100話 クランメンバー灯里の初仕事
「そういえば、今ブラッククロスがまた超特大大炎上していますね」
「三日前のやつよね? 本当にマラブさんが言った通りのことが起きて、予言的中だってお祭り騒ぎだったみたい」
「あれって本当に回避できない未来だったんですね」
モンスターを求めて歩き始めてすぐに、ルナがその話題を口にする。
かつてはあのクランの成員のパーティーに入っていたため、あまりこの手の話題には触れないほうがいいかと思っていたが、向こうから触れて来るなら関係ない。
「いやー、正直めっちゃすっきりしました。あそこのアホマスターのバカ息子の仁輔って、迷惑行為しかしないことで有名で、死ぬほど嫌われている迷惑系配信者でしたから。自分でモンスター擦り付けて自分で助けるマッチポンプが上手く行くどころか、モンスター全部ワンパンされた挙句にシールドみたいなものを展開された状態で突撃されてワンパンされるの、観ててリアルに『ざまぁwww』って言っちゃいました」
「ちょっとやりすぎ感はあったけど、あとであの人の悪行集って言うのを見つけて観たら、不思議と私もルナちゃんと同じ気持ちになったわね」
「あの外国人の女性って、確か女子高生でしたよね? 最近あの刀崎華奈樹さんも、十六夜美桜さんを巻き添えにして配信活動始めたみたいですし、ここのところ配信業界が女子高生に侵食されているって言われています」
「言い方もうちょっとどうにかならないわけ?」
”そんなこと言われましても、ねえ?”
”事実ですしおすし”
”美琴ちゃんとかいうやばいJKが出て来てから、全体を見ても女子高生配信者増えたもん。九割が上層止まりか、伸びないから一週間もしないうちに配信しなくなってるけど”
”フレイヤちゃん、ぶっ壊れにもほどがあるやべー兵器とか大量に作ってるっぽいけど、素でもっとヤバいことやってる推しがいるから、意外と驚かなかった”
”やっぱ美琴ちゃんを見慣れてると、似たような子が出てきても驚かないものだね”
”俺はむしろ、この短期間で似たような道をたどるJKが出てきたことに驚いた”
”雷神JKと兵装装備系JKとベクトルは違うけど、シンプルに火力がイカレているのは同じだしな”
”この間ダンジョン下層のボスを、移動用のスラスターと重力制御装置付きの機械の翼で縦横無尽に駆け回りながら、超カッコいい鉄のブーツだけで蹴り殺してたしなー”
”機械の翼が純白すぎて、ネットで女神様呼びが定着しつつあるの笑った”
”名前が女神フレイヤと同じだからしゃーない”
”あまりにも作る兵装の性能がおかしいから、その方面の権能持ってる魔神じゃないかって疑惑出てるの草生えた”
一回目の大きな地雷を踏み抜いてしまったブラッククロスマスターの一人息子、黒原仁輔は、切り抜き動画で見た感じでは一撃で瀕死の重傷を負っていたが、フレイヤが使用した使い切りっぽい回復道具で変な方向に折れ曲がっていた腕や足も、瞬く間に治っていた。
それもあるのか、一応アイリにお願いして仁輔のツウィーターを監視させていたらその日のうちに、不意打ちをしたことと、もうすでに八割のメンバーが抜けているのにいまだに三大クラン気取りでいるようで、そこのマスターの息子である自分にそのようなことをしたことを許せないという内容の投稿をしていたそうだ。
「なんかネット上で、美琴さんとそのフレイヤさんって言う人が知り合いなんじゃないかって言われていますけど、実際どうです?」
「知り合いと言えば、知り合いにはなるかな。フレイヤさんはEA社の社長令嬢で、そういう企業のパーティーとかで会ったことがあるから」
「こうして普通に会話していますけど、美琴先輩って超デカい会社の令嬢ですもんね。上品で清楚ですけど、あまりそんな感じがしないのがすごいです」
「お父さんの娘だからって理由で寄ってくる人が今までたくさんいたから、ふるまいとかを意識して変えているのよ。おかげで親しみやすくなったって、女の子の友達はかなり増えたのよ」
『それでも育ちのよさや上品さはほんの些細な仕草にも出てきますから、どう頑張ってもお嬢様はお嬢様だと言われておりますけどね』
「何を見てそれを感じているのか、私には分からないんだけどなあ」
聞き出そうとしても、仕草は本当に無意識に出てくるものだから変えようがないと言われて、何に育ちのよさや上品さを感じているのか、今も分からずじまいだ。
昌にも聞いてみたが、下手に変えてしまうと違和感が強烈になるから教えないと言われ、スイーツを好きなだけ奢ると言っても教えてくれなかった。
ちらっと見たフレイヤの配信では、もう上品さとか育ちのよさとかそういうのを一切隠さずそのままでいるため、彼女のように堂々とするのもありなのかもしれないなと思ったが、今からそれをやると視聴者達に何か言われそうなのでやめておく。
「美琴さん」
「ん、モンスターね」
「結構早かったですね」
仁輔が二回目の大やらかしをいつやるのだろうかと考えていると、進んでいる方向からモンスターの気配を感じる。
雷薙を取り出して構え、灯里とルナが魔力励起状態に移行して、いつでも戦闘できるように構える。
姿を見せたのは、体中が継ぎ接ぎなモンスター、フランケンシュタイン。
「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス」という小説を原典とした特殊なモンスターではあるが、後世の創作で恐ろしい怪物として描かれることが多々あることから、こうして下層のモンスターとして現れたのではと推測されている。
なお、フランケンシュタインは怪物を作った博士の名前であって、怪物の名前ではない。正式な名称はフランケンシュタインの怪物だが、長いことと後世の創作の影響もあって、怪物かフランケンシュタインのどちらかで呼ばれるようになった。
「フランケンシュタイン? あれって確か、生息分布がめちゃくちゃになった中で数少ない、元の深域から最深域に戻ったモンスターじゃありませんでしたっけ」
アモンがまだダンジョンの中にいた頃、彼女のせいで下層のモンスターの生息分布がめちゃくちゃにされてしまい、今もなおその影響は残されている。
そんな中でも、いくつかのモンスターが元の分布に戻っているというデータもある。フランケンシュタインも、そのうちの一つだ。
原典の方では怪力ではあるが気は優しいと表現されており、それもしっかりと再現されているのか、美琴達と鉢合わせてもいきなり襲ってくるということはしない。
向こうから何もしてこない分なら戦わなくてもいいだろうと思うかもしれないが、気は優しくともその内には異常な凶暴性も持ち合わせており、フランケンシュタインからすればただ触れ合っているだけでも、何の感情もなく体を引き千切ってくる。
「あっちから攻撃してこないけど、危険なモンスターであることに変わりはないし、ちょっとやりづらいでしょうけど倒してしまいましょう」
「で、でしたら私が倒してもいいですか? フランケンシュタインとはまだ戦った経験がないので」
「下層に行くようになってもよく戦ったのってミノとかだったものね。実は意外と、フランケンシュタインとはあの一件以降上域で見るのは初めてだったりするのよ」
「灯里ちゃんが戦うなら、私はサポートに入ってもいいですか?」
「もちろん。危なくなったらすぐに加勢するから、思い切りやっちゃって」
今日の配信一発目の戦闘は、灯里が行うことになった。
ルナも一緒になって戦うが、彼女は灯里のフランケンシュタイン戦はサポートに徹底するらしい。
「灰は灰に、塵は塵に!」
感情の見えない虚ろな瞳で灯里のことを見ていた継ぎ接ぎの怪物が、ゆったりとした足取りで近付いてくる。
その瞬間、灯里がノタリコン詠唱で切り詰めた、基礎的な炎魔術を起動させる。
左手に持つ杖を前に伸ばし、その杖が灯里の炎魔術を大幅に強化して、現象として具現化させる。
現れるのは、強大な炎の波。この規模でありながら基礎的な魔術だというのだから、素のスペックがどれくらい高いのかがよく分かる。
相変わらず、何度観ても壮観だなと思っていると、体を焼き焦がした怪物が歩く速度を変えずに炎の波の中から姿を見せる。
それに驚いたように目を見開いて一歩だけ後ろに下がるが、すぐに気を持ち直したのか下がった分以上前に踏み出すどころか、自分の身体能力を大幅に強化しているのか、すさまじい速度でフランケンシュタインに向かって駆け出していく。
「接続───火焔、形状付与、薙刀、鋭利化!」
炎の魔術を再度起動させ、それに形を与えていく。
左手の杖に収束していくように炎が集まっていき、それは大きな薙刀の形になる。
『おや、随分とお嬢様に影響を受けたようですね』
「嬉しいけど、魔術師ってあんなに距離詰めていいんだっけ?」
『近接型魔術師もおりますよ』
「灯里ちゃんは後方射撃型なんだけど」
体や武器に魔術などをまとわせて攻撃する近接型術師はいるが、灯里はそれとは対極の一般的な魔術師だ。
近接には弱く、中、遠距離に強いため、自ら有利な距離を潰すのはあまりいい手とは言えない。
ルナもそう思っているのか、杖を掲げていつでも攻撃を防げるように構えている。
「てぇい!」
ぬぅ、っと伸ばされた大きな右腕を掻い潜り、可愛らしい気合と共に炎の薙刀を振り上げる。
体中の魔術回路に魔力を流して強化状態になっているとはいえ、近接戦をしたことのない魔術師の力では斬れないだろうと思っていたが、予想に反してフランケンシュタインの腕はあっさりと斬り落とされる。
自分の腕を斬り落とされた継ぎ接ぎの怪物は、痛みを感じていないのか不思議そうな顔をしながら、焼け焦げた自分の腕があった断面を眺めている。
そこに灯里が、雷系の魔術を呪文を唱えず何かを砕くことで発動させて、通常ではありえない加速をしてすれ違いざまに首を斬り落とし、背後で停止してから振り向きながらその勢いのまま薙ぎ払い、胴体を両断する。
拙い部分は多くあったが、練習していたのか残心する姿は妙に様になっている。
しばらくは炎の薙刀を構えて警戒していたが、ぼろぼろと体が崩れていくのを確認して、長く息を吐いてから魔術を解く。
「……私、いらなかったみたいですね」
『このパーティーは揃いも揃って、個人の火力が控えめに言ってイカレておりますから、あまりバフとかの活躍はないでしょうね』
「私の月魔術はバフデバフがメインじゃないんですけど、ここまで必要なさそうな感じがあると、なんか変な感じがします。今まではバフありきだったので」
「必要になりそうなときはこっちからお願いするから、それまではルナちゃんが戦いたいように戦いましょう」
「了解です! とりあえず、灯里ちゃんお疲れー! ちっちゃいけどすごく強いじゃん!」
「ち、ちっちゃいは余計だよ!」
核石を拾って戻ってきた灯里にルナが抱き着き、灯里が恥ずかしそうにしながら控えめな声で抗議する。
本当に、あっという間に仲よくなってくれてよかったと微笑ましそうに見守り、やはりルナを誘って正解だったと笑みを浮かべる。
遂に百話という大台を迎えました! まさか自分の作品がここまで行くとは思いもせず、感慨深いです。ここまで来られたのも、読者の皆様の応援のおかげです!
今後とも、「【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる」をよろしくお願いします




