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第11話 上層爆速攻略

”ん?”

”なんかどんどん下に潜って行ってね?”

”この道、確か中層域までの最短ルートだ”

”え、ソロで潜ってんのに中層まで行くの!?”

”いや、この進み方と過去のアーカイブから察するに、下層まで行くぞ”

”いくら強くても下層ソロは無理なんじゃない!?”


 今日は中々モンスターと遭遇しないなと思いながら、やることがないので視聴者のコメントを返しながら進んでいると、途中から視聴者達がどこに向かおうとしているのか気付き、コメント欄がざわつきだす。


「あ、ごめん、説明忘れてた。今日の目標は下層最深域まで行くことだよ。そこは未踏破領域多いしモンスターも多いから、核石がたくさん手に入るのよね。……運が悪いから、三時間潜ってもせいぜい三十個かそこらが限界だけど」

『昔から運がないらしいですからね。もしかしたら、今回のバズりで一生分の運を使い果たしたのではないでしょうか』

「残酷なこと言うのヤメテ。考えないようにしてたんだから」


”下層目指す理由が核石回収ってこれいかに”

”頑張って働いてくれている両親に恩返しするためとはいえ、下層をバイト感覚で潜るJKがこの世にいるとは……”

”流石に下層に入ったら雷使うのかな”

”こっちとしては使ってくれたほうが安心する”

”むしろ使ってくれ。雷使う和装美少女とかアニメとか漫画でしか見たことないからリアルで見たい”


「複数に囲まれた時はさすがに一鳴は使うかな。三鳴以上はボスモンスター以外だとちょっと過剰になるし、七鳴神(しちなるかみ)とかダンジョン内じゃ使えないから、そこは期待しないでね」


 美琴は普段、力を七つに分割して抑え込んでいる。

 自身の力を封じている術を諸願七雷と呼び、段階的に一鳴、二鳴(ふたつなり)、三鳴、四鳴(よつなり)五鳴(いつつなり)六鳴(むつなり)、七鳴神と開放していくのだが、下層はよほどのことがなければ三鳴以上を開放することはない。


”しちなるかみって何?”

”なんかかっこいい……”

”必殺技?”

”存在そのものが必殺技みたいなのに、とんでもない必殺技があるの?”


「必殺技ではないかな。これもあまり詳しく言うとやばいからざっくり言うと、スタンピードをワンパンできるようになる奥の手かな」


”スwタwンwピwーwドwワwンwパwンw”

”ふぁーーwwww”

”スタンピードは美琴ちゃんの前では災害ですらねえ……”

”むしろ美琴ちゃんがモンスターにとっての災害”

”あの切り抜きでさえ最早災害級なのに、それ以上があるんかいwww”

”もうそこまで行くとただの恐怖映像や”


『お嬢様、その情報は自らを怪物だと公言するようなものです』

「うん、言ってから気付いた。あぁ、私のイメージが……」

『あの切り抜きが広まった時点で、化け物だの怪物だの言われていますし手遅れです。それより、』

「分かってる。モンスターが来てるね」


 中々に辛辣なことを言ったアイリに何か言いたかったが、モンスターが近付いてくる気配を感じたので雷薙を構える。

 姿を見せたのは西洋の小鬼、ゴブリンだ。日本の小鬼と違って上層に生息しており、力と知能は子供並みに低いが数がとにかく多いことで有名だ。


 それと体の構造が人間に近いという特徴があり、人と交配して子孫を残すことも可能な珍しい種族で、年間数百人の若い女性が被害に遭っている。

 モンスターは出現する場所と倒された時に物を落とすという特徴があれど、地上に出る怪異と魔物と構造上は同じため、人と交配した際に生まれるのは半人半魔の異形の子だ。


 ゴブリンは美琴を見るなり、持っている錆だらけの剣や凹んでいる棍棒を掲げて嬉々として襲ってくるが、連携も取らずにバラバラに襲ってくるため脅威ですらない。


「ふっ───」


 短く呼吸して踏み込み、体の発条を使って雷薙を鋭く振るう。

 飛び掛かってきたゴブリンが一体、刃ではなく柄に直撃して壁に叩き付けられて絶命する。


 それがぼろぼろと崩れていくのを尻目に、くるりと回転しながら遠心力を載せてもう一度鋭く薙ぎ払う。

 三体のゴブリンが綺麗に胴体から切り落とされて地面に頽れ消滅していき、その先にいるゴブリンは柄のギリギリを持って上から振り下ろして縦に両断する。

 刃が地面に接触する前に引き戻して石突で頭を殴りつけてから蹴り上げ、その下を潜り抜けながら更に四体をまとめて斬り飛ばす。


 生き残った一体が命からがら超近距離まで入り込んでくるが、右足で顎を蹴り上げた後そのまま振り下ろして頭を踏み潰す。

 十体のゴブリン達は、十秒もかからずに全てがその体を消滅させた。


”今一体何が起きた!?”

”はっっっっっっや!?”

”ゴブリンが嬉々として襲い掛かって十秒もかからずに消滅したんだが!?”

”これで雷の力使ってないってまじぃ?”

”少なくとも後ろにあの紋様がないから使っていない、はず”

”雷の力開放したらとんでもないと思ってた俺が間違ってた。美琴ちゃんは素で信じられないくらい強いんだ”

”いくら上層とはいえゴブリン瞬殺かいなwww”

”女性から最も嫌われているモンスターを相手に、一切物怖じせずに冷めた目を向けるのやばい”

”複数対一だったのに、掠り傷一つすらないのすげえwww”


「ゴブリンって、体も小さいし頭もそんなに良くないから、複数で襲ってきてもそんなに脅威じゃないのよね」

『脅威に映るのは駆け出しの初心者ですからね』


”アイリちゃんもそっち側か”

”常識枠だと思ってたけど常識枠じゃなかった”

”AIに間違った知識を与え続けるとこうなるんだぁ……”


 統制や連携が取れていないとはいえ、ソロで潜っている時に複数のモンスターで囲まれるのは不利な状況だ。たとえそれが上層の弱いモンスターであっても。

 しかし諸願七雷を一つも開放していない状態であっても、美琴の動きはすでに人間のそれを超えており、普通なら不利な状況になるのだがその前に倒せてしまうのだ。


「ていうか十体倒して核石一個って。しかもこんなに小さいと数百円とかじゃん」

『塵も積もれば山となる。持っておいて損はありませんよ』

「ちりつも貯金が大事なのは知ってるから回収するわよ。一円を笑うものは一円に笑われるんだから」


 拾った核石をしっかりとしまい、続けて中層への最短ルートを突き進む。


”進行速度半端ねえw”

”モンスターとそんなに遭遇していないってのもあるかもだけど、早すぐるwww”

”仮に遭遇しても上層モンスターだとワンパンなんだろうな”

”マジでどうしてこんなにすごい子が半年も埋もれていたんだよ”

”世界の謎すぎる”

”同接えらい伸びてんなあ”


「わ、いつの間にこんなにたくさん! 観に来てくれてありがとう!」


 どんどん進んでいく美琴に対して、コメントが盛り上がる。

 先ほどまでは七万と少しだったのが、いつの間に八万六千を超えていた。


 一昨日まではまさに泡沫チャンネルだったというのに、今はこうして万を超える視聴者が来てくれていることがたまらなく嬉しい。

 こうなったら観に来てくれている視聴者を退屈させないようにしようと張り切り、見ごたえのある戦いができる下層へ歩を早める。


 当然ダンジョンの中なのでモンスターが現れるのだが、


「邪魔」

「クェ!?」


 ダチョウのようなモンスターと遭遇するが、鋭い薙ぎ払いで斜めに切り捨てる。


「どいて」

「ギャ!?」


 オコジョのようなモンスターは、壁や天井を足場にアクロバティックに襲い掛かってきたが、さっと避けて尻尾を掴んでから壁に叩き付けて消滅させる。


「本体これね」

「アァアアアアアアアアアアア!?」


 土くれの分身を作ってくるダートパペットは、サクッと本体を見抜いて雷薙の柄で粉砕する。


「近寄らないで」

「ぎゅむんっ!?」


 異臭を放つごみのようなモンスターが現れた時は、嫌な顔を隠そうともせずに近くに落ちていた岩を打ち上げてから、フルスイングした雷薙で飛ばして押しつぶす。


”一体何を見せられてんのwwww”

”やっべぇwww 上層だって分かっててもモンスターがどいつもこいつも瞬殺されすぎで超爽快なんだけどwww”

”フェイク動画って言われても逆に信じられねえわこれwww”

”AI動画だって疑っててすみませんでした。現実のほうが断然やべーです”

”上層スタートだから課題しながら見てようって思ってたけど、やってる場合じゃねえ。これ最初から見どころ満載じゃねえか”

”「近寄らないで」→巨岩バッティングで討伐”

”最高に意味わからんくて草草の草”

”ダートパペットのやつどうやって本体見抜いたんだよwww 一秒かかってなかったぞwww”

”ダートパペット「なんで本体分かったの!?」 A.美琴ちゃんだから”

”オコジョモンスターも一瞬で壁のしみになっててびっくりしたわ”

”ツウィーターのトレンドに『上層爆速RTA』が入ってて何事かと思ったけどこれか”

”もうじき上層の終点だけど、俺の知っている限り公式で残っている最速記録より倍くらい早いんだけど”


 進めば進むほどコメント欄は加速していき、もうじき中層への入り口というところまで来ると、美琴のあまりの上層攻略速度に読んでいる暇がないくらいの速度でコメントが次々と流れていく。


「もうすぐ上層終わって中層に入るけど、みんな退屈してない? 私、ちゃんと楽しませてる?」


 こんなにたくさんの人が見ていることが嬉しくなってつい楽しませようと意気込み、テンポが悪くなって退屈させていないだろうかと不安になり、視聴者に問いかけてみる。


”退屈する暇を与えていないのはどこの誰ですか”

”最初から最後までクリップやら切り抜きどころ満載だったよ!”

”ほぼ立ち止まらずにモンスター轢き殺してるの見せておいて退屈してないか聞いてくるは中々だぞ”

”ちょいちょい普通じゃない方法でモンスター倒してて腹抱えて笑ったわwww 腹いてぇwww”

”ちょいちょいじゃなくて全部の間違いだろ。秒殺は誰も真似できんて”

”アイリちゃんがもう上層爆速攻略RTAってタイトルで切り抜き動画上げてて草”

”仕事が早すぎるこのマネージャーAI”


 どうやら視聴者達は楽しめている様子なので、そのことにほっと安堵して、中層の入り口までの残りの道のりを一気に進んでいく。

 中層が近付くにつれてモンスターの数がじわじわと増え始めて来たのだが、しょせんは上層最深域。この程度脅威ですらないと言わんばかりに足を止めずに次々と倒しては、核石を落としたら回収する。

 上層はあくまで下層までの前座に過ぎない。なのでサクッと踏破して、中層へ続く入り口に到着する。


「ふう、上層攻略完了! ちょっとだけ休憩ね」


 攻略開始してからわずか十七分。最短ルートで進んだことと足を止めずにモンスターを倒したこともあって、二十分を下回る速度で中層への入り口まで到達した。


”はえぇwwww”

”これが上層爆速攻略RTAか……”

”完璧なRTAだな。絶対に不可能な点を除けば”

”クリップと切り抜き乱立してんじゃんwww”

”再生数がもうどれもとんでもないことになってて草”


 息一つ上げず汗も一つも流していない姿を見て、まだ本番は先なのにどんどん盛り上がっていくコメント欄。

 同接もいつの間にか十万を超えており、なぜか達成感が得られた。


「って、同接十万!?」


 コメント欄の盛り上がりのほうばかり気にしていたからか、同接のとんでもない数字を目の当たりにして思わず大きな声が出る。


”こっちもはっや”

”おぉ! 十万おめ!”

”十万突破記念じゃああああああああああ!”

”まだ上層なのにもうここまで行ったんかよ”

”むしろ十万でも少ないほうだろ。二十万行ってもいいくらいだと思うぞ”

”それは行きすぎだって言えないくらいすごいことやってんだよな、このポンコツお嬢様”

”いやいやポンコツじゃないでしょ。……いや、やっぱポンコツかも(配信冒頭を見ながら)”


 ちらほらと美琴のことをポンコツだというコメントが見受けられたが、そんなのどうでもいいくらい衝撃的だった。

 吹けば消える風前の灯火の様な弱小チャンネルだったのが今や、百万人を超える大人気チャンネルでも早々叩き出すことのない数字を出しているのだから。


『これはこれは。お嬢様、これだけたくさんの方が来てくださっているのですから、きちんと撮れ高を意識してくださいね』

「わ、分かってるわよ」


”声震えてるwww”

”っぱ可愛いわぁ”

”ぷるぷる美琴ちゃんprpr”


 まさか自分がこんな数字を出すとは思いもしなかったため、アイリの言葉に反応する時に言葉が震えてしまっていた。

 この状態で中層に行くのは少し危険かもしれないので、気分を落ち着かせるために少し長めの小休止を取ることにした。

お読みいただき、ありがとうございます。




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