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160話 夢想の雷霆深層攻略

 地獄を見たホラゲ実況配信の翌日。

 朝起きた時に華奈樹に抱き着いていたためからかわれるという出来事がありつつ、朝食を取ってストレッチをしてからギルドに向かう。


「おはよう三人共」


 ギルドに到着し着物に着替えて更衣室から出ると、袴を身にまとい腰に刀を差した綾人が近付いてきた。

 彼の後ろの方には依頼の掲示板があるので、もしかしたらそこで時間を潰していたのかもしれない。


「おはよう綾人くん。もしかして私達より早く来た?」

「そうだな。俺が着替え終わって出て来た時に、君達が更衣室に入っていくのが見えたから、そんな大差ないけど」

「どこかで待ち合わせしておけばよかったね」

「そうすると俺が視線で殺される」


 いづらそうに肩を竦めながら言う綾人。

 美琴はギルドでも注目の的で、ここに足を運ぶたびに多くの探索者から視線を向けられる。

 最近だとサインを求められたり、直接クランに入れてほしいと懇願してくる探索者も出てくるようになってきたし、登録したての新人探索者から戦い方を教えてほしいと言われることも多くなった。


 現状唯一の特等探索者で現役女子高生で、世界最強と言われているクランのマスター。注目を浴びるにはちょうどいいくらいの話題を引っ提げているため、今日も今日とて視線を独占している。

 そんな注目の的の美琴と親しくしている、数少ない男性。それはもうとても視線を向けられる。


 ちらりと周りを見回すと、綾人のことを一体どういう関係なのだろうかと探っているような目を向けている人がちらほらと見受けられる。

 他にも、美琴と親しげに会話できることに嫉妬しているのか鋭い視線を向けている人もいれば、逆に美琴が気を許している相手だからとっくに恋仲だと解釈したのか、温かい目を向けてくる人もいる。


 様々な視線が向けられているが嫉妬などのものは少なく、どちらかというと見守るようなものの方が圧倒的に多い。

 なので綾人の、視線で殺されるという不安は全くの杞憂なのだが、それを言うのは野暮だろうと言わないでおく。


「お待たせしました、美琴さん」

「おはようございます、美琴様。華奈樹様、美桜様、綾人様も、おはようございます」


 とりあえずまだ合流するまで時間があるので、登録したての新人の綾人にギルド内を案内してやろうかと思っていると、フレイヤとリタがフル装備で姿を見せる。

 フレイヤの、クランのエンブレムの入った軍服のような衣装に、同じエンブレムの入ったメイド姿のリタ。

 こうして見ると組み合わせ的には中々に奇抜なのだが、見慣れてきたのでこれといったコメントは出てこない。


「フレイヤさん、リタさん、おはよう。先に来てたの?」

「えぇ、三十分ほど前に。世田谷支部の支部長に呼ばれていまして、三人で色々と今回の攻略について話し合っていたんです」

「どうせ深層の素材とかは持ち帰ってきてほしいってやつでしょ」

「それもありますが、とにもかくにも情報が圧倒的に少ないので、最速でボス戦に行くのではなくじっくりと深層を探索してほしいと懇願されました」

「優樹菜さんらしいなあ」


 今や世界で唯一の、深層を少数精鋭で攻略できる最強クランとなった夢想の雷霆。

 もし美琴達が全員成人していれば、何の制約もなく核石もモンスターやダンジョン内素材を持ち帰ることもできるのだが、あいにく全員現役高校生の未成年。

 美琴やフレイヤのように、特殊な収納能力を持つ道具を持っていればバレずにダンジョンの素材を持ち帰ることもできるにはできるのだが、もしそれがバレた場合ライセンスの一発取り消し+再取得不可能というあまりにも重い罰則が課せられるので、今までの努力を水の泡に返さないためにも規則に従っている。


 それくらい重い罰則が科せられる未成年の素材持ち出しなのだが、もう美琴達のもたらす利益や功績というのが大きすぎるあまり、今のところ美琴と新たにフレイヤを加えた二人が、深層の素材に限定して持ち出すことが許されている。というかお願いされている。

 そんな特例を作ってしまうほど深層というのは未知な場所で、そこにある情報は何物にも代えがたい宝物なのだ。


「それより、つい先日登録したばかりの綾人さんをもう深層に連れて行くんですか?」


 綾人の方を見ながら、大丈夫なのだろうかと心配そうな目をしながら言う。


「平気よ。学業優先で準一等ってだけで本来の強さは一等以上だし、何より私とフレイヤさんがいるし」

「女の子に守られるほど弱いつもりはないんだけど?」

「あら、じゃあ私達がピンチの時は白馬の王子様みたいに助けてくれる?」

「……白馬の王子様って言うほど華麗には行かないだろうけど、まあどうにかするよ」

「ぬしには剣城家の秘術があるしのう。あれさえあれば、その気になれば一瞬で地上に戻れるのではないか?」

「距離が離れすぎてるから無理。全呪力を使って飛べるとしたら、せいぜい中層の真ん中くらいじゃないか?」

「十分すぎるくらいには移動できるのですね」

「今のは俺一人の場合です……だよ、リタさん。みんなを連れて移動するとなると、移動できる距離はもっと短くなる」


 綾人が使う、剣城家の秘術。

 秘術という割には結構ポンポン使用しているが、詳しい仕組みと名前までは教えてくれていないが、ざっくりと言えば空間そのものを跳躍しているようなものらしい。

 厳密には跳躍しているわけではないそうだが、結局それに似たことをしているしそう言った方がイメージがしやすいからと、空間を跳躍しているという表現をしたと綾人から言われている。


「綾人さんの秘術……。ぜひともその仕組みを解明して、私の魔導兵装に組み込みたいものです」

「フレイヤさんの前ではあまり使わないほうがいいかもしれないな」


 観察力のすさまじいフレイヤのことだ。

 本人の前で何度か使えば、それだけで原理を見抜いてしばらくした後でそれを再現した兵装を持ってくるかもしれない。


 フレイヤとは、魔導兵装の販売する場所の提供し美琴とクランの名前を使う許可を与える代わりに、その売り上げをクランに納めるという契約をする予定だ。

 その準備は着々と進んでおり、まずはクランメンバー全員に汎用型魔導兵装を送るという手はずになっている。

 その汎用型の中に、綾人の秘術と同じ原理のものを組み込むことができれば、綾人ほど連続に、そして高精度に使うことはできないだろうが瞬時に危険な場所から抜け出すことができるようになる。


 ただでさえフレイヤの兵装を持っているだけで事故率が下がるのに、もっとその確率を下げることができる。

 それは嬉しいことだしやれるならぜひともやってほしいのだが、それと同時に色々とおかしい性能をしたものを汎用型と言い張って渡してきそうなのが怖くて仕方ない。


「さ、こんなところで話していないで行きましょう。時間は有限、時は金なりよ」

「アイアイ、マスター」

「マスター呼びはやめて。次それ言ったら綾人くんの恥ずかしい黒歴史暴露するから」

「脅し文句の破壊力よ」


 何とも締まらない感じで、美琴達はギルドを出て世田谷ダンジョンの入り口に向かって歩き出す。



 今日の配信はあくまで深層配信なので、上層から下層までは配信せずにハイスピードで進んでいく。

 また大穴を使って下層まで行ってもよかったのだが、もう工事の方は大分進んでいて邪魔するわけにはいかなかったので、正規ルートで進んでいった。

 下層直通エレベーターの完成はまだ数年先とのことなので、こうしてダンジョンに潜って近くを通った時に様子を見るのを時々の楽しみにしようと、偶然近くを通って頑張っている建設作業員の姿を見て思った。

 ただ見るだけなのも忍びないので、今度何か差し入れでも持っていこうとも決めておく。


 下層最深域のボスをフレイヤの魔導兵装で消し飛ばしてもらってから、全員で揃って深層に突入する。

 案の定大百足が上から奇襲を仕掛けてきたが、フレイヤの護国の王(キング)でその奇襲を防ぎ、美琴の雷撃で消し飛ばした。


「マジで大百足が奇襲しかけてくんだな」

「もう見慣れたけどさ、最初はやっぱりかなり驚いたものよ」

「そんな大百足の襲撃を初見で防ぐフレイヤも、中々じゃな」

「美琴さんの配信で襲ってくることは想定していましたから」


 体を崩壊させて核石と黒い甲殻を落とした大百足を見ながら、綾人が頬を引きつらせながら呟く。

 美桜も華奈樹も前回の攻略の時に一度体験しているため特に驚いていなかったが、フレイヤとリタはこれが初回なのに全く驚いていないどころか、余裕で対処したのが驚きだ。

 美琴の配信で知っていたとしても、あそこまで余裕で対応されると美琴の方もどう反応すればいいのか分からなくなってしまう。


「これが深層モンスターの素材ですか。すさまじい硬度ですね。……魔力の伝導もかなり早い。これを兵装に転用できれば、いいものが作れそうですね」

「そういうことは帰ってから考えてねフレイヤさん。ほら、配信準備を始めましょう」

『お嬢様の方は私の方で準備を進めておきました。もちろん、勝手に配信を始めていませんのでご安心を』

「フレイヤ様の方も、わたしがやっておきました。あとは開始のボタンを押すだけです」

「どっちのマネージャーも優秀ですね」


 もうとっくに準備を終わらせてくれていたため、軽くその場でストレッチをしてから配信開始のボタンを押す。


「眷属のみんな、こんにちは! 琴峰美琴のダンジョン攻略配信の時間だよ! 今日は前に告知しておきながら延期になった深層攻略をやっていくよ。あ、今日も幼馴染組は一緒です」

「Hi! It’s time of my dungeon stream! 今日も来てくださりありがとうございます。ようやく美琴さんと深層に足を運ぶことが叶いました」

「Nice to see you.お久しぶり……でいいのでしょうか? フレイヤ様のメイド兼マネージャー・サポート役のリタです。まさかわたしもここに足を運ぶことになるとは思いませんでした」


”ついに始まってしまったか”

”最強クランの深層攻略配信のお時間”

”最強クラン(全員女子高生&男子高生)”

”ここに灯里ちゃんとルナちゃんがいないだけまだ安心して見ていられる”

”そろそろおねロリ配信も見たいです”

”おにロリもいいよ? 綾人くんだったら引率のお兄さんっぽくなって面白い絵面になりそう”

”ルナちゃんが綾人くんバリ警戒してるっぽいから難しそうではある”

”相も変わらず綾人くんはハーレム状態かよ……クソがッ!”

”画面端に半分映り込んでるだけなのクッソワロwwwwwww”

”やっぱり美少女だらけの場所に男一人は色々大変なんだろうな”

”しんちゃんかっちゃんが男子を入れてほしいと言ったから勧誘して加入したのに、当の綾人くん本人が今のところ女子としかダンジョン潜ってないの殺意湧く”

”高身長の袴姿のクソイケメン侍ボーイだから、このメンツでも映えるのおかしい”

”フレイヤちゃんが大事そうに大百足の甲殻抱えてんのどゆこと!?”

”こーれ、また深層に来た瞬間に奇襲されたか”

”大百足君さあ……。奇襲だけじゃ美琴ちゃん達に敵わないってこと分かんないかなあ……”

”奇襲でなくとももう敵わないほど強いパーティー”


 深層攻略ということもあって、美琴とフレイヤの両方が揃って千万越えの視聴者が集まっているため、恐ろしい速度でコメントが流れていく。


「うへぇ……。なんだこの意味分からん数字……」


 若干離れた場所から配信画面をのぞき込んだ綾人が、驚いたような声を出す。

 美琴も普段の配信でも百万から数百万集まることはあるのだが、ここまで人が来る深層配信の時は毎回その数に驚かされる。

 そして大量のコメント欄の中に、日本中どころか世界中の探索者ギルドの本部や支部が混ざり込んでいるのにも驚かされる。


 もうすでに色んなギルドから素材を売ってほしいや情報を言い値で買うというコメントが書き込まれているが、フレイヤはもう世田谷支部の支部長の優樹菜と話し合いをして素材を渡すことを決めているし、美琴も世田谷支部に渡すつもりでいる。

 こうして配信で攻略風景を流すのは、世田谷だけにダンジョンの利益を出させないための措置でもあると言えるだろう。


「今日はここ深層上域の攻略を進めていきたいのと、もし可能ならボス戦までやって深層中域まで行ってみたいのよね」

「随分と高い目標ですね」

「昨日冬休みの宿題を結構進ませて余裕出来たからね。その分こっちに注力できるのよ」


 とは言ったものの、深層は下層と比べると恐ろしく広いエリアとなっているため、順調に進んだとしても中域まで進むのは難しいだろう。

 この上域全体を記録するだけなら、アイリを飛ばすなりフレイヤがイカロスの翼を使って上空から撮影するという手段を取ることもできるのだが、それだとあまりにも面白みに欠ける。

 深層という超危険地帯で面白みなんてものを考える必要はないのだが、視聴者がたくさん集まっている中で配信をしているため、どうしても思考が配信者寄りになってしまう。


「よし、それじゃあ配信では三回目の深層攻略配信、開始よ」


 始まりの挨拶等はそこそこに、美琴にとってはリベンジマッチともいえる(配信では)三度目の、一つのクランとしては世界で初となる深層攻略を始める。

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