125話 黒雷の主は
七鳴神を開放すると同時に、美琴は雷薙をしまって陰打ち一本にする。
薙刀術の方が得意だが、雷薙の本質は所有者の強化にあるため、雷断同様刃毀れは絶対にしないが雷薙本体に攻撃性能はない。
鳴海を救うと決めたが、それにはまず彼女の戦意を完全に削ぐ必要がある。そのためにも、真打以外で最も威力を叩き出せる陰打ちが適任だ。
”救うってったって、どうしようもなくね?”
”気持ちは分からんこともないけど、流石にほぼ全部逆恨みだし”
”未成年とはいえ殺人未遂はあかんですって”
”身内だからどうにかしたいんだろうな”
”それでも犯罪を犯しているやべーのを救う義理はないと思う”
”ちょっとだけ雷一族のことを知っているから、なんとも言えないのが辛い”
”というかなんで美琴ちゃん狙った。七鳴神開放する前から、アモン戦の時の七鳴神と同じ強さしている美琴ちゃんを防戦一方に持ち込めるだけ強いなら、力でどうにでもできたでしょ”
”さっき言ってたけど、神の力を封じる何かがあるっぽい? そこにずっと閉じ込められて自由に出入りできないから、どうしようもなかったんじゃね?”
”でもこうして外出てるんだから、某呪術の漫画のクズ一族の末路みたいに、壊滅させりゃよかったのに”
”まさかとは思うけどさ、美琴ちゃんが配信している時を狙ってきたって言うことはさ、自分が一方的に悪者になってどす黒い闇を暴露しつつ、美琴ちゃんの両親以外の一族を破滅に巻き込もうとしてるんじゃない?”
”流石にそれはドラマの見すぎ”
”でも二千万人を超える視聴者がいる配信中に襲撃しているのを見ると、そう思っちゃうのも確か”
遠くから戦いの様子を中継しているアイリの方を見る。
襲撃を受けた時点で、アイリは配信を切ったほうがいいと言っていたが、襲撃者が鳴海と分かった時点で切らないようにと指示を出している。
もしこの襲撃が配信されることが彼女にとって不都合なら、真っ先にカメラを破壊するはずだ。
だがこうして破壊されずに残っているということは、配信に自分が映ることが不都合にならないということだ。
雷一族の中の異常な掟は、外に漏れると大批判必至なものであるため、何があっても漏れないように徹底的に情報統制している。
龍博を始め、美琴と鳴海以外の一族の人間は異常な掟を異常なまでに遵守する。なので、一族の人間が外に掟を漏らす心配はなかった。
きっと今頃は、鳴海が全てを暴露しているからあの広い敷地の中にいる一族達は、てんやわんやの大騒ぎだろう。
もしかしたら大慌てしているかもしれないところを想像して小さく口角を上げて、鳴海を観察する。
封印の段階から力の強化具合に性質が変化した諸願七雷、その最大数値である七鳴神を開放したことで、躊躇いがあったため防戦が主だったが、元々実力だけで言えば美琴の方が圧倒的だったのが更に隔絶としたものとなり、それに圧倒されたように立ち竦んでいる。
それでも彼女の瞳からは、怒りと憎悪が消えていない。
「やっぱり、そういうことなのね」
『お嬢様、何か分かったのですか?』
「推測に近いけど、でも確信した。猪原さんは覚えているかしら?」
『えぇ。無謀にも、雑魚の癖にお嬢様に喧嘩売って来たノミですよね』
「酷い評価ね……。その猪原さんだけど、私には絶対に勝てないって分かってからは、不満を募らせるだけで行動には移さなかった。なのに、メンバーに内緒で外出した後から様子がおかしくなって、周りの制止を振り切って襲撃に踏み切った。他にも白雪だけど、今でこそ灯里ちゃんに超懐いてて、学校にもついてくるから灯里ちゃんのペットみたいに扱われているけど、あんなに小さくなる前は見境なしに私達に攻撃を仕掛けて来ていた。そして、その前例二つと同じように、黒い雷を持つ鳴海が深層で奇襲を仕掛けてきた」
『……もしや、あの雷を授けた謎の存在が、授けた人間の中にある破壊衝動や殺人衝動、負の感情などを爆発的に高めていると、そう思っておられるのですか?』
「でもそれなら辻褄が合うわよ。特に鳴海は、口は悪いのは昔からだけど根っこは優しくて、人を攻撃するような子じゃなかったし」
黒い雷を扱う能力を授けられ、勝手に現人神に仕立て上げられてあらゆる自由を奪われた。
強烈なストレスを四六時中受け、人としての権利を含めた全てを失い、友人、そして最愛の恋人とすら一生会えなくなってしまった悲しみ、そうなってしまった一族の恐ろしい掟と、自分に理不尽が降りかかる原因になった美琴に怒りと憎しみを抱き、それが黒雷によって増幅させられた可能性がある。
あくまで推測でしかないが、二度遭遇した黒雷を授けられた存在が、同じように異常な攻撃性をむき出しにしていたのを考えると、正解に近いと感じている。
「……して」
彼女に対して攻撃はしない。
ただ一撃、立ち向かう気力すら湧かせないほどの一撃を当てないように繰り出して戦意を削ごうと蓄積を優先させていると、鳴海の小さな声が耳朶を震わせる。
「どうして……! そんな力があるのに、どうして助けてくれなかったの……!? 雷一族の当主は、あんたなのに……! あんたが一言、全ての掟を廃止にするって言えばなくなったかもしれないのに! 言うことを聞かない奴らなんか、その力で簡単に黙らせて従わせることだってできたはずなのに!」
涙を流しながら、更に感情を爆発させて、喉が張り裂けんばかりに大きな声で叫ぶ。
「そうね。私のこの権能をフルに使って暴力で従えれば、私が生きている間は多少なりとも意識を変えることはできたかもしれない。でも、私が死んだら? 権能を持っているとはいえ、体は人間。寿命だって百年かそこら。それを過ぎれば、千年間途絶えずに残り続けた掟なんて、すぐに戻ってしまうわ」
「なら、戻らないようにあんたが改革を行えばよかったじゃない! あんたから始まって、あんたが結婚する時に龍博叔父様と同じように外部から婿を迎え入れて、あんたがやろうとしていることを次の世代に託し続けて行きながら、あの腐った一族を変えて行けばよかったのに!」
「あの人達が、雷神以外の人間に従うと思う? たとえ宗家でも、彼らは従わない。だから私は……酷いことを言うようだけど、変えることから逃げてしまった。その結果、あなたという被害者を出してしまった」
もし、自分が他の一族と同じ考えだったら。
もし、両親が自分のことを愛娘ではなく、繁栄のための道具としか見ていなかったら。
そんなもしものことを考えなかったわけではない。何度もそのありえたかもしれないもしものことを考え、そして何度も自分でそれを否定してきた。
IFの世界なんて、考えればその分だけ無限に広がる。それを全て把握できるのなんて、マラブくらいしかいないかもしれない。
それに、今を生きているのは今に至るまで数々の選択をしてきた美琴であって、もしもの世界の自分ではない。
自分は自分だ。それは誰にも絶対に変えられないことだし、ましてや自分でも変えることもできない。
そんな自分でも、せめて目の前にいる鳴海だけは助けてあげたい。
それが偽善だと言われたっていい。
幼少期、雷を使うことができずひそひそと陰口を言われながらも、宗家の娘だからと気持ち悪いくらいおだてられて嫌なことがたくさんあった。
一族の同年代の子供達は、宗家の娘だからと敬遠するか親に命じられて近付いてくるかのどちらだけだった。
学校でも、龍博と琴音の娘だからと男子が寄ってくるし、それに僻んだ女子からは陰口を言われた。
そんな中で、美琴の側にいれば暴力を振るわれることも暴言を言われることもないからと、利用するためとはいえ一緒に遊んでくれた、数少ない友達が悲鳴を上げている。
利用するためとはいえ友達になって遊んでくれたことで、かなり心が救われた。だから今度は、美琴が鳴海を救う番だ。
「すぅー……ふぅー……」
何度も深呼吸をしてから、抜刀した陰打ちの刀身を左手で掴んで手の平を切る。
その行動に驚いたように鳴海が目を丸くするのが見えた。
「まさか、これを最初に使うのが深層ボス戦とかじゃなくてあなたになるとはね」
少し深く切りすぎてしまい、ぼたぼたと赤い血が地面に落ちる。
マラブから教えてもらった、神としての能力を大幅に底上げする手段。
あまり厳しすぎる条件を課してしまうと後々面倒なことになるから、慣れないうちは行動回数や時間制限に絞ったほうがいいと言われ、渋々といった様子でやり方を教えてくれた。
その秘術とは───
「『神』の『血』に『誓』って、七鳴神の継続を一刀のみに『縛』り破らぬことを宣言する」
その宣言と共に、流れ出ていた血がぴたりと空中で止まり、それが意思を持つかのように胸の方に向かってきた。
それは浸透するように胸の中に入っていき、何かを縛るような感覚と共に体の奥底からすさまじい力が湧いてくるのを感じた。
神にのみ許された、己の血を媒体に神同士の誓約や自分自身の大幅な強化を行う秘術、神血縛誓。
七鳴神を維持していられる時間を、たった一刀だけに限定することでその攻撃を超々大幅に強化した。
雷は息をするように制御できる美琴でも、神血縛誓によって強化された雷が暴発しないようにするだけで手いっぱいだ。
左手を見る。
誓約を交わしたことでこれ以上血は必要なくなったからか、傷がいつの間にか癒えていた。
使いようによっては、瀕死の重傷になっても回復することができるかもしれないなと考えながら、両手でしっかりと柄を握って大上段に構える。
攻撃できる回数は一回だけ。当てるのは論外だが、大幅に外れるのも効果がない。
当たってしまわないギリギリを狙って、過去最高出力の七ツ神鳴を放つ。
「なによ、それ……」
鳴海が体をぶるぶると震わせる。
その震えは恐怖からくるものではなく、どうしてそれだけの力があるのにという怒りからくるものだろう。
彼女の胸の中心から黒い雷は放出されて、美琴を模倣するように雷断の刀身にまとわせて大上段に構える。
少し前まで雷が幾重にも重なるように鳴り響いていたのに、今度は不気味なくらい静かになる。
モンスター達は、聞いたことのないであろう雷鳴からか、近付いてくる気配がない。
本当に静かだと、すっと目を閉じて息を吸って肺を空気で満たす。
目を開ける。まだ二人とも動いていない。
下手したら傷付けるどころか殺してしまうかもしれないのに、驚くくらい気持ちが落ち着いている。
ひゅう、と。少しだけ風が吹く。
その瞬間、雷鳴と共に鳴海が踏み込んでくる。
「諸願七雷・七ツ神鳴───鳴雷神」
それに合わせて、全力で刀を振り下ろす。
直後、深層上域の地面が、目視できない距離まで割れる。
遅れて、特大爆雷でも起爆したのかと疑うほどの、大爆音が深層全体に響く。
土煙が立ち上がり、前方が何も見えなくなる。
手応えはなかったので当たっていないだろうが、想定していたよりもはるかに威力と規模が大きかったので万が一があるとハラハラしていると、風が吹いて土煙が晴れる。
「うわ……」
完全になくなると、思わず声が出てしまうほど巨大な裂け目ができていた。もはや裂け目というより、谷のようになっている。
その縁のすぐ近くに、顔を真っ青にして腰を抜かし、地面に座り込んでいる鳴海の姿があった。
怪我はないようなので、ほっと安堵の息を吐きながら瞬時に彼女の近くまで移動し、左手を胸に当てる。
「っ……」
びくりと体を震わせるが、鳴海は一切抵抗を見せずに目を閉じる。まるで、死ぬことを受け入れているかのように。
だが美琴は殺さない。全神経を集中させて、鳴海の中にあるであろう結晶を探し出し、そして見つける。
雷を発生させる源である黒い結晶。
もしそれが陰打ちのように雷を物質化させたものであれば、最初の猪原の時のように雷に直接干渉するようにすれば、体から取り出せるのではと思ったが、不発。
「美琴……?」
「少し静かにっ」
雷に干渉するのが無理なら、物理的に摘出するのが一番になってしまうが、それはあまりにも危険だ。
猪原の時は、自らそれを露出したからできたのであって、もし外に出てこなければもう少し長引いていたかもしれない。
何かないかと、電気信号を加速させることで思考速度を上げて全力で思考する。
一秒が長く引き伸ばされ、鼓膜を震わせる音がゆっくりになる。
何かないかと探り、だがなにも思いつかなかった。
もしかしたら、この力を与えた大本を倒さない限りは摘出することはできないのだろうかという考えがよぎった瞬間、焦りで突飛なことを考えてしまう。
鳴海が黒雷を操り、空も支配できていたということから彼女も、現人神に近い状態になったと解釈する。
彼女自身の能力は美琴よりも低い。なら、できなくはないけど失敗した時のリスクが怖いからということと、試す要因が一人もいないことからやらずにいたことを一つ、思い付きで試すことにする。
陰打ちを消してからしゃがんで同じ目線になり、右手の親指の腹を歯で食い破ってから、鳴海の前髪をかき上げて額にぺたりと血を塗り付ける。
「私、現代の現人神雷電美琴の名において、私の血をもってこの者、雷門鳴海を眷属とす」
「は!? ちょっと、勝手に───あぅ!?」
額に塗り付けた血が、染み込むように鳴海の中に入っていく。
勝手に眷属にさせられたことに反発の声を上げようとしたが、すぐに苦悶の表情を浮かべ大量の脂汗を流す。
美琴が試そうとしたことは、鳴海に与えられた力を何かしらの眷属になったものと仮定して、それを自分自身で上書きすることで消すという方法だ。
失敗した時のリスクが怖くてやらずにいたが、鳴海は雷一族の末裔。なら、全くの他人にするよりリスクは少ないはずだ。
そう思って同意もなしに眷属化を図ったが、少し予想外なことに、彼女の中で美琴の分け与えた力と何者かに与えられた力が強く反発しあって、拒絶反応を出している。
今ので確信したが、犯人は魔神だ。
何が目的でこのようなことをしたのかは分からないし、どのようにして鳴海と接触したのかも不明だが、結果的に彼女を苦しめる元凶となったことに変わりはない。
何が何でも、彼女の中にある魔神の力を追い出してやると、美琴の力をせき止めて追い出そうと抵抗しているそれを、完全に力技でねじ伏せていく。
神血縛誓による強化による弊害か、帳尻を合わせるように力が落ちているのが分かる。
感覚で、一日もすれば元通りになるのは分かっているので心配はないが、もう少しだけ余力を残しておけばよかったと行動を反省する。
激しいせめぎ合いの末、鳴海の中に完全に根付きかけていた力を追い出すことに成功し、胸から黒い雷が一塊となって飛び出てくる。
どこかに飛んで行こうとするそれを、紫電で檻を作って閉じ込めて手元に呼び戻す。
猪原と白雪の時と同じで、強い負の念を感じる。長くそれを近くで見ていると中てられてしまいそうな感じがする。
すぐにそれをブレスレットの中にしまい、鳴海の方を見る。
やっとの思いで、一族のものではないとはいえ雷が使えるようになったのに、それのせいで全部を失い、最終的には力すらも失った。
またかつての生活に逆戻りするのだと思っているのか、美琴と魔神の力のせめぎ合いで体力を持っていかれたのもあって、顔を青くしてかなり沈んだ顔をしている。
「悪いけど、あなたに施した眷属化も一時的なものだから、その内完全に元の人間に戻るわ」
「…………そう」
小さくかすれた声で、短く返事する。
「今まで逃げて来たけど、もう逃げない。また、あなたには辛い思いをしてほしくないもの。やれるだけのことはやってみるわ」
「……どうして? さっきまで私は、あんたを殺そうとしていたのに」
「確かにそうね。二千万人とかいうとんでもない数の視聴者が見ている中での襲撃で、言い逃れも不可能。端的に言えば、あなたは殺人未遂を犯した犯罪者。でもね、それでもあなたは私の友達よ。あんなろくでもない人ばかりいる一族の中で唯一の、同じ立場の友達で、家族」
「……あんなことをしたのにまだ家族だと思うとか、どこまでもお人好しね」
呆れたように、少しバカにするかのように、そして、かつて一緒に遊んでいた時と同じように、小さく笑みを浮かべながら言う鳴海。
「今も言ったけど、やれるだけのことはやる。少なくとも、勝手に死んだことにさせられたことはなかったことにするわ。元の生活に戻れるかどうかは、ちょっと分からないけど」
「……別に、もうどうでもいいわ。あんな箱庭に戻るより少年院に入ったほうがまだましだろうし、あそこにさえ戻ることがなければ、なんだっていい」
「恋人には会いたいんじゃないの?」
「会いたいに決まっているわ。でも、もうあの人に会う資格なんてない」
弱い声で言う鳴海。
これだけ多くの視聴者がいる中での犯行なので、言い逃れはできない。
これからも辛い思いをすることになるかもしれない。それは非常に申し訳なく思う。
とにかく、鳴海の無力化は成功したし、彼女が暴走する原因となったものの摘出も完了している。
神血縛誓の影響で力がかなり低下しているので、これ以上の深層攻略は続けられないと判断し、その場で配信を切る。
その後は鳴海を抱えてダンジョンを一気に駆け抜けていき、地上に出たところで出入り口で待ち構えていた警察に鳴海の身柄を引き渡し、ギルドの特務執行室の一員として駆けつけていたマラブと合流し、ギルドへと向かった。
以前猪原から奪ったものと、今回鳴海から取り出したもの。それをマラブに見せることで、彼女から今回の魔神の正体を教えてもらった。
その魔神の名前は、フルフル。ソロモン七十二柱の魔神序列第三十四位に位置する魔神であり、その権能は雷と突風を発生させるものだという。
根っからの人間嫌いであり、争っている人間の両陣営に与して散々引っ掻き回して、最終的には味方同士で殺し合わせるのを腹を抱えて笑うのが大好きな真正のサイコパスで最高最悪のクズとのこと。
自分の力を人に分け与えるのを得意としており、自分から直接出てこないのは美琴がバアルゼブルであることが理由かもしれないと言われた。
フルフルは魔神時代、あまりにも派手に暴れ回ったせいで全盛期バアルゼブルにフルボッコにされてトラウマになり、以降大人しくなった。
美琴に直接戦いを挑んでこないということは、少なくとも魔神の記憶を覚醒させていることになるが、それで選んだ手段があまりにも美琴にとっての地雷すぎた。
フルフルはアモンとは違って、フェニックスやベリアル、バラムと同じで魔神の力を覚醒させた人間なので殺すことはできないが、やりようはいくらでもある。
疎遠になっていたとはいえ、仲よくしていた友人であり家族でもあった鳴海をここまで苦しめたのだし、それ以前にも猪原の一件もある。
もう二度と、人間に手出しできないように徹底的に分からせてやろうと決め、膝の上にのせていた手を強く握った。




