だけど、二度と来ない日
非常口の明かりで浮かび上がるどこまでも繋がっている暗い廊下に足を踏み入れれば、少し遅れてRPGのように自動で電気が点き、俺がいる場所だけ煌々と照らされる。
代わりに、さっきまでは見えていた遠くの通路や窓の向こうは見えなくなった。
繋がりが消えた廊下で、窓に反射する俺たち。
「どした?」
「いや、なんでもない」
そのまま、まだ暖かいラボから更に寒い廊下に一歩踏み出せば、ゾロゾロと後ろからパーティメンバーが出てくる。
「さう!!」
「やっば!!寒くね!!」
うるせーな、廊下に響くだろ。
がやがや騒ぐ馬鹿どもを無視して、廊下を横切る。ラボの前にあるちょっとした休憩所。そこの自販機の横を通り過ぎ、そのままバルコニーへ続く扉へ向かう。
扉に近づくと、もう冷気が漂っている。
少し戸惑ったが、そのまま手を掛けた。
風が舞い上がり、髪を揺らす。
引いた扉をそのまま後ろに引きながら、一歩踏み出し、コンクリートに降りる。
夜明け前の一番暗い瞬間。どこまでも高い空。ちょうど、太陽が昇り始めていた。光が雲を照らし、空の蒼さが増す。
昼間のベタ塗りの青空ではなく、緋から蒼への美しいグラデーション。
昇るのか、落ちるのかわからない「境目」。
白い息を吐きながら、バルコニー中央まで進む。ここは2階にあるし遮るものがないから、空が近く広い。
一階の工房の屋根だから、外階段やベンチもあるしちょっとした教室ぐらいの広さがある。まあ、寒い。
そのまま空を見上げれば、視界一面に星々が見える。
「綺麗だな」
「あ?寒いだけだろ」
「満足した?」
「戻ろうぜ、さみーし」
「式までに少し寝たいんだよね」
「あ、うん。綺麗だよね」
「寝る」
「あ、そこに幽霊が!」
「いねーよ!ってねこ!?」
「マジか」
よく見れば、バルコニーの端にあるベンチに黒猫がいた。寒くないのだろうか。
寒いと騒いでいた奴らはお猫様の気を引こうと、校舎から離れて近づいて行っている。