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【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第一部 第七章 雷神と小さい魔術師と月の魔術師とトンデモ兵器
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113話 イレギュラーな遭遇

 そこから先は、非常にスムーズだった。それはもう、流れる川のようにスムーズだった。

 上層はあっという間に踏破して、続く中層も一気に最深域まで進んで、ゴリアテを四人の連携(?)で一方的に削り切って倒した。

 具体的にどう倒したのかというと、美琴が権能を使って気を引き付け、リタが関節や腱を断ち切って姿勢を崩し、灯里とフレイヤが特大の火力をそれぞれぶちかますを二回ほど繰り返すことで倒した。


 中層ボスとはいえ、中層最高硬度の肉体を誇る巨人兵がなすすべなく一方的に蹂躙されて行く様は、視聴者達にはいささか憐れに映ったようだ。

 討伐されて顔ほどの大きさの核石となったそれを見た視聴者達は、戦うことになった相手があまりにも悪すぎた、こんな異常火力の集いに耐えられるモンスターはきっとこの世にほとんどいないなどというコメントを書きこんでいた。


「予定よりも早く下層まで来ちゃいましたね」

「人数が増えると純粋に火力が上がって、進行速度も上がるのかもね」

『フレイヤ様の探知機と灯里様の索敵魔術の精度もありますからね』

「アイリ様にもエコーロケーション機能が付いておられるのですよね?」

「エコーロケーションですか。ふむ……いいかもしれないですね」


 新宿の下層は初めてなので、真っすぐボス部屋に向かうのではなくあちこちを歩き回りながら探索したため、まだ下層上域にいるが時刻はお昼になっていた。

 メイドを本業としているリタが作ってきたと言っているので、どんな派手なものが出てくるのかちょっぴり期待したが、出されたのはサンドイッチとド定番だった。


 ダンジョンに潜るのだしお弁当なのだから、あまり手が込んでいるものではないのは考えれば分かることだが、ちょっぴりイギリスっぽいものを期待していたため肩透かしを食らった気分だった。

 だが一つ手に取って食べてみるとすぐにその気分が消し飛んで気にならなくなってしまうほど、絶品だった。


 サンドイッチは非常にシンプルな料理だが、シンプルゆえに作り手の腕が顕著に出てくる。

 野菜はシャキシャキとしていて瑞々しくトマトの酸味と甘みと相性がいい。

 卵サンドの卵はとてもふわふわで、塩味が美味しさを引き立てていた。

 ローストビーフサンドも入っており、美琴が作ったものよりも柔らかくて、かかっているたれも絶品だった。


 家事を仕事として給料などをもらっている身であるため、給料に見合うように様々なスキルなどが秀でて入るだろうと思っていたが、料理ならばまだ自分の方が上ではないかと奢っている部分もあったが、全く敵わなかった。

 しかも食後の紅茶はその場でティーポットを使って淹れてくれて、これもまたびっくりするくらい美味しかったので、なんだか悔しい。


「このまま行くと、マリオネット・レギオンの部屋まで行くことになりますけど……どうします?」


 優雅に紅茶をたしなんでいるフレイヤが訪ねてくる。

 新宿ダンジョンの下層上域のボスは、世田谷のと同じでレギオンのようだ。

 あれは多対一の鍛錬にはうってつけなのだが、ちょっと前に地味にホラーっぽいなと感じてしまっていこう、実はちょっと怖くなっていたりするのは秘密だ。


「行くんだったら行くけど、ちょっと前に戦ったばかりだしなー」

「私は行ってみたいです。まだボス戦自体経験が少ないので」

「でしたらわたしも挑んでみたいですね。普段はメイドですので、このような場所に足を運ぶことは滅多にありませんから」

「そんななのによく一等まで行けましたね、リタさん」

「メイドたるもの、中途半端は決して許されませんから」

「だからって、実質最上位の一等まで上り詰めるメイドがどこにいるのって話なんだけどね」

「……」


 中途半端が嫌なのは美琴もそうだが、美琴が特等になるまでは実質的な最上位であった一等に、学業とメイド業を兼業しながら到達するのはどうかと思う。

 彼女の強さ的に、そこまで行ってもおかしくはないのだが、それでもかなり忙しくしているだろうに一等はすさまじい。


『では、このままボスに挑むということでいいですね?』

「そうね。またレギオンだから、眷属のみんなはちょっとつまらないでしょうけど」


”いやいやいやいやいやwwwww”

”ボス戦ってだけで十分超見せ場だからね?”

”俺達も大分麻痺って来ているけど、戦ってる本人が一番麻痺してんの草”

”ワイらはね、美琴ちゃん。君の超スピード殲滅を見に来てるの。だから、レギオンは美琴ちゃんの超スピード殲滅には一番うってつけなボスだよ”

”今回はフレイヤちゃんもいるし、爆撃と雷撃のコンボで一瞬で終わりそう”

”リタさんも微笑みを浮かべながら大鎌ぶん回して、大量の人形を細切れにしていきそう”

”あれ? もしかしてこのパーティーだと、灯里ちゃんが比較的一般枠になる?”

”他が強すぎるせいで、灯里ちゃんでも一般枠になるってどういうことだよwww”

”でも今回の配信のメインって、丁度遠距離型(近距離も行ける)と近距離型(遠距離も行ける)がいるから、射線が被らないようにするよってことじゃなかったっけ”

”そうじゃん忘れてた”


 視聴者の言う通り、別にメインというわけではないのだが、意識的に立ち回り強化の実践訓練のようなことをしている。

 午前中からやって数時間経つが、大分そういった動きに慣れてきたころだ。

 しかし、美琴もフレイヤも揃ってソロ期間が長かったこともあり、自分では上手くできていると思えていても、もしかしたら周りからしたらそうでもないのかもしれない。

 やはり次のコラボ相手はトライアドちゃんねるの三人にしようかと、リタから受け取った紅茶をじっくり味わいながら考える。



「まさかこのメンバーでボスに挑むことになるなんて思いませんでした」


 レギオンのいるボス部屋の前までたどり着いてそこで準備をしていると、軍靴のようなブーツを脱いで金属製のブーツに履き替え、両腕にガントレットを装着したフレイヤが言う。


「私もよ。ここではフレイヤさんも、少し本気を出すの?」

「えぇ。ここではこの翼型デバイスを使って、空中から人形を爆撃していきます」

「それ本当にどんな原理で動いているのよ」


 右側だけに展開された機械の純白の翼に指先で触れながら、どうなっているのかをよく観察する。

 一枚の大きな翼ではなく、一つの大きな土台に一つ一つの大きめな羽根が大量に付いている。

 これが一つ一つ独立していて、モンスターに向かって放つこともできるようになっているのは知っているが、詳しい原理などは配信では確か話していなかったはずだ。


「詳しく話すと長くなるので、それはまた別の機会に」

「そ、そうね」


 美琴は勉強ができる女子高生ではあるが、それはあくまで一般的な勉強ができる範囲だ。

 まず間違いなく学校では習うようなことではないものを用いて兵器を作っているフレイヤは、美琴とは大きく違う意味で頭がいいだろう。

 果たして彼女の原理説明を理解することができるだろうかと、訪れるかもしれない兵器解説講演会を想像して、頬を少しだけ引き攣らせる。


「準備はできた?」

「ばっちりです」

「い、いつでも行けます」

「これといった準備がありませんでしたので」


 ボス戦の前に、一応体をしっかりとほぐしておこうと念入りにストレッチをしていた美琴が、立ち上がって雷薙を手に取りながら確認をする。

 三人ともばっちりなようなので、小さく頷いてから四人一緒に転送陣を踏んでボス部屋の中に入る。

 いつも通り中央に飛ばされて、さあいつも通り人形の軍勢と対峙だと構えようとするが、すぐに美琴は灯里を抱え、フレイヤは翼を瞬時に展開し、リタは加速魔術をかけて一気に壁際まで下がった。


「これは、どういうことですか?」

「分からないけど、ここのボスじゃないのは確かね。転送陣がある」

「ということは、《《あれ》》がボスを倒したということでしょうか?」

「……どこか、あの時と似ているわね」


 美琴達が壁際まで一気に下がった理由。それは、そこに一体の巨大な龍がいたからだ。

 地面に降りてくつろぐように瞼を閉じ、大きな寝息を立てて眠っている。

 体中は白い鱗で覆われており、生えている緑のたてがみに同色の髭は存在感を引き立たせている。


 本来のボスモンスターではないバケモノが、そこにいる。

 このモンスターについては何も分からないので、少し離れてしまっているが転送陣の方まで一気に駆け抜けて外に出ようと、目で合図を二人に送る。

 察してくれたフレイヤとリタは頷き、スリーカウントで行こうと指を三本立てる。


「グゥルルルルル……」


 しかし、一秒数えた瞬間、中央の方から低い唸り声が聞こえてきた。

 猛烈な嫌な予感がしてそちらに目を向けると、さっきまで気持ちよさそうに眠っていたくせに、ばっちりと獣の目をした龍がこちらを見ていた。


「これは……逃げられないわね」

「と、言うことは」

「三人とも、戦闘準備。あれ、特等クラスだから、手加減とか下手な様子見をしたら殺されるよ」


 灯里を地面にそっと下ろし、分割してある力を全て元通りにしてから諸願七雷・三鳴を開放する。

 ダンジョンのモンスター相手にそれは過剰だろうと思われるかもしれないが、ドラゴン系の姿をした怪異やモンスターは基本、どれも特等級だ。

 その中でも龍、つまり日本や中国などが原点となる蛇のような見た目の龍の怪異は、神そのものやその使いなどとして表現され多くに恐れられてきているため、特等の中でもトップクラスの強さとその体の強度を誇る。


「嘘でしょ?」


 しかも今回の龍は、ふわりと浮き上がって上から美琴達を見下ろすと、体から黒い雷をバチバチと走らせる。そしてその雷は、猪原が発していたものと同質のものだった。

 龍は神として畏れられることが多いため、もしかしたら彼の力はここから来たのではとも考えたが、あの程度の動きしかできないような人が下層までこれるはずがないので、即除外する。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 びりびりと、広いボス部屋の中でも大きく響くような咆哮を上げて、黒雷を巻き散らしながら龍の方から開戦の合図を上げる。


「完全なイレギュラー! 様子見とか情報を持ち帰るとか悠長なこと言わないで、速攻で片付けるわよ!」


 そう言ってから意識を切り替えて、龍の咆哮をかき消すほどの雷鳴を轟かせながら踏み込み、真っすぐ向かって行く。

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メイド「………」ではなく、せめて「メイドならば当然です(誇)」若しくは「あくまでメイドですから(微笑)」なのでは?
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