表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通路の先  作者: Coppélia
2/5

いつも誰かの記念日

「あ」


・・・近くで音が聞こえる。聞きなれた大好きな曲に導かれて意識が浮上する。

上下左右がわからないけど、とりあえず「着うた」が流れる方に手を伸ばす。


ひんやりした感覚。LEDライトがバックライトの折り畳み式携帯電話を掴む。

うっすらと目を開けて、右手で掴んだ折り畳みを右手の親指で弾く。


横目で通話ボタンを押すと、小さく「ツー、ツー」と聞こえた。


あれ?どこだっけ、ここ。

視界は病院のような青い布を映しており、俺はどうやら青くて硬いベッドの上にいるようだ。


改めて少し傾いた首を身体の正面に戻し、ゆっくりと上半身を起こすと、薄い毛布がずり落ちた。

寒い。眠気が落ちて、頭が回り始める。


ああ、そうだ。今日、卒業式だからみんなと大学にいたんだった。

学生生活が最期だからってみんなで食べ物持ち寄って、食べて話して夜を明かした。


バイト帰りにそのまま来たから、疲れて寝たか。

ベッドに入った記憶はないが、誰か運んだのだろう。靴のまま寝っ転がっていた。


枕元にはさっきまで一緒に騒いでいた見知った奴ら。

揃いも揃って、典型的な「オタク」って奴ら。マジでアニメやゲームの話しかしない。


だけど、余計な詮索もしてこないし、工業大学機械科では珍しいからと、色恋やら爪弾きの対象になりやすい俺に対しても「三次元に興味なし!!」と力説するこいつらは一緒に居易かった。


「起きたのか、おまえさん」

「相変わらずよく寝てるよね」

「携帯鳴らしたら確実に起きるから、ある意味すげー」

「社畜乙、あれ?違った?バイト戦士?」

「水飲む?」

「なにちげーよ、もっとなんかかっこいい起こし方とかあんだろ」

「いや、白雪姫がこいつなら、目覚めない方が世界平和だろ」

「ばっか、違うって。世界に混沌をもたらすかもしれないだろ!寝起きでイラついたからって熊谷で路上スピーカーを蹴り飛ばすとか普通しないし」

「バカだ」

「バカだな」

「それがいいとこじゃないかな。1人キラーマシン」


口々に喋る8人。あれ、あいつらはどこ行った?

あーうるせーな。とりあえず、黙らせるか。


「・・・んだよ?うっせー」

口の中が張り付いて、うまく声が出ない。


「おー、起きたか。ほれ」

手を伸ばして、差し出された水を飲む。味がしない。


いつも黒い服がいう。

「そろそろ時間だぞ?」

「ああ、夜明けか」


そうだ、夜明けを見たいと話していた。

地球が生まれてから今日まで繰り返されてきた「夜明け」。

だけど、俺たちにとっては記念日の朝が来る。


「おまえ、何で夜明けなんかみたいんだよ?」

「そういうロマンなとこがいいよね」

「俺はねみー」

本っ当に情緒が無い奴らだな。


「まあ、いいじゃねーか。最期ぐらい俺に付き合えよ。どうせもう会うことないし」

「それはちょっと寂しいんじゃないか」

「事実だろ」

「まあ、そうなんだけど、さ」


ベッドから飛び出し、ジャケット羽織って、冷たい取っ手に手を掛けて。

俺は扉を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ