表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/186

174話 神社に向かった雷神様

「やっぱり結構人がいるわね」

「元日だしねえ。毎年ここは人が多いのよ」


 美琴達が訪れている神社は、世田谷八幡宮。

 由来は平安時代まで遡るほどで、勝負事の前の御参りをすることで勝運を呼び込むことができると言われている場所だ。

 美琴も配信活動を始めるころにここに足を運んでおり、半年後とはいえここまで超有名配信者になるどころか、設立した瞬間から日本三大クランの仲間入りを果たしているので、即効性は出てこなかっただけで実はものすごい効果があるのかもしれない。


 そんな世田谷八幡宮には、元日ということもあって初詣に来る参拝客がすさまじい程いる。

 常に固まって移動していないと一瞬で人込みに飲まれてしまいそうなほどで、灯里がこうした場所になれていないのか目を回している。


 そして案の定、美琴達は非常に目立つので周囲からの好気的な視線が集中している。

 カメラ越しに何千万人もの視聴者に見られるのはもう慣れっこだが、やはりこうして直接見られるのはまだ恥ずかしさがある。

 いつもは目立たないようにと、琴音と龍博が美琴を挟むようにしてくれていたので全方位から向けられることはなかったが、今回ばかりはそうもいかない。


「なあ、やっぱりあの集団……」

「夢想の雷霆じゃん! うっわ、こうしてリアルで見ることができるなんて、新年早々ラッキー!」

「なんか知らん娘がいると思ったら、美琴ちゃんを配信世界に送り出してくれたマネージャーの昌ちゃんもいるじゃん。珍し」

「増えたとはいえ、大部分が美人まみれの中にいる三人男が許せねえ……」

「雷電夫妻もいるなあ?」

「メカボディアイリちゃんもいるううううううううううううううううう」

「もうあそこだけ空気が全く違うんですけど」



「すさまじい注目具合ですね。この人混みの中でも」

「なんかいつも配信している時とはまるで違う感じですねー。もしかしたらここに、私の視聴者もいたりするんですかね!?」

「もうすでに私の視聴者っぽい人の会話聞こえたし、ルナちゃんのもいると思うわよ。もちろん、灯里ちゃんのも」

「わ、私もですか?」

「灯里様はお嬢様の影響もあって開設前からすさまじい人気がありましたからね。いつか自身のチャンネルを持ってほしいと思われているところに、ご自身のチャンネルを開設して一本目にルナ様同伴とはいえ攻略動画を上げたのですから、あの大爆発は必然と言えるでしょう」

「芸能人とかが開設したのと同じ現象が起きてたわねー」


 本当は化粧品の紹介やレビューなどをメインとしている灯里のチャンネル。

 本業が学生の探索者なのでダンジョン攻略の動画もしっかりと投稿しており、化粧品レビューと攻略動画の両方で出す動画全部で数百万再生を叩き出している。

 登録者の数も開設したことをSNSで告知した瞬間から大爆増しており、あまりの増え方に半泣きになって助けを求められた。

 震えた声で助けを求められたので恐ろしく嗜虐心を刺激されて意地悪したくなったが、思い切り拗ねられそうだったので我慢した。


「あ、そうそう。今度灯里ちゃんにうちの化粧品のレビュー案件出そうと思っているんだけどいいかしら?」

「あ、案件!? 私にですか!?」


 参拝の順番待ちをしていると、唐突に琴音が灯里の方を向きながら言う。

 チャンネルを作ったばかりの自分にいきなりそんな話が、それも超大手化粧品会社でもあるI&Mから案件を受けるとは思っていなかったようで、目を丸くして驚く。


「ちょっと、あまりにも唐突過ぎない?」

「ごめんなさいね。前々から灯里ちゃんにはうちの会社の製品レビューとかの案件を出してみたかったのよ。でもチャンネルを持っていないから、美琴のチャンネルにゲスト出演してもらいながらやってもらおうと思っていたところに、自分のチャンネルを作ったって言うんだから、これはもう案件出すしかないでしょ」

「ただ可愛い女の子に自社製品使ってほしいだけな気がする」

「もちろんそれも含まれているわよ。九割くらい」

「そこはせめて五割にして」

「ちなみに美琴にも何か案件出そうと思っているわよ」

「下着じゃなければなんでも。できれば私も化粧品レビューとかの案件やりたい」

「美琴はせっかく超美人さんなんだし、ポスター広告の撮影とかもいいわね」

「モデルは正直もうこりごりよ……」


 ほぼ確実に琴音が暴走する撮影系。

 クリスマスに販売したグッズの時も、あれもこれもと色んな衣装を引っ張り出してきては、鼻息荒く来てほしいと懇願された。

 もちろん撮影に関係ないものは全て却下しており、強烈な無言の圧力を向けられてもサクッと無視して、暴走を可能な限り抑え込んだ。

 恐らくその反動で、ボイスの台本を書き換えられたのかもしれないが。


「俺の方からも何か案件を出そうか。丁度最新型ゲーム機の開発も終盤でな。もうじきテストプレイするところまで行くから、テストプレイヤーに美琴を誘いたいんだがいいか?」

「開発している最新型……あぁ、あの完全フルダイブの?」

「フルダイブって、なんかそれが題材のラノベがあったな」

「ダンジョン攻略の配信などが大きなトレンドとはいえ、ゲームにももちろん大きな需要はあるからな。ゲーム開発している子会社の方も、そのゲーム機対応のゲームの開発が終わりそうだと言っていたから、テストプレイにはそれを採用しよう」


 こんな多くの一般参拝客がいる中で、さらっととんでもない情報を放り投げないでほしい。

 龍博が社長を務める電機会社であるRE社は、数々の電子機器の製造を行っている。

 もちろんその中にゲーム機も含まれており、その圧倒的高性能から世界中に愛用者がいる。


 超一流の技術を持つ技術者をたくさん抱えており、社運を賭けていると言ってもいいほどの額の予算をかけて現在開発している、最新型フルダイブゲームデバイス。

 アイリの後継機となるAIの開発にも注力しており、それらが原因で帰りが遅くなっているのもあるかもしれない。まあアイリの開発が行われる前から、帰りは遅いのだが。


 できればその話は家に帰ってからしてほしかったという気持ちと、ゲーム関連にはほとんど興味を持っていないのでその案件を持ってこられてもという気持ちの両方が入り混じる。

 とはいえ自分の意識が電子世界にそのまま入り込むというフルダイブ技術には興味があるので、ゲームと楽しむというよりもその技術の方を楽しむという感じになるかもしれない。


 順番が来るまでまだ時間がかかりそうだったので、全員でしりとりでもしようとアイリからの提案もあり、即席のしりとり大会が開催された。

 両親は「子供達が楽しんでいるところに混じるのは無粋」と言って参加しなかったが、アイリがいる時点で勝ち目はないと踏んで逃げたのではとジト目を向けた。


 最初は普通に進んでいき、フレイヤがまさかの最初に脱落者になったりと楽しんでいたのだが、終盤では案の定アイリ無双が始まった。

 何をされたのか。それは何を返しても全て「り」で終わる言葉で返されてしまい、それはもう徹底的にいじめられた。

 どうにかして逆に「り」で終わる言葉を絞り出しても、相手は無限に成長するAI。しかも常にネットと繋がっているような状態だ。

 即座に「り」で終わる言葉で反撃されてしまい、謎に激戦となったしりとり大会はアイリの圧勝という形で幕を下ろした。


「そもそもAIに勝てるわけがない」

「分かっていたけど、負けたくなかったわよ」

「剣城さんは真っ先に諦めましたね」

「そんな可哀そうな目で見ないでよルナちゃん。俺だって頑張ったんだけど、ほぼ無限に近い知識持ってるアイリに勝てないって」

「だからって諦めるのは卑怯だと思うぞ、綾人よ」

「最初に落ちたのは私ですけどね」


 割と早い段階で勝ち目がないと気付いた綾人に、一部非難めいた言葉が向けられるが、フレイヤが庇うように言う。

 そんなやり取りをしている間にも列は進み、ようやく美琴達の番になる。

 軽く話し合って、先に美琴と綾人の二人で参拝することになった。


 こうして並んで参拝するのは何年ぶりだろうかと思いながらも、毎年元日に行っている所作を行い、手を合わせてお願いごとをする。

 美琴のことを知っている人が見れば、最強クラスの強さを持つ魔神が日本の神様を祀る神社で願い事とは、となりそうだ。


 美琴が願ったことは、一つはシンプルに自分を含めた家族と親しい人達の無病息災、そして頼むからこれ以上魔神関連の話を自分のところに持ち込んでこないでほしい、という切実なものだ。

 お願い事を終わらせて終わりの所作をして離れると、少し遅れて綾人もやってくる。


「少し長くお願い事をしていたわね」

「まあ、な。無難に無病息災でいられますようにって」

「あ、それは私と一緒だ」

「それと……俺の密かな願いがいつか叶いますようにって」


 美琴のことを真っすぐ見ながら、ぽそりと小さな声で言う綾人。

 まるで、周りの音で書き消そうとしているようにすら感じるほど、小さな声だった。


「綾人くんの密かなお願いがすごく気になるから、お姉ちゃんに教えなさい」


 零した言葉を美琴に聞かれていると思わなかったのか、驚いたように微かに目を瞠る綾人。


「断る。この願いだけは家族にすら教えていないものだから、美琴にも教えられない」

「何よそれー」

「それより、美琴は何を願ったんだ?」

「むー……。綾人くんと同じ無病息災と、お願いだからもうこれ以上魔神関連の渦中に放り込まないでくださいって」

「めちゃくちゃ切実な願いごとだな」

「笑い事じゃないからね? 魔神と戦うのなんて、本っっっっっっっっっっ当にもうこりごり。いくら今の時点で大半の魔神に勝てるくらいの強さがあるとはいえ、それでもきついものはきついわよ」


 もし今の自分に悪魔として恐れられた側の力もあれば、仮に魔神と戦うことになっても余裕で対処できるだろう。

 だが今はバアルゼブルとしては全盛期の半分にも満たない程度で、これでも大抵の魔神と戦っても多少余力を残しても勝てる。

 しかしアモンのような戦闘狂や、すでに起きている事象そのものを偽ることのできるベリアル、そもそも不死身のフェニックス、全盛期時代のバアルゼブルより一歩劣る程度の強さを持つ知者なのに超武闘派のモラクス。これらは今の状態でも

辛勝するかギリギリ負けるくらいの強さだろう。


 時々アモンは弱いと言われているのを見かけたりするのだが、あの時勝てたのはバアルゼブル(魔神)の戦い方ではなく美琴(人間)の戦い方であったことと、バアルゼブルがかつての戦いで使ったことのない美琴の技ということもあって、不意を突くことができたからこそ倒せたのだ。

 力に対して力で対抗するのではなく、力に対して技を持っていなした。もしあの時培ってきた剣術ではなく力技で戦っていたら、確実に負けていただろう。

 それほどまでにアモンは強い。


「でも美琴がバアルゼブルであることはもう世界中に知られているし、もしかしたら海外にいる魔神とかが美琴と戦うためにこっちに来そうだな」

「そんな悲しいこと言わないでよぉ……」


 じわりと涙が浮かんでくる。

 最初のアモンと戦った時に、もう二度と魔神とは会いたくないと言ったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 よくコメント欄で見かけるス〇ンド使いとス〇ンド使いは引き寄せられると言うように、魔神と魔神は引き寄せられる運命にでもあるのだろうかとすら思ってしまう。

 そんなのは嫌だなとめそめそ泣きそうになりながら、残りのメンバー達が参拝を終えるのを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ