(5)
「それはつまり……わらわにあの化け物を退治してほしいと頼んでおるのか?」
「え? いや……」
「わらわにそんな力はないのじゃ。しかし、あの化け物に宗継様のお墓を荒らされては困るのじゃ……」
「宗継様?」
虎太郎と鈴音は顔を見合わせる。
どうやら、おかっぱ頭の少女は化け物の仲間ではなさそうだ。おかっぱ頭の少女は「困ったのぅ」と腕を組んで考え込んでいる。
「……決めた。どちらかに、宗継様の刀を貸してやるぞよ」
「刀っ!?」
しかし少女の手元にあるのは万華鏡だけ。
一体どこにそんな刀が……。
「刀は宗継様の墓に眠っておる。わらわはそれをずっと守っておるのじゃ」
「!」
「ついて参れ」
いつの時代の墓なのだろうか。刀を持つ時代といえば戦国時代、江戸時代辺りだろうか。しかし、そんな武士の墓があるとは知らなかった。
おかっぱ頭の少女は墓地から出て、暗闇の森の中へと入っていく。虎太郎たちは化け物の動きを気にしつつも、後に続いた。
「ここは……」
森の中に一本の巨木があった。
懐中電灯を照らすと、巨木にはしめ縄が張ってある。
「こんな場所に神聖な場所があったなんて……」
しめ縄が張ってあるということは、神の領域だということ。
そういえばどことなく空気が違う。周りは闇なのに、まるでここだけスポットライトを浴びているかのように白く浮かび上がっていた。
「まさかここが墓なのか?」
神様は穢れを嫌う。
神聖な場所に墓を作るなど聞いたことがない。
「これは宗継様が作られた結界じゃ。宗継様は自身に神を宿し、刀を作ったのじゃ」
すると、おかっぱ頭の少女はしめ縄が張られている巨木へと手をかざした。「ズ……ズズズッ」と巨木から刀の柄の部分が出てくる。
「なっ……木から刀が出てきた!?」
刀は巨木の中で守られていたようだ。
しかし全部は出てこない。
「さあ、この刀を抜くのじゃ」
おかっぱ頭の少女は虎太郎たちに振り返り、ニッコリ笑う。
「抜くのじゃって、岩に刺さったエクスカリバーじゃないんだからさ……」
虎太郎が躊躇っていると、鈴音が先に柄を掴んだ。
「この刀に選ばれるのは私よ。だって私は巫女だもの!」
鈴音は自信満々に言い放つ。
しかし柄を掴んだものの、びくともしなかった。
「うそっ、なんでっ……」
刀を抜けなかったことに、鈴音はショックを隠せない。
「さあ、次はおぬしの番じゃ」
虎太郎はゴクリと唾を飲み込む。
(まさか二人とも抜けなかった、なんてオチはないよな?)
しかし自分よりも霊力があり、神に仕える巫女でさえ抜けなかった刀だ。それを何の力もない自分が抜けるなど──。
その時だった。
背中に凄まじい殺気を感じ、虎太郎はすぐに身を屈めた。
ドオンッ!!
虎太郎の頭スレスレに、化け物の長い腕が伸びて巨木を破壊する。
「刀がっ……!」
しかし間一髪、刀は無事だった。
「もうっ、しつこい!」
鈴音は咄嗟に人差し指と中指で手刀を作り、宙で五芒星を描く。
バチバチバチィッ!!
鈴音が張った結界が作動し、化け物の攻撃を防いだ。
「霧島くん、今のうちに刀を抜いて!」
「……っ!」
もうあれこれ考えている暇はない。
虎太郎は柄の部分を握ると力を込めた。