっと硬い鱗にでも覆われているのか、想像以上の硬い感触が伝わってきた。


「なんていうか、雷をまとわせないと攻撃が効かない敵が意外と多いわね」


 地面に着地して空を見上げ、滞空しながら見下ろしてくるドラゴンを視界に収めながら呟く。


「それほどまでに硬いんですね。回避行動も防御するような動きもしないのは、その鱗に絶対的な自信があるからでしょうね」

「創作物でも、龍の鱗は何よりも硬いと表現されることがあるからのう。それを忠実に再現されておるんじゃじゃろうな」

「そこまで再現してほしくなかったわよ」


 両隣に華奈樹と美桜が並び、抜刀して構える。


「あの咆哮には特に注意して。喰らったら即死」

「ダンジョン内のものが粉砕されるのを見ておれば分かる。回避のタイミングは?」

『息を吸い込んで放つという動作におよそ三秒から四秒かかりますので、吸い始めの瞬間には離れたほうがいいですね』

「なら咆哮はまだ比較的対処は容易ですね。でも指示の方はお願いしますね、アイリさん」

『かしこまりました。危険な攻撃はこちらから指示を出しますが、それ以外は班長の指示に従ってください。彼の指揮能力には目を瞠るものがありますから』

「了解。怪我はしないでよ、二人とも」

「誰に物を言っておるのじゃ。妾は十六夜の娘ぞ。この程度の敵、幾度となく戦っておる」

「それが油断に繋がるんですよ、美桜。危なくなったら秘剣を使ってください。あなたの秘剣は移動速度が高いですから、詰めにも逃げにも使えますし」

「秘剣はそうホイホイ使うものじゃないから、秘剣というのじゃぞ?」

「おしゃべりはそこまで。ほら、滑空してきたわよ!」


 力強く羽ばたいてより高い場所まで移動したドラゴンが、羽ばたくのを止めて落下するように滑空してくる。

 あの図体の大きさでの落下速度はすさまじく、すぐに音速を超えて来た。

 一足先に華奈樹と美桜は左右に分かれて退避し、美琴は動かずに下から雷を圧縮した砲撃を撃ち出すが、それは危険だと本能で察知しているのか、空中で体を捻るようにして軌道をずらし、回避する。


 すぐに攻撃を当てに行くのを諦めて、正面に向かって雷速で移動して退避し、そのすぐ後にドラゴンが墜落する。

 強烈な地響きを引き起こし、地面がめくれ上がって小さなクレーターのようなものを作り上げる。


「琴峰さん達だけに任せちゃいられないぞ! 術師! 動いていない今のうちに術を撃ち込め!」


 また咆哮で舞い上がる土煙を吹き飛ばすと、すかさず班長が指示を出して、術師達が呪文を唱えて魔術や呪術を放つ。

 様々な術がドラゴンに当たって炸裂し、動きを封じようと氷つきまとわりつくが、うざったそうに腕を軽く振るだけで拘束系の術は破られ、攻撃系の術は発した咆哮一つで弾かれる。


 そんな大量の術の合間を縫うように、鴉の濡れ羽がどんどん加速しながらドラゴンに向かって突っ込んでいく。

 接近に気付いたドラゴンは、華奈樹を叩き潰そうと大きな左前腕を振り上げるが、ほぼ同時に美琴が雷霆万鈞を使って、硬い鱗ごと斬り飛ばす。


「セェイ!」


 左腕を失って悲痛な声を上げ、右前腕で体を支えているところを、華奈樹が鋭い抜刀術を放ってたやすく両断してしまう。

 雷の速度で移動しながら斬り付けても大したダメージを入れられなかったのに、どうして華奈樹がこうもダメージを与えられるのか。

 それは彼女が生まれ持つ、呪術でも魔術でも、ましてや魔法でもない、超能力の部類に入る特殊な目を有しているからだ。


 死壊の魔眼。

 その瞳で捉えたものは、全てのものが平等に持つ「いつか訪れる死」が「華奈樹によって与えられる死」に書き換えられ、その目を持つ彼女だけあらゆる強度を無視して破壊できる。

 魔眼で見られた状態で傷付けられると、怪異であれば再生能力は著しく低下し、人間であれば魔法でない限り二度と治すことができなくなる。なにしろ、傷付けられた場所は文字通り殺されているから。


 人を殺してはいけないと言う法律があり、そう躾けられてきた華奈樹は、その魔眼は人に対しては効力を発揮することはまずないが、できるならば怪異にも使いたくないと語っていた。

 そんな魔眼を使って戦っているということは、自分の感情と周りの人の命を天秤にかけ、人命を優先したということだ。

 そもそも、こうでもしないと彼女の九字兼定は折れてしまうのだが。


 両腕を失ったドラゴンは地面に倒れるが、すぐに先に斬られた左腕を再生させてから、右腕を再生させようとする。

 しかし華奈樹の魔眼で見られた状態で斬られたため、その再生は著しく低下している。

 中々再生しない自分の腕を見て、何を思ったのか自らその腕に食らいついて食い千切った。


「……頭よすぎじゃない?」


 どうしてそんな行動をと疑問に思うよりも先に、ドラゴンがその行動の答えを示す。

 斬られた部分が死んで再生できないなら、それよりも上の部分を自ら破壊することで、再生できるようにしたのだ。


”腕食い千切ったと思ったら、そっから再生した!?”

”なんでそんなことしてんだよこいつ”

”なんか華奈樹ちゃんが付けた傷の治りが遅くなってなかった?”

”もしかして、治りが遅くなってるから自分で自分を傷付けて治りを早くしたの!?”

”どんな頭脳してんだよこいつwwww”

”現実でもドラゴンは頭がよかったよ……”

”今のところドラゴン系の魔物は地上でほとんど確認されていないけど、こいつが地上にいなくてマジで安心してる”

”つか咆哮で物理破壊って、どこのモンスターだよwwww”

”ぜってーあれにトラウマを植え付けられたことが原因で、発生したモンスターじゃねーか”


 ドラゴンは創作物では、人間よりも遥かに頭がいい存在として書かれていることが多いが、そこもきっちり再現されているようでうんざりする。


 現状、華奈樹と美琴が一番ダメージを与えており、華奈樹が近くにいるためか彼女を標的にして、息を吸う動作を見せずに胸部を膨らませる。

 それを見た華奈樹は大急ぎで離れようとするが、ドラゴンはそんな彼女を追いかける。

 このままでは幼馴染を殺されてしまうと、雷速で踏み出して間合いを詰め、咆哮を発しようとしているアギトを真下から蹴り上げることで強制的に閉じさせ、仰け反らせてから轟音と共に飛び込んで横蹴りを叩き込み、距離を離してから華奈樹のところに戻る。


「助かりました」

「無茶はしない。あまりその眼を使うと、あれに脅威認定されて付きまとわれるわよ」

「そうなったら美琴にお願いします」

「人を厄介払いに使わないの」


 じとっと睨むと、少しおかしそうにくすりと笑う。

 初めて見るモンスター相手に緊張はしているようだが、そんなに酷くないようで安心する。


 蹴り飛ばしたドラゴンの方を見ると、怒り心頭といった様子で黒かった目が赤く染まり、黒い体に赤い血管のようなものが浮かび上がっている。

 そこから目いっぱい息を吸い込み、ドゴォンッ!!! ともはや爆撃のような大爆音の咆哮を轟かせる。

 先ほどよりも破壊する範囲が広くなっており、これはまた面倒だと眉をハの字にする。


 攻撃をしないと倒せないが、ダメージを与えると怒り、怒ったら攻撃力が増す。

 しかもその怒りが一段階だけなのか、はたまた数段階残されているのか分からない。

 このまま攻撃を続けてもいいのだろうかと考えてしまうが、周りを破壊しながら突っ込んできている以上戦わざるを得ない。


「万雷!」


 その場から散開して距離を取り、移動しながらその場に雷をとどまらせてから、それらを一斉に放つ。

 雷鳴に雷鳴が重なり、その雷鳴をまた別の落雷がかき消す。

 二鳴を強化優先で開放しているため、一撃一撃の威力が低くなる万雷でも、ドラゴンの体を削っていく。


 しばらく、雨のように降り注ぐ雷を受け続けていたが、動作なしで胸部を大きく膨らませて、また爆撃のような咆哮を轟かせて雷を弾くと言う芸当を見せた。


”はああああああああああああああああああ!?”

”美琴ちゃんの雷を咆哮で弾いたぞこいつ!?”

”えぇ……(困惑)”

”これがダンジョン深層の、ボスでもない一般湧きモンスとかマ?”

”冗談抜きで地獄すぎる”

”十年前は半分以下しか帰ってこれなかったことに批判殺到してたけど、これ見てよく分かった。こんなやべー化け物と戦って半分殺されるだけで済んだんだ”

”咆哮一発で雷防ぐのも意味分からんけど、華奈樹ちゃんが美琴ちゃんみたいな特殊能力なしで、あのかったい鱗ごと腕斬ったのも理解できん”

”美琴ちゃんがその眼をーって言ってたし、もしかしたら魔眼持ちなのかもな”

”美琴ちゃんの周りに、希少能力者しか集まらない件”


 あまりの声の大きさに、少し距離が近かったからか耳鳴りを感じて顔を歪めていると、咆哮が終わると同時にどこかに身を潜めていたのか、美桜が飛び出して懐に潜り込む。

 刀と脇差ですさまじい連撃を叩き込み、それらが見事に硬い鱗に弾かれてから、ドラゴンは懐にいる美桜を排除しようとがむしゃらに暴れ出す。


 彼女はそれを冷静に観察して潜り抜け、暴れるのが落ち着いてからまた連撃を叩き込み。

 ただむやみに打ち込むのではなく、鱗と鱗の隙間や関節といった、比較的攻撃が通りやすそうな場所を斬っている。

 やはりそういう場所は硬くなっていないようで、じわじわとダメージを与えて行っている。


「三人とも! 一回離れてくれ!」


 ドラゴンからすれば小さな体な美桜がちょこまかと動き回るのが鬱陶しいのか、攻撃がだんだんと大振りになり始めたところで、班長が三人に指示を出してきた。

 彼の優秀さは認めているので、何か策でもあるのかと思って素直に従う。

 もちろん追いかけられたが、術師達が足止めをしてくれたおかげで、班に被害が出ることはなかった。


「あのドラゴンの観察をして思いついたんだけど、十六夜さんは素早さと手数の多さ、刀崎さんは一刀の鋭さと重さ、そしてあれの鱗を難なく斬ることができる何か、そして琴峰さんは誰よりも高い火力。三人の長所を使って、あれを倒す方法を思いついたんだ。聞いてくれるかな」


 あのドラゴンの倒し方を思いついたという班長の言葉を、一瞬信じられなかったが、彼の目が真剣そのものであり冗談でも何でもなく、その作戦に自信があるのが窺えた。

 ここは彼の作戦に従おうと頷き、思いついたという作戦を聞いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 轟竜(笑)
[一言] ティガ◯ックスじゃん!ティ◯レックスじゃんこれ!!
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