ハンバーグの神様にお願い事してたらヤンキー達を更生する展開に行き着いた話
「あいつら、ひき肉にしてやろうか……」
毎日校門の前で、俺が帰るのを待っているヤンキー達がいる。決まって4時半に俺は一人で帰りがちなのだが、なぜか知らないが俺に目をつけて絡んでくる。
「なァなァ、ちょっと俺らと遊ばんね?」
「ハンバーグ食い行こうやハンバーグゥ!」
正直言って、めちゃくちゃウザい。マジ、消えろ。
俺は一言も話さず早歩きで帰る。というか、逃げる。
この前はカツアゲされたし、暴力からは逃げるのが一番。
たまに付いてくるが、無視。
はぁ、ムカつく。ハンバーグ食いに行こうって、4時半だぞ!?
ヤンキーにとってはおやつ感覚なのか?なんか余計ムカついた。
「あいつら、ひき肉にしてやろうか……」
ヤンキー達がいなくなった後、そっと呟いた。
学校の最寄り駅に行く途中、知らない階段を見つけた。めちゃくちゃ気になって上ってしまった。
階段を登ると、小さな社があって、なんかこう……すごくハンバーグっぽい石が安座している。
近くの看板には「ハンバーグの神、ハン・ヴァーグ」とあった。
……名前まんまじゃん、とか、ハンバーグの神ってなんだよ、とか、色々思ったけど無視しよう。きりがない。
ハンバーグっぽい石の前には賽銭箱があったので、記念に賽銭でもして帰ろうか。
財布を漁ると、1円玉がなかったので仕方なく5円玉を入れた。
願いは……そうだな、さっきからなんかハンバーグが無性に食べたくなっていた。目の前にこう……ハンバーグ?があるとすごく、食べたくなってくる。
「えと……ハンバーグ……?の神様、今日の夕飯をハンバーグにしてくださいっ!」
あんまり作法は知らないので、とりあえず1礼。
家に帰ると、夕飯はハンバーグだった。
ラッキー!!美味しく頂きました。
翌日、ハンバーグの社のことと、夕飯がハンバーグの話をすると、友人たち全員が昨日の夕飯はハンバーグだったらしい。
…………は?まてまて、偶然すぎない?
試しに、女子や先生にも昨日の夕飯を聞いたら、ハンバーグと返された。
原因で思い当たることは、昨日の俺の願いしか思い浮かばない。
おい、ハンバーグの神!なにも全員の夕飯までハンバーグにすることないじゃんかよ!
……でも、これでハンバーグの神が本当に神様だということが分かった。たぶん。
翌日、俺はわざわざ貯金箱から500円玉を持ってきて社に向かう。
思い切って500円玉を賽銭箱に入れ、願う。
「神様、ヤンキー達を、ころ……
ちょっと待った、殺すだけじゃ俺の味わった痛みはあいつらに返らない。
ふと、あのとき呟いた言葉を思い出した。
……ひき肉にしてください!」
朝、不気味なニュースで目が覚めた。
「昨日午後11時頃、公園にいた男子高校生6人の右腕が同時に切断されるという事件が発生し、警察はこの事件について詳しく捜査を続けています。なお、切断された右腕については現在発見されておらず、警察は右腕の捜査も続けています。被害者の男子生徒は……」
やべえ、ガチじゃん。あいつらの右腕を切断とか……ハンバーグの神マジじゃん。
……でもひき肉にはなってないな。
俺は開放感と罪悪感を胸に、急いで社へ向かう。
あの石の前には血が広がったひき肉があった。あたりには死臭が漂っていて、何の肉なのかおおよそ検討がつく。
俺が願ったとはいえ、結構気持ち悪いので早く済ませよう。
500円玉を賽銭箱に入れ、願った。
「神様、復讐はもう満足したので、あいつらの右腕を治してあげてください」
腕を治すことは、朝のニュースを見たときから考えていた。
たぶん、殺されるよりも腕を切られたほうが痛みは長く続くし、マスコミや警察に立て込まれて精神的にも十分ダメージを負ったと思う。
復讐はもう十分かなと思ったのだ。
翌日、またニュースで目が覚めた。
「昨日午後9時頃、先日起こった右腕切断事件の被害者である男子生徒が入院中、急に右腕が生えてきたと報告があり……
……その生えてきた右腕は腕ではなく、ひき肉のような形状をしており、警察は右腕切断事件との関連性を調べるとともに、男子生徒達の警護にあたっています。また、医療機関は腕が生えてきた事象や生えてきた右腕の科学的解明を……」
唖然とする。
そーだった!!あの神様ちょっとズレてるんだった!!
なんであのひき肉のまま治しちゃうのかなーおい。
……どうしよう。どうしたらいい?わからない。
とりあえずまた、社に向かって走り出した。
「よっ」
社に、知らない男の子がいた。
ほうきを持って社の敷地内を掃いている。
巫女服の男版?なんか赤色のがないやつを着ている。
茶色の髪で、ボサボサっとしている。
誰だ。
「……なんだ急に、お前は誰だ?」
「ボクは君から1005円を頂いたハンバーグの神だよ。わかんない?」
「……え、あのハン・ヴァーグとかいう……」
横の看板にも書いてある。
「そうだよ?」
……ハンバーグの神、こんな子供だったのか……
どうりで、願いがズレて叶うわけだ。
信じられないが、とりあえず聞いてみる。
「……なあ、神様、何でこのタイミングで俺に会い来たんだよ?」
「うーん、何で今かっていうとね、社を遠くに移転するから最後に君に会っとこうかなって」
「移転?」
「うん。定期的に社は移転するんだ。そこの階段もちょっと前まではなかったでしょ?」
あー確かに階段なんてもとはなかったかも。この最近だけ現れたのは社が移転してきたからなのか……
「でね、たぶん君がここに来るのは最後になるかなーと思って、会いに来た!」
「こんな俺に?」
「うん。久しぶりすぎて嬉しかったんだー収入も珍しくがっぽりだし。どんなやつなのか直接会いたくてさー」
ふーん。つまり、金を恵んだことへのご挨拶ってとこか。別にハン・ヴァーグのことはあんまし興味ない。
「へー。全然違う質問いいか?神様、俺はたしかにあいつらの腕を治してほしいって願ったけど、なんでひき肉のまま腕を生やしたんだ!?普通に、もとの腕に戻してやってくれ」
「……えと……なんでひき肉のまま生やしたかっていうと…………できない、から」
「は?」
思わず声に出た。
「ボクはさーハンバーグの神なワケ。だからさ……ハンバーグに関わることじゃないと叶えらんないっていうか」
はぁ……なんだこいつ。失望した。
「でもでも!あれでも頑張ったんだよ!?ひき肉のままとはいえ、腕を生やしたんだからさー」
「はあ……分かったから。じゃあ、腕をちゃんと治すにはどうしたらいい?」
何か方法があるなら、やれるだけやるつもりだ。
「うーん……まず、願いが叶う要因は2つある。1つ目は、神に対しての願いが合っているか。安産の神に交通安全願ってもしかたないだろ?」
そういう話……?じゃあこいつはマジでハンバーグしか叶えられないのか。
「2つ目は、お金。神様だってお金をたくさん納めてくれた人を気に入るってもんさ。だから、お金。金額が高ければ高いほど、絶対叶うだろうねー」
「じゃあ腕を治すには、高額納めればいいってこと?」
「それなりの金額にはなるけど、管轄外の願いもだいたい叶えられるよ」
「……いくら?」
「1人5,000円で、30,000円」
たっか。
財布の中を慌てて確認する。
……紙幣は10,000円。小銭と合わせても12,000円ぐらい……
「P○yPayって使えます……?」
「うち現金だけなんで……」
「エ○ペイ入れろよ!……仕方ない。ちょっとお金下ろしてくるから待ってて」
「無理」
「え?」
「さっき言ったじゃん。君がここに来るのは最後だって。その階段下りたらたぶんもう会えないよ?」
「……え、じゃあ……」
詰んだ?
「詰んだね。ま、持ってる残金と願い事を工夫してみてよ。ボクもやれるだけやるからさ。ここは時間の進みもゆっくりだし」
……だいたい2時間後、俺は燃え尽きていた。
はぁぁぁぁぁぁ……なんだよ、これ。神様はお門違い、お金もない。もう、どうしろと?
12,000円だから二人は治せるのか?それでもなぁ……
ハンバーグ関係の願い、って、何?
かれこれずっと悩んでいるが、解決策は見つからない。
……ハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグハンバーグ……
……ぐぅ。おなかすいた。
ふと、最初に願った願い事を思い出した。懐かしいな……そうだ今までの願いをすべて消せば……?
「神様、ここで願った願いをすべてなかったことにできないか?ここはハンバーグの社だし、関係はあると思うが……」
「やっと決めたかと思ったらそんな願いか……うーん……言うね、叶えられるけど、やだ」
「……は?」
「や、だ」
「まてまてまて、は?」
「ボクがいやだと言ったらいやなの!わかった!?」
「理由を教えてくれ!!」
「はぁ……神はねぇ、娯楽と、金稼ぎのために願いを叶えてやってるんだ。それなのに、願った願いをなかったことにーなんて、頑張って叶えてもちっとも面白くないじゃん」
「……面白いかつ、ハンバーグ関係かつ、12,000円で叶えられる願いにしろってこと……?」
「つまり、そうだね」
おぉぉおおおおんん!!
終わった。これができなきゃ無理だ。
なにか、なにかないか?そういういい感じの願い……
……今まで願った願いは……?
夕飯をハンバーグに、あいつらをひき肉に、あいつらの腕を治して、か。ハンバーグ、ひき肉、腕……
……ひき肉から治そうとするっていう固定観念がダメなんじゃないか?むしろ、あいつらの腕をハンバーグにしてしまえば……
「神様、あいつらの腕を無限再生できるハンバーグに強化してくれるか?」
「何それ、めっちゃ面白そうじゃん!」
フッこれぐらいの年頃は、無限再生とか、堕天の翼とか、そういうワードに惹かれるってもんさ。
「無限再生できるハンバーグになれば、お腹の空いた人達に食べさせてやることができる!」
「おお!」
「さらに、世界では肉が希少になりつつあって昆虫食なんかも始めている。そこで!ハンバーグが無限に食べれれば、世界を救えるかもしれない!」
「いいじゃんいいじゃん!」
この願いは、かの有名なアンパンのヒーローから参考にしたものだ。困ってる人にやさしく自分の体を食べさせる。人のために働くなんて、ましてや世界を救うなんて、あいつらが学ぶべきことだ。ありがとうやなせさん。
「じゃあ叶える?ちょうど管轄だし、お安く済みそうだよ。……1,200円でどう?」
もちろんだ。俺は1,200円を渡す。
「じゃあ、そこの石段を下りたら叶うと思うから。今までありがとねーバイバーイ!」
「あ……うん」
結構あっさりしている。
こいつ、意外とかわいかったな。まぁもう会えなくなるのか。
「……じゃあな、ハン・ヴァーグさま」
神様は、笑顔で手を振っていた。
石段を下り終えると、今自分が下りたはずの石段は無くなっていた。
あいつらは2時間ぐらいしたらネットニュースにでもなると思うので、家に帰ろう。
【速報】切断事件の少年ら腕がハンバーグに
名有りさん1
先ほど午前11時頃、右腕切断事件の被害者である男子高校生6人の右腕がハンバーグになっていたと報告があった。彼らは昨日午後9時頃にひき肉の形状の右腕が生えてきており、警察や医療機関が詳細を調べている最中であった。ひき肉の状態はかなり生々く不気味なもので、本人達の意志により動かすことが可能だと分かっていた。だがそんなひき肉が、よもやハンバーグになるなど誰もが冗談だと思うだろう。このハンバーグを研究者らが検査ののち試食してみると非常に美味しかったらしい。この肉は、牛や豚、人とも違うまったく別の肉だという。この右腕兼ハンバーグ、再生能力がとても高く切断しても痛みはないらしい。研究者らは食糧危機の対策として調査を進めている。
名有りさん2
まじ?
名有りさん3
マジだったら謎肉ハンバーグ食ってみたい
名有りさん4
人肉とかキモすぎて無理www
名有りさん6
>>4 人間の肉じゃねえってよ
名有りさん9
>>6 でももとは男子の腕だろ?
名有りさん12
原因不明なの怖すぎんか…?
……さっそくスレが立っている。まぁこれからゆっくりと、現代社会に埋もれて溶け込んでいくだろう。時間がすべてを解決するさ、たぶん。
この日、ハンバーグが上位4つのトレンドを独占した。
……5年後、俺は普通に大学に入り就職活動中。あいつらはユニセフに入ったり、社会福祉士になったりしている。すごくね?俺の願いで人生変えてしまったけど、いい方向に進んでいると信じたい。
……大学の帰り、見覚えのある石段を見つけた。いやいやいや、絶対違うだろ。……確かめるには、上ってみるしかない!
「……うわーまた来るやつなんて初めてだよ。久しぶり!」
ハンバーグの神様だ。5年経ってもまったく変わっていない。
「まだ願い足りないかい?」
「いやぁ別にもう十分だ。……あ、じゃあ1つだけ」
俺は5円玉を渡す。
……今日のみんなの晩ごはんがハンバーグになればいいかなーと思って。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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