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130話 下層でお披露目、やばい刀

”はえぇよwwwww”

”この二人が組んだら、どんなモンスターも相手にならねーwww”

”どういうことだよwww”

”えー、下層に通じる中層最深域のボスライカンスロープの戦闘時間、五秒”

”登場して咆哮上げている途中で消し飛んでやがるぜ”

”まず何をしたんwwwww”

”見たまま話せば、美琴ちゃんが雷をフレイヤちゃんに向かって放って、それをフレイヤちゃんが確実に新開発したであろう魔導兵装を使って雷を吸収して、それを使ってとてつもないレーザー攻撃を仕掛けた”

”なんかアメリカのヒーロー大集結映画で似たようなのあった気がするなあ”

”あれはナノマシンだけど、こっちはごっつい機械だから違うけど、権能で発生させた雷を吸収するってどういうことよ”

”この二人は絶対に組ませちゃいけない。組んだ瞬間、フレイヤちゃんのインスピレーションが刺激されまくって、もっとヤバい兵器開発してまう”

”もうとっくにやべーの開発されてんだよな”

”威力もそうだけど、権能受けて壊れない時点でかなりいかれているのに、フレイヤちゃんには深層モンスぶっ倒した兵装よりももっとヤバいのがある疑惑があるから”

”前にスレで見かけたけどさ、最近の女子高生は狂っているレベルで強くなることがトレンドなのか?”

”ここまで強くなる必要はない定期”


「今のところ私が持ち帰りが許されているのって、モンスターの核石と深層モンスターの素材と核石だけなのよね」

「深層モンスター由来の素材……。あぁ、きっとそれを使ったら今まで以上の性能の魔導兵装が作れるのでしょうね」

「もう十分とんでもない性能のものたくさん持っているのに、まだ作りたいんだ……」


 フレイヤの背中に展開された円環。それは、彼女が新しく開発した対雷の権能特化型魔導兵装。

 元々は、美琴のクランに入ったのだしあくまで演算の結果だったとはいえ深層にも行けると思っていたようで、そこでは美琴は雷を存分に使って巻き散らすのでそれを回収する装置だったらしい。

 だがそれだけだと地味だということで改良を加えた。


 権能なんて見ただけで受けたことなど一度もないため、どうすればいいか悩んでいたそうだが、フレイヤにはとてもいい実験材料があった。

 それを持っているリタに頼み込んで、監視付きで三十分だけという条件で、現在灯里に超懐いてペットになっている白雪からかつて引きはがした、あの黒い結晶を使って権能に適応させた。

 その結果、ただの人間が作った魔導兵装であるにもかかわらず、権能を取り込むとかいう反則兵器が完成した。


「思った以上に上手く行きましたけど……ダメですね。一回でここまでの負荷。持ってもあと三回か四回が限界でしょう」

「むしろ権能を受けて三、四回も耐えられる方がおかしいと思うんだけど」

「作るからには、そんな数回で壊れるものではなくもっと複数回耐えられるものがいいです」

「これが職人かあ……」


 フレイヤは自分の作る魔導兵装に一切の妥協がない。

 美琴も料理に関しては妥協はそうそう許さないので、気持ちは理解できないこともない。

 それだとしても、彼女の場合は些かやりすぎな気がするが。


「そういえば、今日はリタさんいないんだ」

「彼女は普段、学校が終わったらすぐに帰宅して家事をしていますから。本業は学生兼メイドで、探索者ではないんですよ」

「あの強さしておきながら探索者メインじゃないって、すごいわね」


 壁を走ったり黒雷が使える状態の白雪相手に真っ向から勝負を挑み、かつあの鱗に傷を付けられる強さを持ち、一等探索者でありながら探索者がメインではない。

 どうしてそこまでしてメイドを徹底しているのかが気になるが、あまり詮索しすぎると何かよくないことが起こりそうなので、聞かないでおくことにする。


「さて、いよいよ下層攻略開始だけど、最近トラブル続きだから油断できない」

「本当に美琴さんは、何か大きな問題の真ん中にいますよね。そういう運命なのでしょうか?」

「そんな運命は嫌すぎるわよ。しかも全部魔神関連なのがもっと嫌。なんでこうなるのよ……」

「マラブさん曰く、バアルゼブルは最強の魔神ですから。魔神の多くは、その座が欲しいのでは?」

「そんな重荷にしかならない座なんて渡すから、私に関わらないでいてほしいわ」


 この短期間で二人の魔神と遭遇し、一人は倒してもう一人は味方につけた。

 フェニックスとベリアルも美琴側にいるということはマラブの口から説明されているが、会ったことがないので何とも言えない。

 そして今回、まだ姿も何も分かってはいないが、フルフルという魔神が敵対している。


 アモンとの遭遇以降、どうしてこの短期間で魔神と連続して遭遇しているのか、甚だ疑問でならない。

 もしかしたら、九年前の百鬼夜行も自然に発生したのではなく、魔神が原因なのではないかと疑い始めているくらいには、ここ最近魔神と関わっている。


「それにしても、もうじきクリスマスですか。……最近まで取り巻いていた問題を、聖夜の前に解決できて今ものすごくほっとしました」

「私も。でも、まだ逆恨みの闇討ちとかあるかもしれないと思うと、ちょっと憂鬱ね」

「それは安心していいそうですよ。今までの目を瞠るほどの悪行の数々によって、執行猶予なしの実刑がクランマスターとその息子に下るそうです。強力な後ろ盾も、自分の弁護してくれる味方もいない状態なので、まあ覆しようもないそうです」

「自業自得ね」

「ですので、クリスマスまでに受注生産型のグッズ制作に勤しんでいても構いませんよ、マスター」

「マスター呼びはやめて頂戴。そう言われるの、なんかすごくむずむずするのよ」


”すごい情報が飛び出て来たな”

”やっぱあの親子は執行猶予なしの実刑か。妥当だな”

”まだ裁判始まっていないからあくまで推測だけど、あまりの悪行のおかげて既に決定しているのワロス”

”弁護士もいないとかwww”

”リベンジで殺そうとした女の子が、探索者御用達の装備会社RE社の社長令嬢で、その後ろには当然RE社社長がいるし、美琴ちゃんのクランに所属しているから美琴ちゃんの庇護もあるし、美琴ちゃんとフレイヤちゃんは仲がいいから娘の友達を助けるために龍博パパと琴音ママもいるだろうから、確実にあの腐れクランの雇った弁護士じゃ勝てない件”

”世界で最も安全圏にいるJK達”

”まじでこの女子高生二人が聖人君子もびっくりするいい子でよかったよ”

”もしこれがあの廃棄物だったら、それをフルに使って迷惑行為オンパレードだっただろうな”

”世界最強のJK達に喧嘩売ったからだ。大人しくしていればよかったものを”

”勝てるわけない喧嘩をよく吹っ掛けたよなー”


 フレイヤの言った話は、恐らくは新宿支部の支部長から聞かされた話だろう。

 世田谷支部支部長の優樹菜の方からはまだ何も情報が来ていないので、今初めてどのような末路を辿っていくのかを知った。


 配信のコメントにも書かれていたが、本当によく勝てもしない勝負を挑んだなと苦笑する。

 勇気と蛮勇をはき違えると痛い目を見るというが、まさにそうだ。

 少なくとも、過去に一度ワンパンされているのだから敵う相手じゃないと分かるはずなのに、挑んだということは本格的に学習能力がなかったのかもしれない。


「そうだ。美琴さんに渡したいものがあるんでした」

「え、何? 急に不安になったんだけど」

「そんなに怯えなくてもいいですよ。あなたが普段使っている雷薙や、最近新しく手に入れた雷断ほどではないでしょうけど、あなた自身を強化する刀を作ったんです」


 そう言って、どこかに隠し持っている容量を無視してものをしまう倉庫のようなものから、一本の刀を取り出して差し出してくる。

 二尺三寸の打ち刀より少し長いくらいで、紫電のもようの描かれた白塗りの鞘に納められており、柄には赤い柄巻きがまかれており見た目はやや派手さがある。


「名前は特に決めていなかったんですけど、雷はよく裁くという表現がされるので、裁決の鍵とでも名付けましょう」

「なんで鍵?」

「実は私、神の鍵を作ってみたいんです。ですが今まで全て失敗に終わっておりまして。もしかしたら美琴さんに持たせると、私の魔導兵装が神の鍵になるのではないかという期待を込めて今付けました」


 神の鍵。

 それは、魔法が込められている道具全般を指す言葉だ。


 魔法とはすなわち、神が権能を用いて作りだした法律そのものなので、神の奇跡その物と評される代物だ。

 そんな神の奇跡が込められている道具はもちろん、魔法を使うことができる規格外の性能を持つ。

 魔術のこもった魔術道具とは比べ物にならず、使い手を選ぶが正しい者が持つとまさに奇跡を引き起こす鍵となることから、神の鍵と呼ばれている。


「それを作りたいって言っても、フレイヤさん魔法使いじゃないから作れないんじゃないの?」

「どこかの誰かが言ったのですが、最強になるには自分が最強になるのではなく、最強の道具を作ってしまえばいいのだそうです。私が魔法使いになる必要などなく、私が作った魔導兵装の性能が魔法級にさえなってくれれば、それでいいんです」

「もう十分魔法級だと思うんだけど? ……うわ、何これすごい」


 受け取った刀を鞘から抜き、刀身をさらけ出す。

 見事な鏡面となっている刀身は、ダンジョンの中の鉱石から発せられる光を反射して、美琴の顔を映している。


 柄も太さがちょうどよく、とても手になじむ。

 両手でしっかりと握って軽く素振りをすると、しっくりくる。まるで、昔からずっと使っていたと錯覚してしまうほどに。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「実験台が向こうから来ましたよ」

「実験台って言うのやめなさい」


 筋肉質な巨躯を持つミノタウロスが、初手その圧倒的膂力からなされる下層屈指の突進を繰り出しながら姿を見せる。

 いつもだったら雷を放つか、ひらりと避けつつ雷薙で首を刎ねているが、せっかくフレイヤから新しい武器をもらったのだから試さないわけにはいかない。


 鞘を帯に差して裁決の鍵を両手でしっかりと握り、下段に構える。

 フレイヤが作ったものだから、間違いなく下層では過剰な威力をしているだろうと力みすぎないようにして、雷を使って身体能力を底上げしてから地面を蹴る。


 一瞬でミノタウロスとの距離を食い潰し、下段に構えたままの刀を振り上げる。 

 そしてよく研がれて切れ味のいい包丁で絹豆腐でも斬っているかのような手応えを感じながら、あっさりと両断してしまう。

 左右に斬られたミノタウロスは慣性の法則に従って美琴を通り過ぎて行き、地面に倒れて滑るようにして減速して停止する。


「切れ味はばっちりですね」

「ばっちりですね、じゃなくない!? 何この切れ味!?」


 友人からの贈り物で嬉しく感じていたが、今の一刀で恐怖心が一気に雁首をもたげてきた。

 あまりにも過剰な切れ味に、持っている手が小さく震える。


 雷薙も雷断も切れ味はかなりよく、呪具という扱いを受けているが実際は初代が作った神器なので刃が毀れることはないので、切れ味が低下するということもない。

 それは神器だと分かっているので平気だが、フレイヤがくれたこの刀は人間が作った魔導兵装だ。

 人間が作ったものだと認識しているので、恐ろしい性能に恐怖せざるを得ない。


「ねえ、これ他にはどんな機能があるわけ?」

「使用者の身体能力強化に、傷の回復、美琴さん専用なので雷との相性はかなりよくしていますね。蓄積と放出ができるようにしたいんですが、権能に耐えられるかどうかは不明です。あとは細かいものも含めると、十二個くらいはありますね」

「多い多い。身体能力の強化だけでも十分なくらいよ」


 想像の数倍機能の数が多く、頬が引き攣る。

 本当に、フレイヤが作る兵装はどれもこれも過剰な性能をしている。

 彼女を落ち着かせることはできないのだろうかと考えるが、抜身のままの裁決の鍵を凝視しながらぶつぶつ何かつぶやいているので、無理だろう。


 受け取ってしまったのだし突き返すわけにもいかない。かといって、これをこのまま使用し続けるのも少し怖い。

 なのでブレスレットの中にしまって、先日手に入れた雷断を取り出す。

 フレイヤは少し不服そうにしていたが、まずは自分の手持ちの武器の方に慣れておきたいと説得させることで、今日一日はあのトンデモ性能の刀を使わなくてもよくなった。

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