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36話 大きな一難の予感

 雷鳴と共に飛び出し、彩音達を置き去りにして悲鳴のした方へ急ぐ。

 最新型となった浮遊カメラすら、雷の速度には追い付けずに置いてけぼりを食らっている。


 二度角を曲がったところで、何が起きているのかを目の当たりにする。

 一人の琥珀色の髪の、見た感じ美琴よりもいくつか年下のように見える少女が、腰を抜かしたのか地面に座り込んでいる。

 そしてその少女の前には、珍しく刃毀れのしていない真剣を持った妖鎧武者が、処刑人のように上段に構えている。


「い、いやあああああああああああ!!」


 妖鎧武者が掲げている刀を振り下ろすと同時に少女が金切り声を上げ、頭を抱える。

 美琴は武者が動き出した瞬間に雷光となって飛び出し、振り下ろされた刀を雷薙で払って破壊し、急停止しながら体を捻って回転させて回し蹴りを叩き込んで押し離し、地面を転がった妖鎧武者に真雷を打ち込んで消滅させる。


「危ないところだったわね。あなた、大丈夫?」


 他にモンスターが寄ってこないかどうかを警戒しながら、地面に座り込んでいる少女の方を向いてしゃがむ。

 両の瞳を涙で潤ませ、恐怖で体を小さく振るわせている。

 顔立ちは本当に幼さを感じ、体が小柄なのもあって小学生なのではないかと思ってしまう。

 一応ダンジョンは中学生にならなければ探索者ライセンスが発行されないので、ここにいる時点で中学生以上であることは確定している。


「ぇ……、み、みこと、さま……?」

「ちょっとごめんなさいね。怪我は……なさそうね。とりあえずよかった……って、あら?」


 怪我をしていないかを確認していると、急に大粒の涙をぼろぼろと溢しだし、ひしっと抱き着いてきた。


「こ、こわかった、です……! ひぐっ……し、死ぬん、じゃないかって……こわ、かった……! うぅ、うあああああああああああん!!」


 ぎゅうっと強く抱き着かれ、胸に顔をうずめながら大号泣する少女。

 体は今も小さく震えており、よっぽど怖かったのだろうなとそっと優しく抱き返して、優しい手つきでなだめるように頭を撫でる。


「あ、こっちか。美琴ちゃん、大丈夫?」


 わんわんと泣く少女のことをなだめながら、どうしようと困ったように眉を下げていると、彩音達がやってくる。置き去りにされたカメラは、彩音の左側をふよふよと浮いている。


『間に合われたようですね』

「流石に美琴ちゃんだし、間に合うとは思ってたけどよ。で、何がいたんだ?」

「刀の残骸ってことは、もしかして妖鎧武者? それの強化種とか、ツイてないな」


 雷鳴で何があったのかを全て察した様子の慎司は、なんとも言えない表情をしながら美琴に何が襲っていたのかを聞く。

 そしてそれを答える前に、和弘がどのモンスターに襲われていたのかを落ちている残骸から答えを導き出した。

 先の逃げていた連中が、強化種だから逃げるしかないと聞いていたからか、妖鎧武者の特殊個体だと思っているようだが、倒した本人だからこそ分かる。


「いえ、強化種でも何でもなかったです。いたって普通の妖鎧武者でした」

「え、でもさっきの人達……」

「事情はこの子が知っていると思いますけど、今はこんなですので少し待ってあげましょう。よっぽど怖かったみたいで」


 彩音達が来てもなお泣きじゃくる少女の、指通りのいい髪を撫でながら言う。

 こうも泣きじゃくっていると、事情を聞くまでに時間がかかりそうだ。


「こうして見ていると、美琴ちゃんすっごいお姉ちゃん味がある」

「そうですか?」

「背ぇ高いし大人びているからなあ。その子との身長差もあって、マジでお姉ちゃんて感じ」


”助けられたっぽいね”

”よかったー。間に合ったんだ”

”美琴ちゃんだから信じてたけど、実際に助けられたことを知ると安堵する”

”美琴ちゃんがお姉ちゃんは解釈一致すぎて分かるマン”

”ちょっとポンコツな部分はあるけど、普段は超頼れる高身長クールお姉ちゃんとか最高すぐる”

”美琴ちゃんがお姉ちゃんで、泣いている子は小柄幼女……。ハッ!?”

”つまりこれって、おねロリ……って、コト!?”

”クォレハクォレハ……”

”泣いてる子もよく見なくてもマジ美幼女じゃん”

”あら^~”

”百合豚歓喜大興奮配信”

”本日二度目の百合シーン(おねロリ)”

”美琴ちゃんのきょぬーに顔うずめる美幼女とか最高すぎん?”


 コメント欄も最初は少女を助けられてよかったと安心していたものから、次第によく分からないコメントで沸き立っていく。

 色々とツッコミたいところではあるが、今はこの少女のことが最優先だと頭を切り替える。


 それから数分後。やっと泣き止んだ少女が恥ずかしそうに頬をうっすらと赤く染めながら、抱き着いていた胸から離れる。


「ご、ごめんなさい……」

「いいえ、いいのよ。仲間に置いて行かれて怖い目に遭って、殺されかけて、泣かない人なんてそういないもの。それに持論だけど、辛い時とか泣きたい時は思い切り泣いたほうが結構すっきりするものよ」

『そういうお嬢様は滅多に泣きませんし、隠そうとしますけどね』

「私のことはいいの」


 自分で言っておきながら、辛いことは意外と隠していたりすることもあるのは自覚しているので、アイリの言葉は地味に刺さっている。


「ところで、あなたの名前は?」

燈条灯里(とうじょうあかり)、です」

「え、燈条って……」

「はい。炎の魔法使い、燈条雅火(とうじょうみやび)の妹です」


 世界で十三人しか確認されていない、魔法使い。その中の一人で、海外版祓魔局と呼ばれているイギリス魔術協会に所属している日本人の魔法使い燈条雅火。

 彼女は炎の魔術を鍛えに鍛え、魔の現象を引き起こす「学術」である魔術の枠を超え、魔の現象を支配する「法律」である魔法に至った若き女性の魔法使い。

 その魔法は強力で、炎であるという特性から全てを燃やすことができる。


 そもそも魔法は神の奇跡とも評されるもので、死者すらも蘇らせることも可能だ。

 それができるのはその特定分野における法律そのものであるからだ。


 炎の場合、燃やす、焼く、温める、などの効果がある。魔術でこれを再現すると、現実における炎と変わらず燃やせるものは燃やせるし、火が着かないものは燃やせず、水をかけられれば消える。

 だが炎の魔法の場合、『炎は燃やすもの』、『燃やしたものを灰にするもの』という法律が適用されるため、普通だったら燃やせないものでも灰にすることができるし、水をかけられてもその水すら燃やされるという理不尽っぷりだ。

 対抗するには、水の魔術では燃やされてしまうので対極である水の魔法を使うしかないが、現在水の魔法使いは確認されていない。


 そんな理不尽代表のような炎の魔法に到達したのが燈条雅火であり、その妹が今目の前にいる。

 ただ血縁者だからと、他人もその魔法が使えるわけではない。というか、魔法使いは一つの属性につき一人と決められているため、一人でも炎の魔法使いになったらその人以外は魔法は使えない。


 このことはあまり知られていない部分でもあり、少女が燈条灯里と名乗ったことから、なんとなく答えが分かったような気がする。


「それで、どうしてあなた達は下層に? さっきの人達、装備はいいものは揃っていたけど、足運びとか体捌きが全然なってなかったけど」


”いやあの一瞬でそこまで見てんの草”

”流石雷神様www”

”情報の処理速度エッグい”

”結構一瞬だったし、何なら割と離れてたはずですが???”

”もう何でも『美琴ちゃんだから』で片付けられそう”


 灯里を置いて逃げていた四人組の男女。

 装備だけは一等品のいいもの、中には雷薙と同じ最上呪具もあった。


 呪具、魔術で言えば魔術道具や魔装具にはそれぞれ、探索者と同じように階級分けされていて、下から四等、三等、二等、準一等、一等、最上となっている。

 もちろん階級が上がれば性能も上がるが、買うとなるとその値段も一つ階級が違うだけで桁が二つ三つ違うこともある。

 美琴の雷薙は雷電宗家の当主だけが持つことを許されているもので、買ったものではないので正確な値段は知らないが、少なくとも数十億はするそうだ。


 そんな最上呪具を持っている気配を感じたのだが、下層最強格の妖鎧武者から血相を変えて逃げていた。

 普通最上呪具を持っているだけでも所有者に大幅な強化が入るはずなのだが、意味が分からない。


「じ、実は……」


 少しだけ躊躇いがちに、灯里はどうして自分が置き去りにされてしまったのか、その経緯をぽつぽつと語り始める。

お読みいただき、ありがとうございます。




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― 新着の感想 ―
[一言] >情報の処理速度エッグい 雷と化して行動するなら秒速500kmの世界の住人だしね
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