神はサイコロを振らない
あほだな。
薄っすら笑っている自分に気が付き、自嘲に顔を変える。
寒い。流石に身体が冷えた。戻ろうと扉に振り返る。
しかし、白い校舎をみれば、他のラボの奴らも「朝日」を見ていた。
卒業式当日の早朝。いくつか顔が見える。
俺が戻ろうとしていたのに気がついたのか、みんなも校舎を見上げたようだ。
「あー、みんな、いんじゃん」
「暇だな」
「ねーこー」
「おーい」
手を振った先は3階。つなぎを着たマイルドヤンキーのグループが見える。
「うるせー!普通に聞こえるっての。なんだよ?」
向こうもフェアウェルパーティか。4年間、どう見ても反社会的にしか見えない彼の成績がトップクラスな時点で俺たちオタクのバカさ加減がヤバい。思い返しても大変不可思議な奴だった。
「ねこいるぞー?」
「残った食べ物とかあるよー」
「こっちも食いもんとかあるけど、いるか?」
「酒寄越せ」
雰囲気からしても近づきたくない彼に気安く話しかけるこいつらに不安を覚える。
「今日は電車か?」
「自転車」
「飲酒運転なんかすんじゃねーよ!」
人を見かけで判断してはいけない。
普通にみんなで降りてくるようだ。彼は相変わらず大人気だ。様々な属性の同級生達とこの「特別な夜」を過ごしたらしい。
「相変わらず、君の周りは騒がしいね」バルコニーから続く階段下から誰かきた。
工房から続く階段から来たのは学年主席のグループ。いつもつるんでいる4人組。なんとなく道化じみた話し方で、どことなく気に入らない。
「あー、うるさかったか。わりーな」
「いや、楽しそうだなって」
「僕たちも一緒に行っていい?」
「誰の許可などいらないし、別に構わないだろ」
バルコニーに人が増えてきた。
戻るのを諦めて「どけ」バルコニーに据えられた椅子に座る。
「おーぼー」煩い。
見上げれば、空が刻々と移り変わる。
緋は段々と蒼と混ざり、雲に映る光が照らし合わさり、青くなっていく。
人が増えた。コンクリートにもたれかかりながら、空を見上げる。
やわらかい。
ねこが俺の手に触れたようだ。
「なあ」
誰かに呼びかけた。