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150話 夢想の雷霆幼馴染パーティー

 綾人をクランに加入させた翌日の十二月二十六日。

 せっかく幼馴染が揃ったのだし、美琴と綾人も冬休みに入ったのでどこか遊びに行こうかという話になったが、華奈樹と美桜が綾人のお披露目は早いうちにやっておいた方がいいからと、ライセンスを取得していない(するつもりがないらしい)志桜里を除いて四人でダンジョンに潜って配信することになった。


「胃が……」

「大丈夫そう?」

「今からでも俺だけ一人で先に進んでしまいたい」

「そらさせへんで」

「一人だけ逃げようだなんて思わぬほうが良いぞ? 瞬間的な速度は美琴を除けば上じゃろうが、持続力は妾達の方が上じゃからな。逃げるというのなら、主がバテて動けなくなるまで追い回すぞ」


 美琴、華奈樹、美桜の三人はいつもの格好のミニ丈着物とミニスカ巫女服に着替え、綾人は自身の持つ身体補助と呪的防御の施されている袴の呪術礼装を身にまとっている。

 袴を着て腰に刀を差している姿は非常に様になっていて、想像以上に格好良くて思わずどきりと心臓が跳ねた。

 そんな綾人は、男子が自分一人であることと女子三名がミニ丈着物やミニスカートであること、三人とも胸が大きいこと、そして美琴がそれに加えて肩と胸の谷間が見えているため視線が常に泳いでいる。

 やっぱりトライアドちゃんねるの二人も連れてきてバランスを取ったほうがよかったかもしれないと思うが、今の綾人のうぶな反応も可愛いのでこれはこれでいいかもしれない。


「今日はどこまで行くつもりなんじゃ?」

「まさか、深層までとか言わへんよな?」

「言わない言わない。綾人くんの初お披露目も兼ねて連携強化もしておきたいから、行っても下層の最深域よ。冬休みの宿題もやらないといけないから、時間的に一日中は無理だけど」

「本当に真面目だな」

「学校じゃあ優等生で通っていますから」


 などと話しているうちに、配信開始の時間が迫ってくる。

 それに比例して綾人の表情が少し怪しくなっていき、右手をお腹に当てる。

 最近はなくなったが、バズった直後の美琴も緊張でお腹が痛くなっていたなとなんだか妙に懐かしい気分になる。

 そしていよいよ配信が始まる。


「眷属のみんな、おはよう! 琴峰美琴のダンジョン攻略配信の時間だよ!」

「一昨日ぶりじゃな、十六夜美桜じゃ」

「おはようございます、華奈樹です」


”うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!”

”朝から美少女×3を見られるとか最高すぎる!”

”やっぱ顔面偏差値おかしいってこのクラン”

”美桜ちゃんも十分背が高い方なのに、美琴ちゃんという百七十越えの長身美少女がいるから低く見えるの不思議”

”なんか画面の端に袴っぽい何かが映り込んでんだけどナニコレ”

”しんちゃんかっちゃんの新衣装か?”

”あの二人はクランの制服貰っているし、違うだろ”

”え、じゃあこの画面の端に映ってるのなに?”

”まさか、落ち武者の霊!?”

”なんでだろう、全く心配にならない”

”退魔師最強と実力派エリート退魔師と神様だから不安要素がないの草”

”んで、実際なんなの?”

”そういえば昨日、美琴ちゃんが男と町を歩いているのを見かけたってスレで話題になってたけど”

”ギルドに入っていくのが見えたともあったな”

”あ、タイミング的に誘おうとしてた野郎か?”


 開始早々コメント欄が濁流のように流れていく。

 これも最初の頃は緊張と知識と経験のなさで困惑したが、今はすっかり慣れたものだ。


「今日はダンジョンの下層まで行こうかなとは思っているんだけど、一時か二時くらいで終わりにしようかなって思っているの。学校の宿題とかあるし」

「妾達は別に、一日潜っていてもよいんじゃがな」

「そんなこと言って。小学校の頃宿題後回しにしてよく泣きついていたじゃない」

「うっ!? よ、よく覚えておるな……?」

「ほら、二人とも。早く本題に行かないと、いつまで経ってもそこの人が映り込めないですよ」


 ここで少し美桜の過去話を暴露しようとしたのだが華奈樹に遮られ、仕方がないと美桜の暴露を止めにする。


「もうコメントでも結構書き込まれているし、何だったら昨日のうちにクランの公式ページにも追加していたけど、紹介するね。私達夢想の雷霆の新メンバー、華奈樹と美桜と同じ私の幼馴染の剣城綾人くんです」


 そう言ってアイリ入りカメラを綾人の方に向ける。

 もう自分に向くとは思っていなかったのか、びくりと体を少し震わせる。

 その瞬間、コメント欄の流れが劇的に遅くなる。


 ちらほらとコメントが流れていくが、書かれている内容は背が高いやものすごいイケメン、侍だという日本語や英語そのほか海外のコメントと言うものだった。

 男性視聴者の方が多いが、比率で言えば男女比7:3なのでそれなりに女性視聴者もおり、すぐに女性ファンが大量にできそうだなと苦笑する。

 ちなみに女性視聴者がそれなりにいる理由は、自宅配信の時に料理をすることが多いためだからだそうだ。


「ほらほら、綾人くん自己紹介」


 固まって動かない綾人に近付いて肩をぽんと叩きながら促すと、ややぎこちない動きをする。


「え……っと、初めまして。昨日美琴のクランに入った剣城綾人、です。その、美琴が京都にいた頃からの幼馴染です。探索者には昨日なったばかりで知識とかほとんどないので、この三人みたいに上手く動くことはまだできませんけど、よろしくお願いします」

「……硬いのう」

「し、仕方ないだろ。まさか美琴の配信に映ることになるなんて思わなかったんだから」

「でも今のは少し硬すぎですよ」

「華奈樹はなんで急に敬語に?」

「京言葉を使うのは知り合いしかいない場所と決めていますから」


”ふ、普通に名前呼びしとる……!?”

”こんな美少女達と幼馴染とか、なんてうらやまけしからんのだ!”

”やっぱ祓魔十家だったか”

”竜胆家じゃないかって予想立ててたやついたけど外れたな”

”序列十位でも、言い換えれば日本の呪術界トップ10に入っている鬼強一族だからな”

”なんだよこいつ……背がクッソ高い上に顔も超イケメンで侍とか、モテる要素しかねえじゃねえか!”

”百七十以上ある美琴ちゃんが見上げるレベルの長身とか羨ましい”

”あんな美少女に見上げてもらえるとか最高かよ”

”しかも幼馴染。前世でどんな徳積んだんだろう”

”美琴ちゃんに名前で呼んでもらえるだけでも最高なのに、美琴ちゃんを名前で呼べるなんて”

”退魔師と呪術師両方で準一等とかいうエリートだけど、探索者としては実績ゼロでよく入れようと思ったね”

”探索者には昨日なったばっかって言ってたから調べたけどさ、等級が準一等ってなってるのおかしくね?”

”推薦を受けて受かると最低でも二等、試験で余程いい成績を叩き出すと準一等や一等になれるって言う噂はあったけど、それマジだったのかよ”


 綾人が自然な感じで美琴のことを呼んでいることに騒然とし始めて、一部視聴者が嫉妬し始める。

 そんなに幼馴染というのがいいのだろうかと思うが、ピアスの方からアイリが『お嬢様という美少女と幼馴染になれることが羨ましいのですよ』と言われて、少し頬を赤くする。


「あ、綾人くんが準一等になったのは、祓魔局の方で登録してある階級が準一等であること、試験の時に録画した討伐動画からどう考えても二等じゃ収まらないからって言うことで、準一等になったの。まあ、確かに実績も何もなしの正真正銘の新人なんだけど」

『お嬢様やフレイヤ様が所持している未成年限定換金承認試験に受かることでもらえる換金許可証もありませんしね』

「あれ、未成年がお金のために無茶してダンジョンに行かないようにするために、合格させる気がないレベルで難しいって言うけど、そんなに?」

『お嬢様が筆記試験を突破するために、睡眠時間を削って寝不足になるくらい勉強するくらいには』

「マジで合格させる気ないじゃん」

「筆記試験突破した後に試験官と実践試験があるけど、それも合格させるつもりがないくらい難しいわよ」


 受験の申請をした後で身辺調査が始まり、それを突破した後で合格率五パーセント前後の高難易度筆記試験、更にそれを乗り越えた先に待ち構えている合格率一パーセント程度の鬼畜難易度模擬戦試験。

 ダンジョンが発生したばかりの頃に、多くの貧困層の未成年が一獲千金を狙って潜り込んで、その大部分が帰ってこなかったという悲劇が連発したために、後に発足した探索者ギルドと政府が連携して最優先で作った、未成年に対するストッパーだ。

 特に現在は少子高齢化が酷いこともあって年々その難易度は跳ね上がっており、その結果が最終合格率一パーセント程度の鬼畜試験になった。


「そう考えると、よく美琴とそのフレイヤさんだっけ? はその試験に受かったよな」

『共通点として、どちらも秀才型で努力を微塵も怠らず、かつ自身の能力や持っている兵装の性能を最大限生かすことができる知識とそれに即応する体があることです』

「美琴はもはや人間の域超えちゃっているから分かるけどさ、そのフレイヤさんって何者なんだよ」

「下手したら魔神殺せるんじゃないかってレベルの兵器作っている子」

「……人間か?」

「最近ちょっと疑わしいかも」


”美琴ちゃんにも人外認定されるフレイヤちゃんwwwwwwww”

”嫌でもあれは確かにそう思われても仕方ないって”

”魔神疑惑出てたけど、魔術使えるから魔神じゃないって言ってる奴いたな”

”美琴ちゃん→呪術・魔術が使えない。マラブさん→呪術・魔術が使えない(本人談)。アモン→魔術や呪術を使った形跡なし。フルフル→同じく。って言うデータから、魔神になる人物は魔術や呪術を使うことができない人がなれる資格を持っているって考察してたやつか”

”でも権能の方が魔術より数百万倍高性能だし自由だから、使う必要がそもそもないから使っていないだけ説もあったな”

”フルフルの一件以降美琴ちゃんはバアルちゃんの記憶を得たんだし、その辺分かってそうだけど”

”魔神になれる人間の条件明かしたら、美琴ちゃんやマラブさん、正体不明のフェニックスとベリアルという人類側の魔神がいるから、多くのクランや国内海外ギルドが躍起になって条件満たしている人を探すだろうから言えないだろうな”

”ぶっちゃけフレイヤちゃんも魔神だって言われても余裕で信じられる”

”深層モンスターワンサイドゲームでぼっこぼこにする兵器持ってるからな”

”来年成人するからダンジョン素材持ち出せるようになるから、もっとヤバいの作って来そうで超怖い”

”既に切れ味のみで下層最強格のミノを豆腐みたいに切れる刀を作ってるのを忘れるな”


 あまりにも規格外で常識外れな威力と性能の魔導兵装を大量生産するものだから、フレイヤも魔神なのではないかという疑惑が出ていた。

 視聴者の予想通り美琴はバアルからの記憶を受け取っているため、全てではないが魔神の力を覚醒させることができる条件を知っている。

 ただ全て知っているわけではないので、怪しいという答えしかできなかった。

 魔神なら魔神と会うだけで誰なのかが分かるという能力も、バアルに残されている三割の方にあるようなので、今の美琴では誰がどの魔神なのか知る術を持たない。


「さて、それよりもそろそろ始めましょう。夢想の雷霆幼馴染パーティー、始動よ」


 いつまでも上層でわいわい会話しているわけにはいかないので、美琴自ら先導する。

 ブレスレットから雷薙、ではなくフレイヤからもらった刀である裁決の鍵を取り出して腰に差し、先頭を歩いていく。

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