(2)
「こんばんは、霧島くん」
爽やかに挨拶をしてきたのは、同じクラスの杜若 鈴音だった。彼女は長い黒髪をひとつに結んで、巫女装束を身に纏っていた。
「墓荒らしのこと、私も気になっていたの。先日、友達の家のお墓も荒らされたらしいの。だから犯人を捕まえたいと思って」
虎太郎はなぜ連れてきたんだと言わんばかりに、檜山を睨みつける。
「別に檜山くんに頼んだわけじゃないわ。この地を平気で穢す者が許せないだけよ」
「わかった。でも何かあっても、面倒は見ないからな」
「ふふ、私を誰だと思ってるの?」
「……」
自信満々に言い放つ鈴音を見て、かわいくねーなと虎太郎は思った。
鈴音は神社の娘だ。毎日修行をしているらしく、週末に行われる夏祭りでは舞を踊るそうだ。その舞の姿がまさに神がかっていて綺麗だと有名で、そのおかげで鈴音は学校ではマドンナ的存在だった。
一方自分は寺の息子だが修行はやったりやらなかったりで、将来跡を継ぐ気なんて全くないし、むしろ普通の人生を歩みたいと思っている。だから尚更この女には近づきたくなかったのに、まさかこんなところに食いついてくるとは……。
「杜若さん、頼もしい~! 何かあったら杜若さんに守ってもらお~!」
「テメーはケツの穴でも掘られろ」
虎太郎は檜山を無視して、敷地内の墓地へと足を踏み入れた。
「おい、懐中電灯……」
「私はあっちから見て行くね」
鈴音は薄暗い墓地の中を臆することなく歩み進んでいく。その姿を見て、虎太郎は渡そうと思っていた懐中電灯をポケットにしまった。
夜空を見上げると、丸くて大きな月がハッキリとその存在を示していた。
「月明かりだけで十分か」
そう呟いて目線を下げると、すぐ目の前に着物を羽織ったおかっぱ頭の女の子が立っていた。
「!」
「おぬし、わらわの万華鏡は知らぬか?」
「万華鏡?」
聞き返してから、しまったと思った。
なんの気配もなく現れた少女は、もしかしたらこの世の者ではないかもしれない。
「万華鏡じゃ。こう、筒のようなもので、覗くとキラキラしてるのじゃ」
それはわかる。
うっかり聞き返してしまったがために、少女を無視することができなくなってしまった。
「知っておるのか? 知らぬのか?」
おかっぱ頭の少女は虎太郎をジッと見つめている。
「霧島くん、その子誰?」
鈴音の気配に気づいて振り返ると、少女は万華鏡のことを鈴音にも尋ねた。
「わらわの万華鏡を一緒に探して欲しい」
「万華鏡? いいわよ。お姉ちゃんと一緒に探そうね」
鈴音はあっさりと承諾する。
そして少女と手を繋ぎ歩き始めた。
「おい、マジかよ……」
場所が場所なだけに、幽霊に遭遇することはよくある。たまに話しかけられたりするが、そこで反応してはいけないのだ。幼い頃の自分はそれで何度か危ない目に合っているのだから。