第14話 中層の更にその先の下層へ
「よし、討伐完了! そして中層踏破!」
下層へ行くものを阻む最大の難所ともいえるボスを単独撃破した美琴は、やり切ったような清々しい笑顔を浮かべる。
これでなんの心置きなくその先の下層へ通じる道を進むことができる。
”マジいいいいいいいいいいいい!?”
”中層で最も強いボスのゴリアテがこうもあっさりと……”
”あいつ確か下層上位のモンスターと変わらんくらい強かったよな!?”
”最後の攻撃やばすぎるwww もう笑うしかねえwww”
”離れていたとはいえどうしてカメラが壊れていないんだよwww”
”これ間違いなくゴリアテ討伐最速記録だろ”
”美琴ちゃんにしかできない攻略法だから絶対に真似できないね!”
”一応呪術にも九天応元雷声普化天尊って言うマジもんの雷を落とす術があるけど、比べ物にならねえ威力してた”
”むしろそれじゃないと倒しきれないゴリアテがすごいって褒めるべきなのか?”
中層最強格ボスゴリアテのソロ討伐に沸き立つコメント欄。
爆速でコメントが一斉に流れていき、全てを追いきれない。
中々にいいタイムで倒せたのではないだろうかと思い、ふと同接数を見てみるとそこには十八万という数字が表示されており、思わず悲鳴を上げそうになる。
『お疲れ様ですお嬢様。相変わらずとんでも威力ですね。これでまだ三鳴というのですから、七鳴神はどんな威力になることやら』
「じ、実は私も四鳴以上は使ったことないから分からない。それよりも、同接が今までにないくらいあるんだけど、ど、どうしたらいい!?」
もうじき二十万を迎えるその数字を見て少しテンパってしまった美琴は、十八万人突破とボス討伐記念に少しセクシーなポーズでもしたほうがいいのではないかと、変なことを考えて勝手に自滅しかける。
『落ち着いてくださいませ。戦いの後でハイになっているのは分かりますが、慌てて変なことをしないように。同接が増えたところで、何か特別なことをしなければいけないなんてことはありませんよ』
「……ほんとに?」
『配信開始時にからかいすぎた弊害ですね。そのことについては謝罪しますので、今の言葉は信じてください。下手にファンサービスをすれば、後々痛い目を見るのはお嬢様ですよ』
確かに下手なファンサービスは視聴者が離れてしまう原因になりかねないので、冷静になるべく深呼吸をして落ち着かせる。
「少し取り乱してごめんなさい。もう大丈夫だよ」
”全然いいよー”
”そりゃいきなりこんな数字見たら取り乱すよね”
”序盤の出来事のせいでアイリちゃんのこと信用しきれてないの笑えるwww”
”もう十八万か。この配信内容からじゃ、まだ少ないとすら感じるな”
”二十万、なんだったら三十万行ってもいいくらい”
”《トライアドちゃんねる》ゴリアテソロ討伐で最速記録叩き出してるよこの女子高生……”
”トライアドちゃんねるが困惑しとるwww こんなん困惑しないわけないからわかるわwww”
”ゴリアテの落とす核石でっけえなあオイ!?”
ボス級のモンスターは基本体が大きく、その分核石も落とす素材も大きい。
ゴリアテが落としたのは十七メートルもある巌の大剣と、美琴の顔ほどの大きさはある核石だ。
大剣は大きすぎて持ち運びが不可能なのでここに放置するのは決定として、問題はこの核石だ。
これだけ大きければ恩返し資金の大きな足しになるのだが、大きすぎてしまうことができない。
もしソロではなくもう一人いれば、その人に持たせることもできたかもしれないが、そこはないものねだりしても仕方がない。
『ボスを倒したのでこの部屋から来た道を引き返すこともできますが、それだと時間を大きくロスしてしまいますね。こういう時、ソロは辛いですね』
「……仕方ない。ここのどこかに隠しておきましょう。アイリ、カメラだけ切って」
カメラを切るように指示を出して、配信画面が真っ黒になったのを確認してから中層へ戻る転送陣の近くの瓦礫の下に隠す。
こうしたお金になるものへの嗅覚が異常に鋭い探索者から隠せるとは思えないが、何もしないよりはましだろう。
”美琴ちゃん美琴ちゃん、最後のやう゛ぁい雷は何?”
”見た感じスタンピード蹂躙のに似てる気がするけど”
隠し終えて浮遊カメラが浮いている場所に戻ってカメラを再起動させて映っているのを確認していると、コメント欄に質問がいくつも書き込まれていた。
「白雷のこと? んー、ざっくりとだけ話すと、私の後ろに出ていた巴紋に雷エネルギーを一定以上蓄積させていって、限界まで溜まったらそこに溜まった分のエネルギーをまるっと雷に変換して打ち出す私の必殺技みたいなもの、かな」
これはあくまで美琴が自力で編み出したオリジナルの技術であるので話してもいいと判断して、ざくっと説明する。
『付け加えますと、四鳴、五鳴、六鳴、七鳴神と蓄積できるエネルギーの限界値は加算ではなく乗算で増えていきますので、下手に乱発もできない代物ですね』
「ダンジョン内ではせいぜい四鳴が限界だからねー」
これ以上行くと自分の攻撃でダンジョンが崩落しかねないという言葉は、口から出る直前で飲み込んだ。
このことまで話してしまえば、それこそ女子高生の配信者ではなく、女子高生の皮を被ったとんでも威力の技を持つ化け物配信者というイメージが定着しかねない。
たとえ、割と手遅れになっていそうだとしても。
「さってと、いつまでもここに留まっているわけにはいかないし、現役女子高生の貴重な時間を無駄にしないためにささっと下層に行きましょう」
”話し方のテンションが散歩に行くそれで草”
”下層って曲がりなりにもベテランですら油断できないってきっぱりと言う地獄なんですが”
”https://mikoto_kotomine○○○○←アイリちゃんが切り抜いて投稿したこの動画を観ても同じことが言えるかな?”
”さっきからアイリちゃん仕事が爆速すぎて笑える”
”切り抜き班や職人涙目だろこんなん”
”あんなの見せられた後だから不安はないけど心配にはなりそうだなあ”
これから下層だというのにまるで散歩や遠足にでも行くかのようなテンションで、地獄との評される領域へ通じる道へと進む美琴。
「それじゃあ、今日の本題の下層の攻略開始!」
どこかぬるりとした空気を感じる下層へ通じる道へためらわずに踏み出し、視聴者達は緊張を隠せない様子でコメントを残していった。




