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183話 冬休み明け

 イノケンティウスの襲来という特大爆弾が投下され、蜂の巣が突かれたような大騒ぎが発生して、二日間ほど新宿ダンジョンが探索禁止になったりしたが、危険は排除されたのですぐにその禁止令も解除された。

 美琴自身の怪我も大したことではなかったのだが、一人娘が怪我をしたということで両親が揃ってしばらくはダンジョン探索は禁止と言われたため、あの日以降一度もダンジョンには潜っていない。

 配信はしないわけにはいかないので、DMなどに送られてきている案件を受ける旨の返事を送りつつ、料理配信や灯里がやっているようなコスメティック紹介配信などをやって過ごした。


 そうやって過ごしているうちに冬休みが明けて、美琴は現在通い慣れた高校の教室にいる。

 相変わらず冬休みの間にいろいろ暴れ回っていたので、怖がって話しかけてくる生徒が減るのではと覚悟していたがそんなことはなく、いつも通りだと安心した。

 代わりに少し離れたクラスは何やら非常に騒がしく、その渦中の人物に対して南無と心の中で手を合わせておく。


「ところで雷電さんって、四組の剣城くんと幼馴染なんだって?」


 一人の女子がそう発言すると、一斉にクラス中の視線が集中して、思わずびくりと体を震わせる。

 綾人は口数が少なくクールな高身長イケメンとして女子の間でそこそこ人気で、一年生の頃から狙っている女子がいるとかなんとか。

 時々廊下を歩いているのをクラスの女子が見つけると、その姿を少しでも視界に収めようと出入り口に集まったりするのが数名いる。


 さて、これはどうこたえるべきかと考えるが、隠したところで配信でしっかりと明言しているし、別に隠しておくようなことでもないので平気だろうと口を開く。


「えぇ、そうよ」


 計たった五文字。

 それだけで教室の中が騒然となる。


「相っ変わらず、自分の影響力を全く考えてないわね」

「別に隠しておくようなことじゃないでしょ。もう配信で知られているんだしさ」

「そうだけど、改めて本人の口から確認が取れるとなると、気になっている人からすれば特大の情報よ。前々から言っているけどさ、もっと自分の影響力や発言力を気にするように。昨日のコスメティック紹介配信の時も、紹介したメーカーのサイトが全部落ちたそうじゃないの」

「うっ、それは……はい……」


 紹介したものの中に琴音の会社のものもあったので、後になって紹介してくれるのはいいけど事前に教えてほしいと軽いお叱りを受けたのを思い出す。


「ねえねえ! 剣城くんって昔はどんな子だったの!?」

「やっぱり昔から背が高かったの!?」

「祓魔十家って言ってたけど、やっぱりそういう格式の高いお家だと許嫁とかいたりするのかな!?」


 あっという間に女子達に囲まれた美琴は、次々と質問を投げつけられて目を白黒させる。

 こうなったのは自分のせいではあるためアイリや昌にも助けを求められず、あまり触れられてほしくはないであろうもの以外の質問に一つずつ答えていく。

 中には綾人の使う呪術が何なのか知りたいと聞いてきた女子もいたが、使っているところを見て恐らくこうなのではないかという推測でしかないし、あれは剣城家の秘術なので教えることはできないときっぱり断った。


 他には、綾人を連れてダンジョンに潜った時に、何度か危険なシーンで抱き寄せられたりしたのはどうだったのかと聞かれたが、それだけは上手く言葉として表現できなかった。

 とりあえず一言、シンプルに筋肉がすごかったとだけ答えておいてその後の質問攻めに対応したが、結局解放されて下校するまでどうして言葉が出てこなかったのかは分からずじまいだった。



「えらい目に遭ったよ……」

「間違いなく、美琴の配信に出た影響でしょうね。どうせ抱き寄せたりしてたから、どうだったのかって聞かれたんでしょ?」

「桜ケ丘、君俺のクラスにいなかったよな?」

「いなくても予想付くわよ。男なんて考えていることは単純なんだから」

「あはは……」


 綾人もいるので否定してあげたかったが、間違ってはいないのを知っているので否定できず、曖昧に笑う美琴。

 そんな美琴に綾人が笑うなと不満げな目を向けてくる。


「最初の質問はやっぱり、幼馴染だったのか、でしょ」

「大正解。隠すようなことじゃないから素直にそうだって言ったら、その後が地獄だった」

「うわ、似た者同士ね二人とも」


 からかうような声音で言う昌に、美琴が軽くデコピンを打ち込む。ついでにちょっと強めの静電気を発生させて。


「じ、地味に痛いのやめてくれる!? 何も静電気まで起こす必要なかったじゃん!?」

「なんかすごくからかっているような声だったから」

「すんごい理不尽な理由で権能食らったんですけど」

「美琴も同じこと言ったのかよ。君はもうちょっと、」

「はいはい、自分の影響力と発言力を自覚しろ、でしょ? さっき散々昌に言われたし、昨日もお母さんからお小言貰ったわよ」


 ちょっと拗ねたようにそっぽを向きながら言う。

 ただ思ったことを言うだけなのにどうしてそこまで意識しないといけないのだろうかと、人気になった弊害を感じて少し窮屈さを感じる。

 もとより下手な失言をしないようにと両親に躾けられてきたので、意識せずとも炎上するような失言というのはしない。

 話してもいい情報、話してはいけない情報の取捨選択は、両親ともにすさまじいがゆえに鍛えられた。


「で、剣城少年は他に何を聞かれた?」

「まあありきたりなものが多かったな。美琴の趣味とか好みとか。小さい時はどんな感じだったのか、とか。祓魔十家序列二位だから、許嫁が実はいるんじゃないか、とか」

「許嫁の件はこっちもあったわね。……綾人くんはいないよね」

「いねーよ。うちは両親が大恋愛の末に結婚したから、俺にも綾香にも同じように恋愛をしてほしいんだと。京都の爺ちゃん達も似たようなもんだけど、っ」


 言ってから、綾人がしまったと口を噤む。

 美琴は両親は恋愛結婚だが、その祖父母は気持ち悪いくらいに凝り固まった考えの持ち主で、自由恋愛どころか自由そのものを奪おうとしていた。

 それを知っているから咄嗟に口を噤んだようだが、特にこれといった感情は湧いてこない。


 美琴にとってあの家の連中は既に赤の他人だ。家系図を辿れば、ただ偶然そこに名を連ねているだけのほぼ繋がりのない他人。

 もう奴らのことなど微塵も気にしていないし、これからも気にするつもりもない。だから綾人もそんな風に意識しなくてもいいと目くばせすると、ゆるゆると息を吐く。


「さっきから言葉交わさずに会話成立させないでもらえる? それ、普通はカップルとか夫婦がするようなものだけど」

「カッ……!?」

「そ、そんなんじゃねーよ俺ら!? 八年程度とはいえしょっちゅう遊んでいた幼馴染なんだし、これくらいはできるって!」

「下層以上のモンスター地獄の中で、数年ぶりに再会しても即座に練度の高い連携するくらいだものねえ。そりゃ確かに幼馴染ならできてもおかしくないかあ」

「なんかすごい含みのある言い方……」


 そう言うと呆れたように「マジかこいつ」みたいな目を向けられる。


「まーいいや。美琴は妙なところで笑えるくらいニブチンなのは今更だし。それより、あんた本当に怪我とかはもう平気なわけ? 結構強く体打ってたけど」

「ニブチン……。まあ、平気よ。新宿ギルドの治療室の方でちゃんと処置受けたから痛むところとかもないわよ。過保護な二人のおかげで、一週間はダンジョン禁止令を言い渡されたけど」

「妥当な判断ね。最近また何やらきな臭いみたいだし。……この間会っていたモラクスの方から何か連絡はあった?」

「そのことなんだけどさ、聞いても詳しいことは教えてくれないのよね。一応推測を立てていてさ、それがあっているのかどうかの確認がしたくて連絡したのにはぐらかされるし、何なら疲れているだろうからって早々に通話切られたし」


 助けてくれたお礼をしつつ何があったのかを聞いたりしたのだが、頑なに教えてくれなかったモラクス。

 少しだけ言い淀んでいるのを感じたので確実に何かを知っているようなのだが、食い下がっても教えてくれなかった。

 ブエルの方にも連絡してみたがこちらも同じで、やんわりと拒否されてしまっている。


「ふーん、そうなんだ。美琴はまだ人間部分が強いから、巻き込みたくないとかじゃない?」

「そうかなあ? どうもそういう風には感じなかったけど」


 頭を捻って考えてみるが、やはり分からない。

 考えれば考えるほど辻褄が合うが、けれどそれはあくまで仮説にすぎない。

 どうにかした答えを知っているであろうモラクスから話を聞き出せないだろうかと模索しながら、放課後の通学路を三人で歩いた。

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