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58話 姉に贈る手作りのチョコといちご色の感謝と愛情

 灯里とデュオパーティーを組んでから一週間が経過した。

 美琴はこの一週間で着実に力加減を覚えていき、灯里はめきめきと成長していった。

 出会ったばかりの頃の、ダンジョンに不慣れで目に見えていた経験の浅さはなくなっていき、ぎこちなさや所々の判断ミスはあれど、ソロで中層に潜っても問題ないくらいにはなった。

 もちろん一週間も一緒に組んで背中を預けて、危険地帯に足を踏み入れていたのだからその分親交も深まり、灯里が美琴のことを先輩ではなくさん付けで呼ぶようになったこともあり、距離も大分近くなった。


 今日も今日とて配信をするのだが、ダンジョンに潜ってばかりでは肉体的にも疲れ果ててしまうので、今回は自宅での配信だ。

 雑談枠にしようかと思ったが、灯里が料理を教えてほしいとお願いしてきたので、自宅に招いてお料理教室配信をすることになった。


「きょ、今日はよろしくお願いします」

「すまないね、私まで招待してもらって」

「いえ、お気になさらず。正直、雅火さんがまだ日本にいることに結構驚きましたけど」

「イギリスの魔術協会の連中を一つおど……説得してね。二週間こっちにいられるようになっているんだ。誕生日だけ日本に帰ってきて、次の日にはいさようならじゃ、あまりにも寂しいだろう?」


 今とんでもないことを言いかけたようだが、聞かなかったことにする。


「しかし、雅火さんも配信に映っていいんですか?」


 長い髪をヘアゴムで束ねながら、キッチンの入り口付近で綺麗にしてあるキッチンをまじまじと見ている雅火に聞く。


「前に思い切り入り込んだし、別に顔も割れているからな。余計なことさえ話さなければいいんだろう? 私はどうしても料理がからっきしだから、灯里の頑張っている姿を写真に収めるためにちまちま映り込む程度にするよ。それよりも、素材的にお菓子作りなのは見てわかるが、どうしてここにマグロがある?」

「それはおじいちゃんのご飯兼おやつです」

「おじいちゃん?」

「あ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ん゛」

「うわっ!? って、今のこの猫の声か?」


 キジトラの二十歳の老猫のあーじがのそのそと歩き、がなりの入った鳴き声を上げながらキッチンに入ってくる。

 ここ数日、魚を料理することが増えたこともあって、キッチンに立つとこうやって鳴き声を上げてやってくるようになった。

 年上でそれでいて可愛くて仕方ないので、ついつい魚をあげてしまう。

 早くそのマグロを寄こせと、前足で左足をちょいちょいと触ってくるので、一昨日切れ味が悪くなっていたのでしっかりと研いだ包丁で、端っこを薄く切ってあげた。


「そろそろ始めるので、雅火さんはおじいちゃんを連れてリビングで待っていてください。抱っこしても暴れないので大丈夫ですよ」

「本当か? 私も猫は好きだが、どいつもこいつも元気がよすぎるせいかよく引っ掻かれるんだ」

「大丈夫ですよ。ほら」


 もっとくれと催促してきているあーじをひょいと抱き上げ、「お゛お゛お゛ん゛?」と鳴くだけで暴れない。

 それを見て少し安心したのか、雅火はあーじを受け取って一旦キッチンから退避する。

 雅火がキッチンから離れたのを確認すると、アイリに合図を出して配信を開始させる。


「眷属の皆さん、こんにちわ! 琴峰美琴の料理配信の時間だよ!」

「こ、こんにちわ! その、美琴さんのおうちにお邪魔しています!」


”おおおおおおおおおおおおお!!!”

”高身長美少女×小柄ロリのポニテエプロン最高すぎ!”

”これは開幕スクショ連射じゃあああああああああああ!!”

”どんどん写真ファイルが美少女と美幼女で埋まっていく”

”料理配信なんだか久々だね”

”灯里ちゃんいるから今日は激辛じゃないよね?”

”小さな女の子が激辛食べて涙目になっているのを見るのもまた乙なものだけど”

”今日は何作るんですか!?”

”頼むから視聴者プレゼント企画で、美琴ちゃんの作った料理を送る企画やってくれ!”


 開始早々、すさまじい速度で大量のコメントが続々と送られてくる。

 大バズりした後の配信の時に、初めて濁流のようなコメントを見た時は変な声を出したり頭がバグりそうになったが、ほぼ毎日見ていれば慣れてくるものだなと、しみじみ思った。

 代わりに、灯里があの時の美琴と同じようなリアクションを未だにしており、とても微笑ましい。


「視聴者プレゼント企画は、アイリと両親と一緒に今色々と話しているところなんだ。具体的には何とは言わないけど、企画していることだけは出していいって昨日言われたの。先に言うけど、私の手作りお菓子のプレゼントとかじゃないから期待しないでね」


 流石に食べ物系のものはいけないだろうと思っているので、それこそ自分でお店を構えるくらいなことをしないと、視聴者に美琴の手作り料理は届くことはないだろう。


「今日はお菓子を作って行くんだけど、今回作るのは灯里ちゃんのリクエストなんだ」

「そ、そうなんです。その、マカロンを作ろうかなって。でも作るのがすごく難しそうだから諦めてたんです」

「お菓子作りは極端だからねえ。マカロンはかなり難しいし、レシピ見ながらやっても最初は平べったいマカロンもどきになっちゃうのよ。こればっかりは繰り返しやって覚えるしかないわね」


 マカロンという作るのが難しいものにしたのは、雅火が以前仕事でフランスに行った際に、そこで食べたマカロンがすごく美味しかったと嬉しそうに語っていたことがあり、次は自分で作ったものであの顔をさせたいからと実に姉妹愛溢れる理由だ。


「それじゃあ早速作って行きましょう。まずは生地作りから……と行きたいけど、先にこれやっちゃうとガナッシュがちゃんと固まらないから、先にガナッシュから作りましょう」


 これも美琴が過去に経験した失敗だ。

 どうせ生地を作って乾かして焼いている間に固まるだろうと思っていたのだが、見事に失敗してチョコレートガナッシュが生地から垂れてしまい、服についてしまった経験がある。

 それ以降は先にガナッシュを作ってから、生地を作るようになった。


「今回作るのはチョコレートでいいんだよね? 一応バタークリームも作れるけど」

「うっ、ちょっと悩みます……。両方って、難しいですか?」

「平気よ? 小さめな絞り袋もあるし、作る量を調節すればいくつか種類の違うの作れるわよ」

「じゃあ、チョコレートと、バタークリームにします。イチゴ味にできますか?」

「いちごジャムあるからいけるわね。生地にはアイシングカラーを使うけどいい?」

「はい」

「よし。それじゃあ始めましょう」


 まずは宣言通り、中のガナッシュから作る。

 先にチョコレートの方を作ってしまいたいので、生クリームとビターチョコを用意する。


「じゃあこの小さなお鍋に生クリームを五十ミリリットル入れて、沸騰寸前まで温めてね。周りに小さな泡がぷくぷく出てきたら合図だから、それが出てきたら火を止めてね」

「分かりました」


 言われたとおりに鍋に入れた生クリームが沸騰しないようにじっと観察し、教えた通りのタイミングで火を止める。


「次にビターチョコを割り入れて、溶けるまでゴムベラでよく混ぜ合わせる。混ぜ合わさったらボウルに移すから教えてね」

「これってどれくらい冷やすんですか?」

「んー、粗熱を取るのに三十分くらいかかるから、それ含めると一時間半くらいかな。先に作ったほうがいい理由、分かったでしょ?」

「しっかりレシピに従わないと、美琴さんでも失敗するんですね……」


 行けるだろうと過信して後回しにした結果、服に染みが付くという大惨事だ。クリーニングに出してどうにか染み抜きできたが、もう二度とあんな失敗はしたくない。


 ゴムベラを受け取った灯里がぐるぐるとチョコレートが溶けるまで混ぜ、そこに少し砂糖か何かを入れて味を調えたら美味しそうなそれを、ボウルに移して粗熱を取る。

 その間に苺バタークリームの制作に取り掛かる。

 もしかしたら使うかもしれないと思い、室温に戻しておいた無塩バター三十グラムを泡だて器でクリーム状にして、そこに粉砂糖十グラムといちごジャム大匙いっぱいを加えてさらに混ぜる。

 これはチョコレートガナッシュのように、熱したり溶かしたりなどの作業がないので、これだけで終わりだ。


「ちょっとだけ味見をして、もうちょっと甘みが欲しかったらジャムか粉砂糖のどっちかを加えてね。私は甘さが欲しい時は粉砂糖を使ってるかな」

「ジャムじゃないんですか?」

「今使ってるのって言うか、うちにあるジャムってあまりお砂糖使ってないのよね。だからこのいちごジャムも、甘いって言うより甘酸っぱいの。ちょっと食べてごらん?」


 そう言いながら小さな木匙ですくって、それを灯里の口元に持っていく。

 さっと頬を赤くするが、若干躊躇ったのちにぱくっと食べる。

 もにゅもにゅと口元を動かしているのが小動物っぽさがあって、とても可愛い。


「……本当、ですね。ちょっと酸味が強めというか」

「でしょ? だからジャムじゃなくて粉砂糖を入れるの。じゃあ、次は生地作りに行きましょう。ここで注意するのは、絶対に目分量でやっちゃダメ。お菓子作りでそんなことしたら、完成品が泥か岩みたいになっちゃうから」

「そ、そんなにですか?」

「そんなによ。だから何があっても、グラム単位でしっかりと計ること。お砂糖は別だけど」


 甘さ控えめが好きなので、お菓子を作る時は大体レシピより少なめに使っている。


「まずはどっちから作る? こっちもチョコを優先する?」

「そうします」

「それじゃあ、まずはこのボウルの中に(ふるい)を置いて、そこに粉物を全部混ぜちゃって」


 使用する粉物は、アーモンドプードル百八十グラム、砂糖百二十グラム、メレンゲ用に百グラム、ココアパウダー十グラムだ。イチゴマカロンの色付けはアイシングカラーを使うため、ここではまだ出番はない。

 先に用意しておいたアーモンドプードルと砂糖を、しっかりと計って九十グラムと六十グラムを篩に入れ、ココアパウダーを小さじ二杯入れる。

 それからその下にあるボウルに粉物を振るい入れていく。


”お菓子作りって大変だって言うけど、本当に手順が多いね”

”これを趣味にしている人を、美琴ちゃんの配信を観ることで純粋にすごいと思うようになりそう”

”構図が妹に料理を教えるお姉ちゃんの図すぎててぇてぇ”

”もうこの配信画面がずっとてぇてぇよお……”

”心の、いや、魂の底から今すぐにでもその場所に行って、この二人の料理風景を網膜に焼き付けたい”

”この二人がいる場所はきっと、とてもいい匂いがするんだろうな”

”いつでもどこでも必ず変態が湧くの勘弁してくれwww”

”百合に挟まろうとする野郎は情状酌量の余地なく死刑だ!”


 灯里が不慣れな手付きで振るい入れているのを見ながら、盛り上がっているコメント欄を見て、今日も平常運転だなと少し困ったような笑みを浮かべる。


「終わりました」

「よし。じゃあ次はメレンゲ作りだね。卵白と卵黄の分け方は分かる?」

「わ、分からないです」

「ふふっ。じゃあここは私がやるから、見ておいてね。そんなに難しくないから、すぐにできるわよ」


 卵白と卵黄を分ける分離器という非常に便利なものがあるが、美琴はそれを使わずに、卵を割ってから半分になった殻を使って分けている。

 卵黄を左右の手に持った殻を数回行き来させると、卵白だけがその下にあるボウルの中に落ちていく。

 このやり方を教えてくれたのは、料理上手な母ではなく父親だった。あの見た目で料理も結構上手で、実はこっそり料理本を出していたりもする。売れ行きはあまりよろしくないらしいが。


 卵二個分の卵白を分けた後、残りの半分は灯里にチャレンジさせてみる。

 一個目で早速分けるよりも先にボウルの中に落下させてしまったし、その次は少し卵黄が崩れはしたが、分離器を使わずに分けることに成功した。


「ハンドミキサーでやるのが主流だろうけど、正直面倒なのよね。というわけで、これの出番です」

「これってフードプロセッサーですよね? これで泡立てるんですか?」

「そうよ。このブレードの部分、取り外し可能なアタッチメントで、ミキサーに早変わりするの。これを知っちゃうと手動でやるのが馬鹿らしくなっちゃうくらいには便利よ」


 楽できるところはしっかりと楽をする。それが美琴のやり方だ。

 卵白二個分をミキサーの中に入れ、スイッチを押して白っぽくなるまで混ぜる。もちろん自動なので、それはそれはとても楽だ。


 蓋の部分に砂糖などの粉類を入れる穴があり、一々止めることもせずに砂糖を四回に分けて投入する。

 これがハンドミキサーだったら一回一回止めないといけないが、この固定ミキサーは動かしたままできるから本当に楽で仕方ない。

 欠点は、ハンドミキサー以上に後片付けが面倒なことだが、それについては目を瞑れば問題ない。


 マカロンの生地を作るのに必要なメレンゲは、少し硬めで、角が立つくらいだ。

 そこまでしっかりと混ぜ合わせたらボタンを押して止め、出来上がったメレンゲを粉物の入っていないボウルに移し、数回に分けて粉物を加えながらメレンゲを潰さないように混ぜる。


「さてと、ここが一番難しいところよ。メレンゲがつぶれないように混ぜた後だけど、次は泡を潰すようなイメージで側面に押し付けながら混ぜるわよ」

「せっかく丁寧に混ぜたのに……」

「そう思うわよね。でもこの工程、マカロナージュって言うんだけど、これをしっかりやらないと生地に空気が残りすぎて焼く時に表面が割れちゃうの。ちなみにやりすぎてもダメ。今度は膨らまなくなっちゃうから」


 とても薄っぺらいマカロンもどきが完成した時の、なんとも言えないあの時の感情が蘇ってくる。

 あの失敗があるからこそ、今は上手に作れるようになったと言っても過言ではないだろう。


 ゴムベラですくい上げた時に、リボン状に全体が繋がりゆっくり落ちるくらいになるまでマカロナージュしてから、丸口金の付いた絞り袋に生地を入れて、天板の上に敷いてあるクッキングシートに三センチ程度の大きさになるように絞り出す。

 一個ずつ絞り出していき、全て使い切ってから表面が乾くまで一時間ほど放置する。そしてその間に、今度はいちごマカロンの生地を作る。


 やり方はさっきとほとんど一緒で、ココアパウダーを抜いた全ての粉物を振るい入れて、硬めのメレンゲを作ってさっくり混ぜて、アイシングカラーを三滴入れてまた混ぜて、マカロナージュして絞り袋に移す。

 使っているオーブンが天板が二個付けられるタイプなので、もう一個の天板にクッキングシートを敷いて、同じように絞り出していき、同じように乾くまで放置。


 チョコレートガナッシュも粗熱が取れたので、ラップして冷蔵庫の中に入れて冷やし、待っている間暇なのでタイマーを掛けてリビングに出る。


「ん? なんだ、もう終わったのか?」

「ううん、まだ。今生地を乾かしてるの」

「随分と手間のかかるんだな、マカロンって。こんなに手間と時間をかけて作ってくれるんだ。きっと美味いんだろうな」

「初めて作るからあまり期待しないでね」

「お前が作るものだ。美味いに決まっている」


 優しい笑みを浮かべながら灯里の頭を撫でる雅火。

 彼女の口には煙草が咥えられているのを見た瞬間は驚いたが、よく見るとココアのシガレットだったのでほっとする。


”なんか雅火さんおるうううううううううううう!?”

”ナンデ!? マホウツカイナンデ!?”

”もうとっくにイギリスに戻ったのかと思ってた”

”先週とほぼ変わらん格好してる”

”膝に美琴ちゃんちの猫爺が乗ってるんすけどwww”

”くつろいでんなあ”

”人んちで煙草はよせと言おうと思ったけど、あれココアシガレットか”

”何か咥えていないと口寂しい系か”


 そういえば彼女がここにいることは説明していなかったなと、若干混乱しているコメント欄を見て思い出す。

 だがすぐに落ち着きを取り戻し、予想外のスペシャルゲストのようなものだと受け入れた。


「暇だったんで君の家の中の電子機器とかを観察していたんだが、どれもいいものばかりだね。当然と言えば当然か」

『調理器具以外は全て、旦那様の自社製品です』

「だろうな。この中に一つだけ違う電機会社のものが混ざっていたら、違和感が凄まじいだろうな」


 椅子に座ったまま部屋をぐるりを見回す雅火。

 アイリも言った通り、家の中にあるほぼ全ての電子機器はRE社製のものだ。

 テレビもエアコンもスピーカーも、美琴の自室にあるパソコンだって何もかもがRE社製だ。

 配信者活動の初期のころ使って、アモン戦で壊れたあの中古カメラは別会社のものだったが、あの後で買い替えたカメラはしっかりとRE社のものになっている。

 こうして図らずとも他会社のものと比較できる状態になったわけだが、中古と新品で性能の差はあれど、やはり龍博の会社で作っているものの品質は非常にいい。


「ところで、美琴。君はいつ、歌ってみたを出す予定だ?」

「うっ……」

「……よもや、のらりくらり躱してうやむやにするつもりじゃあるまいな?」

「そ、ソンナコトナイデスヨ」

「そうかそうか。なら目を見て言ってくれないかな? どのみち君の父君も乗り気なんだし、逃げられはしないぞ」

『そうですよお嬢様。旦那様も今、どのマイクとインターフェースにしようか、仕事の合間に考えておられるようですし』

「しっかりと仕事してお父さん……」


 雅火に言われなくても、逃げられないことくらい分かっていた。

 既に案件を出す準備が整っていて、あとはどのマイクとインターフェースを使って、どの歌を歌うのか考えている段階だ。

 正直ここでどうにかしてうやむやにしたかったが、ほぼ毎日視聴者からはまだかと催促され、今日もこうして魔法使いから言われたのだから、手術の縫合用の糸程度はあった逃げ道も断たれた。


 そんなやり取り以外にも、せっかくイギリス魔術協会所属の魔法使いがいるんだし、魔術や魔法についてのあれこれのQ&Aみたいなことをしながら時間を潰す。

 知らないことがたくさん聞けて有意義に時間を使っていると、タイマーが鳴った。

 キッチンに戻って乾燥させていたマカロンを確認して、アイリに頼んで百五十度に予熱しておいたオーブンの中に入れて、表面が膨らみ周りにピエが出てくるまで十三分焼き上げる。


 きちんと綺麗に膨らんで満足げに頷いてから、粗熱を取ってその間に絞り袋に苺バタークリームとチョコレートガナッシュを入れる。

 チョコレートガナッシュもしっかりと冷えて、かつて美琴がやったように液体状になって絞り袋の口から垂れて来るなんてこともない。

 美琴がチョコレート、灯里がいちごマカロンにそれぞれガナッシュを絞っていき、生地でサンドして完成する。

 手間と時間をかけて完成したマカロンは、若干大きさと形が揃っていないが上手くできた。


 出来上がったそれらを、お菓子袋にチョコといちごを一個ずつ入れたのを四個作り、大きめの袋に入れて赤のリボンで口を縛り、少し緊張した様子ではあったがそれを雅火に手渡していた。

 最初は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、最愛の妹からプレゼントされたことがよほど嬉しかったのか、涙を浮かべながら大好きだと言って抱きしめていた。


 そんな二人を、なんて綺麗な姉妹愛なんだと、ちょっぴり羨ましさのこもった目を美琴は向けていた。

 その後、美琴に気付いたあーじが雅火の膝から降りて、早く残りのマグロを寄こせとすごい声で催促してきたので、洗い物を先にしてからマグロを切って三人で順番にあげていった。

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