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35話 腐敗の一端に触れる引き金

 その後、美琴が加減していたのは封印前提であったことが判明し、急遽力加減を覚えるためのリハビリコラボ配信となった。

 しかしやはりどれだけモンスターを実験台にしても、長年の癖が染みついてしまっていることもあって、中々直らない。


「そういえばさ、美琴ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょうか?」


 八体目のミノタウロスを消し炭にして割とガチ目に凹んで、どうせ自分なんか加減もできないような不器用なのだと若干自虐的になっていじけ、しゃがみこんで地面にのの字をぐるぐると書いていると、彩音が話しかけてくる。


「美琴ちゃんがすごいバズった次の日の自宅配信の時にさ、自分の雷の力のことを詳しく話したら配信者も探索者も続けられないって言ってたじゃない?」

「あー、言ってましたねそんなこと」

「でもさ、あの一件で大勢に知られちゃったのに、普通にこうして活動続けられているからさ、発言と食い違っているなーって」


 スタンピードを殲滅した次の日の雑談配信の時、視聴者の質問にあった雷の力は一体何なのかという質問。

 その問いに対して美琴は、詳しく答えたら今やっていることが全てできなくなってしまうから答えられないと答えた。

 あの時もどうしてなのかは言わずにいたが、もしあの場で美琴の雷が雷一族の信仰する神『厳霊業雷命』の力を覚醒させたから来るものだと答えたら、言っても信じられないという部分も大きいが、それ以上に下手に自分が雷一族の現代の現人神だと知られてしまい、自由に動けなくなってしまうと思ったからだ。


 美琴の両親を除いて、京都にある雷電本家にいる祖父母と全ての雷一族は神に病的に縋っている。

 顔を合わせたのは両親と共に京都を去る際に引き留めようとしてきた時が最後で、それ以降顔を見たこともない。

 興信所や探偵を雇って調査しようとしていた時期もあったそうだが、全て事前に察知して美琴の今の姿を絶対に写真に収められないように色々と工作したと聞かされた。


 おかげで成長した美琴の姿というのは京都にいる一族には知られていないのだが、いくら大きく成長したからって面影すらなくなるなんてことはない。

 雷のことを含めてあれだけ大きな話題になったのだし、一族の人が見ているかもしれない。名字を変えて活動していたが名前はそのままだし、顔も面影がある。そして雷の力を持っていてと、勘が鋭くなくても琴峰美琴が雷電美琴だと気付くだろう。

 しかし他人の空似ということもありえなくはないという選択肢を与えるため、あそこでは神の力であることを伏せたのだ。偶然にも、魔法使いはダンジョン探索ができないようになっているため、それを利用して。


「そのことなんですけど、私も実はよく知らないんです。お父さんが裏で何かやったことだけは分かるんですけど、詳しいことは何も。聞いても答えてくれないですし。アイリは何か知ってる?」

『……一応協力しましたから』

「よしじゃあ今すぐ答えて頂戴」

『それはできかねます。お嬢様は私の主ですが、創造主である旦那様のほうが権限が上です。「何があっても美琴には何をしたのか教えるな」と管理者権限を用いて命令されたため、お嬢様の命令であっても答えられません』


 答えられないと言われて、自分だけ何も知らないのは嫌だとむっとなって浮遊カメラを両手で掴んで、そこから電流を流してハッキングしようかと企むが、力加減が全くできない今そんなことやったらカメラが壊れるので諦めて離す。


「まあ、雷電家って言ったら有名だからね。ご両親が大きな会社と事務所の所長と社長をやってるし、呪術界では祓魔十家(ふつまじっけ)の序列二位だし」


”そっか、美琴ちゃんちって祓魔十家だっけ”

”あれを見た後だから納得はするけど、むしろあれだけ力があって序列二位ってマジ?”

”一般人としてもガチのお嬢様だし、呪術界隈でもガチのお嬢様”

”お嬢様じゃなくて女神さまやぞ”

”¥10000:美琴ちゃんのスペシャルなサービスショットが手に入りますように”

”今赤スパ投げたやつ、ちょっと前に遡ればいいシーンがあるゾ”


 祓魔十家。それは日本政府が定めた、最も力のある十の呪術師、退魔師の家系のことだ。

 その序列は純粋に力の順番で、雷電家は雷一族の中で唯一祓魔十家に選出されている。現人神が生まれた家が雷電家になるのだから、当たり前と言えば当たり前だが。

 最上位の序列一位は朱鳥家といい、日本最強の呪術師にして平安時代から現代まで生き続けている仙人の朱鳥霊華が当主を務めている一族だ。

 神の力を持って生まれる雷電家が一位ではなく二位なのは、この朱鳥霊華自身がもはや神霊と同じ存在となっており、たった一度の呪術行使で東京都全体を丸ごと破壊することが可能だからだ。


 アモンとの戦いの時に思い切り自分の本名を言ってしまっていて、ばっちりと彩音達の配信に乗ってしまっていたため、今は大勢に名前が知られている。


「正直そんな序列を付けたところで何になるんだって感じですけどね。呪術界では強いほうがえらいって風潮ですけど、霊華さんは全然威張らないし優しい人だし、見た目が二十代前半で止まっているから自分で普通に働きに出てたりするし」

「随分詳しいんだね?」

「京都にいた時に、霊華さんから崩拳の手ほどきを受けたことがあるんです。基礎だけですけど」

「あー……。そういえばやってたねえ……」


 妖鎧武者の鎧を素手で殴り壊したことがあるあの配信を思い出しているのだろう。


「それより、そろそろ再開しましょう。……いじけてごめんなさい」


 会話していて色々と回復してきたので、立ち上がって探索を再開しようと提案する。


「そうね。いじいじ美琴ちゃんが可愛くて、もうちょっと見ていたかったけど」

「勘弁してくださいよぉ……」


 彩音が美琴にぎゅーっと抱き着きながら言うと、困ったように眉を寄せながら勘弁してほしいと言う。


”あら^~”

”あら^~”

”キマシタワー”

”いいですわゾ^~”

”てぇてぇ”

”尊ッッッ”


 そんな二人を見た視聴者達が変なコメントを送ってくるが、いまいち意味が理解できなかったのでスルーする。

 そんなこんなで探索という名のリハビリを再開し、モンスターを求めてさまよう。


「えいっ」

「ギャババババババババ!?」


 とびかかってきた鬼に向かって雷を放ち、消し炭にする。


「こ、これくらい?」

「ギャアアアアア!?!?」


 ボルティックコングという電流を発生させる器官を持つゴリラモンスターに雷を放ち、消滅させる。


「それ!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」


 ブラッディロードウルフというブラッディウルフというモンスターを従える大きな真っ赤な狼に、雷薙の一閃と共に雷を放って消し炭にする。


”うははははははwwww”

”下層モンスターがががががが”

”こんなに下層が爽快でハイスピードなことある?”

”基本どれもワンパンじゃねーかwww”

”あれ下層って何だっけ?”

”もはやこれじゃ火葬だよ”

”でも雷だから雷葬だね”


「み、美琴ちゃん、本当に加減できないの?」

「これでもかなりセーブしているほうなんです……」

「えぇ……」


 思いっきり力を抑え込んでやっているつもりなのだが、それでも下層モンスターがワンパンされて行く。

 彩音達もいつでも戦えるようにとスタンバイしてくれるのだが、足止めがそのまま止めになってしまうため、出番が全くなくなってしまっている。

 このままだと自分一人の配信と何ら変わりないから、早く最適な力加減を覚えなければいけないと、むしろ逆にやる気が出てきた。


「くっそ! 逃げるぞ!」

「なんでよりによってあんなのから逃げなきゃいけないのよ!」

「きっと強化種なんだ! でなきゃ俺達が負けるはずがねえ!」

「今のうちに逃げるわよ! あんな雑魚でも、囮くらいにはなるでしょ!」


 現れたミノタウロスの頭の上に飛び乗って、角から電流を流して足を止めるのはどうだろうと試して結局雷で焼き殺してしまったところで、通路の向こう側から自分とそう変わらない若い男女の四人組が血相を変えて逃げていくのが見えた。


「一体何かしら?」

「何でしょうね?」


 こうして下層で人と会うのは少し珍しいなと思っていると、それを映している浮遊カメラを通して視聴者達が何かに気付いたようにコメントを送ってくる。


”あれ、ブラッククロスじゃん”

”日本三大クランにして、日本三大ブラッククラン筆頭の黒十字がどうしてここに?”

”今一人、囮って言ってなかった?”

”何かトラブルでも発生したんか?”


 何かから逃げている様子なので、もしやスタンピードかと警戒するが、複数の足音が聞こえないので違う。

 そう判断した瞬間だった。


「ま、待ってください……! 置いていかないで……死にたくないです!」


 まだ幼さが残る女の子の声が、四人が逃げてきた方角から聞こえてきた。

 その瞬間には美琴は、ダンジョンに響くような雷鳴と共に地面を蹴ってその方向に向かって走り出していた。

お読みいただき、ありがとうございます。




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