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43話 ダンジョンピクニック

 ようやく自分自身で力を分割できるようになり、残った半分の力を加減しながら矢を作っては試すを数度繰り返し、やっと常識の範囲内の威力に落ち着いてきた。

 彩音達三人がモンスターを足止めして、美琴が弓矢で牽制、あるいは体の一部を削ぎ落し、灯里が止めを刺す。

 普段から近距離ばかりで、こうやって離れた場所から援護することが初めてでややぎこちなさを感じるが、彩音達が援護しやすいように立ち回ってくれてやりやすい。


 それに、援護しやすいように立ち回っているのを見て、ものすごく勉強になる。

 なるほど、確かにダンジョン攻略配信黎明期からこつこつと地道に実績を積み、七十万人という登録者を大バズりなしで獲得できるわけだ。


「ここくらいだったらいつも安全マージン確保できているけど、やっぱ人数増えるだけでより楽になるね」


 倒したモンスターの核石を拾い上げ、それをしまいながら彩音が言う。

 今回パーティーに未成年が二人いるということで、素材の持ち出しは成人がいても不可能だ。代わりに核石だけであれば持ち出して換金可能で、その換金したお金もギルドの職員のいる目の前で山分けする必要がある。


 美琴は未成年でも核石だけなら換金できるようになる試験、『未成年限定換金承認試験』を合格して、その許可証を持っているので何も言われなかったが、灯里はまだその試験を受けていないそうなので、ギルド職員も少し曖昧な表情をしていた。


「さってとー。そろそろいい時間じゃないかしら? 近くにモンスターが来ない安全地帯があるはずだし、そこに行きましょう」

「もうそんな時間か。あっという間だなー」

「もう腹ペコだぜ。……正直、今日の昼はかなり楽しみにしてんだよな」


”昼だー!”

”美女美少女達と一緒にご飯を食べられるしんちゃんかっちゃんが超羨ましい”

”この勝ち組イケメンどもが!”

”オラ、そこ変われや!”

”いくら払ってもいいから、美琴ちゃんと一緒にご飯を食べられる権利をくれ!”

”死ぬほど妬んでる奴がいて草。ところで、いくら払えば美琴ちゃんと一緒にご飯食べられる?”


「あはは……。眷属のみんな、落ち着いて、ね?」


 慎司と和弘にすさまじいヘイトが向き始めたので、落ち着くようになだめる。

 それすらも美琴に庇ってもらえているとして、余計にヘイトが向きそうになったが、友人を酷く言う人は嫌いだと言ったらすぐに収まった。


 時刻は十二時を若干過ぎた頃で、ずっと歩き続けて何度も戦闘を繰り返したため、腹の虫が鳴っている。

 今日の昼食は、美琴が作ってくる手はずになっていた。というのも、二度もコラボが中断されて、三度目もわがままに近い形で組んでくれたので、これくらいはさせてほしいとお願いしたのだ。

 それから進むこと約十分。一行はモンスターが湧かないし寄ってこない、安全地帯に到着する。


「わ……。ここ、すごく不思議な感じです」


 足を踏み入れた瞬間、灯里が興味深そうにきょろきょろと見回す。


「面白いでしょ? ここはモンスターが近付きたくないって思う、プラスのエネルギーが強いの。だからここに引きずり込んだらそれだけで消滅するし、ここに入れば追われててもこれ以上は入ってこないよ。遠距離手段を持っているモンスターとかだと、あまり意味ないけど」


 その様子が可愛くて、微笑みを浮かべながらその場所について軽く説明する。

 呪術師からすれば霊気、魔術師は大魔と呼ぶ地球そのものから無制限に生成される、術師に限らず全てのものに必要なエネルギー。

 呪力と魔力はこれを取り込み、心臓や丹田に魔力刻印や呪力刻印を持つ人の身が、負の感情を用いて霊気や大魔を呪力・魔力に変換する。


 負の感情でそれらに変えられるなら、その逆の正の感情でも作れるのではと思うが、可能には可能だが効率が死ぬほど悪い。

 負の感情なら一の霊気・大魔を、人によるが最低でも一、最大で十の呪力・魔力に変えられるが、正の感情だとその効率は一億分の一ととにかく効率が悪い。

 なので人の手でプラスの魔力や呪力は作れないが、ダンジョンの中は不思議でいっぱいだ。

 魔力でも呪力でもないが、モンスターが絶対に近寄らないプラスのエネルギーが生成され続ける、特殊なエリアが存在する。それこそが安全地帯と呼ばれる場所だ。


「まあ、遠距離攻撃手段を持っているのが来たら任せて頂戴。弓術の練習になるし」

「美琴ちゃん、既にその辺の弓使いより腕がいいんですけど?」

「やるからには徹底的に、です」


”こだわりだね”

”料理とかにも結構こだわり持っているっぽいし、そりゃ武術にも持つわな”

”だとしても、百メートル離れた場所からピンポイントで眉間とか心臓撃ち抜くとか、異常なんですけど”

”雷神であり、武神でもあられられたか”

”なんだかんだで学校バレしててその情報から勉強できるの確定で、家事全般できることは本人の口から教えられてるからこれも確定で、運動もできるとか、超人女子高生じゃん”

”ハイスペックすぎて、お付き合いできても釣り合わなさそう”


 昌もポンコツを除いた美琴の完璧っぷりを見て、真剣に美琴と恋愛したい紳士な男子は近寄りがたく、遊びたい、ただ単に美琴を自分のものにしたいと思う男子ばかりが寄ってくると言っていた。

 アモン戦以降で色々と知られることとなり、それから告白回数も増えたが、本気で好きになってくれているわけではないのが分かるので、毎回断っている。そしてその都度、真に好きになってくれる人はいるのだろうかと、昌に愚痴っている。


 コメント欄を見ながら、果たして本当にいるのかなと思いながら、ブレスレットの中からレジャーシートと、今日のお弁当の入ったバスケットを取り出す。


「前に薙刀がどこから出ているのか気になっていたけど、そのブレスレットからだったんだね」

「そういえば説明していなかったですね。これは十六歳の誕生日の時に、霊華さんが贈ってくれたものなんです。こんな機能が付いているとは予想外でしたけど、すごく便利ですし可愛いので重宝しています」


 履き物を脱いでシートの上に上がって座る。

 場所が場所だが、こうして人と一緒にピクニックのように食事するのは、なんだか気分がいい。

 コメント欄に踏んでほしいとか、美琴の履いている厚底草履が欲しいとか、変態コメントが流れていくのを尻目にコップなどを出して準備する。


「彩音先輩、慎司先輩、和弘先輩、昨日のいきなりのお誘いを受けてくださりありがとうございます。そのお礼として、たくさん作ってきたので、ぜひ」


 そう言いながらバスケットの蓋を開ける。

 作ってきたのはサンドイッチと手軽なものだが、具材はかなりこだわった。

 定番の野菜とハムや卵サンド、ツナ、肉と野菜たっぷりのアメリカンクラブハウスサンド、クリスピーチキンにピリ辛チリソースを合わせたものや、ローストビーフサンドとちょっと豪華なものからフルーツサンドと、たくさんある。

 正直作りすぎたのではと思ったが、残ったら残ったで持ち帰って食べればいい。


「うわ、すっげ」

「どれも超うまそうじゃん! マジで食っていいの?」

「いいんですよ。さ、好きなものをどうぞ」


”うわあああああああああ!! 超美味そうで羨ましいいいいいいい!!!”

”場所を教えろ! 今すぐそこに行くから!”

”サンドイッチ屋開けそうなくらい、レパートリー豊富じゃん”

”あの鶏肉のやつ、食わなくても分かる。絶っっっっっっっ対美味い”

”ローストビーフサンドまであるううううううううううううううううう”

”やっべえ、今普通に飯食いながら見てんだけど、正直そっちの方が食いてえ”

”超美人現役JKの手作りサンドイッチ食べられるとか、どんな徳を前世で積んだんだよ!!”


『お嬢様。副業で何かお店を開くのはどうでしょうか?』

「え、嫌よ。あくまで趣味の範疇だし、これ以上面倒な手続き増やしたくないし」


 アイリがサンドイッチを映しながら、店を開いたらどうかと提案するが、今の時点で確定で面倒な手続きがこの先スタンバイしているので、これ以上増やしたくないからと即答する。

 それに合わせてコメント欄がすさまじい速度で流れていくが、改めて店は開かないと宣言しておく。


「んー! 何これ美味しい!」

「辛! ……いけど、これ行けるな」

「ローストビーフなんて、家で作れるものなのか? 前やったら中まで火が通って、なんか悲しい気分になったんだけど」


 彩音達三人は卵サンドやピリ辛クリスピーチキンサンド、ローストビーフサンドを手に取って食べ、美味しいと言ってくれる。

 灯里はというと、真っ先に苺のフルーツサンドを取って、幸せそうな表情でもぐもぐとハムスターみたいに口いっぱいに詰め込んで食べている。


「料理は食べるのも作るのも好きで、せっかく作るなら美味しいものを、が私のスタンスなんです。お口にあったようでよかったです。……ん、あ、ちょっと辛い」


 ピリ辛クリスピーチキンを取って食べ、チリソースが少し多く入っていたのか、思っていたより辛みが強かったが、あの時ほどじゃないので普通に食べられる。


「ご両親が普段仕事で忙しくて、家事全般は一人でやってるんだっけ?」

「そうですね。将来嫁ぐんだから覚えて損はないって、叩き込まれました」

「結婚云々関係なく、家事は全部できたほうがいいよね。一人暮らしするにも必須だし」


 実質一人暮らししているようなものなので、本当に料理ができてよかったと思っている。

 もし料理ができないまま今の環境にいたら、毎日ではないにしろあまりいい食生活はしていないか、あるいは作ってもあまり美味しくないものを作っていただろう。

 一人で食事をする寂しさというのはどうしたってあるが、それ以上に料理ができるようにと教えてくれた母親に感謝している。


「やっぱ美琴ちゃんもそういう結婚願望ってのはあるのか」


 ローストビーフサンドが気に入ったのか、二個目を手に取った和弘が聞いてくる。


「そりゃありますよ。人並みに恋愛だってしたいですし、結婚だってしたいです。後者は、両親の仲睦まじさを見ているが故ですかね」

『今でも非常に仲がよろしいですからね。仲がよすぎるくらいに』

「去年くらいにお母さんが、夫婦仲を良好に保つ方法ってタイトルで本出してたなあ」

「そんなに仲がいいのか。ちょっと羨ましいな。俺の両親はよく喧嘩してたから」

「喧嘩はうちのもよくしていますよ? 私の教育方針での喧嘩はあまりありませんでしたけど、休みを中々取らなくて家族との時間が作れないからっていうのは今でもあります」

「比較的平和な夫婦喧嘩だ……」


 毎回その喧嘩をするたびに、美琴が仲裁に入って次はこうしようと諫めている。

 そういったのを繰り返しているため、家族内でのルールもいくつもできており、喧嘩の頻度も減ってきている。元々一年に三回あれば多いほうなのだが。


「でも結婚かー。やっぱり憧れるよねー」

「憧れますけど、私はいつになったらまともな紳士が来てくれるのか……」

「あ、あはは……」


 寄ってくる異性の大部分が真剣な恋愛ではないので、どれだけ言い寄ってきてもすっぱり断っている。

 もちろん高校生の間に一度でいいからお付き合いしたいとは思うが、両親のこともあって希望は薄いだろう。

 そう思うと少し気分が憂鬱になってくるので、頭の中から追い出して、何も考えずにふわふわに仕上がった卵サンドを手に取って、一口かじって堪能した。

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