(3)
ポケットから懐中電灯を出して、鈴音の背中を照らしてみる。そしてゆっくりと横に移動させれば──。
(やっぱりか)
懐中電灯の光は誰も照らしてはいなかった。鈴音は一人で喋っている。
(何が目的だ?)
純粋に万華鏡を探して欲しいわけじゃないだろう。そうやって霊は、視える人間を探しては騙して身体を乗っ取ろうとする。
(いざとなったら真言唱えて──いや待て。面倒は見なくていいって、あいつ言ってたよな)
鈴音の自信たっぷりな顔を思い出して、再びイラッとする。
(……知らね。俺は墓荒らしを探すか)
そう思って踵を返すと、ザッザッと土を掘るような音が聞こえてきた。
(墓荒らし──!?)
虎太郎はすぐに辺りを懐中電灯で照らす。
しかし音は聞こえるものの、その姿は見えない。
「くそっ、どこだ!?」
暗闇の墓地を走りながら、今日こそ絶対捕まえてやる!と虎太郎は思った。
音のする方へ走るが、やはり人影は見当たらない。自分の足音に気づかれたとしても、気配くらいは感じるはずだ。
「……くそっ……」
音に追い付いたと思ったら、次はまた違う場所から音がする。まるで、こっちの動きを把握していて、おちょくられているみたいだ。
グループでの犯行か?
いや──その前に墓荒らしは人間なのだろうか?
虎太郎の背中に悪寒が走る。
ゴクリと唾を飲み込むと、背後に何かの気配を感じた。
「おぬし、さっきから何をしてるのじゃ?」
「!?」
振り返ると、おかっぱ頭の少女がいた。
鈴音もいる。
「なん……だよ、お前かよっ……」
どうやら音を追いかけているうちに、鈴音たちと合流してしまったようだ。
「わらわは『お前』ではないぞよ、わらわは──」
「ねえっ、もしかしてあれかな!?」
鈴音が木の下に落ちている万華鏡らしきものを指差した。
「おおっ、そんなところにあったのじゃな」
おかっぱ頭の少女が嬉しそうに万華鏡を取りに行く。瞬間、虎太郎の全身が総毛立った。
「だめだ、逃げろっ!!」
口が勝手に動いていた。
同時に身体も動き、気づいた時には墓石に身体を打ち付けられていた。
「霧島くんっ!!」
鈴音の声で我に返る。
背中に鋭い痛みが走り、苦痛で顔が歪んだ。
(今、何が起きた!?)
数分前の記憶を思い出す。
(ああ──そうだ。俺はあの子を守ろうとして、何かに吹っ飛ばされて……)
目の前には、万華鏡を手にしたおかっぱ頭の少女が立っていた。そしてその背後には、二メートルほどの巨大な黒い塊があった。
「……っ……」
あまりにもおぞましい姿に言葉を失う。
黒い塊からは人間の手足が何本も生え、ギョロッとした目玉が無数についていた。