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番外編 新年あけましておめでとう

「ねえ……。本当にそろって参加するわけ?」

「もちろんよ! 美琴がお世話になっているんだし、ここでちゃんと挨拶しておかないとね」

「俺も同意見だ」

「お父さんは前に映り込んだでしょ……」


 二〇二三年十二月三一日。

 今年も残すところ、後に時間と少しといった時間だ。


 この日から三が日は、琴音も龍博も何が何でも休みをもぎ取ってくるので、一緒に過ごすことができる。

 美琴としては嬉しいことではあるのだが、今年に限ってはアイリの策略によって年越し配信をすることになってしまっており、そこに両親も参加する流れになっていた。


 とっくに二人とも配信に映ったことがあるので今更ではあるのだが、ほぼ毎日美琴がお世話になっている眷属のみんなに挨拶がしたいそうだ。

 二人とも顔は割れているし有名人なので、こうして映ることは特に特別なことではないのだが、自分の娘に配信に入り込みたいというのは予想外だった。


「それにしても、ずいぶんたくさんの人達が待機しているのね。まだ配信を始めてもいないのに、もう百万人近くいるじゃない」

「別に有名人になってほしくて育てたわけではないが、こうして大勢に愛娘が愛されていると思うと、感慨深いな」


 まさかの親子配信になってしまい、そのことに緊張しながら待機画面を見つめる。

 クリスマスの少し前で起きたある一件もあって、美琴のチャンネル登録者数も激増しており、その数は千七百万人となっている。

 何がどうしてそこまで増えたのだろうかと頭を抱えたが、何度考えても思い当たるのは一つしかなかったので、後悔はしなかったが反省はした。


 そもそもその出来事は配信外でのことだったというのに、口コミ的なもので広がって行ってそれが登録者増加に繋がったのではないかと、アイリは推測している。

 おかげで一千万人はとうに超えていたので、次の千五百万人の時は絶対に記念配信をするか、超えるまで耐久配信をしようと考えていたのに、結局それも逃してしまった。


『配信開始まで、あと一分です』

「今日は大人しくしているのね、アイリ」

『奥様と旦那様がおりますから』

「アイリったら、時々美琴に意地悪するわよね。視聴者が望んでいるとはいえ、やりすぎるのもよくないわよ」

『申し訳ありません、奥様。以後はできるだけ自重いたします』

「私からすれば、自重じゃなくて今後一切やめてほしいところではあるんだけどね」

『眷属の皆様が望んでおられますので、不可能です』

「どこまでも眷属のみんなの味方ね……」


 そんな会話をしているうちに、配信開始まであとわずかとなる。

 テレビに多く出演することがある琴音はともかく、龍博は芸能人ではなくあくまで社長なので、これから始まる生配信に少し緊張している様子だ。

 残り十秒になったところで少しそわそわし始めるのを見て、龍博もこうして緊張するんだなと、普段見ることがない一面を知れて微笑みを浮かべる。


 昨日、美琴の配信のオープニング動画を作ってくれたクリエイターが、年越しライブをすると知ったからという理由で新しいオープニングを送ってくれて、早速それを流す。

 三〇秒程度の短いオープニングが流れた後、雷電一家の映っている配信画面に切り替える。


「眷属のみんな、こんばんわー! 二〇二三年最後の琴峰美琴の生配信の時間だよー!」


”キチャアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?”

”なんかトンデモねービッグゲストが両隣におるううううううううううううううう!?”

”前情報なしでいきなり新しいオープニングが来たと思って狂喜乱舞してたら、いきなり雷電夫妻が映り込んでビビったわwwwwww”

”こうして並ぶと、マジで琴音ママは美琴ちゃんとそっくりだなあ”

”双子とまでは行かないけど、姉妹じゃん”

”信じられるか? これで子持ちの人妻なんだぜ?”

”普通に美琴ちゃんだけの年越し生配信かと思ったら、全然そんなことなくて笑った”

”龍博パパって、オフの日ってそんな服装なんだ”

”着物なんだね”

”クッソかっけえ”

”美琴ちゃんと琴音ママは普通に洋服なんだ”

”今年最後なんだし、着物とか振袖でもよかった気がする”

”新年一発目の配信では振袖でやってくれー!”

”こうして元気に配信している美琴ちゃんで今年を締められるなんて幸せ”

”今年は美琴ちゃんに出会えて幸せだったよー!”

”ドキドキハラハラすること山ほどあったけどね”


「うひゃー……。時々配信観るから知っているけど、こうして見るととんでもない量ね」

「美琴はもう、これには慣れているのか?」

「まあね。最初の頃はもちろん怖かったけど、慣れって不思議よね」


 開始早々激流のような速度で流れていくコメントの数々に、琴音が頬を引きつらせ、龍博が苦笑いを浮かべる。

 その中に色とりどりのスパチャの投げられてきて、それを皮切りにどんどんスパチャの数が増えて行く。


「ちょちょちょちょ!? いきなりスパチャ爆撃やめてくれない!? 心臓に悪いから……やめなさいってば!?」


 しまいにはコメント欄がスパチャだけで埋め尽くされてしまい、動悸が激しくなって嫌な汗が流れ始める。

 ありがたい気持ちでいっぱいではあるのだが、それ以上に怖いが勝る。

 一旦この流れを止めようと美琴の方からスパチャを切ろうとするが、アイリがそれを邪魔してくれやがり、そのまま続行となった。


「えー……今年最後の配信でも、アイリはきっちりとみんなの味方みたいです……」

「声が少し震えているわね」

「金銭感覚はお母さんたちのおかげでごく普通の女の子なんだから、開始数分でスパチャ総額が数十万超えたらそりゃ声も震えるわよっ」

「場合によっては、俺達よりも稼げているかもしれないな」

「その分税金と確定申告が面倒になって来るけどね……」

『そこは税理士を雇ってもいいかと。まあ、私がいますので必要ないでしょうけど』


”開幕スパチャ爆撃か。流石だねえ”

”美琴ちゃんの配信って不思議なんだよなー。配信観終わった後、いつもメールアプリの方に覚えのない請求がいつもあるんだよ。で、見返すと無意識のうちに自分でスパチャ投げているんだよなー”

”この数か月の間、たくさんのドキドキハラハラワクワク、そして可愛いとぽんこつをありがとう!”

”来年もぽんかわな美琴ちゃんをたくさん見せてくれ!”

”というか来年こそは、今年よりもう少し大人しい一年であってほしいな。美琴ちゃん来年受験生だし”

”そこはまあ、どうにかするでしょ。今の美琴ちゃんなら大した問題じゃないだろうしさ”

”それよりワイはてっきり、夢想の雷霆の女子メンバーでまた女子会しながら年越し配信するのかと思ってた”

”あやちゃん以外全員未成年だし家族と住んでいるんだから、今年の最後くらいは家族と過ごしたかったんだろ

”マラブさんはどうなってんだろう。クリスマスの時にツウィーターで、『クリボッチ確定!!!!!!! 夜が明けるまで飲み明かす!!!!!!』って投稿してたけど、今日は何もなかったぞ”

”モデル仲間に引っ張られて行ったんだろうなって予想”

”最後の最後まで未来視で未来見てくれって言われてそう”


「女子会はねー、実際はやろうと思ったけど、お父さんとお母さんが確定で帰ってくる日だからやめたんだよね」

「俺は別に、友達を呼んでもよかったと思っていたが」

「昌とか灯里ちゃん、フレイヤさんはともかく、他の人呼んだら怖がっちゃうわよ。お父さん、怒っているわけじゃないのに普段からちょっと顔怖いし」

「むぐっ」


 自分の顔が強面なのを自覚しているようで、美琴に顔が少し怖いと言われて胸を押さえて唸る。

 とにかく美琴のことを溺愛してやまない親バカなので、ちょっとでも娘に嫌われないように日々努力を欠かしていない。


 そんな龍博だが、真夏の時に自分の洗濯物を誤って美琴のものと一緒に回してしまい、割と本気で怒られて一週間ろくに口を利いてくれなかったことがあり、それがガチ目なトラウマになっている。

 それ以降は徹底的に気を付けており、怒られたくないからという理由で美琴専用の洗濯機まで用意しようとしていたこともある。

 流石にそこまでしなくていいし、気を付けてさえくれればそれでいいからと許しを出したが。


「ほらほら、龍博さんが深刻なダメージを受けているわよ」

「いい加減子離れしたらどうなの? 今でそんなんじゃ、彼氏とかできたり将来結婚することになったら、どうなるのよ」

「そ、それはもちろん祝福する……が……手塩にかけて育てた娘を、どこの馬の骨か分からん奴に出すわけには……」

「そんなこと言っていたら一生彼氏もできないし結婚もできなくなるじゃない。って、前にもこんな会話しなかった?」


 何をするにしても美琴最優先な龍博。

 琴音が妊娠するまで、環境が地獄のように悪かったというのもあってえげつないストレスもかかっており、この時からすでに二人とも社長をやっていたこともあって、夜の営みの回数も少なかった。

 そういった要因が重なって中々子宝に恵まれず、七年間待ち続けた末にやっと美琴を授かった。


 その七年間、とにかく子供が欲しいという気持ちが募り続けていき、美琴が生まれてからその思いが大爆発。

 その結果、もう十分一人立ちしても問題ないくらい色々なことがこなせるようになった現在でも、全く子離れができない状態になってしまった。


 祖父母はあくまで、宗家である自分の家に生まれた孫娘としか見ていなかったし、親戚も宗家に生まれた娘としか見ていなかったので、こうして肉親から溢れんばかりの愛情を注がれるのは嬉しい。

 ただ年々その愛情が重くなっていくのを感じ、最近は少し重すぎるとすら思う。

 どうしたら子離れができるようになるのやらと頭を捻るが、それを察した龍博がこの世の終わりみたいな顔をしたので頭の隅に追いやる。


「そうそう、忘れてた! えっと、眷属だったかしら? 美琴のことが広く知れ渡ってからここまで応援してくれてありがとう。まさかこんなに大きなチャンネルにまで成長するとは思わなかったし、あんなに問題に巻き込まれるとも思わなかったけど、ここまでこの子が来られたのは間違いなく、みんなのおかげよ。来年も、私の大切な娘のことをよろしくね」


 琴音が配信に入った目的を思い出し、悲壮感たっぷりな龍博を元に戻す意図も含めてそう話す。


「お、俺からも感謝を。時折不埒なコメントを見かけることもあるが、それはまあアイリがどうにかしているし、美琴も冗談だと分かっているようだから深くは追及しないでおこう。長い間美琴のチャンネルは伸び悩んでいたが、それがここまで一気に来たのは紛れもなく眷属のみんなの応援のおかげだ。大切の育てた娘がこうして大勢に知られることは、親としては嬉しいことだ。今年は本当に世話になった。来年も、美琴のことをよろしく頼む」


 元に戻った龍博も、琴音と同じように感謝のコメントを述べて軽く頭を下げる。


”こちらこそ、美琴ちゃんをこの世に産んでくれてありがとうございます! 一生の推しができました!”

”ここまで応援できたのも、超清楚で超優しくて超礼儀正しい美琴ちゃんだからですよー”

”こんなにいい子に育ててくれてありがとう! おかげで今年の後半は最高でした!”


 コメント欄も二人のコメントに対して、感謝のコメントで溢れていく。

 ネットは怖い場所だという知識はあったので、あの大バズりからここまで炎上せずにいたのは、雷神であることがバレてからも変わらず応援してくれたのも、良識のある優しい視聴者のみんなのおかげだと、胸の奥が温かくなる。


「ありがとう、みんな。……大好きだよ」


 本当にいい環境に恵まれたなと嬉しく思い、思わず大好きという言葉を口にしてしまう。

 その瞬間、一瞬だけコメント欄が停止したのちに壊れる。

 いった後でしまったと口を塞ぐが、後の祭り。もうどうしようもないくらいにコメント欄がおかしくなってしまった。


 落ち着きを取り戻すまでにしばらく時間がかかり、そこからは適当な雑談を続けた。

 そうして過ごすこと約二時間。いよいよ二〇二三年が終わる。


「今年は本当にありがとうございました。来年もよろしくお願いします」


 残り数秒でタイミングを計って、口を開く美琴。

 そして、ゼロ。


「新年あけましておめでとう!」


 こうして二〇二三年は終わりを迎え、二〇二四年が始まった。

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