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145話 再会

 十二月二十五日、月曜日。

 美琴の通っている高校は今日が終業式で、冬休みが始まる。

 これを乗り切れば二週間の休みだとテンションが上がっている生徒。クリスマス当日だから恋人と好きなだけいちゃつけると浮かれている恋人持ちの生徒。クリスマスという日にかこつけて気になる異性に声をかけようと悩んでいる生徒と、様々だ。


 そんな浮かれている生徒がたくさんいる学校の廊下で、美琴は顎に手を当てながら考えていた。


『随分とお悩みのようですね』

「いいよって言ったけど、どうやって声をかければいいのか分からなくて」


 慎司と和弘の、一人でいいから男子メンバーを増やしてくれという切実なお願い。

 美琴自身女子高生であることと、探索者を始めた頃にろくでなしな男性と当たったことが重なって男性の知り合いは極端に少なく、学校でも言い寄ってくる男子はたくさんいるが友人と呼べるほど親しい人は皆無だ。

 それに加えて、助ける人気が合う人がほぼ全員女性であることもあって、クランメンバーのほぼ全員が女性となってしまっている。


 ネットではハーレム状態になっている慎司と和弘が羨ましいという声も上がっているそうだが、気まずそうやいづらそうという声も上がっている。

 自分の方が年下とはいえ、今はクランマスター。メンバーの声をしっかり聞くことも重要だし、いつまでも苦手から離れるのはよろしくない。


 とは思ったものの男性の知り合いなんていないに等しいし、ダンジョン攻略に連れて行けるだけの人もいないからどうしたものかと考えたが、一人だけ思い当たる人物がいた。

 同じ学校に通っていて、数年前の記憶しかないがお互いのことはよく理解している男子、いわゆる幼馴染だ。


 クラスは違うし同じ学校にいると知った時には美琴は雷電夫妻の娘であることと琴音譲りの美貌で人気者になっており、九年ぶりということもあって話しかけ方を忘れてしまい、二年生の後半になった今でも他人のふりを続けていた。

 昔は美琴よりも背が低かったのに今はうんと高くなり、顔つきも可愛らしくて弟のようだったのが今やすっかりイケメンになり、体つきも実家が祓魔十家ということもあってかなりがっしりとしている。

 九年前と比べて別人レベルで変わっているが、柔和な目元だけは変わらずにいたため一目で幼馴染だと分かった。


「京都にいた頃はどうやって会話してたんだっけ」

『すっかり幼馴染の男の子との接し方が分からなくなってしまった女の子ですね』

「九年間もあっていなければこうもなるわよ。……しかもなんかすごくカッコよくなっているし」

「ほー、美琴がほんのりをほっぺを赤くしながらカッコいいという男子がいるんだ」

「……うわあ!? あ、昌!? いつの間に……」


 にまにまと笑みを浮かべる昌が、いつの間にか右隣にいた。

 前にも気になる男子がいないわけでもないと言った時に変な反応をされたので、よりにもよって聞かれたくない言葉を聞かれてしまい、恥ずかしさで顔を赤くする。

 しかも今の昌の発言を聞いた周囲の生徒達も、美琴がカッコいいという男子は何者なのだとざわつき始める。

 中には自分のことだと思い込んでいる男子もいるようで、少しでも決めようと窓ガラスを鏡代わりにして髪を整え始める生徒もいた。


「それで、誰のことを言ったのかしら? 同じクラスの子? それとも他クラスの子?」

「い、言わないわよ。余計なことを言ったらあっという間に広まるし」

「もう手遅れだと思うけど」


 それは昌が割と大きめな声で言ったからだろうと突っ込みたかった。

 昌は普段は大人しく控えめだが、はっちゃける時ははっちゃけるし、悪ノリもしっかりする時もある。

 そして彼女のテンションがぶち上るのは恋バナで、修学旅行の時の夜、班の女の子の恋バナを聞いた時はみんな驚くくらいテンションが上がっていた。


 昌はなんとしてでも美琴の恋バナを聞きたいらしく、少ししつこく誰なのかと聞いてくるが無視を決め込む。

 周りにいる生徒が、普段の昌からは考えられないテンションの上がり具合に驚いているのを感じながら歩いていると、不意に美琴の教室の一戸手前の教室のドアが開いて、一人の男子生徒が出てきた。


「わっ」

「うわっと、悪い」


 一瞬ぶつかりそうになるが、相手がさっと避けてぶつからずに済んだ。

 ぶつかりそうになった男子の顔を見て、美琴は何というタイミングなんだと頭を抱えそうになる。

 その生徒の名前は剣城綾人(つるぎあやと)。祓魔十家序列第十位の名門の長男で、美琴の幼馴染だ。


 綾人もぶつかりそうになった相手が美琴だとは思っていなかったようで、驚いたような表情をしている。


「おーう、どうした綾人。って、雷電さんじゃん。おはよー」


 綾人がドアの近くで立ち止まっているのが気になったらしい、学校の中ではよく一緒にいるのを見かける、明るい茶髪の男子生徒が顔を覗かせる。

 垢ぬけていて遊び人のような雰囲気だが、実際はかなり真面目で成績は常に二十番台にあるし、かなり一途で自分の恋人以外の女性になびかないらしい。

 実際今まで一度もその生徒からどこか遊びに行こうと誘われたことはないし、時々ではあるがいつも同じ女の子と楽しそうに街を歩いているのを見かける。


「お、おはよう。……えっと、」

佐々木和樹(ささきかずき)だよ。気軽にささっちって呼んでもいいよ」

「ちょい、ささっち。美琴とはほぼ初対面なんだからそんなこと言わない」

「お、サクじゃん。いつも雷電さんと一緒だな」

「そりゃ親友ですから」

「俺を挟んで会話するな」

「おぉっと、悪い。んで、どうしたんだよ綾人。一階の自販機に行ってジュース買ってくるって言っときながら、なんで雷電さんとちょっと気まずい感じになってんだ」


 どうやら飲み物を買いに行くために出た瞬間、美琴とぶつかりそうになったようだ。

 自分から会いに行く必要はなくなったが、どう話しかければいいのか分からないままなので、できればもう少し後にこういう状況になってほしかった。


「……その、久しぶり」


 どうしよう。ずっと黙ったままなのは流石に気まずいし、周りからも変に思われてしまうから、何かせめて言った方がいいのに何も思いつかないでいると、綾人の方からそう切り出した。

 和樹が綾人が久しぶりと口にした瞬間ものすごく驚いた表情をして、昌は何かを察したのか温かい目を向けながら「先に教室行ってる」と言って去って行った。


「……そう、ね。久しぶり。……会話するの、九年ぶりくらい?」

「もうそんなになるのか。そりゃ久々に見かけても話しかけづらくなるな」

「綾人くんの場合は、久しぶりだからっていう理由以外にもあるんじゃない?」

「それもあるかもな。入学してすぐに人気者になったし、美琴に話しかけようにも周りの目があったからな」


 上手く話せるか不安だったが、話し始めると意外と緊張せずに言葉が出てくる。

 これがもっと人のいない場所であればより緊張せずに、昔に近い感覚で話せたかもしれないのが惜しまれる。

 和樹のものすごい表情が面白くてついこのまま普通に会話を続けたいと思ってしまうが、綾人が助けてくれと目線で訴えてきたので長話はしないほうがいいだろうと、用件だけ伝えることにする。


「……」

「……何?」

「いや、本当に背が高くなったなーって。私より背が低かったのに、今じゃ私が見上げる側だよ。身長今いくつくらいなのよ」

「百九十くらいかな。中学と高校一年で一気に伸びた」


 百七十二センチと高校生男子の平均身長より少し高めだが、そんな美琴でも少し見上げなければいけないほど、綾人の身長が高い。

 群を抜いた長身に加えて、祓魔十家の長男であり体はしっかりと鍛えられているのがなんとなく分かる。

 小学二年の時は体が細くて、大人しいし引っ込み思案だったこともあって女の子みたいだと言われていたのが嘘のようだ。


「ちょっと言いたいことがあるんだけど、聞かれたくないから耳貸して」

「変な誤解招きそうなんだけど」

「いいから、貸して。別にやましい関係なわけじゃないんだし」

「あとから根掘り葉掘り吐き出させられるんだって。……分かったよ」


 気恥ずかしそうに少しかがんでくれる綾人。

 こんな人前で耳打ちをすれば邪推する生徒が大量発生するに違いないが、人気のない場所に連れて行くのも連絡先を聞くのも同じことだと思うので、その場で伝えたほうが早い。


「終業式が終わった後、学校の屋上に来て。話したいことがあるの」


 周りに聞こえないよう、少しドキドキしながら囁く。

 それだけ言って離れると、綾人は大体何かを察したかのような表情をしながら小さく頷く。


「それじゃあね、綾人くん」

「……ああ、じゃあな。美琴」


 また後で、だと会う約束をしたと気付かれてしまうので、そう言って誤魔化しながら美琴は自分の教室に向かう。

 そして教室に入るなり、美琴が綾人と親しげに会話していたことが一瞬で回ったようで、二人は一体どういう関係なんだとクラス中の女子から問い詰められることになった。

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