表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第一部 第七章 雷神と小さい魔術師と月の魔術師とトンデモ兵器
102/186

102話 無尽の人形の軍勢

 結論から言えば、ルナのデバフがなくとも何も問題がなかった。

 それもそうだろう。元々バフやデバフがない状態でも何も問題なくさくさく進めていたのだから、そこに能力を強化してくれる人材が入ればなおさらさくさく進める。

 どれだけ硬いモンスターが現れても、物理耐性が高い、魔術・呪術耐性の高いモンスターが現れても、メインアタッカーを変えるだけで足を止められることはなかった。


「この間一人で下層まで潜ってて、その時はミノがやけに硬いし魔術が効きづらいしで苦労したモンスターはいたけど、今日はそういうのは何も感じないわね」

「私も、ルナちゃんが援護とかしてくれるからすごくやりやすい。やっぱりバフとかをかけるタイミングを見極める目を鍛えてたの?」

「モチのロンよ。月魔術って、分かっていると思うけど実は完全な支援型魔術だからね。自分の魔術すらも強化対象だから、攻撃系の威力がおかしいだけで」

「自分の魔術まで強化対象になる支援魔術って、結構珍しいよね。術式とかどうなっているの?」

「かなり複雑だけど、月魔術の基礎とかをしっかりと覚えると案外簡単なの。例えば───」


 次のモンスターを求めてさ迷い歩いている中、後衛の女子中学生二人が後ろで仲良さげに魔術議論をしている。

 数学とか物理とかそういうのは割と得意な方だが、魔術や呪術などは齧る程度も習っていないので、単語を聞いても何も理解できない。

 世の魔術師達は、こんなにも複雑で難しい言葉を理解して、それを踏まえて術式などを覚えて魔術を使っているのだろうかと、二人の会話を聞きながら考える。


『こうなるでしょうから、少なくとも術系の基礎は学んでおいた方がいいと言ったではないですか』

「まだ灯里ちゃんとパーティーを組む前の話じゃないそれ。誰がこんなに優秀な魔術師二人と、パーティーを組むことになるなんて予想できるのよ」

『少なくともマラブ様ならできたかもしれないですね』

「あの人は魔神だからノーカンよ」

『お嬢様も魔神ですが』

「魔神の力を持っているだけの、人間の女子高生ですー」


 後ろの二人の会話に混ざれず置いてけぼりを食らっていると、アイリが嘆息気味に呟いた。

 灯里と組むよりもずっと前、それこそ探索者ギルドで登録する前の話で、探索者になるからにはもしかしたらパーティーを組むことになるかもしれないから、基礎だけでもいいから術について学んだ方がいいと言われていた。


 もちろんそれですぐに調べられる範囲で調べてみたが、説明が欲しい部分に説明がなかったり、よく分からない省略などをされているのを見てしまい、更にはその頃には未成年限定換金承認試験の日程が近いこともあって、術の勉強を放棄してしまった。

 まさか今になって魔術師と組むことになるとは思いもせず、勉強しなかったしわ寄せが全力疾走してきている。


「それより、灯里ちゃんとルナちゃんもお互いの魔術とか戦い方について、大分理解ができて来たんじゃないかしら? ああやって暇な時間は、魔術議論しているわけだし」

『そのようですね。モンスターと出会うまでは魔術議論を行い、連携しながら戦った後は意見を言い合う。これ以上ない、いい循環ですね』

「となると、ちょっと予定は早めだけどボス戦に行ってもいいかもしれないわね」

「ボス戦ですか!?」

「んん!? 急にこっちに食い付いてきたわね?」


 ボスという言葉を出した瞬間、灯里と楽しそうに魔術議論と反省会と意見交換をしていたルナが、目を輝かせながら食い付いてきた。

 話しながらもしっかりと周りに気を配っていて、美琴とアイリとの会話を聞いていたようだ。


「い、いよいよ下層ボスに挑むんですね」

「灯里ちゃんとはまだ上域のボスにも挑んだことがないのよね。でも基本は、中層のボスと同じようにすればいいわよ」


 これから下層のボスに挑むのだと知った灯里は、途端に緊張した表情をする。

 かつてルナが所属し、美琴が灯里を助け出した真っ黒でネーミングセンス皆無なアタックチャンネルにいた一か月間、登録したての新人ということで中層でもボスに挑むことはなかった。

 そのため、美琴と組んでから行った餓者髑髏との戦いが最初のボス戦で、それ以降は時々中層のボスと戦っている。


 しかし下層ボスは今日が初めてで、美琴の配信を観ることができる時は普段から見ているため、どれだけ危険なボスがいるのかを知っている。

 各階層のボスはダンジョンによって変化するが、世田谷と新宿との距離が近い影響もあるからか、下層のボスは深域までは一緒だったりする。


 下層上域のボスの名前は、マリオネット・レギオン。漢字で書けば、人形の軍勢だ。

 その名前の通り、弱点である本体のモンスターが大量に人形の軍勢を作り出し、下層最大の物量で敵対者に押し寄せてくるという戦い方をする。

 レギオンが作り出す人形の最大数は、およそ七百体。状況によっては千まで行くこともあるそうだが、未だかつて千を超えたのを見たことがない。


「下層上域のボスは、本体はすっごく弱いけど、作り出す人形一体一体がかなり強いの。それが通常時で七百体。場合によっては千を超えることもある。多くの人が中層で探索を止める、あるいは下層まで行っても上域で止めるのは、このボスの影響ね」

「あのイノシシ頭のおバカさんは、私のバフとデバフがあるからって調子に乗って大暴れして、へとへとになっていたっけ」


 ルナのその呟きを聞いて、少しだけ驚く。

 前に一度何気なしにアタックチャンネルの配信を覗いてみたが、びっくりするくらい弱くて驚いた。

 動きも一々素人っぽいし、モンスターとの駆け引きもなし。連携のれの字どころかR字すらなく、それぞれが思い思いに突撃したり術を使って無駄に消耗していた。


 こんな連中を下層まで連れて行っていたのは、本当にルナの魔術のおかげなのだと知ったが、まさかボスまで挑んだ経験があるとは思わなかった。

 もしかしたらルナは、彼らが死なないように、かつ勝ってきた道を引き返せるようにするために、かなり頑張って状況を把握して最適なバフデバフを使い続けていたのだろうと思うと、その頑張りを褒めたたえて甘やかしてあげたくなる。


「下層ボス挑んだことあるんだ」


 今そんなことをしたらこの先使い物にならなくなりそうなので、配信が終わって地上に出てから褒めてあげようと決め、下層ボスに挑んだことに驚いたように言う。


「上域までですけどね。いっつもそこで無駄に体力と魔力・呪力を使っちゃってたから、それ以上先に進んだ試しがありません」

『本当に猪突猛進なのですね。未だに配信活動をしているようですが、持っている最上呪具と自分の実力がかみ合っておらず性能を発揮しきれていないのに、ルナ様の言うようにイノシシのように突進ばかり繰り返している様子です』

「ちなみに、モンスターと苦戦している時に何か言ってる?」

『脱退する時に、ルナ様が全員に呪いをかけたに違いないと、口癖のように言っております。財産の大部分をつぎ込んでそれを頭金にして、ローンを組んで購入した最上呪具を扱いこなせていないのは灯里様の呪いだと、聞いているとこちらまでバカになりそうな発言をしております』

「えぇ……」


 リーダーである猪原進が最上呪具を、財産のほぼ全てを使って購入していたのは灯里から聞かされているが、ローンを組んでまで買ったのは初耳だ。

 どうやってその情報を得たのか気になるところではあるが、中学生の女の子にきつく当たったり、勝てないのを全て灯里やルナのせいにするようなクズなんかの情報はこれ以上知りたくない。


「昨日も遅くまで配信していたみたいですけど、視聴者数を見て笑っちゃいましたよ。私がいた時は最大でも五百人とかいたのに、今なんか多くても三人とかになってましたもん」

「視聴者の大部分が、ルナちゃんのチャンネルに飛んできたんだっけ?」

「そそ。あのイノシシ……あれをイノシシって言うのは本物のイノシシに失礼か。あのおバカさんは自分の素晴らしい剣術を観に来てくれているって思いこんでたけど、視聴者の多くは私の魔術のおかげだって理解してくれてたみたいで、初配信の時から五百人も観に来てくれて助かったなー。いつも観に来てくれてありがとう! 大好きだよー!」


 ヤモリのような使い魔に取り付けているカメラに向かって、ウィンクをしながら手を振るルナ。

 表示されているホログラム画面のコメント欄は、大好きだという言葉に過剰に反応して、猛烈な速度でコメントが流れていくのが見える。

 ああやって素直に、視聴者達に大好きだと言えるあの度胸が素晴らしいなと見習いたいが、自分が言ったら視聴者達が壊れそうな気がするので、やめておく。


 とりあえず、お互いについての理解もできたので、隅々まで探索する方針から切り替えて、真っすぐボス部屋に向かって進んでいく。

 合間合間に出くわすモンスターを、連携の練習のために倒しながら進むこと三十分強。下層上域のボス部屋の前に到着する。


 下層のボスは基本全て危険なので、部屋の前にはボスの名前が書かれた看板が立てかけられている。

 そこに書かれている名前は、『マリオネット・レギオン』。


「つ、ついに……」

「灯里ちゃん、リラックスリラックス。先輩もいるんだし、そこまで緊張しなくてもいいって」

「緊張するものは緊張するの。美琴さんがいるから安心はできるけど、初めての下層ボス戦なんだから」


”ハイスピードで百合パーティーが下層を進んだと思ったら、あっという間にボス部屋に辿り着いてて草”

”マリオネット・レギオンか。最近話題になってるフレイヤちゃんが、結構やべー方法で殲滅してたけど、このパーティーはどうやって倒すんだろ”

”美琴ちゃん個人だったら、雷ぶっぱで瞬殺とか、雷速突撃で一体ずつ破壊からの本体串刺しで終了もできるけど”

”最近灯里ちゃんの育成を頑張ってるから、灯里ちゃんかルナちゃんのどっちかにボス本体を倒させそうだね”

”三人そろって鬼ヤバ火力だし、無事にその先に進めるという信頼がある”

”美琴ちゃんが同じ場所にいるだけで死ぬことはほとんどないだろ”

”そう思うと、深層ボスのヴラドのやつ、マジでえっぐい初見殺ししてきたんだな”

”あの串が生えてくる速度が速すぎて回避ほぼできないし、当たれば真下から脳天まで串刺しだから基本即死。即死しなくても、あそこから助けてくれる人がいないとコウモリに骨すら残さずに食い殺されるしで、マジで美琴ちゃん並みに速く動けるのがいないと無理”

”マラブさんの権能で、観測した未来を共有するとかしない限り、美琴ちゃんの助けなしであそこを抜けるの無理ゲーだろ”

”ま、ここは下層上域だし、火力イカレた女の子が三人もいるんだし、苦戦することはまずないだろ”


 コメント欄はいつも通り、これから配信で一番の盛り上がりどころのボス戦ということもあって、濁流のような速度で流れていく。

 今回は灯里とルナによる攻撃を主体に、美琴が派手な陽動を担うつもりだ。

 数日前に大バズりしたフレイヤは、単独で爆撃機のように人形を飛び回りながら爆撃し、自分を脅威認定させることで千の軍勢を呼び出させた上で、シールド展開をして突進し、最後はよく分からないシールドの機能か何かで強烈な衝撃波を放って本体ごと吹っ飛ばしていた。


 彼女のように超ド派手な戦いをするつもりはないが、もし灯里達が苦戦して不利になるようであれば、雷を開放して人形と本体をまとめて消し炭にする。


「それじゃ、準備はいい?」

「はい!」

「いつでも行けますよ!」


 心の準備が終わった灯里がぐっと胸の前で拳を握りながら頷き、ルナも元気よく返事する。

 見た目は違うのにどことなく姉妹感があるなと微笑みを浮かべ、三人揃って転送陣を踏んでボス部屋の中に跳ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ